スペシャル2017 リシアルート篇 03
リースヒェン王女はさっそく父王、アロイス三世に『ティア』が直ったことを報告していた。
「何、それはまことか?」
「はい、父上。あのジンと申す魔法工作士は、妾の『ティア』を完璧に直してくれたのです!」
「ううむ……」
クライン王国国王アロイス三世は唸った。
城お抱えの魔法工作士には誰一人できなかったことだ。
魔法工学の進んだセルロア王国に修理を依頼することも考えたが、今の王、リシャールはあまり評判がよくなく、何か理由をつけて『ティア』を取り上げられるかもしれないと思い、実行に移せなかったのだ。
「陛下、それだけではございませぬ。試みに剣を作らせたところ、古代遺物級の剣を作り上げてしまいました。それも普通の剣を作るのと同等の時間で」
グロリアは仁が作ったショートソードを差し出した。
「何だと……」
アロイス三世はその剣を受け取り、しげしげ眺める。が、グロリアほどの目利きはできないので、出来のよい剣、くらいにしかわからなかった。
だが、自他共に認める剣マニアのグロリアが言うことである。疑う余地はない。
どうやら仁の実力はアロイス三世の想像を遙かに超えていたらしい、と認めざるを得ない知らせであった。
「わかった。グロリア、下がってよいぞ。……そうだ、この剣は下げ渡す。大事に使うがよい」
「ははっ! 光栄であります!!」
グロリアはその剣を、満面の笑みで受け取り、さっそく腰に提げたのであった。
「うーむ、確かに『ティア』の動きは違うな」
アロイス三世は娘リースヒェンと2人きり……正確には『ティア』もいるので2人と1体だが。
「はい、陛下。ジン様はわたくしを完璧に直して下さいました」
「おお、声もきれいになっておるな。そうか、ジンはそれほどの技術者であったか……」
感心しているアロイス三世に、リースヒェン王女が話し掛けた。
「父上、1つ申し上げてよいですか?」
「ん? 何だ、リース?」
「はい。あのジン、と申す魔法工作士と、明日も会ってよろしいでしょうか?」
「ふふ、気に入ったのか?」
「はい。かの者からは何とのう不思議な雰囲気を感じるのです」
「そうか。『ティア』と一緒なら構わんぞ。なんならグロリアにも護衛を命じておこう。今はリシア・ファールハイトという新貴族が饗応役をしておるが、変えてもいいかもしれぬ」
だがリースヒェン王女はそれを否定した。
「いえ父上、リシアと申す新貴族とジンとは仲がよさそうに見えました。ですからそのままにしておくのがよいと思います」
「そうか。お前がそう言うならそのままにしておこう」
* * *
「陛下! 申し上げたきことがございます!」
朝議が終了した、その後、クライン王国の筆頭王国魔法工作士、デーナン・コナルが小走りにやってきた。
「どうした、デーナン」
「はっ。昨日、何者かが我が工房に押し入り、資材を勝手に使いましてございます!」
「ああ、そのことか。それは我が娘、リースヒェンの乳母自動人形、『ティア』を修理するために使ったのだ。許せ」
国王に許せと言われ、デーナン・コナルは狼狽える。
「は、あ、あの、陛下?」
「そのことはもう許可した。そなたにはこの後伝える予定であった」
アロイス三世がそう言うと、書記官が1枚の書類をデーナンへと差し出した。
そこには、『ティア』修理のため、資材を使用したことを国王が許可した、という内容が書かれていた。
「……」
「ジン・ニドーについてはしばらく様子を見る。そう心得よ」
「……はっ」
国王にそうまで言われては、デーナンも引き下がらざるを得なかったのである。
だが、引き上げるその顔は歪んでいた。
* * *
「うーん、やっぱり資材がないというのは辛いなあ」
朝食後、仁は与えられた部屋で礼子と差し向かいで話をしていた。
「お父さま、どうなさるおつもりですか?」
「転移門がほしい。小型でいいから」
それには一旦蓬莱島へ戻らなくてはならない。
「わたくしがカイナ村の北にある山へ行き、必要な資材を持って来ましょうか?」
「それしかないかな……どのくらい掛かる?」
