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そうです、ただの魔法使いです  作者: 玄上ひとえ
第1章 魔法使いと入れ替わりました
15/89

13 学校へ行こう!

※ V6は出てきません


「お早うキョータロー! キョータローは朝早いんだね」


 家に着くと、ガーネットが出迎えてくれた。


 もうね、天使。控えめに言ってかわいい。もう魔法の事なんてどうでもよくなって来た。


「ガーネットも朝早いんだな」


 まだ朝の7時だ。つまり1時間以上迷子になっていたという事になる。


「朝飯でも食いに行くか? 」


「うん! 」


 やはり早起きは三文のナンチャラだな。天使とモーニングだなんて、人生のうちで初めての経験だ。


「ロエは寝てるのか? 」


「ロエさんはぐっすり寝ているよ。凄く幸せそうな顔をしていたから起せなかったよ」


「なら二人で行くか」


 幸せそうな顔か……やはり昨日はあれで正しかったのかな。しかしとんでもない理性だな、俺は。本当に男の子なのか不安になってくる。


「キョータロー? 」


「いや、何でも無い。それじゃあ行こうか。それと、この町を案内してくれないか? 」


「いいよ! 案内してあげる」


 ガーネットは、ニコニコしながら答える。ちなみに天使が笑うと世界が平和になる。間違いない。


「じゃあキョータロー、ついて来て!」


「ああ、よろしく頼む」


 俺とガーネットは朝の町を散策した。



 ──町



 朝7時だというのに外は活発だ。通勤する者もいれば買い物をする主婦も見える。

 メインストリートでは朝市が開かれている。野菜や魚、そして異世界ならではの見た事の無いような物まで売られている。


「キョータロー! あそこの喫茶店で朝食をとろうよ。あそこはオススメなんだよ! 」


 キラキラとした目で俺の袖をグイグイと引っ張る。


「そうだな、あそこにしようか」


 年頃の娘がチョイスするには少しばかり渋い外観だが、中に入ると意外とオシャレな仕様になっており、落ち着いた雰囲気が醸し出されている。


「良いところじゃないか」


「でしょ! 前に学校の友達に聞いたんだよ」


「それは男じゃないだろうな? 」


「え⁉︎ いや、女の子だけど……」


 食い気味に尋ねる俺に、ガーネットは若干引いている。


 だが心配だろう。何たってガーネットさんかわいいからなぁ。学校では多分モテモテだろうなぁ。変な男が寄ってこないか心配だ。


「お待たせしました、コーヒーとカフェオレになります」


 ガーネットは机に置かれたカフェオレに手を伸ばす。俺もコーヒーを啜りつつ外を眺める。別に自分に酔っている訳でも、ガーネットの前だからブラックを頼んだ訳でも無い。


「そいえば、ガーネットって今いくつだ? 」


 以前乙女に年齢を聞くなと言われたが、さすがに学生の内に聞かれて怒る奴は居ないだろう。


「今年で15歳だよ! 」


「という事は中学生か」


「そうだね、来年は高校生だよ! 」


 わっかいなぁ……いいなぁ。俺も中学生に戻りたい。高校には戻りたく無いが。


 俺が通っていた高校──県内屈指の不良校であった。当時の番長の権藤(ごんどう)、名前から既にゴリゴリの奴が三年間学校を纏めていたが、三年の時、当時の一年生にタイマンで負けたとか、屋上から二人でダイブしたとか……


 そんな同級生のゴリス権藤も今では学校の教師をやっているとかブフォッ……いかんいかん、つい笑いが。


 不良高校に在学はしていたが、別に不良では無かったのであまり詳しくないが、今思えばあんな男だらけの学校に居たから魔法使いになったんじゃないか? 悔しい……


 俺は工業高校、高専、不良校は魔法使い育成学校だと思っている。だがそのお陰で──


 俺はガーネットをチラリと見る。するとガーネットと目が合う。


「どうしたの? 」


「いや、たまには早起きもいいかなと思っただけだよ」


 今まではこんな時間に起きても、吸い込まれるように会社に向かい、目の死んだ人たちと仕事をする……まあ俺も目が死んでいたと思うが。

 

