2000回記念 タイムトラベラー仁
1000回記念は本編にアップしましたが、全体の流れが崩れるので2000回記念はこちらです。
お楽しみいただけましたら幸いです。
複体として仁が帰ってきた、ある日の蓬莱島で。
「タイムマシンができたぞ」
仁を400年前に送り返した老君の記録を検討していたら面白かったので、魔導式のパラメーターを弄っていたら偶然にも時間を超える効果があることがわかったのだ。
そして仁は、それを搭載した自動車型の宇宙船を造ったのだった。
全長5メートル、全幅2.5メートル、全高2メートル。ハイパーアダマンタイト製で、力場発生器推進、6人乗り。
「『ミーティア』と名付けよう」
大気圏内での最高速度マッハ15、宇宙空間では亜光速まで。
『制御核』を持ち、自動操縦可能。
* * *
「お父さま、いったい何にお使いになるんですか?」
礼子が尋ねる。
「うーん、ほら、『あの時にこうしていたら』ってあるじゃないか。それをやってみたらどうかと思うんだが」
『御主人様、タイムパラドックスはどうなるんでしょう』
「それに関しての仮説はあるぞ。多分に哲学的になるが。……聞くか?」
『お願い致します』
「うん。……世界の観測者、この場合は『俺』だな。『俺』の体感的には、時間は正常に流れているんだ。だから俺にとってのパラドックスは起きないだろうというわけさ」
『なるほど、一見正しそうに聞こえますね。つまり、御主人様にとっては、100年前の世界に行ったとしてもそれは『過去』ではなく『未来』の体験だということですね』
「そういうことになるな」
『まあ、御主人様には危険はなさそうですが……』
「お父さま、早く行きましょう!」
礼子は既に『ミーティア』に乗り込んでおり、仁を手招きした。
「わかったわかった」
仁も急いで乗り込む。
「まずはどこへ行ってみようかな」
ちょっと考える仁。
「よし、まずは『アヴァロン』でゴルバート・マルキタスを治療してみよう」
マルキタスには『精神生命体』の欠片が憑依、あるいは同化しており、その不調が宿主のマルキタスにも伝わって狂気をもたらした……はずだと仁は思い出した。
「あの頃のマルキタスを治療すれば『魔法連盟』を作らないんじゃないかな……」
「わかりました。行ってみましょう。……『ミーティア』、発進!」
そして仁たちは3740年に移動した。
「おお、確かに昔の『アヴァロン』だ。懐かしいな」
まだ公園をはじめとした緑地は手を付け始めたばかりで、木も育っていない。
「ええと、マルキタスは……」
「お父さま、彼では?」
礼子が指差す方を見ると、確かにゴルバート・マルキタスだ。
「随分若いな……当たり前か」
マルキタスは、講義を終えて帰る途中のようだった。
「1人のようだな。ちょうどいい」
物陰から仁は、治癒魔法をマルキタス目掛けて放った。
「『治療措置』」
「な、何だ……う、う、お、おお!?」
『精神生命体』に力を与えられる処置=亜自由魔力素波を含む魔力。
マルキタスの最期に、この処置で正気を取り戻させたのである。
数回『治療措置』を掛けると、マルキタスの顔つきが目に見えて穏やかになった。
「……頭がすっきりした。これはいったい……?」
きょろきょろと辺りを見回すが、『不可視化』の結界に隠れている仁と礼子を見つけることはできない。
「……うーん……まあ、いいか。しかし、気分がいい。爽快だ!」
上機嫌でマルキタスは立ち去っていった。
「これでよし。一旦帰ってみよう」
「はい、お父さま」
そして元の時代の蓬莱島へ戻ると……。
『『魔法連盟』? それは何ですか? そのような組織は過去から現在、存在してはおりません』
と老君が答えたのである。
「ふむ、俺と一緒に行動していた礼子は覚えているのに、動かなかった老君に取っては『なかったこと』になるのか。興味深いな」
そこで仁は、次の実験的改変を行うことにしたのである。
* * *
「よし礼子、次に向かうのは3457年5月だ」
今度は、過去の事件を事前に防いだらどうなるか、である。
3457年5月は、当時『魔族』と呼ばれていた『北方民族』の1人である『諧謔』のラルドゥスがクライン王国に『魔力性消耗熱』を仕掛けた月である。
「確かワルター伯爵の客分になっていたと言ったよな」
「はい。では行きます」
そして仁たちは3457年5月1日のクライン王国へ移動した。出たのはカイナ村上空。
「おお、ここだここだ。懐かしいな」
懐かしいが、下手にハンナあたりに見つかると不確定要素が増えるので今回は涙を飲んで諦めることにした。
そのままラクハムの町へ。
「ここにラルドゥスがいるはずだ。そして『魔力性消耗熱』を引き起こす病原体の入ったビンを持っているはず」
