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12 最強装備 中



 御堂みどうじん夢小路ゆめこうじ薫子かおるこの装備を製作中の仁。

 2人が着る服は完成した。

 だが、まだまだ仁は止まらない。


「次は『聖女』の杖を作ろう」

「杖、ですか?」

「そう。聖女といえば杖だろう?」

「そうなんでしょうか……」


 薫子はピンとこないらしい。

 が、仁は構わず製作を進めていく。


「よし、できた」

「は、早いですね」


 5分ほどで『聖女の杖』が完成した。


「軽いほうがいいだろうから『641軽銀』で作った」


 641軽銀は、64軽銀にミスリル銀を1パーセント添加したものである。『強靱化(タフン)』により64軽銀の3倍の強度が出る。


「先端に付いているのは全属性の『魔結晶(マギクリスタル)』だ。上級の『雷属性魔法』と『風属性魔法』、それに『水属性魔法』が仕込んである」

「え? え?」

「まあ、使わないに越したことはないが、万が一にも自分で自分の身を守れるようにな」


 『雷属性魔法』は『雷撃(サンダージャベリン)』と『霹雷(サンダーアタック)』。

 『雷撃(サンダージャベリン)』は対象に真っ直ぐ向かう雷を放つ魔法だ。その速度は秒速200キロ、実際の雷のステップトリーダー(先行放電)レベルである。

 『霹雷(サンダーアタック)』の方は範囲魔法で対象範囲に強烈な雷を浴びせるというもの。


 『風属性魔法』は『風の一撃(ウインドブロウ)』と『風槌炸裂(ダウンバースト)』。

 『風の一撃(ウインドブロウ)』は空気の大きな固まりをぶつける魔法。威力としては大人の殴打くらいの威力がある。

 『風槌炸裂(ダウンバースト)』は範囲攻撃。特定の範囲に、質量のある空気の槌を上空から叩き付けるものだ。


 『水属性魔法』は『水の弾丸(ウォーターバレット)』と『霧発生(ミストフォグ)』。

 『水の弾丸(ウォーターバレット)』は文字どおり水の弾丸を発射する。威力は小さいが速度が高い。

 『霧発生(ミストフォグ)』は霧を発生させて相手の視界を塞ぐものだ。


「あと、その杖で人を殴ると『麻痺(スタン)』の効果が現れて、気絶させることができる」


 説明を受けた薫子は戸惑うばかり。


「わ、私に使いこなせるでしょうか……」

「明日1日、じっくり練習してくれ。あ、言い忘れたけど、杖の中に『エーテノール』……まあ『超強力なエネルギー源』が仕込んであるから、1万回くらい魔法を連発できるよ」


