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第三話 煙

「はぁっはぁっ」


いつまで走ればいいのだろう。

私はどこまでも続く路地裏をひた走っていた。


いや、路地裏なんかじゃない。

ネズミのゲージにつけられている回し車の中にいるようで10m四方の箱の中をグルグル回っているのかもしれない。


空間がグニャグニャと動くのだ。


黒くうごめく物体は人の顔が見えたと思ったら獣の鳴き声が聞こえたりする。

3m程だったソレは今では四方に広がり雪崩の様に押し寄せてくる。


もとから具合が悪かった事もあり由紀野の体は限界を越えている。

もう……無理だ……。


下へ倒れこんだ由紀野に容赦なく亡霊は迫ってくる。


《ギギギーッ》


足元まで近付いた時に不意にスローモーションがかかったように見える。



私は死ぬのか?







「ばっかねぇ〜ん☆ユキノは死なないわょん☆」


《ザシュッッ》



どこから飛んできたのは由紀野の前で盾になると爪先から光を放って亡霊を切り裂いた。

《ギエェェーッ》


「由紀野さんこちらへ。」


ノブナガは由紀野を抱えて亡霊からなるべく遠い場所へと連れていく。


「ユキノはそこで見物でもしててぇ〜ん☆こいつ弱っちぃからぁん☆」


素早く切り裂くナージャに対し、ノブナガは広範囲に白い膜張って爆発させている。



《ャ……メロ……》


「あら〜ん☆まだ人の言葉が話せたのねぇん☆」


そんな所に関心しながらナージャは深く切り込んでゆく。


《ソンナコト……シテモムダダ……ゴヒャクネンモ……ワタシ…イキテル……》


切り込まれる苦しさから言葉が途切れ途切れになっているが表情が読み取れない。


「五百年も生きてるなんて長生きねぇ〜ん☆でも聞いてぇん☆」



今まで切り裂いていた爪を亡霊に深く突き刺す。


「私達は生命誕生から生きてんの、ノブナガと一緒にね。」


爪を勢いよく引き抜くと傷口から光が漏れる。


「後はノブナガよろしく〜☆」


引き抜いた腕の力にまかせて後ろに飛び退く。


ノブナカの生み出す白い光の膜が亡霊を包み込む。


「どうか……安らかに……。」


ノブナガの言葉とともに、爆発した。



由紀野は呆気になって二人を見つめていた。



強い……。エクソシストって祈ってるだけかと思ったけど全然違う!!



「由紀野さんっ!!危ない!!」


「えっ?!」



《オノレ……オマエノカラダ……ウバッテヤル!!!!》



「ユキノ!!逃げてぇ!!」



気持ち悪いきもちわるいキモチワルイ!!!!!!!!









 

 

 

 


私はある米問屋に奉公にきている。

奉公といっても私の家は貧しい。一生ここの埃くさい物置の片隅で寝起きし、馬車馬の様に働かされ、ふとした病に倒れてあっという間に死んでゆくのだろう。





「お万!!お万!!どこにいる!!」


ドタドタと騒がしい音を立てながら主人が私の名を呼ぶ。しかし、いつもは落ち着いている旦那様が私を探していらっしゃるので何事かとすぐに表へ出た。

「はい、ここでございます。」


旦那様の顔は真っ青になっていて心なしか震えていた。


「お前には最後の仕事をしてもらう。着いてこい!」


旦那様の二人目の御子息は大変乱暴なお方だった。

町に繰り出しては暴れまわり、旦那様はそれを金で揉み消しと追い掛けっこだ。


私は中ば引きずられる様にして表に出た。

表は騒がしく、町のお偉い方様と武装した僧兵が囲んでいた。



「この女が隣町の地主様の御子息を殺しました。」


旦那様の言葉で私は全てを悟った。

乱暴な息子はとうとう人まで殺したのか。

旦那様も馬鹿な人だ、いくら権力で揉み消してもなんにもならないのに。



「お前がやったのか?」


お偉い方も慣れてはいないのだろうオロオロしている。

この世界を呪ってやろう。

呪って呪って地獄の業火に焼き死ぬ日まで決してやめない。




「はい。」


私はなんだ?


「私の手で」


私は


「殺しました。」










既に黒き亡霊だ。









「ユキノ!!ユキノ!!目を覚まして!!」


体には傷一つついていないが、ユキノは気を失っている。


「ナージャ、由紀野さんは二代目です。間違っても目を覚まさない事はありません、大丈夫なのですよ。」


由紀野が気を失って30分はたとうとする。




「もう…疲れた。」


それは由紀野の口から出た物だが中に入り込んだ亡霊の言玉だった。

由紀野の胸の紅い痣から白い光が漏れる。

光は弱々しい物で、まるで煙の様に空に上がっていった。




「これが二代目の力……。」


「トーマと全く違うわ…魂と魂を繋ぎ合わせて浄化するなんて……。」



二人は由紀野を凝視したまま動かなくなっていた。


「んん゛〜、寝てたぁぁ〜」


「由紀野さんっ!!」「ユキノっ!!」



二人の必死の形相に由紀野は飛び退く。


「えっ?二人ともどうしたの??」



「凄かったです!!由紀野さん!!流石二代目ですね!!」


「ホント☆超すごかった!!女神様みたいぃ!!☆」



ナージャに抱きつかれてふと気付く。


私、霊に入り込まれて霊の思い出を見てたんだ。


「私ってなんで霊の思い出が見れたんだろう。」


「それは、私達にもよく分かりませんが、先程の亡者の魂の固まりにはコアになる中心の魂と、その思考に絡めとられた普通の魂とがあるんです。由紀野さんが見た思い出はコアの思考によって見せられたものだと思います。」



「死んだらまた輪廻するというのが自然の摂理なのよん☆残ってしまう方が変な話なのぉん☆」


得意気に話すナージャは由紀野の抱きついたままダルそうにしている。


「ナージャ、もうそろそろお休みの時間ですね。帰りましょう。」


ノブナガは愛しげにナージャを抱えると軽く由紀野に会釈をして、音を立てて消えていった。









私はいったいどうなるんだろうか……?


由紀野の不安な日々は続きそうだ。


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