「お父さま、わたくしにお任せください。ラルドゥスの魔力パターンは承知していますので」
過去にラルドゥスと対峙したことのある礼子なので当然だった。
「よし、わかった。じゃあ頼むかな」
「はい、お任せください」
礼子は『不可視化』の結界に身を隠し、ラクハムの町、そこにある領主館へ向かった。
待つこと10分で、
「お父さま、お待たせ致しました」
礼子が戻ってきた。手には件のビンを持っている。
「これ、どういたしましょうか」
「そうだな……」
残しておいても仕方がないので、
「『殺菌』」
殺菌して無害にしておく仁。
「あとは、蓬莱島に戻ってから超高熱で消滅させてしまおう」
「わかりました」
こうして、過去の事件の1つを未然に防いだ仁であった。
そして、蓬莱島に戻った仁たち。
『御主人様、礼子さん、お帰りなさい』
老君が迎えてくれる。その老君に仁は、当時の『魔族』についていろいろ聞いてみたが、仁の知るところとほとんど変わっていなかった。
「うーん、『魔力性消耗熱』を防いだだけじゃ、あまり歴史は変わらなかったのか」
おそらくラルドゥスが別の嫌がらせ手段を持っていたのだろうと仁は想像した。
* * *
いい方向に改変したいと、仁はさらに過去へ遡ることにした。
「じゃあ礼子、今度はポトロックへ行こう」
「マルシアさんと出会った頃ですね。……3457年2月へ!」
「……おお、懐かしい。確かにあの頃のポトロックだ」
「それでお父さま、何をいい方に改変するのですか?」
「うん、マルシアがいろいろ妨害を受けた原因は、『シグナス』の船体に隠された取引の契約証だっただろう? あれをこっそり取り出してフィレンツィアーノ侯爵に渡しておこうかと思ってさ」
「わかりました」
ということで、仁と礼子は『不可視化』に姿を隠して浜辺へ。
そこに並ぶ貸しドックを一つ一つ見ていき、ついにマルシアの双胴船を見つけた。
「お、これだ。どっち側だっけ?」
「右の艇体です」
「そうだったっけな。……ここを、こうして外して、と。……あったぞ」
間違いなく、エルラドライト取引の証文だった。
「これをフィレンツィアーノ侯爵の執務室に置いてくればいいだろう」
「それでしたら、わたくしが」
ということで礼子は5分ほどで領主館へ行って帰ってきた。
「ご苦労さん」
ついでに仁は、ポトロックを少し観光していくことにした。
この日は2月1日、仁と礼子がやって来るのは6日なのでまだ時間は十分にある。
念のために、一応髪の毛の色を茶色に変え、髪型を弄り、服装も変えて変装した上で観光する。
「……ああ、懐かしいな」
かつての町並みを眺めながら、仁は歩いていく。
「おや? あれは……」
連れ立って歩いてくる貴族の男女とそのお伴たち。
(……エルザ! と、ラインハルト!! ミーネに、アドバーグも!)
懐かしい顔ぶれを見かけてしまい、仁は慌てて路地へ飛び込んだ。
(若いなあ、みんな)
エルザは当時16歳、ラインハルトは23歳だったはずだ。
仁は路地の奥から、彼らが歩きすぎるのをじっと眺めていたのであった。
(この後、海水浴場で出会ったんだっけなあ)
懐かしさが仁の胸をよぎった。
エルザ一行が見えなくなってから仁と礼子は路地から出て、海辺へと向かった。
「あ、マルシア」
そこには、参加費用を稼ぐため、小船で魚を捕ってきたばかりのマルシアが。
(マルシアも若いなあ)
当時の彼女は23歳、ラインハルトと同い年だったはずだ。
日に焼けたその姿を遠くから眺めた仁は、
「礼子、帰ろうか」
と礼子を促し、元の時間の蓬莱島へ戻ったのであった。
老君に確認したが、今回は大きな改変にならなかったようだ。
* * *
ポトロックでエルザたちを見かけた仁は、今度はエルザの一大事を救うことにした。
そう、『家出事件』そして『誘拐事件』である。
「3457年4月……何日だっけ?」
「エルザさんたちがトーレス川で襲われた日でしたら、6日です」
「よし、その日へ移動だ」
「はい」
夜のトーレス川上空に、『ミーティア』は『消身』の結界を張って浮かんでいる。
『不可視化』を使うまでもないという判断である。
そして待つこと1時間。
「お父さま、あの船では?」
一艘の小船が夜のトーレス川に漕ぎ出していった。
「少し高度を下げよう」
『力場発生器』で浮かんでいるので『ミーティア』は無音だ。
高度を下げていくと、船の中まではっきりと見えてきた。
「間違いない。ミーネとエルザだ。……あっ!」
今、ミーネが刺されて川に放り込まれたところである。
「少し遅かったか! ……ええい、まずはエルザを助けるぞ!」
そのエルザは船頭の1人にのし掛かられていた。
