01
あけましておめでとうございます。
恒例の新年スペシャルをお送りいたします。
元日ですので増量しております。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
『来たれ、選ばれし者よ!』
『来たりて我が世界を救いたまえ!!』
どこか異なる空間にある世界で、『人類』に分類される人々がその意思を結集させ、魔力を糧に、世界間の壁を越えようとしていた。
* * *
蓬莱島の研究所では、工房に籠もっている仁が、礼子に声を掛けていた。
「礼子、『桃花』の具合はどうだ?」
「はい、お父さま。切れ味は変わりませんが」
「いや、切れ味がそうそう落ちるとは思えないけど、汚れとか傷とか……あ、拵えも含めてな?」
「はい、毎日磨いていますので大丈夫です……このとおり」
「ならいいんだ…………うん?」
「なんでしょう?」
仁の周囲の空間に、『魔力素』のおかしな流れが発生し始めたのだ。
「お父さま、こちらへ!」
礼子が仁を引き寄せるが、『魔力素』の流れも移動してきた。
「ただ事じゃないな……」
そこへ老君からも声が掛かった。
『御主人様、空間が歪み始めております。『空間遮断結界』作動します』
だが『空間遮断結界』は展開するのに時間が数秒掛かることと、球状に展開できるようにはなっていないという欠点がある。
今回の『歪み』は、仁の周囲を覆うように生じたため、『空間遮断結界』でも防ぎきれなかったのは致し方のないことである。
「老君、お父さまにはわたくしが付いています。老君は老君で全力を尽くしてくだ……」
仁に抱きついた礼子はそう言い残し……。
……2人の姿は蓬莱島から消えたのであった。
時に大陸暦3901年某月。
『絶対に御主人様を見つけ出します』
蓬莱島の頭脳『老君』は、全能力を傾注し、仁の捜索を開始したのである。
* * *
一方、仁。
「……どこだ、ここは……?」
巨大な、見慣れぬ魔法陣の上に仁は出現していた。礼子も一緒である。
「陛下、4人目を召喚致しました」
「もう1人いるようだが?」
「は、『鑑定』によりますと、『自動人形』となっております」
「ふん、人形か。では人間の方の『属性』を調べよ」
「は、お待ちください」
1段……いや、20段くらい高い場所に、髭を生やした偉そうな中年男がふんぞり返っているのが見えた。
そして、ハンドボールほどの大きさの透明な玉を持った老人が仁に近付いてきた。
「異世界よりのお客人、この水晶玉に触れてもらえませんか? 危険はありません。あなたの属性を見るだけですから」
見知らぬ場所に移動して面食らっていた仁は、その言葉につられ、水晶玉に触れた。
すると水晶玉は一瞬明るく光り、見知らぬ文字を空中に映し出したのである。
「……陛下、『人形師』でございます」
人形師? 礼子を連れているからかな? と仁が思う間もなく、壇上の偉そうな中年男が吐き捨てるように言った。
「今度はハズレか。……適当に扱っておけ」
「はっ、陛下」
一礼した老人は仁に向き直ると、
「お客人、失礼した。いろいろ聞きたいこともおありだろうが、それは後ほどゆるりと。まずは一緒に来てくださらんか」
と、腰の低い感じで告げた。
仁としても状況が全くわからないので、まずは素直に頷いておくことにしたのである。礼子もいるので、そうそう危険なことはないだろうとも思って。
* * *
案内されたのは質素でもなく華美でもない、そこそこな部屋であった。
「こちらをお使いくだされ」
「あ、どうも」
寝室は別にあるようで、この部屋はリビング的な用途のようだ。
調度としては4人用のテーブル、それに椅子が4脚。広さは12畳ほど。窓はない。
「質問などは、この者にお聞きください」
そう言って紹介されたのは若い兵士であった。
「では、私はこれで」
一礼し、老人は去っていった。仁の名前も聞かず、自分も名乗らずに。
「……」
仁は紹介された兵士に向き直った。
「ええと、この状況を説明してくれるんですよね?」
「はい、お客人」
「では、座って話を聞きます」
仁はそう言って椅子の1つに座り、兵士にも椅子を勧めた。
「かたじけない」
兵士は会釈をして椅子に腰掛け、
「私はソマックと申します。ソマック・メージです」
「俺はジンです。この子は自動人形の礼子です」
「ジン殿、とレーコ嬢、ですな」
そして一拍置き、ソマックは説明を始めた。
