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03

 1月6日午後、リースヒェン王女が言ったとおり、午後12時半に迎えの馬車が到着した。


「ジン殿、迎えに来た」


 女性近衛騎士グロリアが案内してくれるようだ。

 町外れに似合わない、そこそこ豪華な馬車。

 仁、礼子、ハンナ、アンの順に乗り込む。


「荷物はそれで全部か?」

「ええ」

「では行こう」


 グロリアが御者を務めてくれていた。

 そのおかげか、馬車はスムーズに王城に到着。

 城門でも誰何すいかされることなく通過できた。


「この部屋を使ってくれ」


 通されたのは寝室2つ、居間、そして洗面所+お手洗い、と4つの部屋が連なる客室だった。

 さすがにバスルームは別のようだ。

 礼子とアンがいるので、専任の侍女は付かず、用があるときだけ紐を引くことで呼び出せるシステムになっている。


「ふかふか……だけどおにーちゃんのおふとんのほうがやわらかいな」


 とハンナが寝室のベッドを評した。

 それはそうであろう。仁が用意した布団は、一般的にみたら超レア素材の『魔絹(マギシルク)』と『魔綿(まわた)』を使ったものなのだから。

 軽さ、柔らかさ、保温性その他、最高級の羽根布団でも太刀打ちできないのだ。


*   *   *


 仁たちが落ち着いた頃、リースヒェン王女が乳母自動人形(オートマタ)のティアを連れてやって来た。


「お邪魔するぞ」

「あ、おうじょさま、いらっしゃい!」

「おおハンナ、可愛い服を着ておるのう」

「うん! おにーちゃんがつくってくれたの!」

「そ、そうか。ジンがのう……」


 仁が服まで作れると知って、少し驚いたようだ。


「ま、まあよい。……明日の打ち合わせをしておきたいのじゃ」

「いいですよ」


 居間のテーブルセットに腰を下ろし、リースヒェン王女の話を聞く仁。

 すかさずアンが部屋に備え付けのティーセットを使い、お茶を出す。

 仁もリースヒェンも猫舌なので、飲み頃に冷ましてある。


「うん、美味い。飲み頃じゃ」


 そして一息つき、リースヒェンは話し始めた。


「父上にはもう話は通してある。ジンは(わらわ)の付き人として出席してほしい」


 そうすれば、うるさい礼儀作法はそれほど要求されないだろうということだ。


「それでじゃな。……もうフランツ王国の使者たちは到着しておる。父王への謁見は明日の午前9時じゃ」

「はい」

「それは重臣たちだけが出席するし、連れてきたゴーレムも持ち込めぬ」


 謁見の間には近衛騎士くらいしか武器を持ち込めないほどであるから、他国のゴーレムも足を踏み入れることは認められないとのことである。


「その後、大広間に移動して懇談会となる」


 これには場内の過半数の貴族・官僚が出席するとのことで、仁たちもこれには出てもらいたいというわけだ。

 立ち位置はリースヒェン王女の後ろ、ということになる。結構な上座だ。


「おそらく連中はティアの話題を持ち出すじゃろう。なにしろティアは『古代遺物(アーティファクト)』じゃからな」

「なるほど」

「そこでジンが直したという話をすれば、そなたにも質問がなされると思う。それに答えてやってほしい」

「わかりました」


 工学魔法に関する質問なら、ほぼ問題なく答えられるだろう。

 問題があるとすれば、相手が仁の説明を理解できるかどうかである。

 まあそれは相手の問題なので気にする必要はない。


「あとは、向こうが持ち込んだ新型ゴーレムとやらを自慢するであろうが、それは聞き流してくれ」

「はあ」

「それに……」


 予想できる範囲での対処法を説明していく王女。

 仁もそれを聞き、その場合どうするかを考えていくのだった。