「俺の嫁に手を出すな!」
仁は『ミーティア』に搭載した『力の長杖』を用いてその男をはね飛ばし、ついでに川の中に叩き込んでやった。
歴史どおりなら、この直後、この男は『統一党』の魔導士によって首を刎ねられるのだから、感謝してほしいくらいである。
そしてもう1人の船頭も川の中に叩き込む。
当のエルザは何が何だかわからないようで、目をしばたたかせていた。
仁は『力の長杖』を用いて『統一党』に見つからない位置まで船を移動させた。
「よし、今度はミーネを助けよう」
「はい」
今度も『力の長杖』を用いてミーネを川から引きずり上げ、刺さったナイフを抜くと同時に『全快』を掛ける。
併せて『洗脳解除装置』を使い、暗示状態から解放した。
そしてそっと船の上に乗せる。
「ミーネ!」
何が起きたか理解はしていないが、ミーネが助かったことだけはわかるので、エルザはうれし涙をながしながら縋り付いていた。
「これでこっちはよし。あとはフリッツの洗脳を解いてやろう」
船はそのまま元来た川岸へと移動させる。
あんな目に遭った2人は、最早逃げる気力もなくしたのか、自然に動き出した船に逆らうことなく、ただ身を任せていたのであった。
船を岸辺に着けた仁と礼子は、そのままフリッツのいる宿へと移動。
「どの部屋かわからないが、こういう時にも使えるんだ」
『洗脳解除装置』は範囲効果を持つ。正常な人間には影響がないのだ。
適当にそこら辺の宿へ向けて『洗脳解除装置』を放つ仁。
「……これでフリッツも暗示から覚めたろう」
ついでにエルザの父親も、と思ったが、そこまで改変すると後が怖いのでやめておく仁。
「向こうにはマルコシアスもいるはずだしな」
かなり大事になることが予想されたので、仁は躊躇ったのである。
「そっちはこの時代の俺に任せるとしよう」
ということで仁と礼子は蓬莱島に戻ったのである。
「エルザ! 無事だったか!!」
「に、兄……さま……お、おね、がい。ミーネは許して……あげ、て……」
「フリッツ様、も、申し訳ございま、せん……」
翌朝、フリッツが差し向けた追っ手に見つかって連れ戻されたエルザとミーネ。
2人はフリッツの怒りを思い、びくびくしていた。
だが。
「……エルザ、無事でよかった。俺が悪かったよ。そんなにこの縁談が嫌だったとはな」
「兄、さま?」
「もういい。もういいんだ。嫌なら嫌でいいんだ。父上には俺からも口添えするから安心しろ」
「あり、がとう」
兄フリッツの態度が180度変わったことが不思議ではあったが、優しい昔のフリッツが戻ってきた、ということでエルザはそれ以上追究することはしなかったのである。
そして蓬莱島に戻った仁は。
「……エルザが治癒師になるのが遅れたみたいだな」
以降何ごともなく旅を続けた結果、ショウロ皇国に着いた時点のエルザは工学魔法も治癒魔法も大して使えず、従って倒れたゲオルグを治療することが出来なかった。
結果、父を亡くし、それが切っ掛けで治癒魔法の勉強を始め、最終的に『国選治癒師』になったらしい。
* * *
「今度は、エレナだ」
魔導大戦時に壊れたエレナを、ジュール・ロランが見つける前に直し、正常にしてしまえば『統一党』は生まれなかったはず、と仁は考えた。
「ええと……あの騒動が3457年だから、その50年前の3407年でいいのかな?」
「はい。当時の首領、ジュール・ロランは65歳、エレナを見つけたのが15歳と聞いておりますので3407年ですね。ですが念のためもう1年前に致しましょう」
「よし」
礼子の勧めに従い、仁たちは3406年に移動した。
時刻は夜。場所はアスール湖上空だ。
「ええと、ここから近いカシムノーレ遺跡の奥、だったっけな」
「そうです。……お父さま、崩壊の危険もありますので、ここでお待ちくださいますか?」
ひとっ飛び礼子が行って、エレナを回収してくるという。
「わかった、頼む」
「はい」
巨大湖であるアスール湖上に浮かぶ『ミーティア』から礼子は飛び出した。
そして一直線にカシムノーレ遺跡を目指す。夜なので遺跡には誰もおらず、礼子は悠々と中へ。
捜すこと5分。奥の部屋でエレナを見つけ、それを小脇に抱えて戻ってきた。
「これが当時のエレナか……本当にぼろぼろだな」
そのつもりで準備してきたので、『ミーティア』には修理に必要な資材が積んである。
しかも仁はエレナの構造を知っている。ゆえに修理は早かった。
「今回は『統一党』の知識はないから、制御核の設定も少し楽だ」
過去にアドリアナ式の自動人形を襲った記憶や魔導大戦の記憶を消去し、『あなたを一番大事に思っていた』と最期の言葉を掛けてもらったという設定にしておく。
そしてもう一度礼子に遺跡の奥に置いてきてもらう。
