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そうです、ただの魔法使いです  作者: 玄上ひとえ
第1章 魔法使いと入れ替わりました
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プロローグ 本物の魔法使いになってもらいます!

 初の異世界物が、こんなお下品に……




「──お目覚めですか?」




「……こ、ここは? 」


「ここは世界と世界の狭間です」


「何言ってんですか? 」


 俺には目の前の人が何を言っているのかさっぱり分からない。というかおかしくね? 俺さっきまで寝てた筈なんですけど……別に大型トラックに轢かれて死んだ訳じゃ無いんですけど?


 そう思ってしまったのもこの場所の特徴が原因だろう。


 

 境界のない真っ白な空間──。



 マンガでよくある死んだら居る場所のイメージにそっくりな空間。


 何故俺はこんな所に? そして目の前にいる女の人は誰?


「簡単に言うとですね、あなたは今別世界に行く準備をしてるのです」


 さっきから訳の分からない事を坦々と喋っていく目の前の女──幻想的な光に包まれ色気すら感じる。これほど美しい光は見た事ない。しかし言っている事は何1つ分からない。


 歳にして18〜20位だろうか。透き通るほどの白く長い髪に、優しく見つめる赤い瞳。端的に美女。しかし言っている事は何1つ分からない。



 ──俺は今夢を見ているのか?



「あの、聞いていますか? 」


 見惚れて呆けている所に女が話しかける。


「あ、すいません。聞いてませんでした」


「もう、しっかり聞いてください! 大事な話なんですよ」


 ぷりぷりと怒る女がかわいいので、ちゃんとお話を聞こうと思います。はい。


「というか誰ですか……?」


「そうですね、その前に自己紹介をしましょう! 」


 女は強調された胸を張り、手を添える。


「私の名前はユラ、この二つの世界間の管理を行う──人間界で言う女神かな?」


 女神…………いよいよ俺も死んだか?


「よ、よろしくお願いしますユラさん」


「はい、よろしくお願いしますね京太郎さん!」

 

 京太郎は俺の下の名前、朝山(あさやま)京太郎きょうたろうが本名である。

 それよりも……


「あの、なんで俺の名前を?」


「ふふ、私は女神ですよ! それくらいは当然です」


 女神様はふふんとウィンクをしてみせた。それは並大抵の男なら一発で撃沈する程の仕草。


 成る程、ようやく分かった。これはあれだ……夢だ。そうか、夢か……



 嗚呼(ああ)、30歳の誕生日にいい夢が見れたな……



 このまま夢が覚めなければ良いのに。


「それでは本題に入りますね! 京太郎さん、あなたは今──半分死んでます」


「はぁっ⁉︎ 」


 何? どうゆう事だ? 寝てて意識がないから半分死んでるって例えたのか? それとも寝てる時に大型トラックが俺の家に突っ込んで来たか?


「どうゆう事ですか? というかここどこ? 」


「そうですね。順を追って説明するとですね、あなたは目を覚ますと30歳になります」


「ああ、それは知ってる」


「なので、ここに呼び出されました!」

「ちょっと何言ってるか分からない!」


 ちょっと飛ばし過ぎじゃないですか? 北のお偉いさんよりぶっ飛ばしてないですか? 大丈夫ですか?


「もう少し段階を踏んでくれませんか? 」


 するとユラさんの顔が少し赤く染まり、俺から目をそらす。


「あのです、ね……京太郎さんは、その……ど、童貞を捨てずに30歳の誕生日を迎えたので……」


「ちょ──ちょっと待った! 」


「はい? 」


 はい? ……じゃねえよ。あとキョトンとするな、可愛いだろうが。


 ……じゃなくて、何でこの人俺が童貞の事知ってんだよ!


「それで京太郎さんは童貞のまま── 」


「コンプライアンス、コンプライアンス! 」


「女神に法は適用されませんので……」


 なんて事だ。全知全能じゃないか。本当に神様……なのか……?


