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06

「お世話になりました」

「また来ておくれよ」


 翌日、『サン・クロ村』をった仁一行は、礼子の『飛行外装ワルキューレ』を隠しておいた山中へと馬車を進めた。

 なお、『飛行外装』に『ワルキューレ』と名付けたのは智美である。


「さて、馬車とゴーレム馬をどうするか」


 さすがにヨルナワイク魔王国まで連れていくというわけにはいかない。

 だが、仁は1つの魔法技術を思い出した。


「連れて行くことはできなくても、取りに来ることはできるぞ」

「え? どういうことですか、おじさま?」

「転移魔法陣だ」

「なるほど、ヨルナワイク魔王国の適当な場所に対になる転移魔法陣を描けば、ここへ馬車を取りに戻って来れますね」

「そういうこと」


 わかっていない智美のために、仁は説明してやった。


「はあ……転移……ですか。それって、物質転送なんでしょうか?」

「いや、亜空間トンネルだと思う」


 だから物体を分解して再構成はしていない、と仁は言った。


「それなら安心ですね。ハエと混ざったりしないでしょうし」

「……そういうことだな」


 智美が何を心配していたのか、なんとなくわかってしまった仁は、その話題を切り上げ、付近の岩盤を『平坦化(プレーナ)』で平らにし転移魔法陣を刻んだ。


「これでよし。これで向こうで同じ魔法陣を描けばいつでもここに来られるようになる」

「便利ですね」


 これまでは、戻ってきたい場所がなかったこと、再訪したい場所のそばには魔法陣を刻んでおけそうな場所がなかったことなどから使わずにいたわけである。


(ごたごたしていて忘れていたとは言わないほうがいいだろうなあ)