「これで、エレナを見つけたジュールは『統一党』ではなく『懐古党』を作ってくれるのではないかな?」
そう期待して仁は元の時間に戻った。
「……そうか、『懐古党』は大活躍してるのか」
世間を騒がせることもなく、最初から世の中のためになる集団として活動しているようだ。
* * *
だがこれは、考えてみると問題があった。
「……『統一党』がなくなったことで、当時の俺が初めて税を納めにトカ村へ出向いた際に、ゴーレムに襲われることはなくなったわけだよな」
あの時のゴーレムは、『統一党』が試作ゴーレムのデータを集めていたのであった。
そうなると、リシアも剣を折ることはないし、ゴンとゲンも生まれないことになる。
そうすると、カイナ村にいる仁は鉱石を得る手立てがなく、ゴーレム馬も作れない。
「山鹿が山から下りてきても畑を守れないな」
あの時はロックをはじめとする村の若い衆がゴーレム馬を使ってカイナ村から離れた方向へ山鹿の群れを導いたのだった。
「それを何とかするか」
おそらく山にはヘカトンケイルが棲み着いているはずだが、それはもう少し後にやって来る当時の礼子に任せることにした。
「お父さま、ヘカトンケイルを何とかしてしまった方が手っ取り早いのでは?」
礼子が言う。
「うーん、どうなんだろうな?」
その場合、転移してきた礼子はヘカトンケイルに襲われないわけで、そうなった時のデメリットは……なさそうだった。
「深夜の魔力爆発で目を覚ますこともなくなるし、村の人たちを不必要に不安に陥れることもないしな」
そっちでいこう、ということになった。
「3456年11月、カイナ村上空」
仁と礼子は移動した。
「もう雪が積もり始めているな」
見えているのは3000メートルを超える高山。そろそろ根雪になり始めていた。
「お父さま、あそこにヘカトンケイルがいます」
「よく見つけたな。……よし、『力の長杖』で吊り上げて、元いた地方へ送り返してしまおう」
「退治するんではないのですか?」
「うん。こいつ自体は、人類の生存圏と被らない場所にいれば無害だしな」
実は、3900年頃になると、ヘカトンケイルはほぼ絶滅しているのである。
魔物とはいえ、生態系の一部を担うと考えられるので、仁は妙な仏心を出したのであった。
ということで、暴れるヘカトンケイルを吊り上げた『ミーティア』は、ローレン大陸最北部の森まで移動。
そこでヘカトンケイルを放したのであった。
「これでどうなるかな?」
この後、仁を捜しに来た礼子が合流。蓬莱島に帰る手段を得た仁が何をするか、である。
『蓬莱島の資材でゴンとゲンに相当するゴーレムを、そしてゴーレム馬をお作りになっていましたよ』
老君の報告を受けた仁はなるほどと思った。
「あれ? そうしたらワルター伯爵は?」
『統一党』のゴーレムが暴れていないのだから、ゴンとゲンを見て冤罪を掛けられることはないのでは? と仁は思ったわけだ。
『いえ、御主人様。結局ワルター伯爵は御主人様に罪を着せたようです。御主人様はカイナ村を去って蓬莱島に戻ってこられました』
「そう、か……」
ワルター伯爵はどこまでいってもワルター伯爵だったということだ。
「まあ、あのままカイナ村に居続けたら、後の歴史が大きく変わってしまうだろうしな」
ブルーランドにもポトロックにも行かなかった可能性が高い。
そうなるとビーナにもマルシアにも、そしてラインハルトやエルザにも会うことはなかったということになる。
「それは寂しいし……いろいろまずい気がする」
『ですね』
* * *
今のところ過去改変をしても、大きな影響はなく、ほっとしている仁であったが、
「お父さま、実は行ってみたい時代があります」
と礼子が言い出したので少し驚いている。
「珍しいな、礼子がそんなこと言うなんて。いいぞ、どこへ行きたいんだ?」
「はい、お母さまにお会いしたいです」
「先代にか……」
先代は俺のことも礼子のことも知らないわけだから、遠くから見るだけではなく、少しくらいなら会って話をすることもできるはずだ、と仁は推測する。
「だが、できるだけ若い頃の方がいいかな」
晩年になると、礼子の前身である『おちび』を作っているはずだからだ。
「はい、それで結構です」
礼子……『おちび』が知る先代は、あらためて遠くから見つめることにし、まずは先代の若い頃へと移動することにした。
「2363年、5月、クライン王国付近へ移動!」
当時はクライン王国とは呼ばれていないが、ポジションをわかりやすくするためだ。
そして、アドリアナ・バルボラ・ツェツィの日記から、この年は魔族領からクライン王国に当たる土地へ移動したことがわかっている。