*   *   *


 1月7日午前9時、予定どおりにフランツ王国の年賀の使者はクライン王国国王アロイス3世に謁見を行い、新年の祝辞を述べた。

 そして大広間に移動、懇談会となる。

 だが実際には懇談会とは名ばかり、フランツ王国の技術自慢になる……はずであった。


 正使はキョウ・ダ・モヒノ。

 それに副使としてレツ・ダ・カーヒンとコーダ・ダ・メイツの2名、そして護衛騎士が3名。

 それがフランツ王国の年賀使者であった。


 クライン王国側も出席者の紹介が行われていく。

 そして仁の番となる。


「……『魔法創造士(マギクリエイター)」ジン・ニドー。第3王女付きの技術士である」

「……ほう」


 仁が紹介された時、キョウ・ダ・モヒノの目つきが鋭くなった。


 その後も列席者の紹介が行われ、その後に乾杯が行われた。


「ふむ、なかなかの味ですな」


 正使キョウ・ダ・モヒノが尊大な態度で言う。

 彼は身分こそ伯爵であるが、2代前に王家の血が入っており、そのためにフランツ王国国内でも発言力が大きいのだった。


「正使閣下、こちらの果実水もお試しください」

「む……青髪の自動人形(オートマタ)、か。果実水だと?ふん、いただこう」


 そこへ近づき、ボトルを差し出したのはティアである。


「む……な、なんだ、これは! 美味い! ……あっ」

「お気に召しましたようで、ようございました。ささ、副使のお方も」

「お、おう」

「う……美味い」

「……美味いな」

「クライン王国にもこのような果実水があるとは」


 ボトルの中身は蓬莱島のペルシカジュースである。

 自由魔力素(エーテル)をたっぷりと含み、ビタミン・ミネラル類も豊富。

 100人中99人は美味いというであろう。


 リースヒェン王女も時々仁の工房でごちそうになっていたので、今回少しだけ用意してもらってあったのだ。


「……なかなかのものですな、王女殿下」


 ティアが彼女のものだと知っているがゆえに、正使キョウはリースヒェン王女に話し掛けた。


「そうじゃろう。秘蔵の果実水じゃ」

「なるほどなるほど、ティア同様、よいものを所蔵なさっておられるようだ」


 そして正使キョウはこの場の全員に向けて言い放つ。


「……では、この辺で、我らの技術もご覧になっていただきましょう。……Vー11号、来い」

「ハイ」


 Vー11号は中性的な体型の自動人形(オートマタ)であった。


「おお……」

「これは……」


 どよめきが起こった。

 この時代、人間に似せた自動人形(オートマタ)を製作できるというのは、世界トップレベルの技術を有しているということと同義なのだ。

 とはいえ、仁の目から見たら児戯に等しいのだが。

 それでつい、


「なんか、しょぼいな」


 と呟いてしまったのである。


「あ」


 と失態を悟ったがもう遅い。


「……王女殿下、殿下の部下は少々礼儀がなっていないようですな」


 と正使キョウが厭味いやみったらしく言う。

 が、リースヒェン王女も負けてはいない。


「いや、少々正直が過ぎるだけで、礼儀は並みじゃと思う」


 そう言われたキョウ・ダ・モヒノは顔を紅潮させ、食って掛かる。


「何ですと!? つまりは王女殿下も同じことを思っているというわけですな!?」


 ここで謝れば、キョウ・ダ・モヒノはさらに尊大な態度を取るであろうことは、リースヒェン王女には火を見るより明らかだった。

 なので答えは1つ。


「まあ、そうじゃな」

「な……!」


 正使キョウはさらに顔を紅潮させた。


「大言壮語もいいですが、それなりの形を見せていただ……」

「アン」

「はい、ごしゅじんさま」

「このアンは古代遺物(アーティファクト)ではない。ジンの作じゃ」

「…………は?」


