第八話 家族
由紀野の家族が出てきます。ギャグっぽく書いたつもりですが、暗かったら申し訳ないです。
初めて家以外で年越しをした私は、無事新年を迎えて、家に帰って冬休みの課題に没頭していた。
ナージャとノブナガは冬休みが終わるギリギリまで屋敷に泊まる事を勧めたけど、私は結構几帳面な性格なのか、家の机と学校以外ではしっかり集中できないため、冬休みが終わる一週間前に切り上げてきた。
家に帰るとお母さんがお雑煮を作ってくれていて、屋敷では専らフレンチが多かったからあったかい醤油の味にホッとした。
フランスの家庭料理だかなんだかナージャがブイヤベースを作られていたけど、やっぱりこっちの方が美味しいと感じる。日本の一般庶民にとっては醤油とマヨネーズが一番美味しい調味料なのだ。
「由紀野〜っ!!ご飯よ〜!!」
下の階からお母さんの無駄に大きい声が聞こえる。
母は専業主婦だけど、元々は魚屋さんの娘だったため、声が以上な程に大きく、高い。
朝起こしてもらうときはありがたいが、その他の時間はうるさくて仕方ない。
ちなみに、お父さん方のおじいちゃんとおばあちゃんは両方公務員なので、お父さんも必然的に公務員になり、区役所のなんとか課に仕事を持っている。
「由紀野〜っ!!聞こえてんの〜!!」
聞こえないはずがない、お母さんの声は電車の通る時の音よりうるさいと思う。
これ以上お母さんに叫ばせるのも可哀想になったので、重い足取りで下に降りていく。
「ゆきねえちゃんオセェよ!!干物冷めちゃったじゃんか!!」
「ごめん。勉強してたから。」
短く謝ると、弟の徹はまだ不服そうに口を尖らせるとそっぽを向いた。
徹は無類の魚好きだ。
私は高校が忙しくなってもう行けなくなったが、中学生の徹は長期の休みがあると魚屋を営んでいるお母さんのおじいちゃんとおばあちゃん家に泊まりに行っている。
そして、毎日おじいちゃんと一緒に市場で魚を買い付けに行くそうだ。
「まぁまぁ、二人とも喧嘩しないっ。ご飯にしちゃうわよ!お父さ〜ん!ご飯よ!」
隣の部屋でテレビを見ていたのであろう父はノソノソと椅子に着いた。
今日もナイターでも見ていたのだろう。
「「いただきます」」
皆で手を合わせて挨拶をする。
少し古くさいホームドラマの様だが私は気に入っている。
「由紀野、友達の家はどうだった?」
普段無口なお父さんが少し恥ずかしげにうつむきながら聞いてくる。
「すごく豪華だったよ。部屋も可愛かったし」
「飯は魚だったっ?」
私が全部言い終わる前に徹が目をキラキラさせて聞いてくる。
口にご飯を詰め込んだまま。
「何だっけ、私は気持ち悪くて食べれなかったんだけど、舌べろ?舌ぼろ?」
「舌ビラメだよっ!!高級魚なのに何で食べなかったんだよっ!!」
徹はいきおいよく喋りだした瞬間、口の中で危うくとどまっていたご飯粒がポロポロとこぼれた。
「徹、汚いから口に物入れながら喋るな」
人一倍行儀にうるさいお父さんは低い声で徹を注意するが、徹は自分の興味が有ることしか聞かないため、ハイハイと返事はしているけれど、お父さんの言葉は耳から入って脳には届いていないだろう。
「いいなぁ姉ちゃんは いつの間にリッチな友達作ってんだよ」
「なに言ってるの、男でしょ」
いつもと変わらぬ口調でお母さんは言い放った。
明らかに動揺しているお父さんは下手にむせかえっている。
「ちっ違うわよ!!」
思わず怒鳴ってしまった私に家族がヒヤリとした目で一別する。
「由紀ねえちゃんとうとう玉の輿かよ、タラシだな」
「いつから男の家に泊まるような尻軽女になったんだ、父さんはそんな人間に育てた覚えはないぞ!!」
「あらぁ〜良いじゃない、由紀野ももう十八歳なんだし、ねぇ由紀野??」
「良くないっ!!」
箸をパチンと音を立てて置くと、うるさかった三人も黙る。
「本当にあんなに豪勢な暮らしをしてるなんて私も知らなかったんだって、それに、たしかに男の人は居たけど私より5つも年上なんだよっ!!(多分)」
「五つくらい関係無いわよ、お父さんとお母さんなんか10離れてるわよ」
すっかり忘れていた。
お父さん達はお見合い結婚で結構年が離れていたんだった。
「とにかく友達の家に泊まってただけだから、皆もそんなに疑っても無駄だからね!!」
お父さんの静止する声が聞こえたけれど、止まらずに部屋に急ぐ。
楽しい食卓が急に冷めた物に見えた。
悠也が忘れ去られたようで、悲しくなった。でも、前のように上手く涙が出ない。
そうやって、どんどん忘れ去ってしまうのだろうか。
いや、もう考えるのを辞めよう。
もし、悠也に強い思考があるならば、まだこの世界にとどまっている可能性があるから。
「由紀野」
ドアの向こうからお母さんの声がする。
「なに?」
「悠也さんのお母さんからお手紙来ていたわよ」
「明日課題みせてもらった後に家に行ってみるよ、ありがと」
重い沈黙が流れる。
「ねぇ由紀野、お母さん不思議に思ってたんだけど、由紀野の目の前で悠也さん通り魔に刺されたのよね?」
「うん」
「でも、ご両親がなんの捜索の手伝いも訴えでてすらいないのよ、大切な一人息子だったはずなのに」
「えっ??」
「おかしいでしょ??お母さんからはなんとも言えないのだけれど、とりあえず伝えといたから……おやすみなさい」
お母さんは静かにドアの前から去った。
その時私は、波瀾の予感がした。
最後まで読んでいただきありがとうございました。