 つまり、三文の得って何? おいしいの? って思っていたのだ。


 のだが──


 やはり異世界はいいなぁ。


 現代の若者が異世界が好きな理由が少しばかり分かった気がする。最近はどこもかしこも異世界だったからなぁ……


 そんな事を思いつつ、クッソ苦い残ったコーヒーを啜るのであった。


「なあガーネット、実家はここから遠いのか? 」


 俺は思い出したかの様にガーネットに尋ねる。昨晩は面倒くさかったから泊めたが、嫁入り前の娘をいつまでも泊めるというのも何か心配だ。


「実家は隣り町にあるよ。どうしたの急に」


「いや、まだ中学生だろう。昨日は泊めたが、そんなホイホイ男の家に泊まるのもどうかと思うぞ」


「え? だってキョータローはパーティーメンバーだから」


「……確かにパーティーメンバーだがな、親御さんも心配するだろ? 」


「大丈夫、お父さんとお母さんにも許可はもらってるから」


 まさかの親御さん公認⁉︎ なら挨拶とか行った方がいいのか? 例のアレか、『お前なんかに娘はやらん! 』ってやつか?


 ……という冗談は置いといて、さっきから話が噛み合ってないような気がする。

 だがしかし、早朝のブラックコーヒーが似合う違いのわかる男──朝山さんは少ないヒントから辿り、導きだす事が出来るのだ。


「もしかしてだが、パーティーメンバーは同居が当たり前なのか? 」


「そうだよ、大体のパーティーは一つの拠点にメンバー全員が住んでいるんだよ」


「なるほどな」


 昨晩のガーネットのセリフはそうゆう事だったのか。つまり家族になろうよ(福山ボイス)という事では無かったのか……


「冒険者を生業とする人は、大体そんな感じだよ」


「冒険者ってそんなに多いの? 」


「そうだね、普通に働くより収入が良いから。それでも死と隣り合わせの職業だから、腕に自信がある人とかが多いのかな」


「なーるほどね。それでガーネットも冒険者なのか? 」


「うん、一応ね。私はサポート役だし、そこまで強くないけどね……」


「そんな事は無い。昨日のミノタウルスだってガーネットが居なかったら勝てなかったからな」


 俺はそう言って、自信なさげなガーネットに封筒を渡す。


「何これ? 」


「昨日の報酬だよ、パーティーメンバーなんだから山分けだろ? 」


 昨晩の宴で大体3万トルカを消費したので、残った12万を3人で山分けて、ザッと4万トルカというところだ。


「そ、そんな大金受け取れないよ! 」


 ガーネットは差し出された封筒を押し返す。


「いやいや、この場合は平等に分けるのが妥当だろ」


 俺も押し返された封筒を差し返す。


「で、でも……」


 押し返す


「いやいや」


 差し出す


 押し返す、差し出すをひたすら繰り返す。


「キョータロー……しつこい」


「それはお互い様だろ」


 俺だってここは引けないのだ。


「まあ素直に貰っとけ」


「もう……フフ、やっぱキョータローはおかしいよ」


「ハハッ、冒険者なのに報酬を受け取らないガーネットも中々おかしいから安心しろよ」


 ガーネットは俺の顔を見て笑いだす。それを見て俺も笑いが出る。


「私ね、以前も他のパーティーのサポート役としてクエストに行ってたんだけどね、サポート役は後ろで安全だからとか、私が幼いからとかで報酬はほとんど貰えなかったの」


「…………」


 こちらの世界にも、何かと理由をつけてピンハネする奴はいるんだな。

 とりあえず30のおっさんが若い娘にお金を渡すのは、色々誤解されそうなので早く受け取ってほしい。


「それでね、こんな風に均等に渡されたり、『あなたのお陰』とか言われた事無かったから……」


「まあ、こんなパーティーだからな」


「……そうだよね」



「──まったく、冗談だよ」



 俺は沈みかけているガーネットの頭をわしゃわしゃと撫でる。


「もっと自信持てよ、お前は大したやつだよ。俺が言ってるんだから間違いない」


「……キョータロー? 」


「自慢じゃないが俺、人を見る目には自信があるんだよ」


 そう言ってニッコリと笑ってみせる。


「フフッ、魔法も使えないキョータローなのに? 」


「ガバァッ」


 思わず吐血しそうになった。というか吐血した。俺の似合わない笑顔も一瞬で崩壊した。

 正確に相手の弱点を突いてくる……さすが優秀なサポート役だ。俺の目に狂いはなかった。


「『今はまだ』って……付け足しといてくれ。俺は意外とハイスペックだからな」


「覚えとくね」



 そう言ってガーネットはニッコリと笑ってみせた。



 さっきの仕返しなのだろう





 ……完敗だよ、ふつくしい




 