「この国はアガナイト王国と言います。国王陛下はメーダ・ルワ・ズーク13世とおっしゃいます」
さっきの偉そうな中年かな、と仁は見当をつけた。
「ジン殿をここへ案内してきた人は宰相のギシン・コチャック閣下です」
人物紹介のあとは、いよいよ事情の説明かな、と仁は身構えた。
「この世界には『魔族』がいて、『魔国』があり、『魔王』がおります。そして『魔国』は、我々と敵対しております」
またテンプレな展開が来たな、と思わなくもない仁である。が、とりあえず黙って耳を傾ける。
「魔国の驚異から人類を守るため、異世界から戦士をお呼びしているのが今の状況です。古から伝わる魔法陣で、1回に1人、召喚できるのです。そして意思疎通のための言語知識も付与してくれるといいます」
「なるほど。だからこうして話ができるわけですね」
「左様でございます」
「1回に1人、と言いましたが、確か俺は4人目、と言われましたが?」
「はい。これまで、『聖女』『大魔道』『賢者』という『属性』を持つ方々が召喚されました」
「あ、その属性っていうのは?」
「はい。その方の適性といえばいいでしょうか」
いわゆる『職業』か、と仁は理解した。
「……俺は『人形師』と言われましたが」
「あ、はい。……そちらのレーコ嬢をお連れになっているのでおわかりかと思いますが、ゴーレム、ガーゴイル、自動人形などを作り出し、操る属性ですね」
「なるほど」
あの水晶玉が、そうした属性を調べる魔導具なのだな、と仁は考えた。
(それにしては『人形師』か……。『魔法工学師』はともかくとして、『魔法技術者』や『魔法工作士』じゃないんだな)
水晶玉の限界なのか、仁の称号は正しく鑑定されなかった。
これが吉と出るか凶と出るか、それはまだわからない。
* * *
それからは、国の様子についてや、魔法についてなど、色々と聞くことができた。
が、知るべきことが多すぎて、いっぺんには聞ききれないので、ひとまず中断した仁である。
食事は運んできてくれるらしい。
トイレは部屋の奥に備え付けられていた。
そしてソマック・メージは部屋の外にいるので、また何か聞きたいことがあったら声を掛けてくれと言う。
極めつけは、勝手に部屋を出ることはできないということ。つまり軟禁である。
礼子と2人きりになった仁は、『遮音の結界』を礼子に展開してもらってから相談を開始した。
ところで、召喚魔法は会話だけでなく、読み書きも可能にしてくれていた。
礼子には効かなかったので、仁が『知識転写』で教えてある。
「どうやら異世界へ拉致されたようだ」
「そのようです。わたくしの探知機能で探れる限り探ってみましたが、アルスやヘールとは全く違う世界です」
「そうだろうな」
「重力、大気成分はほぼ同じですし、危険な微生物なども今のところみつかっておりません」
「お、そうか」
特に最後の危険な微生物などがいないというのは朗報だ。
治癒魔法で癒せないような病気があるとまずいからである。
「お父さまを、一度は時間と空間を超えてお送りした老君のことですから、遅かれ早かれ、見つけ出してくれるかとも思います」
「そうだな。期待したいな」
だが、こちらでも元の世界に戻る方法を探したほうがいいだろう、と仁は考えた。
「それには、情報収集だな」
だが、一介の兵士であるソマック・メージからは、あまり技術的・魔法的な話は聞き出せそうもない。
「これから先の機会を待つか」
「そうですね」
そして仁と礼子は、持ち物の確認を行う。
「わたくしは『桃花』を持っています」
「うん、ちょうどチェックをしていたところでよかった」
「お父さまはいかがですか?」
「俺の方は、『魔結晶』が3個あるな」
工房に籠もっていたため、魔結晶をポケットに突っ込んでいたのだった。
「この先、何かに使えそうだな」
「はい」
「食べ物と飲み物……はないか。それは運んできてくれるのを待つしかないな」
「そうですね」
「ああ、それから、『自由魔力素』の濃度はどうだ?」
これによっては、礼子の出せるパワーが変わってくるからだ。
「はい。魔法陣で私たちを呼び出したことからもわかりますが、かなり濃いですね」
「そうか」
ほっとする仁。
「ちょうど蓬莱島くらいです」
蓬莱島は『自由魔力素脈』の特異点なので、他の地点よりも濃い傾向にある。
そこと同等であるなら、礼子はそのパワーを存分に振るえるということだ。
「お父さまはわたくしがお守りします」