 自分の魔力は使わなくていいから、と言って仁は説明を終了した。


「……」


 言葉をなくす薫子であった。


*   *   *


「さて、次は『剣』かな」

「剣ですか……」

「勇者といったら剣だからな。ああ、それとも『刀』の方がいいか?」

「そうですね……俺としては、やっぱり刀がいいですね」

「よしわかった」


 再び仁は、喜々として製作に取り掛かった。

 そして10分。


「いやあ、凝りすぎて時間を掛けてしまったなあ」


 どこが、と突っ込む者はこの場にはいなかった。


「これでどうだ?」

「おお、いいですね」


 身長175センチほどのじんの体格に合わせ、刃渡り(刃の部分の長さ)72センチ、つかの長さ25センチ(刀の長さとは、刃渡りをいうことが多い)。


「日本刀もどきだけどな」

「いえ、カッコいいですよ!」


 反りはやや深め。切っ先は小切先で、古刀っぽい外見だ。


「軽めに作ったんだが、バランスはどうだ?」


 じんは刀を抜いて振ってみる。


「いいですね。竹刀よりちょっと重いくらいで、片手でもなんとか振り回せるくらいです」


 軽すぎても、斬る際の威力が落ちてしまうのである。


「玄人じゃないからその程度にしてみた」

「ああ、そういうことなんですね。確かに使いやすそうです」

「うん。刀身は0.0001ミリ厚の『ハイパーアダマンタイト』を『人為的魔術(アルティマギア)変異元素(ミューエレメンタル)』の641軽銀でサンドイッチしている」


 ここで薫子が質問を口にした。


「『人為的魔術(アルティマギア)変異元素(ミューエレメンタル)』って、このローブにも使われているみたいですけど、いろいろ種類があるんですか?」

「そうだよ」


 これには仁が答える。


「『人為的魔術(アルティマギア)変異元素(ミューエレメンタル)』は、魔力子マギトロン線を長時間浴びせることで、原子核の中性子を全て魔力子(マギトロン)に置き換えた元素の総称なんだ。魔力による強化レベルが50倍以上に跳ね上がるんだよ」

「……よくわからないけど、すごいということが、わかりました」

「まあ、それでいいよ」

「要するに、鉄の剣の3分の1くらいの軽さで、強度は1000倍くらいある、ということ」

「…………」

「……」


 絶句する2人であった。


「ああ、それからつかのスイッチを入れると『超高速振動剣バイブレーションソード』としても使えるから、鋼鉄でもバターのように切れるぞ」


 魔力源はつかの中に仕込んだ『エーテノール』なので、連続して使っても1万時間は使えると仁は説明した。


 説明を聞けば聞くほど絶句する2人だった……。









13 最強装備 下



 と、ここでずっと黙っていた礼子が発言する。


「お父さま、『勇者』さんの方ですが、遠距離攻撃と範囲攻撃の手段がないですね」

「ああ、そうだな。……うーん……よし」


 何やら思いついたらしい仁は、5分ほど掛けて新たな魔導具を作り上げた。


「これも持っているといい」

「銃……ですか」

「ああ、そうだ。多機能な銃だから、使い勝手もいいはずだ」


 ピストル型の銃であるが、弾丸を発射するものではないと仁は説明。


じんの意識を読み取って、威力が変わるようになっている」

「え”」

「最弱だと人一人を麻痺させる程度で、最強だと山を2つ3つ消し飛ばす程度」

「程度、って言葉で済ませられないと思うんですが……」

「いや、世界1つを救うんだから、これでもまだ不安だぞ?」


 そしてこれもまた『エーテノール』内蔵なので、『最強』で1000回、『最弱』なら一億回くらい使える、と仁は説明し、じんを絶句させた。


*   *   *


「ジン兄、治癒の薬もあったほうがいい、と思う」

「そうだな。『治療薬』を夢小路さんに渡しておこう」

「ん、それがいい」


 『治療薬』は薬剤基(ドラッグベース)完治(ゲネーズング)の魔法を込めたもので、内科系の最高度治療薬である。


「あとは『治療器(トリートメンター)』があればいいかな」


 『治療器(トリートメンター)』は治癒の効果を持つ魔導具である。


「そうだ、『解毒(エントギフテン)』の効果があるアミュレットも渡そう」


 これで毒系の攻撃は無効化できるわけだ。


「うーん、あれもこれも、と渡すと荷物が増えるな」


 残念ながら亜空間収納のような技術はまだ開発されていないのである。


「お父さま、荷物持ちのゴーレムをお作りになられては?」

「それだ!」


 礼子の提案に、仁は大乗り気。

 30分ほど掛けて『荷物持ち』ゴーレムを作り上げた。

 ベースとなったのは『ランド隊』である。


「お待たせ。こいつを一緒に行かせよう」

「いや、待ってはいないんですが」

「ええ、私も……」


 待ち時間の間、新しい装備の確認をしていたので、少しも待たされたという感じがしない2人である。


「戦闘もできるゴーレムで、腹部に荷物入れがある。貴重品以外はそこに収納できるから」

「ああ、助かります」

「ボディはハイパーアダマンタイトだから、巨大隕石が直撃しても無事だぞ」

「……」


 またとんでもないことを言い出した、と2人の顔が少し引きつった。


「荷物持ちだからパワーもある。だいたい人間換算で1万人力くらい。このくらいあれば、大岩が道を塞いでいてもどかしてくれるだろう」


 短時間ならその10倍を出せる、と仁。


「動力源は『魔力反応炉(マギリアクター)』だから、半永久的に稼働するし、万が一のことを考えて『エーテノール』もたっぷりと内蔵している。2人の装備の『エーテノール』がなくなりかけたら補充もしてくれるぞ」