 まあ、そういうわけである。

 そして仁は、さらに念を入れ、地面に『掘削(ディグ)』で穴を掘り、そこに馬車と馬を隠した。

 穴の上には木の枝を並べて草を敷き、土を載せて偽装したので、まず見つかることはないだろうと思われた。

 ちなみにゴーレム馬の制御核(コントロールコア)は取り外してある。


「これで、心置きなくヨルナワイク魔王国へ行けるな」

「どういうところなんでしょうね」

「『覗き見望遠鏡(ピーパー)』で見た限りでは、平和そうなところでしたよ」

「ああ、見てくれていたんだよな」

「……そう、ですよね。魔王が治める国だからって、危険なわけではないことは、いろいろな物語ラノベで言われていますものね」

「……まあそれでいいや」


 そしていよいよ、ヨルナワイク魔王国へ向けての飛行だ。


「礼子、『飛行外装ワルキューレ』を着けてくれ」

「はい、お父さま」


 『飛行外装ワルキューレ』は工学魔法を併用した折り畳み式である。

 折り畳んだときの大きさは一人用の冷蔵庫くらい。

 それを、今の礼子だと2秒ほどで身に纏うことができる。


*   *   *


 『飛行外装ワルキューレ』を身に纏った礼子の背に乗った仁と智美。


「では、行きます」


 一声声を掛けた礼子はふわりと宙に浮き、一気に飛び出した。

 『力場発生器フォースジェネレーター』での飛行なので背中に乗る仁たちに加速Gは掛からない。


「ふわあああああああああああああ」


 悲鳴だか歓声だかわからない声を上げる智美。

 前回のテスト飛行時は夕暮れであったが、今は朝。空は青空、地上もよく見える。


「おお、よく見えるな」


 地上の様子がよく見えるので、地形や街道の様子、村や町もよくわかる。

 礼子は高度をぐんぐん上げていく。およそ2000メートルを保って、礼子は山々を越えていった。


 最も高い山は4000メートルくらいだが、稜線のたわんだ部分を縫うようにして飛んでいくので、高度2000メートルで十分なのだ。

 むしろ地形を確認しながらなのでこのくらいの高度が都合がいい。


「……智美、少しは慣れたか?」

「……はい……」


 最も高い山の脇を抜ける頃には、智美も少しは慣れたようで、声を上げないようになってはいた。


*   *   *


「そろそろヨルナワイク魔王国です」


 明確な国境線があるわけではなく、なんとなく山脈の最も高い稜線が境界となっているのだ。

 つまり越えてきた山々は中間地帯というわけである。


「……おじさま、あれは?」


 智美が指差す方向には、小さな点が浮かんでいた。

 そしてそれはすぐに近づいてきて、『翼竜部隊』であることがわかった。


「いよいよ来たな」


 友好的な話し合いができるかどうか。


「礼子、一時停止だ。ただし、『物理障壁(ソリッドバリア)』は張っておいてくれ。あ、音声は通せるようにな」

「はい、お父さま」


 空中に停止した仁たち。その周りを『翼竜部隊』が取り囲んだ。

 総勢10匹の『翼竜』の背に、軽鎧を着けた人間……おそらく魔族……が乗っている。

 魔族と判断した理由は、側頭部に生えた一対の角である。

 正確には、角はフルフェイスのかぶとに生えているのだが。


「あの角……中身もあるのかな?」


 かぶとの飾りかもしれない、と仁は思ったのだが。


「あるんでしょうね……空を飛ぶんですから余計な装飾は付けないでしょう」

「だよなあ」


 智美が言うように、身体を覆う鎧は軽量化を追求したようなデザインをしていた。


「友好的だといいんだが……」


 だが、仁の願いも空しく、彼らは問答無用で攻撃してきたのである。


「人間、滅すべし!」

「おわっ」

「きゃあ!」


 携帯用のボウガンから放たれたショートアロー。

 だがそれらは全て礼子が張った『物理障壁(ソリッドバリア)』にはばまれた。


「なんだと!? ならば魔法攻撃だ!」


 今度は『火の玉(ファイアーボール)』と思われる魔法が10発飛んできたが、炎は物理現象、『物理障壁(ソリッドバリア)』によって全て防ぐことができた。


「お父さま、反撃しますか?」


 礼子の問いに仁は、


「いや、今は逃げよう」


 と答える。

 ここで撃退したら、完全に関係がこじれてしまうだろうからだ。


「上昇だ」

「はい!」


 振り切るために回避機動を行ったのでは、乗っている仁たちが目を回しそうなので、ここは『翼竜部隊』が付いてこられない高度まで上昇することにした。

 60度くらいの角度で急上昇する礼子。


「追え!!」


 指揮官の号令一下、10匹の『翼竜部隊』は追撃に移った。

 さらに礼子は上昇角度を上げ、ほぼ90度で上昇していく。


「くっ! 奴らにできて我らにできないはずはない! 追え! 追うんだ!!」


 10匹の『翼竜部隊』もまた、垂直上昇に移る。速度は時速100キロほど。


 ぐんぐん上昇していく一団。

 水平飛行と違い、垂直上昇じゃ純粋なパワー勝負となる。

 『力場発生器フォースジェネレーター』で飛行している礼子と、何らかの魔法効果で飛んでいる翼竜。