 文句の途中で遮られ、さらに理解不能の言葉を聞かされたキョウ・ダ・モヒノはポカンとした顔になった。


「よく出来ているじゃろう? ティアは古代遺物(アーティファクト)じゃが、このアンはジンの作じゃ。(わらわ)が保証する」

「う、あ……」


 絶句するキョウ。そこに副使で技術者のコーダ・ダ・メイツが口を出す。


「見掛け倒しではなければいいのですがね」

「む、そ、そうだ。外見は確かによく出来ておりますが、性能はいかがなものでしょうなあ?」

「悪くはないとおもうぞ。……じゃが、ここはそうした場ではない。交流の場であろう? 大人げないと思わぬか?」

「ぐ、む……」


 なかなかリースヒェン王女もあおるな、と、すぐ横で仁は思っていた。


「……はは、聡明な王女殿下のお言葉に従いましょう。本日は互いの交流を深める日ですから」


 もう1人の副使であるレツ・ダ・カーヒンがそう言い、キョウとコーダをなだめた。


 それでその場は収まった、と思ったのだが……。


「技術交流も2国間では重要であると思います。ですので、我が国のゴーレム技術を実際にお見せできる機会を作っていただけると嬉しいですな」


 という正使キョウの言葉を受け、同日午後3時に、王城の練兵場で技術披露会を行うことに決まったのであった。


*   *   *


 この後、リースヒェン王女が父王に少し叱られたのは余談である。


*   *   *


 1月7日午後3時、クライン王国王城の北にある練兵場。

 集まった人々の注目を集めているのはフランツ王国のゴーレム3体。

 身長2.5メートルの大型ゴーレムである。

 大型の盾を持ち、剣……の代わりに棒を持っている。

 さすがに、他国への訪問時に剣は持たせなかったようだ。


「それでは、こちらのゴーレムの性能をお見せしましょう」


 正使キョウはそう告げると、技術担当の副使コーダに合図を出す。

 コーダはゴーレムに指示を出した。


「Vー21、まず練兵場を走ってみせろ」


 3体のうち1体が走り出した。

 ズシンズシンと地響きを立て、およそ時速10キロほどで走っていくVー21。


「……どうですかな?」


 だが、フランツ王国側の意に反し、誰も驚いた顔をしていない。


 以前見た、仁のゴーレム『ゴン』の方がもっと速かったからだ。

 だがフランツ王国の3人は、そんなこととは知らず、なぜクライン王国の者たちが平然としているのかわからないのでいらついた。


「ううぬ、ならば……Vー22、Vー23、模擬戦をやってみせろ!」


 その指示に従い、2体は棒と盾を使い、戦い始めた。

 が。

 やはりそれは以前同じ場所で見た『ゴン』の戦いに比べ、見劣っていたので、クライン王国側は皆鼻白(はなじろ)んだような顔をしていたのである。


「な、なぜ驚かないのだ!?」


 叫ぶキョウ・ダ・モヒノ。

 だが、クライン王国の面々は、『そんなこと言われてもなあ……』と内心で思っていたのである。

 そんなこととは知らないフランツ王国の面々はヒートアップ。


「う……うぬぬ……! よろしい、バカにするなら、そちらのゴーレムを見せてもらおうではないか!」


(……ジン……どうしよう?)

(姫様の予想と違いましたね)

(うむ。……まさかあれほどの愚か者が使者として来るとは思わなかったのじゃ)


 リースヒェン王女としては、『そちらのゴーレムの実力もお見せください』くらいのやり取りを想像していたのである。

 まさか、年賀の使者がこれほどまで愚かだとは想像できなかったのだ。


(礼子にやらせましょうか)

(その方がよいじゃろうな……。アンだと、『古代遺物(アーティファクト)を使ったに違いない!』とかなんとか、いちゃもんを付けられそうじゃし)

(そうですね……)