「…………」

「それに、攻撃魔法も使えるから、雑魚相手なら勇者の体力を温存できるぞ」


 仁は絶好調である。

 そこにエルザからも助言。


「ジン兄、女性型もあった方がいいんじゃ、ない?」

「お、そうだな」


 エルザも今回ばかりは仁を止めようとしない。むしろあおっている。


 ということで、仁は再び30分ほど掛けて女性型のゴーレムを作り上げた。


「パワーは男性型の半分くらいだが、細かい作業が得意だ。裁縫とか料理とかな」


 ベースは『五色ゴーレムメイド』である。


「この2体は互いに修理も行えるから、故障の確率は減るぞ」

「……確かに」

「治癒魔法も使えるから、聖女の魔力も温存できる」

「……もう、私、いらないんじゃ……」


 そんな薫子のつぶやきは、誰にも聞こえなかった……。











14 グッドラック



 そして翌日、まる1日を装備に慣れるための練習日とした。


 薫子は『杖』と『指輪』の扱いに習熟し、攻撃魔法も自由に放てるようになった。


 じんも、『魔導回復機(マギリハビリマシン)』で身につけた戦闘技術を実際の身体で体現できるようになったのである。


「……筋肉痛になるかと思ったけど、大丈夫みたいですね」

「ああ、それは当然だな」


 じんの疑問に対し、仁が説明する。


「最初に君たちの身体構造を調べてみたら、無意識のうちに魔力による強化ができていることがわかってる。これはきっと”女神様”からの加護みたいなものだろう」

「だとしたら助かります」

「同じ様に各種抗体も持っているようで、そんじょそこらの病原菌は寄せ付けないみたいだぞ」

「その点では”女神様”に感謝ですね」


 ”女神様”としても、選び抜いた『勇者』と『聖女』が病気で倒れては困るわけなので、こうした加護を与えているのだろうなとじんは考えた。


(それにしても、説明不足なのは困りものだなあ……)


