9 大魔導士・ユスタリエ=アンノリー
ピクルス=ピルクル=乳酸菌=L.カゼイ シロタ株
「──撤回しろ」
「わ、悪かったよ……」
ピルクルは手を差し出し、俺を宥めながら謝る。
「何が、悪かったのか言ってみろ」
「ヒィィッ」
「この男は、何にも悪くないのにお前の為に頭を下げてくれているんだ。それを裏切ってやるなよ? 」
ピルクルはユスタの方をチラリと見る。
「ぐうぅぅ……。ユスタ! こんな奴に頭を下げる必要は無い! だから── 」
「ダメだ、僕は『許してくれるまで頭を上げない』と言った。だから君が撤回するまで頭を上げない」
「その通りだ、こんな地位の高い男がこんなに体張ってんだ。お前も何とかしてみせろよ。と言っても俺は難しい事なんか一つも言ってないんだがな」
この男は本気で分かってないのか。そうだとしたら本当に救いようが無い。ユスタという男は頭を下げ損だな。
「──ちっ、ユスタが下手に出たからって調子に乗りやがって……」
「次── 」
俺の耳は、ピルクルが小声で発した愚痴を拾ってしまった。
「次そんな舐めた事を言ったら、この男にマジカル殺法をお見舞いするぞ」
「ふ、ふざけんなよッ! 」
「だったら速く撤回しろ。難しい事は言ってないだろ」
俺の熱がどんどん上がっていく。
「キョータロー、もういいよ……」
「そうよ、京太郎何か怖いわ……」
そんな上がった熱を冷ます様に、二人が震えながら縋り付いてくる。俺はそこまで怖かったのか……ちょいと反省。
俺は体の力を抜き、天を見上げ、ゆっくりと呼吸する。
「ガーネット、ロエ、悪かったな。もう大丈夫だから」
「「うん」」
どうやらいつもの顔に戻ったらしい。あまり向いてない事はするもんじゃ無いな。
そしてそんなやり取りを見ていたピルクルは何かに気づき、ニヤニヤと笑い俺に近づく。
「さっきは悪かったよ、クヒヒッ、その二人のことを悪く言って」
この男……全く反省してねぇ。ローリングソバットでも喰らわしてやりたいが、これ以上キレると二人を心配させてしまう。そして何より……
俺はユスタという男に近づいていき、
「顔を上げてくれ、もう許したから」
「すまない……」
顔を上げる前にもう一度謝罪をしたのだ。この男、凄くできた魔法使いだ。正直一人でキレてた自分が恥ずかしいくらいだ。
ユスタという男は顔を上げて一つ咳払いをする。
「先ほどは彼がすまなかった」
そう言ってユスタという男は腰に挿していた杖を出し、柄の部分を俺に向ける。
何だ? くれるのか?
「ああ、ありがとう」
俺は礼を言いながら杖を取る。
「「「「「────なっ! 」」」」」
すると、ロエを除く酒場の全員が絶句する。
「あ、アンちゃん何やってんだい! 」
「は? 」
「あなたとんでもないわね! 」
「いや、だから何が? 」
「キサマ! ユスタがせっかく使わない杖をわざわざ出したというのに! 」
乳酸菌も激しく責め立てる。ロエと俺のみがポカンとしている。
すると、足をチョンチョンと叩かれる。ガーネットが何か言いたげにこちらを見ていた。
「あのね、さっきの動作は魔法使い間で行われる友好関係を築く作法なの。お互い安全な柄の部分で触れ合う事で成立するの……」
「…………なる、ほど……なぁ」
俺は急いでユスタに杖を返却し、自分の杖の柄を向ける。
「すまない、こういった知識に疎いんだ。」
ユスタという男は苦笑いし、何かを悟ったように少し悲しい顔になる。
「噂通り本当に入れ替わったんだな……ライシエル=ユーマ」
「え? 」
「いや、何でもないよ」
そういってユスタは柄を合わせる。さっきは何を言ってるか聞こえなかったが、今はもう明るい表情に戻っている。
「僕の名前はユスタ。ユスタリエ=アンノリーだ」
「俺は京太郎。朝山京太郎だ。よろしく」
俺はユスタに手を差し出す。ユスタは少し黄昏れた表情を浮かべ──
「朝山、京太郎──か……」
「ユスタ? 」
「いや、何でもないよ。よろしく京太郎! 」
「ああ」
ユスタは俺の手を握る。
やはり、友好関係の証ならこちらの方がしっくりくる──
「それじゃあ僕たちは行くよ。何故か血まみれで、怒り狂ったミノタウルスが暴れてるって聞きつけたからね。京太郎たちも気を付けてくれ」
「「ぎくっ! 」」
俺とロエがブルりと震える。またこの話題か。くそう、罪から逃げ惑う犯罪者の気分だ……
とりあえず誤魔化すしかない!
「あー、ユスタ。そのミノタウルスなんだが……」
「そのミノタウルスならそこのアンちゃんが倒しちまったぜ! 」
「──なっ! 」
誤魔化そうとした手前、酒場の方から声が上がる。
「そうだぜ! そこのパーティーが何故か血まみれだったミノタウルスを倒したんだぜ! 」
「血まみれのまま放置した不逞な輩の代わりに倒しちまったぜ! 」
酒場の荒くれ者たちが、自分の事のようにユスタに話す。
「「「なっ! アンちゃん! 」」」
ゴフッ……俺とロエは堪らず吐血した。くそ、あいつら勝手に不発弾を掘り起こして俺たちに投げてきやがった。
「と、当然だろ! 町の危機だったんだ……から、な! 」
「「「「「さすがだぜ‼︎ 」」」」」
「血まみれで放置したやつは見つけ次第締め上げないとなァ! 」
「そうだ! そんな輩は吊るし上げるぞ! 」
「そうだそうだ! 見つけたら土下座させてやる! 」
「「 ゴファッ……! 」」
口から大量に血を吐き出してしまった。出血多量で死ぬ……
ロエも同様地面に膝をつけプルプルと震えている。
「あっはは……どうしよう……」
ガーネットは苦笑いをするしかなかった。
その後『犯人探し……ヨクナイ』と、アナログの機械の様な口調で言いながら、何とか誤魔化した。
23回目辺りから犯人を庇う聖人と勘違いされ、41回目辺りで犯人お前じゃね? と言われたが、58回目で最終的に聖人に落ち着いてしまった……
最後まで読んで頂きありがとうございます!
活動報告でもらいましたユスタリエ=アンノリー通称ユスタでした!
キャラの名前はつきちゃった