「うん、頼むぞ。……だが、それとは別に、人前では、人間よりも非力な演技をしておいてくれ」
「なぜですか?」
「単なる勘なんだがな、なんとなくあの王様は信用できなさそうだからさ」
社会人としての経験で、第一印象は意外と当たる、ということを知っている仁なのである。
先入観のない、また予備知識もない状態での直感は馬鹿にできないのだ。
その第一印象が、あの国王は信用ならない、と警鐘を鳴らしていたのであった。
* * *
「宰相、どうであった?」
「は、陛下。素直に部屋に行きました」
「そうか。今日はあと1人、召喚できるな?」
「はい」
「よし、始めろ」
「はっ」
居並ぶ魔導士や神官のような格好をした者たちが杖を構え、宝珠を手にする。
『……アト ダト スクルデ ブライヴ イ ザムメ スタッド……』
魔法陣が輝き出した。術者たちは呪文を紡ぐ。
『来たれ、選ばれし者よ!』
『来たりて我が世界を救いたまえ!!』
輝きは部屋を覆い尽くし……。
魔法陣の上には、1人の黒目黒髪の少女がいた。
* * *
「……退屈だ」
窓もなく、娯楽もない部屋に軟禁状態では、手持ち無沙汰過ぎて退屈してしまう仁である。
だが、その時。
「……自由魔力素流の乱れ?」
「お父さま、空間も歪んだようです。転移魔法に似た波動を、一瞬ですが感じました」
「そうか。……また誰かを召喚したようだな」
そしてそれから5分後、ドアが開いて、宰相のギシン・コチャックが、1人の少女を連れてきた。
宰相はその少女に、この部屋で待機していてくれと言い残し、立ち去った。
仁には一言、『説明してやってくだされ』とだけ告げて。
(慇懃無礼、ってやつだな……)
そして仁は、連れてこられた少女を見た。
黒目黒髪。日本人のような顔立ち。
どことなく懐かしさを覚える仁であった。
「あの……」
おどおどする少女に、仁は声を掛けた。
「落ち着けと言っても難しいだろうけど、まずはそこに座って、深呼吸しよう」
「は、はい……」
(……やっぱり日本人だな……)
仁は今、日本語で話し掛けたのである。それを違和感をおぼえることなく自然に受け入れた少女は、まず間違いなく日本人であろうと思われた。
少女が椅子に腰掛け、3回ほど深呼吸した後、
「俺は仁。この子は礼子。君は?」
と、まず名前を尋ねることにした。
「あ、智美、です。二堂智美」
「えっ!?」
思いもしなかった姓を聞き、思わず声を荒げてしまった仁に、少女……智美は『ひっ』と言って怯えてしまった。
「あ、ごめん……驚かす気はなかったんだ。……俺も二堂っていうんだよ。二堂仁。それが日本での名前だ」
「え……!」
今度は少女が驚く番だった。
「二堂……仁、さん……? それって、お父……父のお兄さんの名前です」
「ええ? ……君のお父さんって、もしかして『義行』ていうのかい?」
「な、なぜそれを……? ま、まさか本当に仁さんなんですか……?」
仁は微笑み、ゆっくりと頷いた。
「あらためて名乗ろう。俺は二堂仁。二堂孤児院の出身で、義行の兄貴分だった」
「ええ……本当に、仁さん、なんですか?」
「うん。俺は仁だ。……で、君……智美ちゃんは、義行の……?」
「はい、実の娘です」
「そうかあ……」
こんな異世界で縁者に会えるなんて……と、仁は智美と名乗った少女をもう一度見つめた。
肩までの黒髪、細い肩。
そして確かに『義行』の面影がある。
弟分が結婚して、こんな大きな子供がいる、と知った仁は感無量だった。
そんな仁をしばらく見ていた智美だったが、
「あ、あの、お、おじさま、って呼んでいいですか?」
と言い出した。
「え?」
「……だって、父の兄……でしたら私にとって伯父、ですよね?」
「あ、うん、そうか……いいよ、好きに呼んでくれ」
「はい、おじさま」
「……なんか、照れるな」
「私も……です」
そんなやり取りをした後、2人は互いの身の上を語り合う。
まず、溶鉱炉に落ちて死んだはずの仁がどうしてここにいるのか、に始まり、智美のこと、義行のこと、孤児院のこと……。
「……そうしますとおじさまは、そちらの礼子ちゃんに『呼ばれ』て、九死に一生を得たんですね」
「そういうことだ」
「信じられないような話ですけど、今こうして私もこんな世界にいるんですし……信じます」
「うん」
「その上、魔法工学、ですか……信じられない思いです」
「そうだろうなあ。俺も、まさか義行の娘さんに会えるなんて思いもしなかったよ。でも、孤児院が取り壊されたりせずに今も続いていてよかった」