 とぼやきたくなるじんであった。


*   *   *


 そして、2人がこの世界を去る予定の日となった。


「お世話になりました」

「おかげさまで、なんとかやれそうな気がします」


 研究所前で、仁たちと別れの挨拶を交わす。


「うん、頑張れ。……月並みなことしか言えないけどな」

「いえ、十分すぎるほどよくしてもらいました」


「くじけないで。命を大事に、ね」

「はい。いろいろ、ありがとうございました」


 そして、エルザは2人に弁当を渡した。


「これ、よかったら、食べて」

「ありがとうございます!」


 そうこうしていると、2人と2体の周囲が発光し始めた。


「……いよいよみたいです」

「お世話になりっぱなしで……」

「礼はいいよ。……行った先の世界を救ってくれ」

「はい、きっと」

「元気で、ね」

「さような……」


 そして光が消えるとともに、御堂みどうじん夢小路ゆめこうじ薫子かおるこ、荷物持ちゴーレム、侍女ゴーレムらも消えてしまったのだった。


*   *   *


 御堂みどうじん夢小路ゆめこうじ薫子かおるこの2人はまた、あの灰色の空間にいた。そばには2体のゴーレムもいる。


《よい出会いがあったようですね》


 ”女神様”の声がした。


「はい、いろいろと準備を整えることができました」

《それは重畳ちょうじょう。……では、いよいよ救ってもらいたい世界に送りますよ》

「わかりました」

《あなたたち2人に、幸あれ》


 そして2人と2体は転移した……。






15 初陣


 その世界は、魔物に蹂躙じゅうりんされつつあった。

 突然出現した異形いぎょうの物が、無差別に破壊を始めたからだ。

 人々はそれを『魔物』と呼び、結束して対抗していたが、彼我ひがの実力差はいかんともしがたく、生存権はどんどんせばめられていたのである。


 そんな中、御堂みどうじん夢小路ゆめこうじ薫子かおるこが出現したのはとある村だった。

 どこからか悲鳴が聞こえてくる。


「!?」


 咄嗟とっさじんは身構え、薫子を守るように動いた。


「今、悲鳴が聞こえましたね?」

「うん。……村が襲われているのかもしれない。行ってみよう」

「はい!」


 じん、薫子、荷物持ちゴーレム、侍女ゴーレムらは悲鳴が聞こえた方へと向かった。


*   *   *


「これは……」

「ひどい……」


 家が破壊され、人々が襲われている。

 襲っているのは外骨格を持つ生物らしきもの。


「やめろ!」


 転んだ少女を襲おうとした『魔物』を、じんは『銃』で狙い撃った。

 『銃』から放たれた光の弾丸は、『魔物』の上半身を見事に消し飛ばす。

 そしてそれに留まらず、背後にいた『魔物』5体をも貫いたのだった。


「すげえ……」


 『銃』の威力に感動するじんだったが、薫子の声に我にかえる。


じんさん! まだまだ敵はいます!」

「お、おう!」


 その薫子は杖を構え、『霹雷(サンダーアタック)』を放った。


「おお、すげえ!」


 『魔物』にいかづちが降り注ぐ。

 閃光が収まったあとには、何も残っていなかった。


 が、まだ少し魔物は残っている。

 じんは刀を抜き、村を見て回ることにした。

 荷物持ちゴーレムがお供について来る。


「『荷物持ちゴーレム』じゃ呼びにくいな……よし、お前は『ポーター』だ」

「はい、私は『ポーター』です」


 ということで、じんはポーターとともに村中を巡っていく。


「ここにもいたか!」


 刀で一刀両断。

 訓練の賜物か、動きに淀みはない。

 そして”女神様”の加護なのか、戦うことに不思議とためらいはなかった。


(精神に何かされていたとしても、今は助かっているしな……)


 そしてまた、魔物を叩き斬る。

 斬った断面から見えるのは生物のそれではなく、無機的な何かだった。


(これじゃあ、共存は無理だろうな)


