2018年スペシャル 仁の初夢
あけましておめでとうございます。
大陸歴3900年1月1日。
仁は蓬莱島の研究所で元旦を迎えていた。
『家』の玄関前には門松を飾り、床の間には三方に載せた鏡餅を置いた。
「あけましておめでとうございます、お父さま」
『御主人様、あけましておめでとうございます』
「うん、あけましておめでとう」
礼子と老君から新年の挨拶を受けた仁は、ソレイユが注いでくれた日本酒をお屠蘇代わりに飲み、ルーナが作ってくれたお雑煮を食べる。
おせちは5色ゴーレムメイドたちが黒豆、田作り、昆布巻き、カマボコ、きんぴら、伊達巻き、マルオン(栗)きんとんなどを作ってくれた。
さすがにニシンが見つからず、数の子はなしだった。
「うん、美味い」
静かな年の初め。
「……静かすぎるな」
今年の正月は、(人間は)仁1人で迎えたのだ。
孤独は慣れているつもりであったが、やはり少し寂しいと思う仁であった。
とそこに、
『御主人様、研究所へいらしていただけないでしょうか』
と、老君から声が掛かった。
「何だ?」
おせちとお雑煮を食べ終え、特にすることのなかった仁はのろのろと研究所へ向かった。
「ジン兄、あけましておめでとう」
「ああ、おめでとう。………………………………え???」
「ジン、あけましておめでとう」
「ええっ!? エルザ!!?? ラインハルト!!??」
研究所で仁を出迎えたのは、かつての愛妻エルザと親友ラインハルトであった。
「ど、どうして…………」
「僕らだけじゃないさ、ほら」
「おにーちゃん、あけましておめでとうございます!」
「ジン、あけましておめでとう」
ハンナとマーサが。
「あけましておめでとう、ジン!」
「ジン殿、あけましておめでとう」
「仁、あけましておめでとう」
サキとトアとグースがいて。
「ジン、あけましておめでとう!」
「ジン殿、あけましておめでとう」
マルシアとロドリゴがいて。
「ジン、あけましておめでとう!!」
「あけましておめでとう、ジン殿」
ビーナとルイスがいて。
「ジン様、あけましておめでとうございますですわ」
「ジンさん、あけましておめでとうございます」
ベルチェとミーネがいた。
「ジンさん、あけましておめでとう」
「あけましておめでとう、ジンさん」
ステアリーナとヴィヴィアンも。
「あけましておめでとうございます。私もいますよ」
リシアもいた。
「みんな、いったいこれは……」
全員が、仁の知っている容姿なのだ。
つまり仁が20代だった頃の容姿で、皆そこにいる。
仁はわけがわからず、立ち尽くしていた。
* * *
仁が己を取り戻したところで、老君から説明が入った。
『皆様、自動人形のボディに知識と人格を転写したものでございます』
「……そうじゃないかな、とは思ったんだが、なぜ?」
『400年前に、御主人様が帰還なさいましたね?』
「ああ、そうだな」
今の仁はその際に分裂した『複体』なのだ。
『その際、いろいろなデータを検討しまして、当時から見て400年後の世界にも御主人様がいらっしゃる可能性に思い当たりました』
「そういうことか……」
『それで、皆様にご協力いただきまして、ボディを用意し、こうして400年後に目覚めるようセットしておいたのです』
「400年前の俺、よく協力したな?」
当時の仁なら反対しそうなものだ、と思ったのだが。
『はい。『残していく者よりも残される者の方がつらい』ということで……』
「ああ、確かにな」
残して逝く者は、残される者の寂しさを知らない。
そうした経緯があって、400年後の仁に宛てて、こうした『仲間』を遺したということなのだろう、と仁は思ったのである。
『托された私といたしましては、御主人様がこうして400年後にも存在するということで、機会を捉えて皆様をお起こししようと思っておりました』
「それが今日だったわけか」
『はい』
確かに3900年1月1日という、非常に切りのいい日付。そして正月という行事に相応しいと言える。
「確かに、最高のお年玉だよ」
仁は微笑んだ。
「……しかし、俺もそうだったけど、みんな、この時代に子孫がいるんだよな……」
「ああ、そうなるな」
ラインハルト(の自動人形)が笑う。
「ジン兄、それについては、『ヘールの住民になればいい』って言ってた」
エルザ(の自動人形)が言った。
「え……ああ、そうか」
ヘールへの移住計画は、400年前の仁も考えていたようだ。
(やっぱり俺だなあ)
仁は苦笑せざるを得なかった。
「そうだな、ヘールに俺たちの町を造って楽しくやろうか!」
「いいね、ジン! ヘールの調査、してみたいよ」
サキ(の自動人形)が真っ先に賛成し、
「ヘールには、船を浮かべられるような海があるのかな?」
マルシア(の自動人形)も興味津々だ。
「皆さんとのんびりできたらいいですわね」
ベルチェ(の自動人形)もにこにこしながらそう言った。
「政治的な干渉のない町か……憧れるわね」
ビーナ(の自動人形)も期待をしているようだ。
「いろいろ研究できそうね」
と、ステアリーナ(の自動人形)。
「アルスの伝承をヘールに持ち込めば、数百年後には伝説になりそうね」
ヴィヴィアン(の自動人形)は悪戯っぽく笑った。
「まあ、のんびりできそうでいいさね」
マーサ(の自動人形)はふんわりと笑い、
「みんなと一緒だからいいよね」
ハンナ(の自動人形)ははしゃいだ。
「うむ、こういう形での隠居もありだな」
とトア(の自動人形)が言えば、
「いやいや、まだ隠居には早いでしょう」
とロドリゴ(の自動人形)。
「はは、そもそもこの身体なら隠居する必要はないでしょうに」
とルイス(の自動人形)が突っ込みを入れた。
「私は、こうしてまたご一緒できて嬉しいです」
とリシア(の自動人形)が言ったが、それは皆も同じ気持ちだったろう。
「ジンさん、これからもよろしくおねがいしますね」
とミーネ(の自動人形)が頭を下げる。
「そうだな、よろしく頼む!」
とグース(の自動人形)。
「飲み食いしないから助かるよ」
と、仁が軽口を言うと、『違いない』と皆笑った。
『シオン様とマリッカ様の分もあるのですが……』
「ああ……まだ存命だからなあ。ややこしくなるから起こさないでおいてくれ」
『わかりました』
とにかく、仁の周りは一気に賑やかになった。
これが初夢なら、何といい夢だろうと仁は思う。
そして覚めなければいいな、とも。
ふと見上げた蓬莱島の空は、400年前と変わらず、青く澄んでいた。
いつもお読みいただきありがとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
m(_ _)m
20180104 修正
(誤)とルイスが突っ込みを入れた。
(正)とルイス(の自動人形)が突っ込みを入れた。