「1日、いただければ」
首都アルバンとカイナ村は直線距離なら200キロくらいだが、街道に沿ってとなると300キロくらいになるかもしれない。
礼子が時速200キロで走ったとして片道1時間半、蓬莱島での準備に1時間から2時間、帰路に1時間半。
途中にある町中はさすがに時速200キロで走り抜けるのは無理だろうから、片道2時間として、往復4時間。計6時間もあれば戻って来られそうである。
「そのうち飛行機を作りたいな……」
とはいえ、ないものは仕方ない。
まずは資材の確保である。
「礼子、それじゃあ頼めるか?」
「はい、お父さま」
「その時、ハンナやマーサさんに、俺は無事だって伝えておいてくれ。心配掛けてるだろうからな」
「わかりました。では行ってきます」
こうして礼子は、誰にも告げず、誰にも見られず、王城を抜け出してカイナ村の裏山へと向かったのであった。
「ジンさん、いらっしゃいますか?」
礼子が抜け出して30分くらいの後、リシアがやって来た。
「あら? レーコちゃんは?」
「え、ええと、ちょっと使いに出したんだ」
「えええ!? ……ど、どうやって……ま、まあ、ジンさんとレーコちゃんですし……」
リシアも少しだけ、仁のことについては適度に『思考放棄』することで心の平穏を保つ術を身に着けてきたようだった。
「そ、そうだ、大変なんです」
「ん? どうかしたのかい?」
「ええ、それが……」
リシアは語り始めた。
それによると、筆頭王国魔法工作士、デーナン・コナルという者が、仁の実力に異議を抱き、試合をしたいと国王に申し込んだ、という。
「試合ってのは?」
「ジンさんが連れて来たゴーレムがいましたよね?」
「ああ、『ゴン』だな」
「はい。その『ゴン』と、王国のゴーレムを戦わせてみよう、と言いだしたんですよ、デーナン・コナルが」
「へえ?」
「騎士団長や兵士長も面白そうだと言いだして、終いには陛下も説得されたらしいです。らしい、というのは私では重臣会議に出られないからなんです。教えていただいたのもグロリア教官からなんです」
グロリアは近衛女性騎士隊副隊長なので、こうした会議の護衛として参加しているので、発言権はないものの、内容は耳にできる、というわけである。
「なあ、どうして騎士隊副隊長を教官、って呼ぶんだい?」
「はい、それは、グロリア様が、見習い騎士の教導役を務めているからです」
「ああ、そうだった。あの時はごたごたしていたから聞き流していたらしい。ごめん」
「いえ、いいんです……って、落ちついている場合じゃないですよ!」
「いや、リシアこそ落ちついて。その試合についてもう少し詳しく教えてくれ」
「わ、わかりました」
リシアはすーはーすーはーと深呼吸をしてから再度語り始めた。
「先日ジンさん、工房の資材を使って王女殿下の『ティア』を修理しましたよね? あれがジャカー・ボッコーの気に障ったらしいんです。それで筆頭王国魔法工作士のデーナン・コナルが出てきたんですよ」
「はあ?」
関連性がわからない仁は、頭に疑問符を浮かべた。
「ええとですね、殿下の『ティア』は我が国伝来の『古代遺物』なんです。それゆえに誰も直せなかったんですよ」
「なるほど」
「それをジンさんがあっさり直してしまったでしょう? だからおそらく王国魔法工作士たちの妬みと反感を買ったんです」
「ははあ……やっぱりそういうのってあるんだな……」
昨日、ちょっとだけ思っていたことが現実になったことを仁は知った。
ブラック企業時代、仁もそれに似た場面に遭遇したことがあった。
派遣会社から来た派遣社員だったのだが、古参の社員よりも仕事が早く確実。つまり能力が上だったのだ。
その派遣社員を古参の社員たちは歓迎するどころかいびったのである。
食堂は本社員が使う場所なので派遣社員は出ていけ、というのが一番陰湿だった。
それ以外にも、その彼に聞かれても『よくわからない』『今忙しい』『他の奴に聞いてくれ』などとのらりくらりと躱す。
そのためにその派遣社員はわざわざ部署の上の方に確認に行くこともしばしば。当然席は不在となる。