 珪素生物とか、機械生命とか、そういうたぐいの存在らしい、と じんは感じた。

 だとすると、炭素系生命体とは相容あいいれない、とも。


「あと、3体! ……これで最後だ!」


 じんは『銃』で3連射。

 『魔物』は一掃いっそうされた。


*   *   *


「大丈夫? ……『快復(ハイルング)』」


 薫子は、転んだ少女の怪我を治してやっている。


「ありがとう、おねえちゃん!」

「どういたしまして」


 答えながら薫子は(じんもだが)ここも言葉が通じてよかった、と思っていた。


「あ、ありがとうございます……」

「もう、駄目かと思いました」

「おかげで助かりました……」


 傷ついた村人が集まってくる。皆、傷つき、疲れ果て、ボロボロである。


「皆さん、怪我をした方は集まってください」


 そんな村人を一箇所に集めが薫子は、『癒やし』の力を使う。


「『修復(レパラトゥーア)』……」

「おお……!」

「傷が……治った!」

「聖女様、ありがとうございます!」

「聖女様! 勇者様!」


 村人たちの歓喜の声。

 その夜は村で世話になった2人である。


*   *   *


「……なるほど、ここから北へ行くほど『魔物』が増えていくわけか」

「はい」

とりでもあるけど、もう兵士はいないわけですね」

「そうなのです」


 じんと薫子は、村人から情報を収集している。


 どうやら『魔物』をべる『魔王』は、北の地にいるらしい。


「魔物を倒しながら北を目指すか」

「それがいいでしょうね」


 一刻も早く魔物を一掃しないと、この世界が危なそうだ、と2人は思った。

 というのも、魔物は人間だけでなく、家畜や野生の動物を襲い、畑の作物も森林も草原もお構いなしに焼き払い滅ぼしているという。

 やはり炭素系生物を目のかたきにしているようだ、とじんは確信したのである。


「勇者様、聖女様、どうぞお気を付けて」

「ありがとう」


 そして2人は、魔王を倒す旅に出る……。







16 無双


 それからの2人は、ひたすら北を目指した。


「『メイ』、この人たちを癒やして」

「はい、聖女様」


 薫子は侍女ゴーレムに『メイ』と名を付け、人々を救済していく。


「ポーター、雑魚は任せた!」

「はい、勇者様」


 ポーターは『荷物持ち』どころか、卓越した戦闘能力を持っており、雑魚魔物の100や200は軽く一掃してしまう。


「勇者様!」

「聖女様!」


 2人は行く先々で歓迎され、もてはやされた。


*   *   *


「思った以上に酷いな」

「そうですね、じんさん」

かおるは大丈夫か? 疲れが溜まっているんじゃないか?」

「大丈夫です。まだペルシカジュースも残っていますし」

「そうか」


 幾多の戦いを経て、2人は名前で呼び合うようになっていた。


 そして今日、魔物の本拠地への第一歩が踏み出される。


*   *   *


「砦というよりバリケードだな」

「魔物にも、知能を持つものがいるという証拠ですね」

「言葉はまるで通じないけどな」

「ですね……」


 もっとも、言葉が通じたとしても、魔物とはわかりあえないだろうなとじんは思っている。

 全く異なる生命体同士の相互理解はありえないのだ……。


*   *   *


〈+`*%&NFP〜、MEKVI{+*…%(MYI<〉(今日もまた、脆弱な生命体が来たな)


 砦を任されているのは『魔王』直属の配下だった。


〈GS$UV、あK0)$<BDL`*2光、{0’クGR’&<BP=0?UR?〉(最近、同胞を倒して回っている有機生命体がいるというが、あれがそうか?)


 魔物たちにも勇者と聖女の噂は聞こえてきているようだ。


〈!)’=L*+}<ン。T+L”$(’&%M『G〉(まあいい。戦力の半数を出せ)


*   *   *


「出てきたぞ……ポーター、『陥穽(ピットフォール)』だ」

「了解」


 落とし穴を作る魔法で、『掘削(ディグ)』の上位互換である。

 砦から出てきた魔物の3分の1が落ち込んだ。


「よし、『炎の嵐(フレイムストーム)』を穴の中へ!」

「了解」


 高熱の炎を対象の周囲に発生させ、焼き尽くす魔法である。ポーターが使う炎は白色、およそ5000℃。


 穴の中がガラス化するほどの高温に、落ち込んだ魔物たちはひとたまりもなく溶融あるいは蒸発した。


*   *   *


〈7JG!p BHハ0わ+h? +*?N呉さHキ95$’!〉(何だ、今の攻撃は!? 脆弱な生命体のくせに強力な魔法を使うのか!)


 魔物の司令官は驚愕した。


〈¥JM+`#!)(%<D3差ゴH@*7qを G”&4。〉(固まっていてはよい的だ。ばらばらに襲いかかれ)


*   *   *


「まだ3分の2くらい残っているな。バラける前に範囲攻撃だ」

「任せてください。『霹雷(サンダーアタック)』!」


 『いかづちの聖女』という異名を付けられるほど、薫子の『雷属性魔法』は派手である。

 5億ボルトもの電圧を持つ雷による範囲攻撃。

 一瞬周囲が紫色に染まり、次いでオゾンの臭いが漂う。

 ちなみに『解毒』のアミュレットを持っているので、2人ともオゾンを吸っても平気である。


 これにより残り3分の2のうち半分が消滅した。

 つまり残るは3分の1。


「さすがに固まってはいないな」


 じんは銃を抜いた。

 すっかり使い慣れた魔導銃を使い、1体1体確実に倒していく。


 同時にポーターも、そのパワーと魔法で、1体また1体と魔物をほふっていった。


*   *   *


〈U70だ+`、*4コS『>!〉(一体何なのだ、やつらは!)