「はい。土地も、寄付してくれる方がいて、立ち退きの心配もなくなりました」
「それは朗報だな……で、院長先生はまだお元気かい?」
「ええと、院長先生はもう75歳になられまして、隠居されました。今は父が院長ですが、前の院長先生は『おばあちゃん先生』として、今も子どもたちの面倒を見てくださっています」
「そうか……お元気でよかった。ご病気もされてないんだろう?」
「はい」
「うんうん。……で、智美ちゃんは一人っ子かい?」
「いえ、下に弟が1人います。今、小学校5年生です。あ、私は今年中2になりました」
そんなそれぞれの身の上話の次は、現実に戻ってくる。
「そういえば、俺は『人形師』って言われたけど、智美ちゃんは何て言われたんんだ?」
「私は『修正師』って言われました」
「名称からして、何かを直す能力みたいだな」
「ですね。……私、小さい子どもたちの服とか持ち物とか、直せるものを直していましたから……かも」
「そうかもな。俺も、年少の子たちにおもちゃとか道具とか作ってやっていたからな」
「そうした行為が反映されるのかもしれませんね。……でも、ありふれた『属性』らしいです」
「そうなのか。……どんな能力だって、工夫次第だと思うけどなあ」
「そうですよね。バトル物だと相性とかもありますしね!」
「……え?」
「……あ」
どうやら智美は軽いオタク気質を持っているらしい。あるいは文字どおりの厨二病か。
自分にも覚えがあるので、何もツッコまない仁であった。
「ええと、それで、この世界には魔族がいて魔王がいる……らしい」
「テンプレっぽい世界ですか?」
「……智美ちゃん、結構そういう本、読んでるのか?」
「えと、本じゃなくてネットですね。ネット発で書籍化やコミカライズ、アニメ化される作品もあるんですよ」
「へえ……」
仁のいた時代にもそういう傾向はあった。というかちょうど黎明期くらいだったのかもしれない、と少し懐かしく昔を思い出す仁であった。
「まあとにかく、魔族と戦ってくれ、って言っていたな」
「私には無理ですね」
「俺だってさ。というか智美ちゃんは『修正師』なんだから後方支援だろう」
「……それでも、無理やり駆り出されるのって嫌です」
「そうだろうなあ……」
そんな時、ドアがノックされて、食事が運ばれてきた。
運んできたのは侍女服に身を包んだ中年女性、つまりメイドさんだ。
キャスターの付いたワゴンに載せて運ばれてきたのは夕食のようだった。
そういえば、窓がないので時刻が全然わからないな、と思った仁である。
「わあ……異国……というより異世界の料理ですか……」
メイドさんはテーブルに料理を並べ終わると、無言のまま一礼して部屋から出ていった。
「じゃあ、いただきま……」
「待った」
お腹が空いていたのか、さっそく食べようとする智美を止めた仁は、
「『分析』」
万が一のことを考え、分析を行った。
「うん、毒性はなさそうだ」
毒の混入はないだろうとは思ったが、異世界の食べ物なので念の為である。
「おじさま、凄いですね。そんなこともできるんですか」
智美は尊敬の眼差しを仁に向けた。
「これが俺の受け継いだ力だからね。……智美ちゃんも、『修正師』なんだから、後で能力の確認をしてみたほうがいいな」
これから先、役に立つこともあるだろうと仁は言った。
「はい!」
「まあ、今は食事をしよう」
出てきた献立は、豪華でもなく質素でもなく、無難なもの。
白いパン、小さめのステーキ、野菜と肉のシチュー、魚のムニエルのようなもの、それにフルーツサラダ。
飲み物は温かいミルク。
「智美ちゃんは好き嫌いはないのかい?」
「あ、はい。食物アレルギーもありませんし、なんでも美味しくいただけます」
「それはいいことだな」
そんな話をしながら、食事を終え、2人は食後のお茶を飲んだ。
「……お茶はあまり美味くないな」
「そうですね……野草茶みたいな味です」
そして食事を終えて10分もすると。先程のメイドが食器を下げに来た。
今回も無言で作業をし、一礼して部屋を出ていく。
「……さて、智美ちゃんの能力を確認してみないとな」
「はい!」
といっても、仁にはこの世界での『能力』の発動条件などわからない。
色々試さないとな、と思っていると……。
「……おじさま、なんだかできちゃいました」
「え?」
智美が、テーブルの欠けた縁を触りながら言った。
「気になるな、直したいな、と思って撫でていたら、なんだか」