そんな時を見はからって、直近の上司に告げ口するわけだ。『あいつは席を外してばかりいる』と。
その結果、その派遣社員は数ヵ月でお払い箱になった。
その後釜に収まったのは、口の上手い、だが実務能力はからっきしの無能。
仁はまだ新入社員であり、彼の指導員になった先輩が、『こういう時は見て見ぬふりをするんだ』といっていたことを思い出す。
さらに部署も違うので、何も口出しできなかったのが辛かった。
このことは仁の人生において悔いを残す出来事の1つである。
出る杭は打たれる、という。
だが仁という名の杭は、打った槌の方が壊れる杭なのを誰も知らない。
「まあ、いいじゃないか。面白そうだし」
であるから、仁の口から出た言葉はリシアの予想の上を行っていた。
「ジンさん……」
「というか、断れないんだろう? 国王様のお声掛かりじゃ」
「そう……なんですけど……」
なんとなく不安そうなリシアである。
「で、いつ?」
「今日の午後1時からなんですけど」
「あと3時間くらいか」
「はい」
「試合の内容は?」
「ええと……」
単純に徒競争と格闘のはず、とリシアは答えた。
「でも、もしかしたら何か……罠、とはいいませんが、なにか落とし穴的なことを考えているかもしれません」
「それじゃあ、そのぽこじゃかとかいう人と……なんでこーなるという人について、もう少し詳しく教えてくれないか?」
「ええと、ジャカー・ボッコーとデーナン・コナルです……。で、ジャカー・ボッコーは昨日お会いになりましたよね。怒りっぽくて尊大な人ですが腕はいいです。デーナン・コナルはワルター伯爵の奥さんの弟でして……その……」
言いづらそうなリシアを見て、仁は事情を察した。
「ああ、なんとなくわかったからもういいよ」
前の会社もそうだったが、この国の中枢にもいい人悪い人が、それぞれいるのだな、と仁は察したのである。
「それじゃあゴンの様子を見に行くとするか」
「あ、お伴します」
実際は、リシアに付いていてもらわないと、仁が王城内で動ける範囲が極々限られているのだ。
ゴンは王城の前庭から中へは入れてもらえなかったので、そのままそこで立ち続けていた。
「ゴン、待たせたな」
「イイエ、マスター」
「整備するから横になれ」
「ハイ」
仁の命令に応じ、ゴンは地面に横たわった。そのゴンを、仁は確認していく。
「うーん、少し鎧部分の関節のクリアランスが大きくなっているな。『変形』」
微妙な調整も1発で決めていく仁である。
「ええと、素材がまだ来ていないから、強化に留めておくしかないな」
『ゴン』と、カイナ村に残してきた『ゲン』は、元々は正体不明の者が送り込んだゴーレムである。
その構造は『魔石』に鎧を着せたもの、といえる。
単純だけに奥が深い。
仁は持てる技術を駆使してゴンの性能アップを行うことにした。
礼子が転移門を持って来てくれれば、軽銀だろうがアダマンタイトだろうが使いたい放題なのだが、今は仕方がない。
「『硬化』『強靱化』『還元』」
外装である鎧の強度を増加させ、錆を除去する仁。
「あとは動作のパワーアップか。『不均質化』『純化』『強靱化』『強化』『強化』」
内部は魔石。その動作部分、つまり関節周辺の品質を向上させ、強化を行うことで性能アップを図る仁。
一連の処理により、ゴンの性能は今までの2倍にまでなんとかアップさせることができた。
「こんなものか。今の素材じゃあこれが限度だな」
これ以上の性能アップを望むなら、素材や構造を変える必要がある。
「あとはリミッターを掛けておくか」
常にフルパワーでは消耗が激しいので、通常は30パーセントくらいで動作するよう、仁は命令を追加していった。
「すごい……」
仁がそんなことをやっている横では、リシアが目を丸くし続けていたのであった。
そんな仁に声が掛けられた。
「ジン・ニドー殿でいらっしゃいますね?」
貴族の近習、といった格好した男である。
「え? はい。俺がジン・ニドーです」
「国王陛下がお呼びでございます。いらして下さい」