その際、トカ村に相当する集落に辿り着くも魔物使いと恐れられ追い出され、野宿したという。そして風邪で寝込んだということなので、その時点に移動するつもりだったのだ。
「……なんか、全然風景が違うな」
高空から見下ろした大陸の形はほとんど同じだったのに、地上の風景はまるで違っていたのだ。
「1400年以上も前だから当たり前か」
日本で1400年前と言うと、推古天皇の頃かな? と仁は考えた。
601年に聖徳太子が斑鳩宮を作ると記録がある。飛鳥時代であることは間違いないだろう。アルスには無関係だが。
一応、着ている服も簡素な服に変えてきたが、それでもこの時代の人たちの服に比べたら派手だった。
「まあ、俺たちの国の服ということにしよう」
仁と礼子はトカ村と思われる付近でアドリアナ・バルボラ・ツェツィを待った。
「お、あれかな?」
F−002、003、M−002、003の4体のゴーレムと共に歩いている女性。
この時代にそんな存在はアドリアナ・バルボラ・ツェツィしかいるはずがない。
「……ゴーレムを魔物じゃないかと言われ、自身も魔女だと罵られて出てきた……時だな」
以前読んだアドリアナの日記を思い出す仁。
「だとすると、少し前にうたた寝をして風邪を引いているはずだ」
そう思って見れば、足取りが少し重そうである。
「この後、洞窟を見つけて数日を過ごすわけだな。……よし!」
仁は、まずその洞窟を特定し、居心地がいいように手を加えてしまおうと考え、礼子に話した。
「わかりました」
礼子も頷き、アドリアナが歩いていく方向……南へと一足先に向かう。
「……ここじゃないでしょうか」
トカ村に相当する集落から離れた山の麓に洞窟が見つかった。
「内部に軽く『消臭』『殺菌』……してっと」
あまり綺麗にしすぎるのも不自然なので、そこそこ、といったレベルで止めておく。
そしてまた、少し離れて見ていると、アドリアナがやってきて洞窟を見つけ、中で休むことにしたようだ。
「これでよし」
「お母さま……」
「それじゃあ、行こうか」
旅人を装って、仁と礼子もその洞窟に向かうことにした。
「礼子、間違っても『お母さま』とは言うなよ?」
「……はい」
そう念を押した仁は、ゆっくりと洞窟に近付いていった。
洞窟の前ではゴーレム2体が番をしていたが、アドリアナ・バルボラ・ツェツィと魔力特性が同じ仁に対しては何のリアクションも起こさない。
「……誰かいますか?」
洞窟を覗き込んだ仁は、わざとらしいなと思いつつ、形式的に声を掛けた。
「……誰?」
1体のゴーレムに手伝わせて寝床の用意をしていたアドリアナは、この珍客に目を見張った。
「旅をしている者です」
仁が答える。
「もう日が暮れてきたからねぐらを捜していたんですが、ちょうどよさそうな洞窟があったので」
でもゴーレムがいたから誰か中にいるのかな、と思いました、とかなり白々しいことを口にした。
「……ああ、そうなの。……いいわよ、この中は広いから。でも、私はちょっと風邪気味だから、移ってもいいなら、どうぞ」
「助かります」
洞窟内に入った仁は、『浄化』も掛けられていることに気が付いた。熱があってもさすが先代だ、と感心する。
そのアドリアナは、かなり熱も出てきているのだろう、火照ったような顔をしている。
もう少し北に行けば集落がある、ということを伝えることさえ忘れているようだ。
おまけに、自分の作ったゴーレムたちが仁に反応しないことを訝しむこともない。
「風邪ですか。消化のいいものを食べて、温かくして身体を休めることですね」
仁がそう言うと、アドリアナは弱々しく笑った。
「ふふ、そうなのよね。あなた、旅をしているだけあってなかなか健康について詳しいじゃない」
そう言いながら食事の支度をしようとするのを仁は押しとどめた。
「ああ、それはこっちでやります。あ、俺は仁といいます。こっちは礼子です」
「ジン君にレーコちゃんね。私はアドリアナよ」
「アドリアナさん、ですね。短い間ですが、よろしく」
仁はそう言って荷物から魔導コンロを出し、鍋を載せる。干し飯……乾燥させたご飯を出し、水と一緒に鍋に入れた。
作るのはお粥である。この時代になさそうな醤油や味噌は使わず、塩で味付けだ。
出汁は乾したキノコ。椎茸に似て、乾燥させたものを持ってきている。
「ああ、いい匂いね。それに、その魔導具? 面白いわ」
やはり初代『魔法工学師』、魔導コンロに興味を示した。
「ええ。ずーっと西の方で手に入れたんですよ」
「西、ですか。……行ってみたいわね」
「アドリアナさんも旅をしているんですね? いつか行けますよ」
そんな会話をしているうちに、お粥ができたようだ。
「さあ、どうぞ」