 腹いせに拝んでやろう。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 程よくしてウェイトレスさんがトーストセットを運んでくる。


「いただきます! 」

「いただき」


 俺とガーネットは手を合わせ朝食を頂く。


「突然なんだが、自分の魔力を知る事って出来るのか? 」


「ん? どうゆうこと? 」


「えーとだな、自分にどれ位の魔力があるかとか知りたいんだが、そういった事を測る機械とかあるのかなーと思ってだな」


 俺の予想だと、以前言っていた一種のステータス。つまり使用量が誉れ高いものなら、己の魔力キャパシティも人と比べる材料、ステータスではないかと考える。

 そんな奴らなら、それを測る魔道具くらい作っていてもおかしくない。


「あるよ、魔力測定器でしょ」


「そうそう! それだよ」


「それがどうしたの? 」


「ちょっと俺の魔力を測りたいんだ。魔法が使えないのはそこに原因があると思ってな」


「そっかー、確かに……」


 ガーネットは顎に指を当て、何やら考え込む。


「キョータローこの後学校に行こ! 」


「は? 」


「学校! 」


 ふふんと笑いながら、ガーネットは俺を見つめる。


 俺が学校に行くの? しかも15も下の子と一緒に?


 まあ、ガーネットに言い寄る不逞な輩を成敗すると思えば……


 しかし良いのか? 俺は30のおっさんだぞ? 今から行くのって中学校だろ? 色々抵抗があるんだが……


 それでも自分に魔力があるのかも知っておきたいし……


 ジレンマする。あーでもガーネットの親御さんの風を装って行けば問題ないのか。ないのか?


 こうなったら道連れとしてロエも連れて行こう。それなら多少やわらぐはず……


「よし、学校へ行こう! 」


「やった! それじゃあ行こうよ 」


「あーちょっと待った、ロエも呼んできていいか? 」


「ロエさん? 」


「まーアレだよ、同じパーティーだし皆んなの魔力を知っておいた方がいいだろ? 」


 本当は一人で行くのが恥ずかしいからなのだが……


 ガーネットは口を膨らませ、むぅっとしている。まさかバレたとか?


