11 モテ期⁉︎
「ほら、帰るぞ」
「うーん……あと3時間……」
「おい、せめて5分にしろ」
11時を回った辺りで、ガーネットも虚ろの状態になったので帰ろうと提案したらこのザマだ。
「ガーネットも、ここで寝たら風邪引くぞ」
「うん……」
ガーネットは眠たげな目を擦りながら返事をする。後は──
「おいロエ、帰るぞ」
「…………」
返事が無い、ただの屍の様だ……
「ったく」
俺はロエをおんぶさせる。元々露出度の高い服装な為、背中に柔らかい感触がダイレクトにくる。
落ち着け、落ち着け俺! ロエは同じパーティーメンバーで、ただのアホっ子だ。落ち着け俺!
「フシュウゥウウウウウウ……ガーネット、帰ろうか」
「うん……」
俺は理性を保つ為に、驚異のロングブレスを行う。魔法使いは伊達では無いのだ。
そして俺とガーネットは暗い夜道を歩いていく。
「……キョータロー」
「どうした? 」
「手を繋いでも、いい……かな? 」
「────ッ⁉︎ 」
何だ? このハーレムみたいな展開は!
ガーネットは少し赤みを帯びた顔でチラチラと俺を見る。
落ち着け、落ち着け俺! ガーネットは同じパーティーメンバーで、ロリっ娘なんだぞ(多分)
30のおっさんが15の娘を…………いやしかしガーネットがその気なら──って、おおお落ち着け俺‼︎
俺は自分の頬を思いっきりビンタする。
「きょ、キョータロー? 」
「すまない、少し酔ってたからな」
本当に……
さっきまでのは酔っていた事にしよう。ジンジンする頬の痛みと共に、ようやくマトモな思考が巡る。
「いいよ、ほら」
「えへへ、ありがと」
ガーネットは俺が差し出した左手を両手で握る。
「こんな暗い時間に外に出ないから……少し怖かったから手を繋ぎたかったの」
「……そうか」
うおぉおおおおおおおおおおおおお死にてぇええええええええええ! さっきまでの俺は何考えてたんだァアアアアアア!
これだから酔っ払った魔法使いという奴は恐ろしい。
女の子に話しかけられただけで、『あれ、この人俺の事好きなんじゃね? 』と勘違いしてしまう男子高校生みたいだ。
ちなみに俺の近くでやたら文房具を落とす女の子が居たが、絶対俺に気があると思ってた。思っていた……皆まで言わせるなよ?
「ところでガーネットの家はどこだ? 」
「え? キョータローの家だよ」
「え⁉︎ 」
「え? 」
「──え? 」
「……キョータローの家だよ」
ナンデスト? マイハウス? 何言ってんだ、このハレンチガールは……?
「どゆこと? 」
「そのままの意味だよ」
「……そ、そうか」
まあ、深夜だしな。きっとお家が遠いんだろう。
「ちなみにロエの家とか分かるか? 」
「うーん、ロエさんの家は分からないけど、キョータローの家になるんじゃないかな? 」
「ちょっと何言ってるか分からない」
さっきからどうゆう事? 家族になろうよ(福山イケボ)って事?
分かった、二人とも幸せにするから!