仁はまずアドリアナに、お粥の入った椀を差し出した。
「いや、それはジン君が作ったのだから、私は後で……」
と言いかけた彼女の言葉に被せるように、
「いえいえ、この洞窟はアドリアナさんが先に見つけたのですから、こちらはいわば居候ですので。さあ、冷めないうちにどうぞ」
と言ってお椀を手に持たせた。木製のスプーンも付けてある。
アドリアナがそれを受け取ったのを見て、仁と礼子……礼子も一応食べるふりをする……もお椀にお粥をよそった。
「ああ、美味しいわ。麦じゃないわよね、これ?」
「はい。ノギと言いまして、これもまたずっと西で作られている作物です。炊いたものを乾燥させておくと長持ちするので旅の食料に使えるんですよ」
「なるほどね。ますます西へ行ってみたくなったわ」
そう言いながら、アドリアナはお粥を残らず平らげ、お代わりまでした。
ちなみにこのお粥を煮たお湯には少しだけ回復薬が混ぜられており、体調改善の効果がある。
仁たちも担いできた毛布を敷いて寝床の準備をする。
日が暮れれば、もう寝る他にないからだ。
入口は4体のゴーレムが守っているので安心だ。
そして洞窟内の空調は、こっそりと礼子に行ってもらうことになっているので、暑からず寒からず、湿気も適度に保たれることになろう。
「それじゃあ、アドリアナさん、おやすみなさい」
「ジン君、レーコちゃん、おやすみなさい」
こうして、初代と2代目の邂逅1日目は終わった。
そして翌朝。
「ああ、よく寝たわ。暑くもなく寒くもなく、楽だった……」
「おはようございます、アドリアナさん」
「おはようございます、ジン君。レーコちゃん。早いのね」
アドリアナが目を覚ました時には、もう仁と礼子は起きていて、スープを作っているところだった。
「いい匂いね。……食事の支度をみんなさせてしまって、悪いわね」
「いえいえ。こちらはいつも2人分作ってますからね。それが3人分になっても大して変わりません。そちらはお1人でしょうから、3人分になると手間でしょう」
「うーん、そうなるのかしらね」
変な? 理屈に押し切られ、この朝もアドリアナは仁の作った朝食を口にした。
「あ、美味しいわ」
それも当たり前と言えば当たり前、礼子の前身『おちび』が覚えている、アドリアナが好きな味付けにできるだけ近づけているからだ。
ちなみにこの朝は乾燥野菜を戻したスープと乾パンである。
乾パンをスープに浸して軟らかくして食べるとめっぽう美味いのだ。
「今日はどうします?」
食べ終えた後、仁がアドリアナに尋ねた。
「俺たちは、この洞窟の居心地がいいので、もう1日ここで身体を休めていこうと思います」
「そうねえ……。私も、一晩寝て随分と体調はよくなった気がするけど、もう1日は身体を休めていこうかしら」
「それがいいでしょうね」
「それにしてもジン君とレーコちゃん……」
朝の光の中で、アドリアナは仁と礼子をじっと見つめた。
「あの、何か?」
「あ、ごめんなさい。2人とも、黒い髪に黒い目なのね」
「……はい」
仁はうっかりした、と思った。せめて髪の色は変えておくべきだった、とも。
「私の父がね、あなたたちと同じ髪と目の色をしていたのよ。……そういえば、ジン君、なんとなく雰囲気が似ているわ」
「えーと、ありがとうございます?」
「何よ、それ? 何で疑問形?」
昨夜とは違い、アドリアナの表情には明るさがある。体調がよくなった証拠だろう、と仁はほっとした。
「それにレーコちゃん、無口なのね」
「ええ、まあ……」
アドリアナに悟られないよう、『魔法障壁』をうっすらと纏っている礼子。
そうでもしないと、すぐに人間でないことがばれてしまうだろう。そうなると後が厄介だ。そう仁は考えていた。
礼子のような自動人形が、この時代にいるはずがないのだから。
「このあたりには山菜や木の実がありそうですから、少し探しに行ってきます」
仁はアドリアナにそう告げて洞窟を出た。
声が聞こえない程度に離れたと判断し、仁は礼子に話し掛けた。
「どうだ、礼子? 先代の若い頃と会ってみて」
「……はい、とても……嬉しいです」
珍しく言葉を詰まらせる礼子。
「そうか、よかったな」
「はい、お父さまの……おかげ、です」
「うん」
仁は礼子の頭を撫でてやった。
そして少しそのあたりを回ると、木イチゴが生っていたので採集して帰る。
「ただいま」
「おかえりなさい」
そこには、ゴーレムたちの整備をしているアドリアナがいた。
「大分調子がよさそうですね」
「ええ。ジン君たちのおかげよ」
「いえいえ、大したことはしてませんよ」(後の世ではお世話になりっぱなしですから)
「え?」
「いえ、なんでも。……木イチゴがあったので採ってきました」
「わあ、美味しそうね」