 司令官は焦っていた。


〈w&N%$さ@*;>。……!〉(脆弱な生命体のくせに……!)


 がなっても状況は好転しない。


〈8(P@<、あ&#$¥kフ!〉(そうだ、聖女とかいうやつを狙え!)


*   *   *


 じんはポーターと共に戦場を駆け回って魔物の数を減らしている。

 薫子は戦場の後方で、全体の状況把握に務めていた。

 が。


「……私を、狙っている?」


 薫子は、多数の魔物が勇者ではなく自分を狙っているのに気が付いた。


「バリア」


 念のために障壁(バリア)を展開しておく薫子。

 そして案の定、魔物が大挙して押し寄せてきた。


「メイ、お願いね」

「はい、お任せください」


 侍女ゴーレムとはいえ、戦闘力は有している。

 『ポーター』の半分程度ではあるが。


 とはいえ、この場でそのパワーは十分すぎるものだった。


*   *   *


〈G;、2#J&ー>?〉(な、なんだと!?)


 司令官の目に、宙を舞う兵士の姿が映った。


〈Yyん+^¥U……〜8”&V#出キk;m?〉(あの付き従う……金属の従者か?)


 聖女を狙った15体の兵士は、瞬く間にその数を減らしていく。


〈9R府さ……<。5”=¥り』、0^$ガ7〉(うぬう……勇者、あなどりがたし)


 そんな司令官の目の前が、真っ白に染まった。

 それと意識する暇もなく、砦とそこを根城とする魔物は一掃されたのである。


*   *   *


「あらかた片付けたな」


 戦場を一廻りしてきたじんが言った。


「あとは、砦ごと滅するか」


 銃を構えるじん


「悪いが、これは『殲滅戦せんめつせん』なんだよな」


 そして引金トリガーを引く。


 銃口からは、山をも消し飛ばす威力の光弾が発射された。










17 魔王城へ



 それからも、勇者(じん)と聖女薫子の旅は続いた。


 その甲斐あって、世界をおびやかしていた魔物の数は激減しており、人々は再び結集して戦い、奪われた居住域も回復してきている。


「ここで魔王を倒せれば、勢いもつくだろう」

「そうですね。統率が取れなくなれば、より戦いやすくなるはずです」


 というわけで今、『勇者』御堂みどうじんと『聖女』夢小路ゆめこうじ薫子かおるこは魔王城の城壁を見上げていた。


 『城』とはいっても、岩を積み上げただけのもので、遠くから見ればただの岩山である。


「じゃあ、行くか」

「はい」


 前日はゆっくり休み、魔力の補充も十分(この世界にも豊富な『自由魔力素(エーテル)』があった)。


「まずはポーター、門らしきここを塞いでいる岩をどけてくれ」

「了解です」


 100トンはありそうな大岩を持ち上げるポーター。

 すると……。


「うわ、雑魚が出てきた」


 開いた通路から、雑魚魔物がわらわらと出てきたのである。


「ポーター、閉じろ」

「了解」


 持ち上げた岩をもとに戻すポーター。

 それだけで100以上の魔物がぺちゃんこになった。


 ちなみに、出てきた魔物は即討伐済みである。


「それじゃあ、岩ごと消し飛ばすしかないな」


 じんは銃を構え、最大出力で発射した。

 射線はやや上に向けたので、地上部への被害は最少に収まったと思われる。


「よし」

「すっきりしましたね」


 2人の前に立ちはだかっていた大岩は綺麗さっぱり消し飛び、直径10メートルほどの円形状にぽっかりと空間が口を開いていた。


「さて、行くか」

「はい」


 余波で雑魚魔物も全て消し飛んでいたようで、邪魔するものはいない。


「ところで、魔王はどのへんにいるんだろう?」

「そうですね…………?」


 見上げた2人は首を傾げる。

 何しろ、大岩を消し飛ばした銃撃の余波は、遠くへ行くほどその直径を増しており、100メートルほど先では直径200メートル、200メートル先では直径400メートルほどにもなっていたのである。