「それで京太郎さんは童貞のまま30歳を迎えましたので── 」


「女神様、意外とグイグイ攻めて来るんですね。後あんまり童貞童貞って言わないでくれますか? うっかり死んじゃいそうなんで」


「すっすみません!」


 女神様は素直に謝ってくれた。謙虚でお淑やかな見た目とは裏腹にグイグイ来るもんだから少し焦ってしまった。


「…………」


「…………」


「…………………………」


「……?」


 先程の怒涛の攻めが嘘のように、何も喋らずチラチラとこちらを見ている。


「どうしたんですか? 」


「あっそろそろ喋っても良いですか?」


「極端かっ! 」


「すっすみません! 」


 ……なんだこの女神。本当に神様なのか?


「あ、どうぞ」


「ありがとうございます! 」


 女神様は深く頭を下げる。そして、深呼吸をして話し始める。


「京太郎さんは童貞のまま30歳を迎えましたので── 」


 そしてバッチリと目が合い、




「──今日から本物の魔法使いになってもらいます」




「…………………………はっ? 」



 絶句……開いた口が塞がらない。



「童貞のまま30歳を迎えた人間は、童貞のまま30歳を迎えた魔法使いと魂が入れ替わります」


「なぁッッ! 」


「もっと分かり易く言う──」

「アァァーーッ! もう良いです! 十分理解しましたので‼︎ 」


 いきなり何を言いだすかと思えば……魔法使い? 設定雑過ぎだろ。これなら2トントラックに轢かれた方……いや、死ぬのは御免被(ごめんこうむ)るな。


「それで京太郎さん。ここから良い話と悪い話があるのですが、どっちから聞きたいですか? 」


「えぇ…………」


 追い討ちをかけるように女神様が話し出す。


「それじゃあ、悪い話からお願いします」


 最後は良い話で終わりたい。だから消去法で悪い方から消化させよう。というか絶句したタイミングでこんな事聞くか普通? 女神とは思えない暴挙だと思います。


「分かりました」


 こちらの疑念もつゆ知らず、女神様は話を続ける。


「とても言いづらいですが、京太郎さんの魂が入る器──つまり魂を交換する相手の魔法使いさんは魔法が使えません」


「はァアアアアッ? 」


 なんだこのダメ押しは……辛すぎるだろ。


 いきなり美女に、キャー童貞よ! って言われて、更には本物の魔法使いになったり……挙げ句の果てに魔法の使えない魔法使いだとォ?