「途中で洗ってきたので食べられますよ。俺と礼子は途中で食べてきたので、これはアドリアナさんの分です。どうぞ」
「ありがとう」
木イチゴの入った籠を受け取って笑うアドリアナは、以前礼子が言っていたように、ハンナとよく似ていた。
そしてまた夕暮れが近付いてくる。
「……風呂に入りたいな」
仁がぼそっと言ったその言葉を、アドリアナが聞きつけた。
「あ、ジン君のところにもお風呂ってあるんだ?」
「え、ええ」
「私の、父さん……父がお風呂好きだったなあ」
「そうですか」
「ねえ、お風呂、作っちゃおうか」
「はい?」
「私、『工学魔法』っていうのが得意なんだ。だから、こんなこともできるの。……『掘削』」
洞窟の隅に四角い穴が空いた。大きさは2メートル四方、深さは60センチほど。
「これの表面を固めて……『硬化』……これでよし。あとは水を溜めて、魔法で温めればいいわ」
「じゃあ、水を汲んできましょう。近く……でもないですけど、川がありましたから」
「それならMー002とM−003に持ってこさせましょう」
アドリアナは土を使って桶を作り、『硬化』で固めた。それを2つ。
「この2体に運ばせるわ。案内してあげてもらえる?」
「はい」
こうして、洞窟内の浴槽には水が張られた。
「『加熱』」
それを温めるアドリアナ。たちまちのうちにお湯となった。
「あとは……『変形』」
土を使って目隠しの衝立を作るアドリアナ。
「うん、大分調子も戻ってきたわね。……さあジン君、レーコちゃん、どうぞお先に」
「いえ、風呂を作ったアドリアナさんからどうぞ」
「ううん、ジン君たちが先よ」
「いえいえ、病み上がりのアドリアナさんから」
「ジン君たちが」
「アドリアナさんが」
……というやり取りが続いたあと、ついにアドリアナが折れた。
「はあ、わかったわ。それじゃあ有り難く入らせてもらうわね」
「ええ。……そうだ、礼子、アドリアナさんのお背中を流して差し上げなさい」
「は、はい」
「……いいの? レーコちゃん」
「はい」
「じゃあ、お願いするけど、一緒に入ること。それならお受けしましょう」
「わかりました」
こうして、アドリアナと礼子は一緒に入浴することになったのである。
「ああ、いいお湯」
やや熱めのお湯である。アドリアナも熱い風呂が好きらしい。
「おか……アドリアナさん、それじゃあお背中をお流しします」
「ありがとうね、レーコちゃん」
石鹸やボディソープといったものはないので、どちらかというとあかすりに近い。
ヘチマのような植物繊維でできた『あかすり』でふやけた皮膚を擦るのだ。
「ああ、気持ちいいわ」
礼子は絶妙な力加減でアドリアナの背中を擦った。
「それじゃあお返しにレーコちゃんを……」
と言いかけたアドリアナを尻目に礼子は、
「わたくしは烏の行水ですので」
と言ってさっさと上がっていったのであった。
もちろん、自動人形であることを知られないためだ。
「ああ、いいお湯だった。ジン君、お先に」
礼子が出たあとものんびりとお湯の中で身体を温めたアドリアナ。
仁は、
「お風呂上がりにどうぞ」
と言ってペルシカジュースを差し出した。
「ありがとう。いただくわ」
そして美味そうに飲み干した。
「美味しい! 何これ?」
「旅先で見つけたペルシカを絞って濾したジュースです」
「へえ……」
「あ、じゃあ、今度は俺が風呂をいただきますね」
何か追究される前にと、仁は衝立の後ろへと回った。
「ああ、いいお湯だ」
仁は2日ぶりであった。
そして残り湯は蒸発させ、凹ませた湯船は元通りに戻す。
「これでよし。『立つ鳥跡を濁さず』だからね」
後処理を終えたアドリアナが呟いた。
そして夕食はまた仁が作った。
今夜も干し飯を使ったお粥である。
ただし、乾燥野菜や干し肉も入れ、栄養バランスを考えている。
「うん、ジン君の作る食事は美味しいわね」
「そう言っていただけて何よりですよ」
旅先なので乾燥野菜や干し飯が中心になるのは仕方がないが、できるだけ現地で調達できるものも取り入れる、と仁が言うと、
「そうねえ、毒があるかないかわかればいいのにねえ」
とアドリアナ。
「『分析』を使っても、自分の知らないことはわからないしね」
とも。
そのあたりから話は魔法工学の話になっていく。というより、仁が誘導していったのだ。
「私は、この『魔法工学』を世の中に広めたいの」
「いいですね、夢があって」
「魔法を人々の役に立てる、そう思うのよね」
「いいことだと思いますよ」
「まだまだ学ぶべきことは多いけれど、頑張るわ」
「アドリアナさんなら、きっとできますよ」
「そして、同志を集めるの。同じ夢を、同じ目的を目指す同志たちを」