 つまり、それだけの岩山が消し飛んでいたのだ。


 そして、800メートルほど先にあるはずの岩山は……。


「……吹き飛んでるな」

「消えてますね……」


 綺麗さっぱりと消滅していたのである。


「えーっと……」

「……どうしましょうか……」


 顔を見合わせる2人。


「……」

「…………」

「……とりあえず、群がってくる雑魚を片付けようか」

「そうしましょう」


 話がつき、2人は雑魚魔物の一掃に取り掛かる。

 ポーターとメイにも手伝ってもらい、掃討は15分で終了。

 『聖女』の探知網にも、メイの探知魔法にももう魔物の気配は引っ掛からない。


「……後は、とりあえず魔王城のあったところまで行ってみよう」

「そう、ですね」


 2人は周囲に気を配りながら、魔王城があったはずの場所を目指して進む。


 もう魔物が出現することもなく、15分ほどで該当する場所に到着。


「うーん、見事に何もないな」

「みんな消し飛んでますね」

「一体どんだけの威力があるんだ……仁さん、なんてものを作ってくれたんだよ……」


 ポケットの銃を服の上から触りながら、じんは苦笑した。


「まあ、これでこの世界は助かったわけですね」


 ほっとした顔で薫子が言う。


「そうだな。あとは残党狩りと復興だろうな」


 親玉がいなくなっても、残党はまだ世界に散らばっていそうである。

 そいつらを片付けないと、この世界は危機を乗り越えたことにはならない、とじんは言った。


「あらためて、世界巡りの旅ですね」

「そうなるな。……もうしばらくよろしく、『聖女』様」

「こちらこそよろしくです、『勇者』様」


 そして2人は顔を見合わせ、笑い合う。


「……ふふ」

「はははは」


 その声は、晴れた空に吸い込まれていった。









18 エピローグ



 その後も、御堂みどうじん夢小路ゆめこうじ薫子かおるこは各地を巡り、魔物の駆除と怪我人の治療を行っていった。

 その甲斐あって、半年後には魔物の被害はほぼ0になった。

 そして怪我人も激減したのである。


「聖女様、勇者様、ありがとうございました……」


 2人は行く先々で感謝され、拝まれた。

 拝まれるのには慣れなかったが、感謝されるのは素直に嬉しいと思えた。


*   *   *


 そして……。


「世界は救われた!」

「勇者様! 聖女様!」

「ばんざい! ばんざい!」


 2人が送り込まれてから1年の後、平和になった世界で盛大な感謝祭が行われた。

 もちろん主賓は御堂みどうじん夢小路ゆめこうじ薫子かおるこの2人である。


「照れるな……」

「そうですね……」


 壇上に登った2人の上に、花びらが振り撒かれる。

 その、舞い落ちる花びらが一陣の風に舞い上がった。


 そして、人々が気が付くと、2人の姿は壇上から消えていたのである。従者2体を残して……。


*   *   *


《2人とも、ご苦労でした》


 三たび呼び出された灰色の世界で、”女神様”の声なき声が2人の頭に響いた。


《これで、あの世界は救われました。感謝します》


 ああ終わったんだなあ、という達成感と、これで異世界での冒険も終わりだな、という幾ばくかの寂しさが2人の胸をぎる。


《それでは、元の世界へ送り返しましょう。何か、言いたいことはありますか?》


「ええと、元の世界での時間はどうなりますか?」


《それは心配ありません。あなた方を呼び出したその時間に送り返します。向こうでは少しの時間も経過していません》


「これまでの、異世界での記憶と経験は?」


《全てなかったことになります。あなた方の肉体の成長も同様です》


「え……」


《仕方ないのです。今のあなた方は、元の世界では『超人』になってしまうのですから》