 礼子は10パーセントほどの出力、翼竜はほぼ全力。


 高度3000メートルを超え、4000メートルを過ぎ、5000メートルに近づいていく。


「隊長、申し訳ありません……」


 老齢の翼竜に乗った隊員が脱落。

 また、


「頑張れ! 頑張れ!」

「踏ん張りどころだ!!」

「ああ……だめか……」


 乗騎を叱咤激励するも、遅れていくものたちもいた。


 高度6000メートル。

 気圧は地上の半分、酸素濃度も半分。

 体勢を崩し、ふらふらと脱落していくものも出る。


「くっ!」

「奴らはいったい何者だ!?」

「まったく速度が落ちないぞ?」

「くそっ! 言うことを聞け!!」


 頑張って付いてきたものの、翼竜が言うことを聞かなくなり離脱するもの。


 高度7000メートル。


「さ……寒い……」


 外気温は氷点下30度を下回り、鎧の外側には真っ白な霜が付く。


「頑張れ! 敵も苦しいはずだ!!」


 だが。


「隊長……申し訳ございません……」


 また1人脱落した。

 今や、残っているのは指揮官とその騎竜のみ。


 高度8000メートル。

 気圧も酸素も地上の3分の1以下となる。

 酸素濃度の低下は判断力を鈍らせ、低温は身体能力を奪う。


「無……念…………」


 最後まで喰らい付いていた指揮官であったが、高度9000メートル近く……地球でいうとヒマラヤ、エベレストの山頂……ほどで力尽きたのであった。


*   *   *


 一方、逃げる仁たちは、


「おお、意外と粘るなあ……」

「おじさま、あの人たち、寒そうですね」

「まだ出力は10パーセント出していないのですが」


 と、余裕を持って背後の様子をうかがっていた。


「あらら、真っ白になってきましたよ、おじさま」

「霜だな」


 仁たちは『物理障壁(ソリッドバリア)』があるので、物理現象である温度低下や気圧低下は感じていない。

 酸素の消費は、仁が工学魔法で二酸化炭素を適宜酸素と炭素に分解している。

 このあたりは宇宙船でのノウハウが役に立っていた。


「あ、また1人脱落しましたね」

「まあ墜落はしないだろ」


 1人、また1人と追尾者が減っていくのを見ている仁たち。


「隊長さんだけみたいですね」

「頑張るな……かなり無理しているんじゃないか?」

「お父さま、どこまで上昇しますか?」

「まあ、あいつが付いてこられなくなるまでだな。さすがに成層圏までは上昇できないだろう」


 そんな会話をしているうちに。


「あ」

「落ちたな」

「落ちましたね」


 隊長騎と思われる翼竜がぐらりと傾いたかと思うと、そのままひっくり返り、墜落を始めたのである。


「振り落とされましたね、おじさま」

「気絶してるみたいだな」


 翼竜も騎士も霜で真っ白になりながら墜落していく。


「……おじさま、あの騎士を助けてあげましょう」

「……そうだな」


 他の翼竜部隊と異なり、最後まで無理に付いてきたため、1人と1匹は完全に気を失っており、このまま放っておいたら地上まで落下してしまうだろうと思われた。

 魔族の身体能力は知らないが、高度8000メートル超から落下して無事ということはあるまい、と仁も想像することができる。


「礼子、反転だ。『力の長杖(フォースロッド)』を使おう」

「わかりました」


 高度9000メートルに届くほどの高度で礼子は反転、急降下に移る。


「ふ、ふわああああああああああああああ!」


 上昇時は空と雲しか見えなかったため智美は平気だったが、下降の時は無重力感とともに地表がものすごい勢いで近づいてくる。智美が悲鳴を上げるのも無理はなかった。


「怖かったら目をつぶっていたらどうだ?」

「そ、それはそれで怖いんですよお!」


 背中で仁と智美がそんなやり取りをしている間も、礼子は急降下を続け、落下する翼竜と騎士に追いついた。

 まずは落下していく騎士を『力の長杖(フォースロッド)』で捕捉。

 礼子はそのまま引き寄せ、自らの腕でしっかりと確保した。

 次いで翼竜を『力の長杖(フォースロッド)』で捕らえ、こちらはそのまま落下速度を緩めていく。


 およそ時速300キロほどで下降を続けた礼子は、地上を目視できるようになると速度を緩めた。

 『翼竜部隊』は影も形もない。


「ちょうどいい空き地があるな、あそこに着陸しよう」

「はい、お父さま」

「ふえええええ……やっと地上ですかあ……」


 小さな野球場ほどの広さの草原を見つけた仁は、そこに着陸するよう指示を出した。

 気を失った翼竜も降ろす。騎士はまだ気を失っている。

 仁と智美は礼子の背中から降りた。


「地上に戻ってきました……」


 智美は少々グロッキー。

 仁と礼子は平気である。


「お父さま、翼竜は『力の長杖(フォースロッド)』で押さえ込んでおきますね」

「そうだな。問題は騎士だ」


 助けたことで敵意がないことを理解してくれれば、交渉ができるかもしれないという期待もある。

 その反面、暴れられたらどうなるかわからない。

 仁だけでなく智美もいるのだから。