 そんなやり取りのあと、小さくため息をついた仁は、礼子に指示を出した。


「礼子、軽く相手してやれ」

「はい、お父さま」


 礼子としても、仁を侮るような態度を取った使者たちにいきどおりを感じていたのである。


「……は?」

「何だ?」


 進み出た礼子を見て、フランツ王国の3人の目が見開かれた。


「礼子は俺が作った自動人形(オートマタ)でしてね」

「な、なんだと!?」

「信じられん……こんな弱小国の技術者風情が……」

「失礼だな、あんたら」

「何!?」

「おれもちょっと失言したけど、あんたらの態度は一国の使者のものではないぞ?」

「う、うるさい!」

「生意気な!」

「捻り潰してやる!」

「おい」


 さすがに暴言が過ぎるし、連れてきたゴーレムを暴れさせたら国際問題である。

 それくらいは仁も察することができた。

 それで、フランツ王国側が問題を起こす前に無力化してしまおうと仁は考えたのである。


「礼子! 無力化しろ」

「はい!」


 仁の指示により、礼子は地を蹴った。

 弾丸のように飛び掛かり、体当たりを喰らわせる。

 Vー22と呼ばれたゴーレムは5メートルほど吹き飛んだ。

 胸部は大きく凹み、地面を転がった後、動かなくなる。


「うわあ!」

「何だと!!」


 体重が軽いため、礼子も10メートルほど後退したが、難なく着地。

 もう一度地を蹴り、Vー21号に肉薄。

 今度は体当たりではなく、ローキック。


「な、何と!」


 礼子のローキック一発で、Vー21号の左脚が吹き飛んだ。

 バランスを崩したVー21号の左腕を取った礼子は、そのまま振り回す。

 4回転ほど振り回した後はぽいと投げ捨てれば、Vー21号は30メートルほど宙を飛び、練兵場の地面にめり込んだ。

 そしてそのまま沈黙。


 残るはVー23号1体。

 迫りくる礼子に対し、巨大な盾によるシールドバッシュを仕掛けたが、礼子はそれを正面から受け止めた。


「おおお!」

「こ、こんな馬鹿な……!」


 大人と子供ほどの体格差があるというのに、礼子は一歩も引かなかった。

 そして盾を受け止めた両手に力を込めれば、さしもの盾も、紙くずのようにひしゃげ、くしゃくしゃになる。

 防御の役を果たさなくなった盾を、礼子はもぎ取って投げ捨てた。

 一方、Vー23号は手にした棒で礼子を殴りつける。

 が、礼子はその棒を左手だけで受け止めてみせた。


「こ、これは……」

「悪い夢を見ているのか……?」


 礼子は受け止めた棒を力ずくで奪い取る。

 そしてその棒でVー23号を思い切り殴りつけたのであった。


 があん、というもの凄い音がして、Vー23号の頭がひしゃげた。

 同時に、礼子の持つ棒もひん曲がって使い物にならなくなる。

 礼子は左手の棒を投げ捨てると、右拳でVー23号を殴りつけた。


 斜め下からの拳打だったので、礼子自身は地面に少しめり込んだだけで済む。

 対してVー23号は斜め上に打ち上げられた。その高さ、およそ20メートル。

 空中分解しなかっただけ、作りは丈夫だったといえよう。


 だが、数秒間の滞空の後、地面に叩きつけられたVー23号は耐えきれずにバラバラになってしまったのである。


「……で?」


 3体の大型ゴーレムを手玉に取った礼子が振り向き、フランツ王国の3人をにらみつけた。


「ひい!」

「ば、化け物!」

「……失礼ですね」


 礼子は3人の方へと足を踏み出す。


「く、来るなぁ! ……『(サンダー)』!」


 正使キョウ・ダ・モヒノは錯乱し、攻撃魔法を放った。

 雷属性の攻撃魔法『(サンダー)』。弱い電撃を相手に浴びせる魔法だ。

 もちろん、礼子には通用しない。


「ひ、ひいい!」