「わかりました。ゴン、『起きろ』」
「はい、マスター」
「うわっ!」
ゴンが身体を起こしただけなのに、その近習は驚いてひっくり返っていた。
「大丈夫ですか?」
リシアが心配そうに声を掛けると、近習は逃げるように走り去っていったのである。
「ああ思い出しました。あの者はジャカー・ボッコーの近習です。偵察も兼ねているんでしょうか」
「だとしても何もわかるわけはないさ」
仁はそう言ったあと、ゴンに命令をする。
「ゴン、ここで待て」
「はい、マスター」
仁が念入りに調整したので、喋り方もかなり流暢になっていた。
そして仁は念のため追加で指示を出した。
「ああ……そうだ、もし危害を加えられそうになったら逃げろ」
「はい、わかりました」
* * *
「ジン・ニドー、参りました」
「おお、よく来た」
仁がリシアと共に執務室へ行くと、クライン王国国王アロイス三世だけではなく、リースヒェン王女もいて、仁を歓迎した。
「ジン、聞いたかと思うが、本日午後、そなたのゴーレムと、我が国のゴーレムとを競わせる話が出ておる」
リースヒェン王女が口を開いた。
「はい、聞いております」
「うむ、そうか。本日午後2時より、王宮裏の練兵場にて競技を行う。……リシア、そちは場所を知っておるな?」
「は、はい」
「ならばそちがジンとジンのゴーレムを案内せよ」
「承りましてございます」
「期待しておるぞ」
最後にアロイス三世が一言告げ、謁見は終了となった。
「……はあ、大変ですね」
執務室を出るや否やリシアが溜め息を漏らす。
「ん? なんで?」
「だ、だって、国王陛下直々の命で行われる試合なんですよ!?」
いわゆる御前試合、というもの。
望んでも出られない者が大勢いるというのに、仁は望まないのに出ることになったわけだ。
「そういうものなのか……」
今一つ、仁にはピンと来ない。それも致し方なし、価値観がまだまだ地球にいた頃のままだからだ。
社長の前で、はさすがになかったが、部長の前で出張報告などをしたことは何度かあるので、その延長くらいに考えている仁であった。
* * *
そして、昼食を済ませ、仁はゴンを連れに行く。今回もリシアが一緒だ。
そこにリースヒェン王女もやって来る。グロリアが護衛をしていた。
「おお、ジンではないか。これから試合場へ行くのか?」
「はい、殿下。ゴーレムのゴンを連れに行くところです」
仁がそう答えると、リースヒェン王女は目を輝かせた。
「ジンのゴーレムか。見てみたいのう」
「殿下、試合場で見られると思いますよ?」
リシアが言うが、リースヒェンは取り合わない。
「いや、今すぐ見たいのじゃ!」
活発なリースヒェン王女は、仁とリシアに付いて行くと言い出した。
「殿下……仕方ないですね」
よくあることなのか、護衛の近衛騎士グロリアは小さく溜め息をついたがリースヒェンを止めることはしなかった。
ということで、リースヒェン王女とグロリアも仁とリシアに付いてくることとなった。
「そうじゃジン、『ティア』じゃが、とても調子がいいと言うておったぞ。改めて感謝する」
「それは技術者冥利に尽きます」
そんな会話をしながら一行は前庭へと向かった。
そして仁は、元の場所にゴンがいないことに気がついた。
「ゴン!」
仁が呼ぶと、
「はい、マスター」
答える声がしたかと思うと、地面が盛り上がってゴンが現れた。
「な、なんじゃ!?」
「ジン殿、これが貴殿のゴーレムなのですか? なぜに地中に?」
リースヒェンとグロリアは、地中から現れたゴンに度肝を抜かれたらしい。
が、仁は仁で、それなりに驚いていた。
「ゴン、いったいどうしたんだ?」
「はい、マスター。30分ほど前に、魔法による攻撃が飛んできましたので、地中に逃げておりました」
「そうか。それはよく判断したな」
何か破壊工作を仕掛けてくるかもしれないと思った仁の予想は当たったようだ。
「『浄化』」
仁はゴンについた泥汚れを魔法で落とした。
「魔法を放った相手はどんな奴か確認できたか?」
「申し訳ありません。確認できませんでした」