「ふざけんな! 」


「す、すみません。この方針は上の者が決めた事でして……」


「上の者? 」


「はい、私より上級の女神です」


 へー、女神にも格差社会なんてものがあったのか。超どうでもいいけど。



「人間も魔法使いになれるし──」



 そう言って両手で二つのピースを作り、



「魔法使いも人間になれて──」



 ピースとピースの人差し指を引っ付る。




「WIN・WIN……みたいな──」




「はっ……ははは」


 もう付いていけねぇ……呆れから乾いた笑いがこぼれる。


「あっ、あっははぁ……」


 女神様も両手で作ったWピースをおずおずしまいながら、申し訳なさそうに笑う。


「「はっははははは……ははぁ……」」


「…………」


「…………」



「バカかッ‼︎‼︎‼︎ 」



「ひぃ、すみません! 」


「誰だそんな事考えた奴は! 一発ぶん殴ってやりゃあ‼︎‼︎‼︎‼︎ 」


「すみません、すみません」


「謝って済むかァアアア! 取り敢えずそいつを連れて来いやアアアアアア──ッ‼︎‼︎」


「すみません、すみません、すみません」


 女神様は必死で謝っている。女神様は女神様で大変なんだろう。だがそれとこれとは話は別だ。


「うがぁアアアアアアアアア──ッ! 」


「ヒィイいい! 」


 女神様は次第に涙目になっていく。


「うっ、うう……」


 口元をグーの手で隠し、体を震わせながら女神様は頭を下げる。


「うがぁアアっ…………」


 怒り散らしていた俺も、流石にピタリと止まる。


 更に女神様は頬に涙がこぼれそうなくらい溜まった雫を、必死にとどめながら俺を見つめる。


「あ、アガァ…………はぁ、分かりました、分かりました。でも納得はしてないですからね。それで、良い方を聞きたいのですが」


 そんな泣きそうな目で謝られたら怒れないだろう。


「本当にすみません。その、悪い方の対処として京太郎さんには女神の恩恵が一つ与えられます」


「恩恵? 」


「はい、地球とは違い『魔法』という概念が実際に存在する世界です。その魔法が使えないアドバンテージを埋める為に、神のご加護が1つ授けられます」


 なんか異世界転生のラノベみたいだな。やっぱり大型トラックに轢かれたか? まあこの際どうでもいい。……いいのか?


 どうでもいいが、『異世界に行く=トラックに轢かれる』という等式は改めた方がいい。でないとトラックも浮かばれない。トラックは人を異世界まで吹っ飛ばすツールでは無いのだから。


 この等式を用いた人はトントン言ってる会社と堤真一に謝った方がいい。


 おっと、色々脱線したな。脱輪かな?


「それは複数から選べたりするんですか?」


「はい、今あるものでなら」



 『強靭なパワー』、『めちゃくちゃ足が速くなる』、『同性に好かれる』、『運が上がる』、『足が速くなる』、『最強の武器』、『瞬足のクツ』、『最強の防具』、『足が速くなる──



 足が速くなる(たぐい)多すぎだろ……あと『瞬足のクツ』ってなんだ? コーナーで差をつけろ ってことか?


 瞬足の商売敵が女神様とか……残念すぎるだろ。


「うーん、悩むな」


 もちろん『瞬足のクツ』は選ばない。そもそも俺は運動会のリレーは裸足派だからな。


「他にも沢山あるんだなぁ」


 突拍子のない事で焦ったが、同時に少しワクワクしてきた。


 魔法っていえば火とか水とか……ああ、そうだった。魔法使えないんだったな。畜生過ぎるッ!


 だとしたらここの加護選びはとても重要になってくる。向こうにモンスターとか居なければ、強く在る必要など無いからな。


 加護の選択の幅が広いから、聞けることは聞いておこう。


「あの、あっちの世界って結構凶暴なモンスターとか居るんですか? 」


「そうですね、結構います。 なので死なないように気を付けてくださいね」


 ──死、か。


 なんか急に怖くなってきた……。


「ふ、不老不死とかってありますか? 」


「すみません、不老不死はもう無いんですが、似たようなのが……あ、ありました! この、『体力がエグい』ってやつですね」


 なんだそのネーミングは……


「あと、京太郎さん。時間はなるべく急いで下さい。この狭間にいる時に器が目を覚ましたら、死んでしまいますので」


「おまっ、そんな恐ろしい事は一番最初に言えっ! 」


「ひぃ、すみません」


「それで、今何時ですか? 」


「今は6時58分──」


「なんだってぇええええ!  7時にアラームが鳴るんだぞ! 」


 本気でやばい。やばい、やばい、ヤバいヤバいヤバい。最早ゆっくり選んでいる時間は無い!


「わ、分かりました。その『体力がエグい』でお願いします」


「は、はい! 承りました! 」



 俺も女神様もあたふたしている。


 

 しかし、女神様は呼吸を整え


 


「京太郎さん──





 God blessしゅくふくをー you......」


 



 慌てながらも優しく微笑み、女神様は手を合わせる。


 すると幻想的な光と共に空間が消える。


 何かに吸い込まれる──そんな感覚にとらわれる。


「なんかすげぇ! 本当に入れ替わるのか 」


 そして俺は消える手前で両手を合わした。たった1つの願いを込めて……



 美少女と入れ替わりますように──と。



 そして消える、消える、切れる。




 狭間の世界も夢だったかのように、俺は新しい世界で目を覚ます──






 違和感なく魔法使いになれる方法が、これしか思い付きませんでした。ですので童貞主人公という設定は今後の伏線になる事は御座いませんので悪しからず……


 

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