「く、来るなあ! ……『雷の洗(サンダーレ)』……」


 錯乱した副使レツ・ダ・カーヒンが無差別攻撃……範囲攻撃魔法を放とうとしたが、先んじて礼子の攻撃魔法が放たれた。


「『麻痺(スタン)』」

「ぎゃっ!」

「がっ!」

「ぐあっ!」


 弱い電撃で麻痺、気絶させる魔法だ。


 さらに。


「うぐぐぐ……こいつらぁ!」

「な、なんだ、こいつ!?」

「正気か?」


 離れて立っていたフランツ王国の護衛騎士3名も錯乱して暴れだしていた。


「『麻痺(スタン)』」

「ぎゃっ!」

「がっ!」

「ぐあっ!」


 礼子は追加の『麻痺(スタン)』でその3名も無力化する。

 気絶した6名は近衛騎士達によって縛り上げられた。


「終わりました、お父さま」

「ご苦労さん、礼子。最後のは危なかったな」

「はい。まさか無差別攻撃を仕掛けてこようとは思いませんでした」

「まったくじゃ」


 リースヒェン王女も頷いた。


「……しかし、いくら愚かとは言っても、こやつらは少々常軌を逸しておる」

「ですね」

「……お父さま、あの自動人形(オートマタ)も捕らえます」


 礼子はそう言うと、『Vー11号』と呼ばれていた自動人形(オートマタ)が逃げ出そうとしたところを捕まえ、両手足を砕いて無力化した。 


「よく気が付いてくれた」

「……しかし、異常過ぎるのう」


 リースヒェン王女が首を傾げた。


「これでは年賀の使者とは程遠い。まるで戦争を仕掛けに来たかのようじゃ」

「確かにそうですな」


 練兵場で様子を見ていた宰相パウエル・ダーナー・ハドソンがいつの間にか近づいてきており、リースヒェン王女の意見に賛成した。


「陛下も案じておられました。宣戦布告をするにしてはあまりにも手際が悪い。これはどう考えればいいのか……」


 と、その時、気絶していた正使キョウが気が付いた。


「うう……ここは……私は一体……?」

「あなた方はクライン王国に戦争を仕掛ける気ですか?」


 礼子が詰問する。


「う、お、お前は……い、いや、そんな気はない!」

「では、なぜあんな真似を?」

「わ、私の意志ではない! ……いや、確かに私のしたことだが、そう、夢の中の出来事のような……」

「……そ、そうだ! あんなことをするつもりはなかった!」


 目を覚ました副使レツもまた、言い訳をする。


 とりあえず練兵場ではなく、城内へ連れて行くことになった。

 そこで尋問が行われることになる。


「……俺は……そうだ、あの自動人形(オートマタ)を調べてみるか」

「うん? ジン、何をするつもりなのじゃ?」


 近衛騎士たちに連行される6人を見送ったリースヒェンが、仁の呟きに反応した。


自動人形(オートマタ)の頭脳……制御核(コントロールコア)を調べてみるんですよ。何か、奴らの異常行動のわけがわかるかもしれないから」

「おお、それはよい。(わらわ)も見ていてよいか?」

「ええ。その方がいいかもしれません」


 結果を捏造ねつぞうしたのではないかと疑われたくないので、リースヒェン王女の提案は都合がよかった。


「では、私も付き合おう」

「いいですよ」


 女性近衛騎士、グロリア・ファールハイトも名乗りを上げ、仁は快諾した。


*   *   *


 結論を言えば、大当たりだった。


 どうやら、フランツ王国からクライン王国に来る途中、一行は何者かに襲われたらしい。

 自動人形(オートマタ)Vー11号の制御核(コントロールコア)に記録されていたのである。


 そして、『麻痺(スタン)』から覚めた6人の証言でも、フランツ王国からクライン王国に来る途中、何者かに襲われて以降、頭の中に霧がかかったようになっていた、と共通したことを言っていた。