 『異世界帰り』でチートできないのか、とじんは少し残念に思った。

 が、薫子は少し違うようで、


じんさんと過ごした記憶もなかったことになるんですか?」


 と尋ねた。


《そういうことになりますね》


「なんだか……残念です」


《ふむ……》


 何やら考え込んだような”女神様”。


《……それでは、こうしましょう。異世界で過ごした、という記憶だけは『夢を見た』という形で残しておきます》


「夢、ですか」


《そうです。それなら、あなた方の世界に大きな干渉はしないでしょうから》


 そして”女神様”は、


《それでは、これで最後です。良き人生を送ってください》


 その言葉を最後に、2人の意識は途切れたのだった。


*   *   *


「……バスが来たな」


 御堂みどうじんは、やって来た路線バスに乗り込んだ。そしていつもの場所、昇降口のそばに立つ。


『次は富士見坂下です。お降りのお客様は……』


 車内アナウンスが流れ、停留所でバスは停車。

 ドアが開き、何人かが乗り込んできた。


「あ……」

「あ……」


 乗り込んできた乗客の1人は、近所にある『乙女百合女子学園』の制服を着ていた。

 なんとはなしに見つめ合い、気が付いて顔を背ける2人。


 まだ春は少し先、そんな季節のことである。





〜2026年スペシャル 完〜




《蛇足》 残された『ポーター』と『メイ』は2人がいなくなったために動きを停止したが、勇者と聖女をサポートした『守護神』として、大切にまつられたということである。

《更に蛇足》 じんと薫子の『装備』は”女神”様が収納した。そのぶっ壊れ性能に、溜息をいたとかかないとか。

 お読みいただきありがとうございました。


 2026年1月6日(火)12:00より、

 マギクラフト・マイスター本編の更新を再開いたします。


 20260103 修正

(誤)そしてこれもまた『エーテノール内蔵なので、

(正)そしてこれもまた『エーテノール』内蔵なので、

(誤)『最強』で1000回、最弱なら一億回くらい使える、と仁は説明し、じんを絶句させた。

(正)『最強』で1000回、『最弱』なら一億回くらい使える、と仁は説明し、じんを絶句させた。

(誤)じんも、『|魔導回復機《マギリハビリマシン』で身につけた戦闘技術を

(正)じんも、『魔導回復機(マギリハビリマシン)』で身につけた戦闘技術を

(誤)突然出現した異形いぎょうの物が、無差別に破壊を初めたからだ。

(正)突然出現した異形いぎょうの物が、無差別に破壊を始めたからだ。

(誤)一刻も早く魔物を一層しないと、この世界が危なそうだ、と2人は思った。

(正)一刻も早く魔物を一掃しないと、この世界が危なそうだ、と2人は思った。

(誤)それからも、勇者迅じんと聖女薫子の旅は続いた。

(正)それからも、勇者(じん)と聖女薫子の旅は続いた。


《更に蛇足》を追加。突然出現した異形いぎょうの物が、無差別に破壊を初めたからだ。

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― 新着の感想 ―
年一回の更新お疲れ様です! 今回はこの魔境(?)で装備品集めですかw まあ、当然の結果でしたね!w 例によって仁はまた0.0002%モードで製作したんでしょうけど……w 迅『マジですかw』 薫…
ラスボスや 物理で消し去る 自重無し
やっぱりオーバーキルになったか……(苦笑)、仁が関わったのだから当然ですね。 そして出番の無かった魔王様ご愁傷です、今回は相手が悪すぎましたよ。 元の世界に戻ってお二人さん、今後の人生はお幸せに〜…
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