「わたくしが押さえ込んでおきます」

「そうだな、そうしてもらうか」


 礼子は翼竜を『力の長杖(フォースロッド)』で押さえ込むと同時に、騎士の腰を背後から抱きかかえた。


「ああ、その状態で診察できるか?」


 未だに気絶から覚めないので、少し心配になってきたのだ。


「はい。『診察(ディアグノーゼ)』……大丈夫そうですね。まもなく目を覚ますと思います」

「そうか」


 その言葉どおり、1分ほどすると騎士は身じろぎをし始めた。

 だが、背後から礼子ががっしりと腰を抱え込んでいるので動くことはできない。


「き……貴様らは! 離せ!」


 気が付いた騎士は暴れるが、礼子のホールドを振りほどくことはできない。

 地団駄を踏み、両腕を振り回し、上半身を揺らすが全く動じない礼子である。

 だが、そのはずみでかぶとが外れた。


「あ……」


 落ちたかぶと、流れ出る真っ赤な長い頭髪。

 騎士は女性であった。

 だが、魔族であるあかしに、側頭部に漆黒の角が生えていた。


「くっ、殺せ!」


 ある意味期待どおりのセリフが飛び出てきた。


「……落ち着いてくれ」


 なだめる仁。


「私をどうするつもりだ!」

「いや、だから」

「人間は残忍で卑劣だと聞いている!」

「だから落ち着いてくれって」

「人間に捕われて恥ずかしめを受けるくらいなら、私は名誉ある死を選ぶ!」

「そんなことしないってば」


 会話が成り立たない。


「おじさま、私が話してみます」

「頼む」


 ここで智美に交代する。


「ええと、くっころさん」

「なんだその呼び方は! 私の名はデイジナだ!!」

「じゃあ、デイジナさん」

「はっ! 狡猾な人間め! 巧妙に私の名を聞き出したな!」

「いえ、あのですね」


 ああ、ちょっとポンコツな女騎士か、と仁も智美も思った瞬間であった。


「ちょっと黙ってください」

「ぐぇ」


 話が通じそうもないので、見かねた礼子が女騎士……デイジナの腰を少し強めに絞めたのである。


「ぐへぁあああああ」

「お父さまと智美さんがせっかく助けてくれたんですから、少しは感謝してください」

「げふぇおぇぁひぁ」

「礼子、もう少し緩めてやれ。デイジナの顔が紫色になってきたぞ」

「……はい」


 礼子が少しだけ手を緩めると、デイジナはひゅーひゅーとか細い息をし、ようやく顔色も元に戻ってきた。


「くっ、殺せ」

「いや、それはもういいから」


 話が通じないので仁は勝手に話を進めることにした。


「俺たちは確かに人間だが、君たちに危害を加えたり敵対するつもりはない。今回はそっちが先に攻撃してきたので回避しただけだ」

「……」

「その証拠に、君を助けたし、君の騎竜も、ほら、そこに」

「何?」


 騎竜と聞いてデイジナは斜め後ろを見た。

 そこには『力の長杖(フォースロッド)』で押さえつけられた翼竜がいた。


「リリー!」


 どうやら翼竜はリリーというらしい。英語で植物のユリを意味する。

 ごつい外見に似合わないなと仁は思ったが、意味が自分の知るものと異なる可能性もあると思い直す。


「暴れられると困るから押さえているが……」

「……わかった。貴様……いや、貴殿たちに害意がないことは信じよう」

「本当ですね?」


 確認したのは仁ではなく礼子。


「あ、ああ、本当だ。どうやら貴殿たちは私に歯の立つ相手ではなさそうだからな」


 両手を上げて、敵意がないことを示すデイジナを見て、仁は礼子に指示を出す。


「礼子、手を離してやれ」


 同時に、こっそりとだが『物理障壁(ソリッドバリア)』を張る。もちろん智美にも。


「では、手を離しますが、敵対行為はなさらないように」

「わかっている」


 そして礼子は手を離す。


「……墜落した私とリリーを助けていただいたこと、感謝する。私はヨルナワイク魔王国第4王女にして翼竜騎士団第2隊隊長、デイジナ・ワイクという」

「ジン・ニドーです。この子は礼子」

「トモミ・ニドーです」


 ようやく話ができるようになった、とほっとした仁である。


*   *   *


 墜落したところを救った『翼竜部隊』の指揮官は第4王女であった。


「……まずはいきなり攻撃したことを謝罪する。だが、つい先日、アガナイト王国が宣戦布告してきたのでな」

「ええ!?」

「あの国が?」


 驚く仁と智美。


「ふむ、知らなかったのか?」

「ええ。……最初にお断りしておきますが、我々は人間ではありますが、そのアガナイト王国には所属していません」


 第4とはいえ王女と聞いた仁は、一応言葉遣いを丁寧なものにしておく。


「うむ、そうだったか。では、どこの国に所属するのだ?」

「ええと……信じてもらえるかわかりませんが、別の世界から召還されたんです」

「何!?」


 仁の告白を聞き、デイジナは驚きを隠さない。


「つまり、貴殿たちは勇者ということか?」

「あ、違います違います。俺は『人形師』で、この子は『修正師』なんです」

「何? あまり聞かない『属性クラス』だな……」

「この礼子は俺が作った自動人形(オートマタ)なので、『人形師』ということですね」