 それらをまとめると、どうやら年賀の使者たちは謎の存在に襲われ、クライン・フランツ2国間の仲違なかたがいをさせる道具として使われたらしい。


 正気に戻った使者たちは平身低頭、謝罪したという。


*   *   *


「ジンのおかげじゃ」


 フランツ王国の使者たちが帰国した後、仁の工房を訪れたリースヒェン王女が礼を述べた。


「おうじょさま、どうぞ」

「うむ、ハンナ、ありがとう」


 末っ子のリースヒェン王女は、すっかりハンナを気に入り、妹のように可愛がっていた。

 そんなハンナが持ってきてくれたお茶を一口飲み、リースヒェンは続けた。


「我が国の人的被害が皆無であったから、今回の事件は不問となった。さもなければ両国間の仲は今よりもっと険悪になったじゃろうからな」


 仁が自動人形(オートマタ)制御核(コントロールコア)を解析し、6人の証言を裏付けたのもよかった。

 彼らが襲われ、催眠もしくは洗脳のような魔法を掛けられていたことは間違いないということになったからだ。

 そのため、無礼な行動や敵対行動は不問に処すということになったのである。


「で、襲った奴らについての情報は?」

「なかった。よほど巧妙に行ったのじゃな」

「ですねえ」


 自動人形(オートマタ)の記憶領域にさえ情報がなかったのである。


「じゃが、ジンは両国を救ってくれた。それは確かじゃ」

「俺は別に……。カイナ村のあるこの国が戦争をするのは嫌だったからですよ」

「それでもじゃ。結果的に国に貢献してくれたのじゃからな。のちほど報奨の話もあろう」

「面倒なのはいいですよ」


 仁がそう言うとリースヒェン王女は苦笑を浮かべた。


「本当に、お主は欲がないのう」

「今の士爵待遇で十分ですよ。出世なんかしたら、ハンナたちと会いにくくなってしまうし」


 仁はそう言ってハンナを膝の上に乗せた。


「お主というやつは……。まあいい。また何かあったら、頼りにさせてもらうからの」

「わかってますよ。あ、明日から数日、留守になります」

「うん? どこかへ行くのか?」

「ええ。ハンナをカイナ村へ送っていきます」

「そうか。なるべく早く帰って来るのじゃぞ?」

「……努力します」


 そう答えながら仁は、『飛行機を作って一般化すれば、カイナ村と王都の行き来が楽になるかな?』などと考えているのであった。


 謎の存在、という懸念事項はあるが、どんな相手が来てもカイナ村は守る、と心に決めている仁である。


 王都の空は青く澄んでいた。




 なんとなくまだ続きそうな終わり方になりました。


 本編の更新は1月5日(水)12:00となります。


 本年もよろしくお願い致します。


 20220104 修正

(誤)「うん! おにーちゃんがつくっれくれたの!」

(正)「うん! おにーちゃんがつくってくれたの!」

(誤)これには場内の過半数の貴族・官僚が出席するとのことで、仁たちもこれには出てもらいといういうわけだ。

(正)これには場内の過半数の貴族・官僚が出席するとのことで、仁たちもこれには出てもらいたいというわけだ。

(誤)「はい、お父さま

(正)「はい、お父さま」


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― 新着の感想 ―
[一言] >「なんか、しょぼいな」 >「いや、少々正直が過ぎるだけで、礼儀は並みじゃと思う」 >クライン王国の面々は、『そんなこと言われてもなあ……』と内心で思っていたのである。 やらかしたと思ったら…
[良い点] 03 更新ありがとうございます。 [気になる点] 何故異世界スローライフを送ろうとする主人公に、陰謀やら、厄介事がふりかかってくるのか?! [一言] そうしないと話が続かなくなるからさ、…
[良い点] >「なんか、しょぼいな」 ここで来た! しかも、タイミング的には本編とほぼ一緒という。 ビ「でもねジン、結果論で言えば、上手い具合に話が転がったから良い物だけど、あれ、あたし相手なら   …
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