表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/46

2018年スペシャル 仁の初夢

あけましておめでとうございます。

 大陸歴3900年1月1日。

 仁は蓬莱島の研究所で元旦を迎えていた。

 『家』の玄関前には門松を飾り、床の間には三方に載せた鏡餅を置いた。


「あけましておめでとうございます、お父さま」

御主人様(マイロード)、あけましておめでとうございます』

「うん、あけましておめでとう」

 礼子と老君から新年の挨拶を受けた仁は、ソレイユが注いでくれた日本酒をお屠蘇代わりに飲み、ルーナが作ってくれたお雑煮を食べる。

 おせちは5色ゴーレムメイドたちが黒豆、田作り、昆布巻き、カマボコ、きんぴら、伊達巻き、マルオン(栗)きんとんなどを作ってくれた。

 さすがにニシンが見つからず、数の子はなしだった。


「うん、美味い」

 静かな年の初め。

「……静かすぎるな」

 今年の正月は、(人間は)仁1人で迎えたのだ。

 孤独は慣れているつもりであったが、やはり少し寂しいと思う仁であった。


 とそこに、

御主人様(マイロード)、研究所へいらしていただけないでしょうか』

 と、老君から声が掛かった。

「何だ?」

 おせちとお雑煮を食べ終え、特にすることのなかった仁はのろのろと研究所へ向かった。


「ジン兄、あけましておめでとう」

「ああ、おめでとう。………………………………え???」

「ジン、あけましておめでとう」

「ええっ!? エルザ!!?? ラインハルト!!??」

 研究所で仁を出迎えたのは、かつての愛妻エルザと親友ラインハルトであった。

「ど、どうして…………」

「僕らだけじゃないさ、ほら」

「おにーちゃん、あけましておめでとうございます!」

「ジン、あけましておめでとう」

 ハンナとマーサが。

「あけましておめでとう、ジン!」

「ジン殿、あけましておめでとう」

「仁、あけましておめでとう」

 サキとトアとグースがいて。

「ジン、あけましておめでとう!」

「ジン殿、あけましておめでとう」

 マルシアとロドリゴがいて。

「ジン、あけましておめでとう!!」

「あけましておめでとう、ジン殿」

 ビーナとルイスがいて。

「ジン様、あけましておめでとうございますですわ」

「ジンさん、あけましておめでとうございます」

 ベルチェとミーネがいた。

「ジンさん、あけましておめでとう」

「あけましておめでとう、ジンさん」

 ステアリーナとヴィヴィアンも。

「あけましておめでとうございます。私もいますよ」

 リシアもいた。


「みんな、いったいこれは……」

 全員が、仁の知っている容姿なのだ。

 つまり仁が20代だった頃の容姿で、皆そこにいる。

 仁はわけがわからず、立ち尽くしていた。


*   *   *


 仁が己を取り戻したところで、老君から説明が入った。

『皆様、自動人形(オートマタ)のボディに知識と人格を転写したものでございます』

「……そうじゃないかな、とは思ったんだが、なぜ?」

『400年前に、御主人様(マイロード)が帰還なさいましたね?』

「ああ、そうだな」

 今の仁はその際に分裂した『複体』なのだ。

『その際、いろいろなデータを検討しまして、当時から見て400年後の世界にも御主人様(マイロード)がいらっしゃる可能性に思い当たりました』

「そういうことか……」

『それで、皆様にご協力いただきまして、ボディを用意し、こうして400年後に目覚めるようセットしておいたのです』

「400年前の俺、よく協力したな?」

 当時の仁なら反対しそうなものだ、と思ったのだが。

『はい。『残していく者よりも残される者の方がつらい』ということで……』

「ああ、確かにな」

 残して逝く者は、残される者の寂しさを知らない。

 そうした経緯があって、400年後の仁に宛てて、こうした『仲間』を遺したということなのだろう、と仁は思ったのである。


『托された私といたしましては、御主人様(マイロード)がこうして400年後にも存在するということで、機会を捉えて皆様をお起こししようと思っておりました』

「それが今日だったわけか」

『はい』

 確かに3900年1月1日という、非常に切りのいい日付。そして正月という行事に相応しいと言える。

「確かに、最高のお年玉だよ」

 仁は微笑んだ。

「……しかし、俺もそうだったけど、みんな、この時代に子孫がいるんだよな……」

「ああ、そうなるな」

 ラインハルト(の自動人形(オートマタ))が笑う。

「ジン兄、それについては、『ヘールの住民になればいい』って言ってた」

 エルザ(の自動人形(オートマタ))が言った。

「え……ああ、そうか」

 ヘールへの移住計画は、400年前の仁も考えていたようだ。

(やっぱり俺だなあ)

 仁は苦笑せざるを得なかった。

「そうだな、ヘールに俺たちの町を造って楽しくやろうか!」

「いいね、ジン! ヘールの調査、してみたいよ」

 サキ(の自動人形(オートマタ))が真っ先に賛成し、

「ヘールには、船を浮かべられるような海があるのかな?」

 マルシア(の自動人形(オートマタ))も興味津々だ。

「皆さんとのんびりできたらいいですわね」

 ベルチェ(の自動人形(オートマタ))もにこにこしながらそう言った。

「政治的な干渉のない町か……憧れるわね」

 ビーナ(の自動人形(オートマタ))も期待をしているようだ。

「いろいろ研究できそうね」

 と、ステアリーナ(の自動人形(オートマタ))。

「アルスの伝承をヘールに持ち込めば、数百年後には伝説になりそうね」

 ヴィヴィアン(の自動人形(オートマタ))は悪戯っぽく笑った。

「まあ、のんびりできそうでいいさね」

 マーサ(の自動人形(オートマタ))はふんわりと笑い、

「みんなと一緒だからいいよね」

 ハンナ(の自動人形(オートマタ))ははしゃいだ。

「うむ、こういう形での隠居もありだな」

 とトア(の自動人形(オートマタ))が言えば、

「いやいや、まだ隠居には早いでしょう」

 とロドリゴ(の自動人形(オートマタ))。

「はは、そもそもこの身体なら隠居する必要はないでしょうに」

 とルイス(の自動人形(オートマタ))が突っ込みを入れた。

「私は、こうしてまたご一緒できて嬉しいです」

 とリシア(の自動人形(オートマタ))が言ったが、それは皆も同じ気持ちだったろう。

「ジンさん、これからもよろしくおねがいしますね」

 とミーネ(の自動人形(オートマタ))が頭を下げる。

「そうだな、よろしく頼む!」

 とグース(の自動人形(オートマタ))。


「飲み食いしないから助かるよ」

 と、仁が軽口を言うと、『違いない』と皆笑った。


『シオン様とマリッカ様の分もあるのですが……』

「ああ……まだ存命だからなあ。ややこしくなるから起こさないでおいてくれ」

『わかりました』


 とにかく、仁の周りは一気に賑やかになった。

 これが初夢なら、何といい夢だろうと仁は思う。

 そして覚めなければいいな、とも。


 ふと見上げた蓬莱島の空は、400年前と変わらず、青く澄んでいた。

 いつもお読みいただきありがとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

 m(_ _)m


 20180104 修正

(誤)とルイスが突っ込みを入れた。

(正)とルイス(の自動人形(オートマタ))が突っ込みを入れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >「……静かすぎるな」 > 今年の正月は、(人間は)仁1人で迎えたのだ。 > 孤独は慣れているつもりであったが、やはり少し寂しいと思う仁であった。 礼「お父さま、私もおります#」 とかなんと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