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そうです、ただの魔法使いです  作者: 玄上ひとえ
第1章 魔法使いと入れ替わりました
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12 召喚魔法

 そろそろ魔法について触れていきます。



 ──早朝


 飲んだ日の翌日は早起きをする。……まあ目覚めは最悪だけどな。二日酔いのまま通勤はほんと死ぬ……


 目が覚めると、時計は5時を指していた。その割には眠気も無い。それに昨日はそんなに飲んでないので二日酔いの心配も無い。


「散歩でもするか」


 早起きは三文のナンチャラとか言うからな。俺は布団から出て伸びをする──と、フラフラとよろめいてしまう。


「おかしいな……昨日はあんまり飲んで無いんだけどな」


 俺は片手で頭を押さえる。二日酔いとは違う、なんか血を抜かれた感じ(、、、、、、、、)だ。


「おかしいな……」


 兎にも角にもあまり頭が働かないので考えるのをやめ、フラフラと外へ出て行く。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 大魔導士──杖を必要とせず、100以上の魔法を所持する魔法使い

 そして、国からの試験をクリアした者だけが与えられる称号……


 昨日、飲んでいる途中に博識なガーネットに聞いた知識だ。杖を使わず魔法を唱えるのは相当レベルが高いらしい。魔法使いだから簡単に魔法が使える訳では無いらしいのだ。


「だから使わない杖(、、、、、)だったのか」


 ピルクル乳酸菌が発した言葉である。ユスタリエ=アンノリーは大魔導士で杖は不要の筈だが常に持ち歩いているらしい。


「魔法か……」


 器によって体と魔法を繋ぐ回路は異なる。容易な者もいれば、かなり複雑な者もいるらしい。この器は多分後者だろう。


 俺は杖を持ち──



「《せいよ、ことわりって顕現けんげんせよ》」



 俺は初めて見た魔法を唱えてみる。



 ………………



「まあそうなるわな」


 例のごとく何も起きない……



「…………《火の精よッ! ── 」



 俺は全力で叫び、杖を振る



「──その理を持って顕現せよッ‼︎ 》ッ! 」



 ……………………



「……コホン、まあ知ってたけどね」


 一つ咳払いをする。



「《火の精よ我が理を持ってぇえええ── 」



 俺は両手を振り上げ、杖を大きく振る。



「「──顕現けんげんせよ》ッ! 」」



 誰かと詠唱が重なった。


 すると、後方から火に包まれた小さい鳥が羽ばたいてくる。それはキレイで、さながら不死鳥のよう……


「って、誰だ! 」


 俺は後ろを振り向く──と、そこには例の大魔導士が微笑みながら近づいて来る。


「ユスタ? 」


「やあ京太郎、昨日ぶりだね」


 そういってユスタは杖のを差し向けてくる。


「……まったく、ユスタは杖を持つ必要が無いんじゃないのか? 」


 俺はユスタの杖の柄と重ね、皮肉気味に言う。


「必要はちゃんとあるよ。魔石がある分、小魔力で魔法を使える。そしてある方が大分唱えやすいんだ」


「ふーん、なんかユスタは地位が高い割に謙虚なんだな」


「よしてくれよ、それに── 」


 ユスタはふふんと笑い、再び柄をコツンと合わせる。


「それに僕はこれ(、、)が好きなんだ」


 俺は目が点になる。


「……コホポン、そうか」


 俺もユスタの柄をカツンと叩く。


 まあ、確かに悪くない……。魔法使い間の挨拶みたいで、そして少しかっこいい。


「それで、ユスタは何してるんだ? 」


「僕は毎朝散歩しているんだ。そうしたら大声で魔法を唱えている人を見つけてね」


「うぐっ……」


 そんなに大声だったのか。しかも発動しないとか……恥ずかしい。


「それは召喚魔法って言うんだよ」


「召喚魔法? 」


「そう、そしてこれが── 」


 右人差し指を突き立てる。すると、先ほど現れた火の鳥が寄ってくる。


「これが召喚した僕の愛鳥、バードだよ」


「名前、そのままだな」


「ははっ、それは言わないでくれ。子供の時──僕が初めて召喚した時に名付けた名前だからね」


「なるほどな」


 このイケメンにもネーミングセンスが無いという弱点を見つけたと思ったが、子供の時なら仕方ないな。バードの方もバタバタと飛び回る。


「召喚魔法には大きく二つに分けられるんだよ」


「二つ? 」



「ああ、転送てんそう魔法と具現ぐげん魔法だ」



「転送魔法と具現魔法……?」


「転送魔法はその名の通り、魔力と引き換えに対象を呼び寄せる事だよ。試すなら── 」


 ユスタは右手を広げ──



「《我が魔力を持って、ここに召喚せよ》」



 すると、先程まで空を飛んでいたバードが突然ユスタの広げた右手に現れる。


「おお! 」


 思わず感嘆の声を上げる。改めて魔法を見せられると感動してしまう。黒のハットを被ったおじさんがチャラララララ〜って言いながら鳩を出すのとは訳が違う。こちらはタネも仕掛けも無いのだ。


