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リバーシブル・ガールズ  作者: 夜野原 泉
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アプリで始まる新たな自分

『納豆ね〜ばねば〜♪納豆ね〜ばねば〜♪納豆ね〜ばねば〜♪納豆ね〜ばねば〜♪ーーー」

奇妙な音楽が部屋中に鳴り響く。

私は勢い良く音楽の根源である目覚まし時計を思いっきり叩く。時刻は6:00、起きる時間だ。だが、 安眠を納豆の歌に邪魔され苛立ちもあったため少しだけ布団の魔力に引き込まれることを決意しそうになるが今から用意せねば間に合わない、という葛藤を心の中で巡らせる。

気合いで布団を思いっきり捲り自分の目を覚まそうとする。とりあえず上体だけ起こしてぼーっとする。

「おはよう、今日も憂鬱な私」

朝のお決まりの挨拶を言ってようやくベットから腰を下ろす。


寝巻き姿のまま自室のある二階から一階へと降りる。リビングに入り台所へ向かって冷蔵庫を開ける。中から納豆とオレンジジュースを取り出し、一旦それらを机に置いてもう一度台所へ行き次は山の様に置いてある『チンして10秒!いつでもご飯!!』を取り出し乱暴にレンジへと突っ込む。十秒きっかりで取り出すも、熱さから汚い雑巾でも持つようにご飯の容器の端っこを二本指で持ちながらも机へと置く。

四つ置いてある椅子の一つを引き、ゆったりと座る。

テレビのリモコンへと手を伸ばし、おもむろに電源をつけて適当な朝の情報番組を流す。

いつも通りの朝。もう慣れてしまった1人の朝。

それがあたし、NO子(のーこ)の無駄の始まりだった。


私が中学生に上がった頃に父親は交通事故で死に、それからは母親が朝から晩まで働き詰めでほとんど顔を合わさない日が続く。

父が死んだからと言って嘆いても帰ってくるわけでもないし、母と会いたいと言ってお金がなくなったら嫌だし、と自分でも冷めていると感じるほどに独りを満喫してた。


「ごちそうさまでした」

納豆ご飯を食べ終わり、残ったオレンジジュースを飲みながら朝の情報番組を眺める。

『現在話題の女子高生ガールズバンドのボーカルであるrayが緊急引退を発表しました』

この子やめちゃうんだーーー

とあまり知りもしないバンドだっだ少し悲しくなる。自分も一女子高生としてこんなカッコイイ人になりたい、と思った時期もあったがやはり身分相応。どう頑張ってもなれもしないといつも思考をそこで終わらせる。


情報番組を消して、食器を台所へ持って行きまた二階へと戻る。慣れ始めた高校の制服へと身を包み、髪を整え学校へと向かう。

「行ってきます」

誰もいない家へと言い放つ。


外は雨が降っていて、普通の日でも憂鬱なのに余計憂鬱になる。

雨音が響く中何を考えるでもなく、歩いていく。

15分ほどで学校まで着いて、下駄箱に靴を放り込み自分のクラスである1-Eへと向かう。

教室のドアを開け、誰が言うでもなく無作為に指定された自分の席へと腰を下ろす。窓際の席で、外を見下ろすと校庭が見えたが雨で水溜りができてぐしゃぐしゃになっていた。

しばらく眺めていると、担任が入ってきてホームルームが始まる。出席とちょっとした連絡事項だけ伝えるとすぐに教室から出て行った。休み時間となりある者は友達と和気藹々と話して、ある者は必死に課題を終わらせようとする。


「やっぱり毎日ってくだらない」


誰に言うでもなく呟く。

高校に上がって二ヶ月経ち、今は梅雨真っ盛りの6月だった。この時期になるとグループというのが出来ていた。活発な男子。噂が大好きな女子。根暗なオタクタイプの男子。大人しめの女子。そんな中でもあたしは独りでいた。もともと中学の時も友達はおらず、独りで過ごすことが多かったため何も思うことはないが、こういう空間ほど居心地が悪いものは無かった。

何故自分はここにいるんだろう、何故無駄に時間を過ごすんだろう。何をするでもなく、ただのうのうと人生を貪り資源を貪る。そんな自分が嫌だ、そしてこの根暗になる自分も嫌だ。我ながら最低な考えばかりしていてこれこそが無駄だと思う毎日。

「…つまんない」

考えるのをやめてスマホをいじる。

そうして半日を無駄に過ごした。


朝よりも強くなった土砂降りの雨の中を帰宅して湿った制服を脱ぎ捨てて風呂場へと向かう。

軽くシャワーを浴びてからすぐ出て、寝巻きへと着替える。

朝と同じ納豆ご飯を夕飯に食べて、自室に戻る。課題を終わらせて唯一休めるベットへとだらしなく寝転がる。

そしてまた1日が終わる。

圧倒的なまでの無駄。人は生まれてきたからには死にたくないようで、自殺を考えたこともあったが、小心者の自分にはできもしなかった。本当に駄目人間だなーあたし、とまたネガティブに陥りながらスマホをいじる。