「へえ?」
確かに、木製のテーブル、それが小さく欠けていたはずの部分が直っていた。
「……だけど、破片がなくても直るのかな?」
工学魔法でも『接合』を使えば、欠けた木材をくっつけることはできる。が、破片がなければ無理だ。
智美の能力は、もしかしたらとんでもないものかもしれない、と仁は思い、おいそれと公開しないほうがいいと考えた。
「もう少し色々やってみよう。……礼子、この椅子の背もたれを少しだけ折ってくれないか?」
「はい、お父さま」
礼子は背もたれの木部を2センチくらい折り取った。
「これなら俺でも直せるけど、智美ちゃん、折れた破片がなくても直せるか、やってみてくれるかい?」
「はい」
そして智美は背もたれの折れた部分に右掌をかざし、ゆっくりと撫でた。
「直れ〜直れ〜」
ぶつぶつ呟いているが、意味があるのかな……? と仁が思っているうちに、椅子の背もたれは元どおりになってしまう。
「あ、直りました」
「直ったな」
破片の方は……と見てみると、影も形もなくなっている。
「あれ?」
くっつけたわけでもないのに破損が直り、破片が消えた。
「うーん……」
「……クレイジーな金剛石でしょうか?」
「あ、それ知ってるんだ」
「はい。院にシリーズが揃ってましたから」
「そっか」
超長編マンガの続きがちょっと気になった仁であるが、今ここで聞くことではないと自重した。
そして。
「あとは怪我を治せるかだけど……」
今のところ怪我をしていないので確認できないな、と仁が言うと、
「あ、古傷ならありますからやってみます」
と智美が言った。
「古傷?」
「はい。……小さい頃、火傷しちゃって」
と言って智美は右の袖をまくって見せた。
二の腕に、卵大の火傷痕が残っている。
「これのせいで、半袖を着るのが苦手で……」
そう言いながら、智美は火傷痕に左手をかざした。
「治れ〜治れ〜」
「……おお」
仁の目に見えるほどの淡い魔力光が灯り、火傷痕がゆっくりと消えていくではないか。
そして1分ほどで、火傷痕は綺麗に消えてしまったのである。
「消えました! おじさま! 火傷あ……と……」
ぐらり、と智美の身体が傾く。
「危ない」
仁が駆け寄る前に、礼子が智美の身体を支え、椅子から落ちるのを防いだ。
「あ……れ……? ちょっと力が入らなくて……」
「魔力の欠乏だな。さすがに無理しすぎだ。……礼子、智美ちゃんをベッドに運んでやってくれ」
「はい、お父さま」
智美は身長140センチくらい。130センチの礼子が運ぶと少々違和感があるが、仁が代わって女の子の寝室に運ぶのも事案になりそうなので礼子に頼んだわけである。
「今日はもう休んだほうがいいよ」
そう声を掛け、仁は椅子にもたれた。
「ふう……」
色々なことがあって、状況への適応が追いついていないな、と感じる。
「とにかく第一は元の世界……蓬莱島に帰ること。それと同じくらい大事なのが、智美ちゃんを守りながら元の世界……日本に帰してやることだな……」
「守ることでしたらお任せください」
礼子が宣言してくれた。
「いろいろと調べてみましたが、この世界の『強度』は元の世界とほとんど変わりません。わたくしを破壊できるような物質はないでしょう」
「そっか。……でも、無理は禁物だぞ? 俺は礼子と一緒に蓬莱島に帰りたいんだからな?」
「はい、ありがとうございます、お父さま」
「とにかく、能力を隠して、無能のフリをするのがよさそうだな……」
あの国王を見ていると、いいように利用され、最後には捨て駒にでもされそうな予感がするのだ。
仁のそうした第一印象は結構当たるので、要注意と思っているのである。
「あとは、もっと情報を集めないとなあ」
「夜の間、わたくしにお任せください」
「無理無茶はするなよ?」
「はい」
その夜はゆっくり休むことにした仁たちであった。
結構な長編になりそうな予感がします……。
お読みいただきありがとうございます。
20210104 修正
(誤)ふん、人形か。では人間の方の」『属性』を調べよ」
(正)ふん、人形か。では人間の方の『属性』を調べよ」
(誤)特に最後の危険な部生物などがいないというのは朗報だ。
(正)特に最後の危険な微生物などがいないというのは朗報だ。
(誤)どこなく懐かしさを覚える仁であった。
(正)どことなく懐かしさを覚える仁であった。
(誤)「あとは怪我を直せるかだけど……」
(正)「あとは怪我を治せるかだけど……」