「いいよ、それじゃあ一回お家に帰ろっか」


「ああ、わざわざすまんな」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「おーいロエ、起きろ! 」


「ん……あと3時間…… 」


「だからせめて5分にしろ」


 俺はロエの布団を豪快にひっぺがす。


「ロエ、学校に行こうぜ! 」


「──なっ! 」


「行こうぜ! 」


「なっ、ななな何で京太郎と一緒に行かないといけないのよ! 」


「そんなの、お前と行きたいからだよ(イケボ)」


 まあ、本当は一人が恥ずかしいからなのだが……


 ロエは何故か顔を赤くして目をそらす。


「そ、そんなに一緒に行きたいの? 」


「ああ、お互いの事もっと知っておきたいだろ? 」


 まあ、ロエの魔力も気になるからな。


「そんな……まだ会って1日しか経ってないのに……」


「そんなのは関係ない。俺はお前の事が知りたいんだよ」


 血の雨を振らせるって言って、本当に血の雨を振らせる様な天然ガールなのだ。よく知っとかないと昨日みたいな事が起きるかもしれないからな。


「うう……」


 ロエは三角座りをして、顔をうずくめる。


「今日は休もうと思ってたのに……」


「どうした? 」


「うう……わ、分かったわよ! その代わり今晩、その……血を吸わせてもらえないかしら」


 ですよね、知ってた。さっきからロエの顔が赤かったのはそのせいだったのだろう。この女に既に敗北している俺にはお見通しだ。


 まあ、血くらい……加護が働いている限り大丈夫だろう。それよりロエを学校に連れて行く事の方が最優先だ。


「分かったわよ、血は吸わせてやるから」


「本当⁉︎ 」


「ああ、夜になったら吸わしてやるよ」


 するとロエの顔がぱあっと輝く。ほら見ろ、俺は二回も同じ過ちは繰り返さない。


 ふぅ、気を取り直して


「それじゃあ行くか! 」


「え? ガーネットちゃんも大学(、、)来るの? 」


「「大学? 」」


 俺とガーネットの声がハモってしまった。


「これから行くのは中学校だぞ」


「中学? 」


「そうだ、これからガーネットが通う中学校に行く」


「……えっ」


 ロエは絶句している。


「も、もしかして……私ずっと勘違いを……」


 するとロエの顔が真っ赤に染まる。


「あー、なんかすまんな」


「このバカーーーーッ! 」


 俺はロエにビンタされた。何でッ⁉︎


「あっはは……」


 ガーネットは苦笑いをしている。


 ……ビンタされた理由が全く分からない。鈍感系って訳では無いが、本当に分からない。まあ、考えても仕方がない。


「とりあえず行くか」


 俺たちはガーネットの中学校に向かった。さっきからロエが全く顔を合わせてくれないのが気になるが……


「なあ、ガーネットは学校に行かないのか? 」


「何言ってるの? 今行ってるよ」


「そうじゃなくてだな、授業には出ないのか? もうそろそろ8時半になるぞ? 」


「ウチの学校は選択制なの」


「……つまり? 」


「進学科と魔法科に分けられるの。進学科はキョータローが言う様に8時半から授業だけど、魔法科は自分が受けたい授業を選べるから、私は今日お休みなんだ」


「なるほど、大学みたいなシステムなんだな」


 中学校のうちからそんなシステムで大丈夫なのだろうか? まあ、ガーネットが授業をサボるとも思えないし、ひとまずは安心か。


「あ、キョータロー見えたよ! 」


 そう言ってガーネットは遠くの建物を指差す。そして足早に駆けていく。


「そういえば学生がチラホラ見えるな」


「キョータロー、ロエさーん、こっちこっち! 」


 遠くでガーネット手を振っている。


「ロエ、行くか」


「…………」


「本当にごめんって、いくらでも血を吸っていいから」


「今いくらでもいいって言った? 」


「……死なない程度なら」


 もしかして吸い殺される? まだ異世界生活二日目だぞ? いや、美少女に殺されるならそれもまた……無いな! 死にたくないなぁ……


「分かったわ、今回はそれで手を打つわ」


「助かるよ」


「じゃあ行きましょう! 」


「ああ」


 俺とロエは、手を振るガーネットのところまで駆ける。



 ──中学校



 校門をくぐると学生たちの視線の全てが俺たちに向く。その中でも男たちの視線はロエに、女のたちの視線は俺! そう、JCたちの視線は全て俺に向いているのだ!


 ロエの方はその美貌もそうだが、何より服装が服装なので大方予想はできた。


 がしかし! 


 俺にこんなに視線が来ると思わなかった。これがモテ期ってやつなのか……


 控えめに言って、超キモティイイイイ!


「キョータロー、顔が変だよ……」


 浮かれすぎた俺にガーネットが指摘する。いかんいかん、モテ男たるもの如何いかなる時でもクールでないとな!


「ねえ京太郎、すごく視線を感じるんだけど……」


「お前の場合は当然だろ。もっと落ち着いた服は無いのか? 」


「これはそこまで派手では無いでしょ? 」


「──は? 」


「これでも抑えた方よ」


 この女、ホットパンツにビキニだけ、その上にマントの格好が抑えてるだと……けしからん。


 近いうち、服屋にでも行くか。もう少し落ち着いた服を買ってあげないと、同居するなら俺がもたない。


「それよりガーネット、測定器はどこにあるんだ? 」


「保健室にあるよ。保健室は1階だからすぐだよ」


「よし、ならすぱっと行こう」


 別に俺はここでゆっくりしてもいいんだが、どうもロエの方が視線を気にしてるみたいだ。やはり服買ってあげよう


 やや名残惜しいが、諦めて校舎に向かおうとし時──



「あの……!」



 一人の女の子に後ろから袖を掴まれた。




何となくお分かりかも知れませんが、京太郎は別作「ゾンビと騎士と」の主人公・春日部十次の先輩にあたります。世界は狭いですね

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