軽く2時間近くいじっていたようで、時刻はすでに23時を回っていた。

そろそろ寝ようかと思いながら、最後にSNSのタイムラインでも見てから寝ようと考えてSNSを開き軽く下にスクロールしながら何と無くで見て行く。様々な人々の言葉を見て行くなかで、ふと目に入った広告があった。


『もう1人の貴方を見つけて見ませんか?本当の貴方をこのアプリが見つけ出します!!』


いかにもな感じの胡散臭いキャッチコピーだった。自分でも何故目についたのか分からなかった。

だが、どんなにくだらないものでも好奇心というものは抑えられなかった。タップしながらダウンロードまでの手順を踏んで行く。ダウンロードのボタンを押すと、十秒ほどでインストールが終わる。

すぐさまアイコンをタップした。すると青白い近代的で機械チックな背景が映し出され、少し待つと小さな妖精の様な少女が出てきた。

『初めまして、私はこのアプリを管理しているAIのAM(あむ)です!』

ぺこりとお辞儀をする。グラフィックはとても綺麗で何も言わずに魅入ってしまう。

『このアプリは本当の貴女を見つけるアプリです。貴方は本当の貴方と出会ってもこちらは責任を負いかねますのでご了承ください。それでもよろしいという方は、まず貴女様の名前を入力してください』

名前入力欄が出てきたため、素早く「NO子」と入れて確定ボタンを押す。

『ありがとうございます。それでは最後に本当に貴方様と出会われるかを問います。』

そう言うと目の前にはYESというボタンとNOというボタンが現れる。しつこいな…と思いつつ、YESのボタンを押す。すると突然画面が白くなって文字が浮かび上がる。

その文字はーーーー『ご登録ありがとうございました』という一文だけ。

何も起こらないだろうと予想はしていたが、やはり呆気に取られてしまう。詐欺であれば、名前を入力するだけでなく電話番号やらメールアドレスやらを入力するしその危険性は薄いと感じた。少しだけ期待してた自分がいたためか、いささか疲れてしまった。

「…ばっかみたい」

携帯を枕元へと放って今度こそ本当に眠りにつく。

「おやすみ、今日も同じ自分」

一言呟いて、夢の世界へと落ちて行った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

目を覚ますと周りはお菓子の国だった。チョコレートに飴に綿菓子にクッキー。よりどりみどりだった。

あたしは夢の中だと気づいて少し周りを観察する。すぐ近くには学校の椅子くらいのサイズのマシュマロがあったので、それを少し触る。

……柔らかい。両手で触る。……柔らかい。だんだん楽しくなってもにゅもにゅしまくる。やばい気持ちいい癖になる。と思っていたら突然マシュマロから「あっ…」という女性の色っぽい声が聞こえた気がした。

驚いてマシュマロから離れると突然上から何か粘ついたものが落ちてきた。何かと思って上を見ると上空から納豆の雨が降ってきた。逃げようとするがネバネバしてまともに走れず、空から降る納豆はどんどん量を増していきやがて腰のあたりまで納豆が溜まって行った。

するとどこからともなくあの厄災とも言うべき音楽がお菓子の国だった場所に響き渡る。

「納豆ね〜ばねば〜♪納豆ね〜ばねば〜♪納豆ね〜ばねば〜♪納豆ね〜ばねば〜♪』

「いや…やめて…納豆だらけ…いや…いやぁぁぁ!!」

叫んでも鳴りやまない音楽。降り止まない納豆。

『納豆ね〜ばねば〜♪納豆ね〜ばねば〜♪納豆ね〜ばねば〜♪納豆ね〜ばねば〜♪』

「もういやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「はっ⁉︎」

勢い良く飛び起きる。部屋には目覚まし時計が嫌という程鳴り響いていた。

「ゆ、夢か…そうよね、納豆が降るなんてないわよね…」

夢の中でも疲れてしまった気がしたため二度寝をしようとまた布団に寝っ転がろうとした。

が、左側に何やらとてつもない違和感。人間のような大きさの何かが自分の横にあるような気がした。抱き枕なんていう物は持っていないので夢ではなく現実でも恐怖に包まれる。このままでいても埒があかないので、勇気を振り絞る。そして、思いっきり左を向く。

今にも唇が触れてしまいそうなほど目の前に美少女の顔。

「!?」

またも飛び起きる。今度はベットから降りる程に強烈なインパクトだった。しかも、その美少女は全裸。上も下も何も着ていないにもかかわらずぐっすり寝ている。

一体何が、と考えた時頭に一つの存在が浮かび上がる。

『本当の貴方を見つけるアプリ』

それしか原因は考えられなかった。

でもアプリさん妖精さん。

教えてください。


本当の私って露出狂だったんですかね?


と何故だか虚しい想いを抱えていると、むくっと美少女が起き上がった。寝ぼけ眼をこすりながらあたりを見渡し、あたしと目が合う。咄嗟に緊張から身構えてしまうが相手はなぜか笑顔になり、言葉を発した。

「初めまして『もう1人の私』っ!私は『本当の貴方』!名前はそうだなぁ…あ、じゃあYES李(はいり)って呼んでねっ☆」


ーー自分はなんて取り返しのないことをしたのだろう。今更になって後悔する。

だけどこれが「私自身」を変える出会いだったんだから。

実に運命とは驚きの連続であると思った。

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