「ああ、素敵ですね」
「世の中を、少しでもよくしたい。そのために自分の力を役立てたい」
アドリアナは熱っぽく語り、仁は聞き役に徹した。礼子もまた、一言一句も聞き逃すまいと聞き耳を立てていた。
だが、この貴重な時間が過ぎていくのを誰よりも惜しんでいたのは、他ならぬアドリアナだった。
(なんでだろう……ジン君は父さんと同じ匂いがする……そしてレーコちゃん、人ではないような……でも人でないならいったい……。
ううん、そんなことは些細なことだわ。こうして一緒にいて、話をしているのはとても楽しい。……そう、父さんと一緒に暮らしていた、あの頃を思い出す……。もっともっと、一緒にいたい)
だが、仁と礼子は、自分とは反対方向に旅をしているらしい。つまり、ここを発てば北と南に別れ別れになってしまうのだ。
(それなら、少しでも長く、一緒にいたい……)
しかし、楽しい時間にも終わりはやって来る。
日が落ち、夜が更け、深夜になったのだ。
「アドリアナさんのお話を聞くのは楽しいのですが、もう真夜中です。そろそろ休みましょう。明日はここを発つことになるんですから」
「……そうね」
名残惜しいが、団欒の時間は終わり。明日のためにも眠らなくてはならない。
「じゃあ、明かりを消すわね」
アドリアナが灯していた『光の玉』を消した。
明かりと言えば空の月だけとなる。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「おやすみなさい」
洞窟内に、静かな時が訪れた。
そして翌朝。
「ああ、いい天気だ」
仁は洞窟から出て、空を見上げた。雲一つない快晴である。
朝食を済ませ、荷物をまとめ、後片付けを終わらせた仁と礼子、アドリアナ。
「それじゃあ、私はこっちだから」
アドリアナは南下。
「ええ、俺たちは北へ行きます」
仁と礼子は北上。
交差した線は再び離れていくことになる。
「いろいろありがとう、ジン君、レーコちゃん。またいつか、どこかで会えたらいいわね」
「…………そうですね」
その時、黙っていた礼子が口を開いた。
「……アドリアナさん、最後に、1つだけお願いを聞いてもらえませんか?」
「うん、何かしら? 私にできることなら、いいわよ?」
「それでは。……一度だけ、『お母さま』と呼ばせていただいてよろしいでしょうか」
「『お母さま』?」
ここで仁が慌てて助け船を出す。
「ええと、礼子は母親と死に別れていて……」
「ああ、そうなのね」
皆まで聞かずにアドリアナは頷いた。
「レーコちゃんと私だと、母親と言うより姉みたいな気もするけど」
アドリアナは優しく微笑んで、
「いいわよ、レーコちゃん。おいでなさい」
と言って両手を広げた。その腕の中へ、礼子は飛び込んだ。
「……お母さま!」
そんな礼子を、アドリアナは優しく抱きしめたのだった。
「……済みません。ありがとうございました」
1分ほどそうしていた礼子は、そっと身を離した。
「ありがとうございました」
仁も礼を述べる。
「一生の思い出にします」
俯きながら礼子も言う。
「そう言ってもらえるとちょっと嬉しいかな。私も、ジン君、レーコちゃんと過ごしたこの2日間はきっと忘れないわ」
そう言ったアドリアナの目にも光るものが宿っていた。
「さようなら」
「さようなら」
2組の旅人は別れた。
仁と礼子は、隠しておいた『ミーティア』に乗り込む。
「礼子、あれでよかったのか?」
「はい、お父さま。我が儘を聞いていただき、ありがとうございました」
「お前がよかったんならいいんだ。俺も、若い頃の先代様に会えて嬉しかったよ」
その思想に直に触れられたことは望外の喜びだった、と仁は言った。
「さあ、帰ろうか」
「はい、お父さま」
そして仁たちは蓬莱島に帰還したのだった。
* * *
『お帰りなさいませ、御主人様』
そこにはいつもと変わらぬ老君がいた。
「ああ、だいたい満足したかな」
『ミーティア』を降りた仁は背伸びをした。
「だが、タイムマシンはやたらと使うのはまずそうだな」
今回は大きな歴史改変はなかったが、いつ、何が原因で大きな変革が起きるかもしれない。
仁は『ミーティア』を封印することにしたのであった。
* * *
「いろいろ楽しかったな」
「はい、お父さま」
「だけど、過去は面白半分に弄っちゃまずいよな」
「そう、でしょうね」
「俺たちは未来を作っていこう」
「はい、お父さま」
蓬莱島の空は、昔と変わらず青く澄んでいた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20190104 修正
(誤)「何よ、それ? 何で疑問系?」
(正)「何よ、それ? 何で疑問形?」