第四話 都
戦いありません。
だらだらですが良かったらどうぞ☆
電車をいくつも乗り継ぎ、タクシーで一時間ほど走った所にベルサイユ宮殿を思わせるピンク、金、白のコントラストが美しい館が立ちはだかっている。
「なんだ、これ……。宮殿か?」
きっかけは三日前のナージャの一言だった。
「ねぇねぇ〜ユキノの学校には冬休みってある?」
「えっ?!あるよ、なんで?」
聞いたとたんナージャの瞳がキラリと輝く。
「日本って寒いでしょ?私とノブナガのお家に来ない??」
小動物がエサを期待する様な瞳の輝きから由紀野は断わる事もできず、今館の前にいる次第だ。
「家に二週間も泊まれって言うから、裕福な人達だとは思ってたけど……ここまで凄いとねぇ……。」
由紀野は自分の家を思い出してため息をつく。
父、母、由紀野に弟と一般的な家族構成だが父はサラリーマンなために収入も一般的なのだ。
「これってどう入りゃあいいのかなぁ?普通にドアベルあるけど……。」
オロオロと辺りを見回す。
高い門の向こうにはよく手入れされた庭があってナージャが好みそうな大型犬がボールと戯れている。
「まぁ、いっか。押しちゃえっ!!」
《ブーーッ》
『はい、ローリングでございます。ご用件はなんでしょうか?』
ドアフォンで使用人なのだろうか落ち着いた女性が応対した。
「あの……及川由紀野といいます。えと…ナージャに家に呼ばれたんですけど…。」
「はい、及川様でございますね?承っております。門を開けますので横に避けて下さい。庭を真っ直ぐ行っていただくと玄関がございます。そちらでお待ちしていますので、どうぞお越し下さい。」
「あっ…はい。」
《ガチャ》
鍵が外れる音がしたら次に鉄製の重たい門が開く。
この情景を見てディズニー映画を思い出された自分に由紀野は少し苦笑しつつ、前に進んだ。
私は老いる事の無い肉体を持ち、ナージャと共にある事を幸せにおもう。
「ナージャさん、由紀野さんが参られましたよ。」
まだフランスのルネサンスの時代の物を好むナージャは500年はたとうとする今でもレースやゴテゴテとした飾りのついた物を集めて部屋の中は埋めつくされている。
俗に云うお姫様ベッドをはじめ、ナージャの身長の二倍はありそうなテディベア、フランス人形にピンクのラグ。
どれをとっても女の子の心をくすぐる物ばかりだ。
フカフカの大きなベッドに埋もれる様に眠るお姫様は未だに幼い姿のままだ。
ナージャの色素の薄い金糸の様な髪をすく。少しみじろいでゆっくりと瞼を開ける。
この瞬間を私は彼女といる何万年もの間慣れる事はできない。
死の女神は私達に永遠の命を渡す代わりに、人と接する器量を小さくしたのだろう。
私はナージャにこの愛しい思いを打ち明けた事がない。
しかし、それは私達エクソシストには好都合だ。
なぜなら、私達こそ永遠で、私達こそ神の遣いそのものだからだ。
だから私達はもう既に生き物ではない。
生き物とは課せられる物が大きすぎるのだ。
「ノブナガ……ユキノが来たのね?」
頷くとナージャは飛び起きて裸足のまま玄関へと走り出した。
それを小走りで追う。元より脚幅のコンパスが違うため、あっという間に追い付く。
「ユキノっ☆いらっしゃいな☆」
ナージャは由紀野さんに思いきり抱きつくと楽しそうに笑った。
「由紀野さん、いらっしゃい。お部屋へ案内いたします。」
由紀野はあまりにこの空間に慣れないのか、螺旋階段を上がる時でさえ足元を見る事もせずに、辺りをキョロキョロと見回している。
客室に通すと由紀野は思わず歓声を上げた。
「かわいいっ!!お姫様みたい!!」
「でっしょ〜☆私の趣味丸だしょん☆」
腰に手を当てて得意気にいうナージャを今度は渋い顔で見る。
「でもナージャってまだまだ子供でしょ?ノブナガの資産だとしても大きすぎない?!」
遠慮がちに言う由紀野に二人は苦笑する。
「私達はこんな姿をしていますが、実は地球の生命誕生から姿を変え名前を変えて生きてきてるんですよ。だから元々私達は植物プランクトンの様なものだったんです。」
平然とする二人をよそに、由紀野は動揺を隠せない。
「えっ?ってことは二人はこんなにちっちゃくて、何億年も生きてきたってこと??」
指で小さな円を作って子供の様に興奮する由紀野にナージャは面白そうに話し始める。
「でも人間の時の方が楽よん☆それに、いきなり人になったって言うよりは進化したって言った方が正しいかもん☆」
「それに、私達は人類が誕生する前は対してエクソシストとしての仕事がありませんでした。それは、人がいかに魂が高い思考をもっているか分かります。人以外の魂だったら仮にこの世界に残ってしまっても、自ら女神の懐へ還って行きます。それほど自然の摂理とは変えてはならないものなのです。」
そう言うノブナガの表情が陰を落とす。
「まぁまぁ☆難しい話は無しにして、お茶にしましょ☆私由紀野のためにクッキーやいたのん☆」
ナージャは由紀野の手をグイグイと引っ張り、自分の部屋のテラスへと案内した。
そこには白髪の混じる目鼻立ちのしっかりとした女性とまだ幼さの残る女性が二人でアフターヌーンティーの準備をしていた。
高く積み上げられた甘そうなスコーンにクッキー、可愛いらしいマカロン。フルーツがふんだんに使われたタルトなど、これも大きめな丸テーブルに溢れ落ちそうな程乗せてある。
それでも礼儀作法は心得ているのか、キチンとカップは並んでいた。
「美味しそう☆お茶でも飲んでゆっくり話しましょうっ☆」
由紀野は二人の資産の多さに疑問を持ちつつ、美味しいお菓子に下鼓を打つのだった。