「私は、壊れたものを直すことができますから『修正師』です」

「ふうむ、そういうものか……しかし、その子……レーコと言ったか。素晴らしい出来であるな」

「でしょう? 自慢の娘です」


 礼子はふんすとばかりに胸を反らした。


「異世界というのはそこまで魔法技術が進んでいるのだな……」

「そうなんですか?」

「うむ。少なくとも我が国には、レーコのような精巧な人形は存在しない」

「ははあ……」

「……で、貴殿たちは我が国に何をしに来たのだ?」


 それこそが仁たちがしたかった話である。

 ようやく本題に入れる、と仁は身を引き締めた。


「……正直に言いましょう。俺たちの最終目的は、元の世界に帰ることです」

「ふむ、その気持ちはわかる。……つまり貴殿たちはアガナイト王国に恩を感じてはいないということになるな」

「もちろんです。むしろ恨みに思っています。なにしろ『ハズレ』と言われて追い出されましたから」

「ハズレ? 貴殿たちが? 何の冗談だ?」


 レーコのような精巧で強力な人形……自動人形(オートマタ)を作れる技術者と、壊れたものを元に戻せる能力持ち。

 仮にレーコが故障してもすぐに直せるということは最強の組み合わせではないか、とデイジナは言った。


 ポンコツなところはあるが頭の回転はいいな、とデイジナを見直す仁であった。


「……それで、元の世界に戻る方法を探しに来ました」

「ううむ、おそらくそれは……『願いの宝珠オーブ』が必要になるのだろうな」

「やっぱり」

「む? 『願いの宝珠オーブ』のことは知っているのだな」

「ええ、『隠者』に聞きました」

「『隠者』にか……なるほどな」


 どうやら魔族の中にも『隠者』のことは知られているらしい。


「謎の多い御仁ごじんだ。100年前にもう南の山に住んでいたと言われている」


 人間領からは北の山だが、魔王国から見たら南の山に当たるわけである。


「先日お会いできまして、『願いの宝珠オーブ』のことを聞いたんです」

「なるほど、貴殿たちは『隠者』に信用されたのか……」


 何やら少し考え込むデイジナ。


「……条件がある。それを聞いてくれたら、魔王陛下に取り次いでやろう」

「その条件とは?」

「先日、アガナイト王国から宣戦布告がなされたと言ったな。そして奴らは南の守り、『ハレーズ砦』に迫っている」


 それを撃退する手伝いをしてくれれば、仁たちがアガナイト王国と敵対していることを皆に信じてもらえるだろうとデイジナは言った。


「レーコの力をもってすれば、兵士数十人分以上の働きをしてくれるだろう」

「……うーん……そうですね……」


 ちょっと相談させてください、と仁は断って、智美と礼子と3人で話し合う。

 そして、


(ここで力を示し、恩を売っておけばこの後の交渉がより有利に運べると思うんだが)

(そうですね。でもおじさま、戦いになるんですか? 血が流れるんですか?)


 智美は戦争ということで顔を青ざめさせている。

 仁はそんな智美を安心させるように微笑んだ。


(そこは俺に考えがある。……こういうシーンも初めてじゃないしな。礼子がいれば百人力……いや百万人力だ)

(はい、お任せください)

(……おじさまを信じます)


 そういう話がまとまった。


「わかりました。お手伝いしましょう」

「おお、助かる。では、私と一緒に来てくれ」


 騎竜の『リリー』はもう気が付いており、動こうともがいていたが、礼子が『力の長杖(フォースロッド)』で押さえつけていたので首だけ動かし、主人のデイジナを哀れっぽい目で見つめていた。


「おおリリー、気が付いたか。身体は大丈夫だな? よしよし」


 デイジナはリリーの首を抱き、宥めるようにさすってやると、リリーの様子も落ち着いて来たので、礼子は少しずつ『力の長杖(フォースロッド)』の出力を緩めていった。

 そして5分後、リリーの背に乗ったデイジナに先導され、再び『飛行外装ワルキューレ』を身にまとった礼子の背に乗り仁と智美は魔王国深くへと飛び立ったのである。

 お読みいただきありがとうございます。


 もう少し……もう少し……。


 20210106 修正

(誤)それを撃退する手伝いをしてくれれば、仁たちがアガナイト王国と敵対していることを皆に信じてもらえるだろうとテレジアは言った。

(正)それを撃退する手伝いをしてくれれば、仁たちがアガナイト王国と敵対していることを皆に信じてもらえるだろうとデイジナは言った。


(誤)そしてそのそばに穴を掘り、馬車とゴーレム馬を隠したのである。

(正)(なし)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 帰還方法までDBネタとは(^_^;)
[良い点] そういや、ドラゴンボー……願いのオーブの、願いの数。 修復で数を戻せないかな。 或いは、願いを修復で願いの数を戻せるようにしてほしいという禁断の願い放題。
[一言] みんな大好きくっころさんだヤッター!
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