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第10話 花びら

戦闘シーンありません




「ねぇ、明日ってお弁当いらないのよね?」


夕飯の餃子をつついてる時に不意にお母さんが言ってきた。


学校が始まって早一ヶ月半、明日は学校がテストの関係で半日で終わる。


その後、ナージャとノブナガと私でお昼を食べることになっていた。


あの二人の事だから、そこら辺のジャンクフードの店やチェーン店では食事しないだろうと踏んでいた私は、約束を取りつけたその日にお母さんに報告をしていたのだ。



「うん、泊まりに行った家の人と昼ご飯たべるから要らない」



言った途端に徹が羨ましそうに見上げてくる。

捨てられた子犬の様な目で俺も連れていけ!!と暗に言っているが顔を背けて無視を決めこむ。


大体私達が昼食を一緒にとる頃は当の徹は学校だ。

生真面目のお父さんと割と厳しいお母さんが許す筈がない。


「由紀野」


全く話に入ろうとしなかったお父さんが私の顔を神妙な面持ちで凝視していた。


「なっ何?」


「お前は学生なのだから、越えてはならない一線をわきまえるよう心に固く釘を打っておきなさい」



生真面目なお父さんだけど、子育てに関しては放任主義だから今までそんな事を言われた事がなく、厳かに言った注意に胸が痛くなった。


越えてはいけない一線なんてとっくに越えている。



「そうよ〜若い内にデキちゃうと育てるの大変なんだから!!」



お母さんは面白そうに横からちゃちゃを入れるが、全く笑えない。

徹は興味が無さそうに、味噌汁をすすっていた。



こんな日々が今お気に入りだ。













「ユキノ!!おそい!!」


相変わらずフリフリのレースをたくさん使ったワンピースの上から冬も終りに近付こうとしているのに白いファーの付いた分厚いコートを着込んだナージャが黒塗りの自動車の前でジダンダを踏む。



「ごめん、HRが長引いて」


とにかく目立つナージャとノブナガ、校門前に居るなら尚更だ。



「由紀野さんお疲れ様でした、ここではなんなのでお入り下さい」


ノブナガはうやうやしく車のドアを開ける。

その美しい動作に下校する生徒達が釘付けになる。



少し照れながら流れるままに車内に入ると遠くで女子達の悲鳴が聞こえる。



明日、いじめられるな……。



ぼんやり考えてナージャの話に耳を傾ける。

あんまり待ったから手が氷みたいになってしまったと、口を尖らせるナージャの小さな手を両手で包みこむとようやく彼女は納得して笑顔になった。




なんか、妹が出来たみたい…。


不意に思って、口元が緩んだ。


車窓に目を向けると街の景色が流れていく。


心地好い車独特の振動にうとうとした頃にノブナガに声を掛けられた。


「由紀野さん、着きましたよ」



優しく言われて重い瞼を叱咤して目を覚ますと、大きな白い洋館が現れた。


洋館には、ツタがはりめぐらされていて、趣きを感じる。


ノブナガに促され、ナージャの後を続く様に車から降りる。


重厚感のあるこげ茶色の大きな扉の前にはこのレストランの制服なのだろう、アジアンテイストの赤の地に金糸の刺繍が施されている布を黒いスーツの上から斜めにさげ、髪の毛も一つに結んだキチリとした女性が立っていた。



「予約をした田村ですが」


ノブナガが女性に話しかける。


私は自分が制服姿だという事を思い出して、内心ハラハラとしていた。

そのままキッチリと着たなら公立高校の制服といえどそれなりに見えるが、私は今時の女子高生らしくダボッとしたクリーム色のカーディガンをブレザーの中に来ていて、派手なピンクのマフラーまでつけていた。


小声でナージャに耳打ちして伝えると、ここのレストランは会員制で一つ一つの席が個室になっているため、服装の心配はないそうだ。


「はい、お待ちしておりました、どうぞお入り下さい」



女性が扉を開けると、中は外観とは全く異なるものだった。



アジアンテイストな家具や絨毯、赤と茶色を基調にした色使いは何故かホッとする感じがして、そのなかでも館の中央で一際暖色系の光を放つシャンデリアが輝いていた。



「凄い………」


完全会員制なのも頷ける。

アンティークの椅子やテーブルには手入れが行き届いていてシャンデリアなどの証明器具にすら塵一つついていない。



「そうかなぁ〜普通じゃない?!」


思わず呟いてしまった私の独り言に、ナージャは律儀に答えてくれた。


これが普通なら私のいつも行ってるチェーン店は兎小屋だろう。


品の良いエントランスを抜けて席に案内される。

フランス料理のフルコースはでないと思うけど、マナーなど心配だ。


家庭科で習ったくらいの知識では、到底おいつかないだろう。



「心配しなくても大丈夫ですよ、今日はランチですし、ここはインドネシアの民族料理専門店ですから、フレンチの様に細かい作法はありませんから」



そう聞いてほっとする。

席につくとぞくぞくと料理が運ばれてきた。

宮廷料理を再現し、一流のシェフが日本人の口に合うようにアレンジしたそれはとても美味しく、綺麗だった。



「会計してくるみたいだから、先に出ましょう」


あらかた食べ終わった後にナージャから声がかけられた。



ナージャのあとを付いていくと、あの綺麗な入り口の扉を出てを右に入っていくと沢山の冬だというのに植木や花が沢山の咲いていた。


「冬なのに、凄い量だね」



ナージャに話しかけるが少しこちらを向いてはにかむと、また花達に視線を向ける。



「どこかにあるはずなのに……」


ナージャは口の中でそう呟くと、唇に白く細い手をやる。







その切なそうな表情に胸が痛んだ。



ナージャの瞳がただの鉢植えを見つめているのではなく、遠くを見ていたから。




「お二人とも、会計が済みましたよ」



後ろからノブナガが声をかけてくる。


長い沈黙が続いていたため、ナージャも私も少し驚いてしまった。


「行こっか、大分体も冷えちゃったし」



白い息を両手に吐きかけながら、ナージャは言った。


その姿に心が暖まる。


車が停めてある駐車場に向かおうと、振り返った瞬間、頭の芯がジリジリと痺れた感覚がした。



「?」



良く手入れされた鉢植えが置いてある庭にもう一度目を向ける。



その庭には何故か違和感があった。



「ユキノどうしたの??」



私の手を引いていたナージャが不思議そうにこちらに目を向けた。


「ううん、何でもない」



ナージャの問いに笑顔で答えた。


その時には頭の芯にあった不快な痺れは跡形もなくなっていた。



二人で手をつないで、車に向かう。


その時はまだ、その違和感が何を意味するか私には解らなかった。


読んで下さりありがとうございました

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