「転送魔法は具現魔法とは違い、呼び寄せるだけだからそんなに難しくない。何なら京太郎も── 」


 そこまで言ったユスタが急いで口を閉じる。


 ふぅ、優しさは時に残酷だな……


「気にするなよユスタ。朝山京太郎さんはハイスペックなんだぜ! そんな魔法くらいすぐ覚えてやるよ」


 俺はユスタにビシッと言ってやった。ユスタは一息──ほんの少し呆気に取られたが、口元を緩ませ、


「ふっ……ふふ、似ているな(、、、、、)


「何が? 」


「何でも無いよ、ただの独り言だ」


「⁇ 」


 とにかく、俺はハイスペックなんだ。そんな魔法くらい覚えてやんよ。


 そもそも魔法使いが魔法を使えないなんて、小学生が九九を言えない事くらいヤバいだろ。テレビで、いい大人が『7×4=32? 』みたいな事をぬかしてた時はビックリしたが……多分あれはテレビ用だろうな。


 まあ、そんな事はいいとして──


「ユスタ、詠唱は決まっているのか? 」


 まずはここだな。魔法を使おうにも詠唱が分からなければ話にならない。


「一応は決まっているよ、詠唱が(つづ)られた教科書だって売ってるからね」


 まじか、あとで本屋に行くか……


「だが京太郎、詠唱はあくまで魔法のイメージを固めるための言葉に過ぎないんだよ」


「どうゆう事だ? 」



「人は決意を持って言葉を発した際、体はその決意に沿って動こうとする」



 バサバサッとバードが羽ばたく。


「魔力を実際の術に変換する方法は、頭では理解など出来ない。しかし体は何故か知っている。だから言葉を持って動かす」


「うーむ……」


「つまりイメージを持つ事が大事なんだよ。そして幾度と使うと慣れてくるものなんだ。そうしたら──」


 ユスタは目をつむり、



「《ここへ(、、、) 》──」



 先程の詠唱とはカスリもしないセリフを発する。しかしユスタの手が炎に包まれ、バードが現れる。


「……まじかよ」


「安心してくれ、難しい話さえしているが、そこまで難しい事では無いんだ」


 ユスタはバードを撫でながら続ける。


「セリフは問題では無い。だから教科書のセリフを唱えたからって魔法が使える訳では無いんだ。大事なのはイメージと決意なんだよ」


「……なるほど、な」


 本屋には……行かなくていいな。


「この話は召喚魔法に限った話ではなくて、どの魔法にも言える事だね。そして次の具現魔法なら尚更だよ」


「尚更……? 」



「具現魔法──それは己の思い描いた想像を具現し現界させる魔法だ」



「そんな事が出来るのか⁉︎ 」


「ああ、だがこれはほぼ固有魔法に近い。転送魔法とは違い、魔力消費も激しく、もの凄く集中力がいるからあまりオススメはしないがね」


「そうか……だがユスタのそれ(、、)は具現の方だろ? 」


 俺は不死鳥──バードを指しながら問う。


「ん、ああ。一応ね。どうしても召喚させたい時があったんだよ……」


 どこか懐かしげにユスタは答える。というかこの男、小学生の時には具現魔法を成功させていたのか……


「だからまずは転送魔法をやってみる事をオススメするよ」


「そうか、わざわざありがとな」


「気にしないでくれ、僕から話しかけたんだから。それと僕はそろそろ行くよ」


「ああ」


 そう言ってスタスタと帰っていった。相変わらず……地位が高いくせに謙虚な男だ。それでいてイケメンとか……圧倒的敗北だ。


「……まあ、俺も? まだ本気出してないだけだし! 」


 凄まじいほどの負け犬の遠吠えをかましつつ、俺も家へ帰る──前に。


「イメージと決意か……」


 道端に落ちている小石をチラリと見る。


 ユスタは確か──



「《魔力まりょくって、ここに召喚しょうかんせよ》」



 俺はユスタが転送魔法をしていた時の詠唱をマネてみる。



 ………………



「……コホン、イメージと決意だったな」


 落ち着け、集中しろ。まずはイメージだ。そこに落ちている石が俺の右手に……


 魔力を持って転送させる──



「しゃぁああああああああ──ッ! 《我が魔力を持ってぇええええ、ここに召喚せよ》──ッ! 」



 ……………………



「んんン、転送出来ないッ! 」


 俺は思いっきり杖を叩きつけた。


「どうなってんだ⁉︎ イメージが足りないのか? 」


 おかしいな、童貞の想像力は常人の5.3(ゴミ)倍はあると言われているのに(俺調べ)。

 だとしたら……魔力か。この体には魔力が無いのか?


「そりゃあ、発動しない訳だ。只の人間じゃねーか」


 俺はもう考えるのをやめ、来た道を折り返して行く。



 行くが──





「俺ん家……どこだっけ? 」




 未だに自分の家を覚えてない朝山さんなのである……



 最後まで読んで頂きありがとうございます!

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