「そうだろうな……」
汚い手を平気で使おうとする相手であるから、そう簡単に尻尾を掴ませるようなことはしないだろう、と仁は思った。
「よし、行くぞゴン。付いて来い」
「はい」
この場にはリースヒェン王女とグロリアがいる。さすがに何も仕掛けては来ないだろうと考え、仁はそのまま王城裏手へと続く小径を辿っていく。
「の、のうジン、先程の話はまことか?」
リースヒェンも気になったらしく、仁の横に並ぶと、質問をしてきた。
「どうでしょう。あの場に魔法の痕跡は残っていませんでした。ですので証拠がありません」
ゴーレムや自動人形の証言は参考程度にしか受け入れられないのがこの世界の常識である。これは事前にリシアから聞いていた。
「うむう……妾としては城内でそのような行為が行われたことを嘆きたいのじゃが」
証拠がなくては糾明もできぬ、と少し残念そうな顔をする王女であった。
* * *
歩いて10分ほど。
王城の裏手にある練兵場に仁たちはやって来た。
「人がいっぱいいるな」
「城勤めの者たちや非番の兵士、騎士たちもいますね」
「王女殿下、陛下はあちらです。さ、参りましょう」
グロリアは一段高い場所に陣取る国王アロイス三世を見つけると、そこへ向かうようリースヒェンを促した。
「うむ、わかった。……ジン、それでは健闘を祈る」
「ありがとうございます」
公式とは言え一般公開するようなものではないので、司会や解説者といった者はいない。
いるのは進行役兼審判の騎士だ。
「あれって……騎士団長です」
リシアの言うところでは、ベルナルド・ネフラ・フォスターといい、第2騎士団団長で子爵なのだという。
焦茶色の髪、薄い茶色の瞳。180センチ、72キロという引き締まった体躯をしている。年齢は39歳だそうだ。
「よく知っているな」
仁が感心すると、リシアは少し困った様に微笑んだ。
「ええと、ベルナルド様は独身でして、女性騎士の方々が奥方の座を狙っているんです。そのため噂でいろいろな情報が……」
「ああ、なるほど」
仁も納得する話であったし、今はそれ以上聞いている時間もない。
目の前にそのベルナルド第2騎士団団長がやって来たからだ。
「ジン・ニドー殿だな?」
「はい」
「そしてそちらがジン殿のゴーレムでよいか?」
「はい」
「わかった。それではこれより試合を開始する。こちらへ来てもらおう」
リシアはその場に残り、ベルナルドに促された仁とゴンだけが練兵場へと向かった。
そこにはデーナン・コナルらしき男と彼のゴーレムが待っていた。
そのゴーレムはゴンよりも一回り大きく、ごつかった。
「ジン殿か。デーナン・コナルという」
「ジン・ニドーです」
簡単に挨拶を交わす仁とデーナン・コナル。
デーナン・コナルは仁とゴンを見てにやりと笑ったが、仁は無表情でそれに応えた。
それがまたデーナンの気に障ったらしく、彼は少し顔を赤らめ、何か言おうとする……が、その時。
進行役兼審判のベルナルド第2騎士団団長が国王の座る壇に向かって宣言した。
「これより、ゴーレム同士の試合を開始致します!」
国王アロイス三世は無言で頷いた。それを見たベルナルドは仁とデーナンに向き直った。
「第一の競技は徒競争とする。ここから練兵場の向こう端まで行って戻って来てもらおう。向こう端には重さ100キロほどの錘が置かれているから、それを担いで戻ってくるように」
行きは空身、帰りは100キロの負荷付き、ということになる。
「わかりました」
「了解です」
仁とデーナンは頷いた。
「よし。それでは5分与える。双方準備に掛かれ」
お読みいただきありがとうございます。
20170104 修正
(誤)「はい、それは、グロリア様が、見習い騎士の教導役を務めているからです。……って、落ちついている場合じゃないですよ!」
(正)「はい、それは、グロリア様が、見習い騎士の教導役を務めているからです」
「ああ、そうだった。あの時はごたごたしていたから聞き流していたらしい。ごめん」
「いえ、いいんです……って、落ちついている場合じゃないですよ!」