「じゃあ帰るか」
「うん! 」
やはり酔ってるのかも知れんな。酔いのせいか、もう頬の痛みは消えている。だから頭が考える事を拒否している。
俺はロエとガーネットを連れて家に帰る。
帰るが──
「ガーネットさん……俺の家どこか覚えてる? 」
「………………」
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幸い、ガーネットが家の場所を覚えていたため、無事家に到着した。
「ふぅ、紙一重だったぜ」
やはり酔っているかも知れない。自分でも何言ってるか分からない。
「ガーネット寝るなら── 」
ガーネットは家に到着するなり布団に駆け寄り、ぐっすり寝てしまった。
「まあ、無理もないか……おやすみ」
後はロエか。俺は家を散策し、寝れる所を探す。家は二階建て、3LDKと、中々立派でなんか悔しい……
二階への階段を登り、部屋を開ける。
「……広っ! 」
何で一人暮らしなのにこんなに部屋が広いんだよ。俺の家は一部屋6畳の2Kだったのに……悔しい。
「とりあえずはここでいいか」
俺はロエを部屋のベッドの上に乗せる。
「……まったく、喋らなければ本当に可愛いのにな」
静かに眠るロエの姿をみて、つい独り言をこぼす。
柄にも無いセリフに思わず笑いが出る。それを誤魔化すようにロエの乱れた前髪をキレイにかき分ける。
「おやすみな」
そういって振り返り、部屋を出ようとした時──
後ろから腕を掴まれる。
「──待って」
「ロエ……? ってうおぉ! 」
そのまま引っ張られ、不意に布団に押し倒される。
「ろ、ロエさん? 」
「私、──もう限界なの」
ロエは倒れた俺の上にまたがる。薄暗くて何が起こっているのか分からない。
「違う、きっと酔ってるんだよ 」
俺は急いで体を起こす。しかしロエは俺の両肩を掴み、赤く染まった顔を近づける。
「違わない、私はこんなにも── 」
そういってロエはゆっくり近づけ目を閉じる。
こ、これは……
この部屋には俺とロエしかいない……
ガーネットは既に寝ている。そしてここは俺の家だ。したがって誰かが侵入してくる事は100パーセント無い。
つまり──
俺はロエを真っ直ぐ見据え、
「ここで退けるほど俺は紳士じゃないぞ? 」
俺はロエの肩と腰に手をあてる。
「んっ……」
ロエの口からこぼれる喘ぎ声が、理性を破壊させていく。
ゆっくりと、
ゆっくりと顔を近づけ──
俺の唇が……
ロエのその柔らかな唇に触れる。
────手前
俺は全力で軌道を変え、壁に頭突きした。
どうやら酔ってたのは俺の方らしい。目を覚ますために、さらに2発、3発と頭突きをする。
同じパーティーメンバーに手を出し、間違いを侵す所だった……
煩悩! 消えろ煩悩!
「き、京太郎? 」
俺の突然の奇行にロエも驚いている。
13発目で意識が遠のいていく。
ああ、せっかくのチャンスだったのに……
そんな事を思うと悲しくなってくる。悲観の涙をこぼしつつ、俺の意識は遠くへ行ってしまった。
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突然壁に頭を打ち付け、気絶した京太郎が白目を向いている。
そしてその目には何故か涙が溢れている。
京太郎という男──石につまずいて盛大にズッコケる締まりのない男……
魔法使いなのに魔法が使えないダメな魔法使い……スマートにモンスターを倒す技もない。
全体的にパッとしない、物語の主人公には程遠い感じの男……
なのに──
目が覚めて京太郎の背中におぶさっていた時、少しびっくりした……
『可愛いのに』と言われた時、胸がドキッとした……
優しく髪を触れられた時、心臓が破裂するかと思った……
だからあんな変な行動をしたのかな……
肩と腰に手を当てられた時、少し期待してしまった……
期待したからこそ──
私はチラリと京太郎を見る。相変わらず白目を向いて倒れている。
「そんなんだから童貞なのよ……バカ」
涙が溢れているのは、京太郎も期待してたって事なのかな…………フフッ
今度は私が京太郎の髪をかき分ける。
胸の鼓動が聞こえる。こんなの初めての経験だ。
これが恋、なのかな……
「まさか……ね」
でも──
もしかすると──
私は……
京太郎が──
──京太郎の血が好きなのかも知れない!
あんな美味しい血は初めてだった。思い出すと胸の鼓動が高鳴ってくる。
さっきは限界だった。だから京太郎の首筋に近づいた。
京太郎も私の肩と腰に手をあて、吸われに近づいてきた。
それでも気が変わったのか、頭突きをして倒れた……
「そんなんだから童貞なのよ……バカ」
私はチラリと京太郎を見る。
「まさか……ね」
でも……
いや!
やっぱりそうだ。
──私は京太郎の血が好きなんだ。
だから気絶している間に……
「いただきます! 」
お分かりかもしれませんが、ロエは残念ヒロインです
最後まで読んで頂きありがとうございます!