序章1
大降りの雨の中、郊外の住宅外の路地裏に一人の少年が立っている。全身が血にまみれ、もはや何も見えてはいないだろう。
だが、目を引き付けるのは、彼を染める赤色だけでは無い。
その手には、身体を染めているモノと同じ色をした日本刀が、握られていた。
凶器を持った彼の先には、彼や刀と同じく、血に塗られた一人の少女が倒れていた。
道の行き止まり。塀にその背を預け、目を閉じている。死んではいないようだ。彼は、最後の気力を振り絞り、彼女をここまで追い詰めた。
だが、少年と刀、少女を染め上げる血液は、全て少年だけのものだ。少女は気を失いこそすれ、一滴も血を流していない。
雨が血を洗い流していく。失血とともに、雨は体温を奪い、少年は膝をついた。
もう腕も足も動かない。血は流れ続けているのに、全身の神経は燃えるように熱い。
「俺は……此処で死ぬのか?」
口から呟きが漏れる。死ぬのは御免だ。死ねば誰かが悲しむことは、彼自身、一番良く知っていた。母、クラスメイト、供に戦う仲間達。残された者が、どれほど悲しむかを知っていた。
そして、目の前の彼女がどれだけ負い目を感じるかも想像に難くない。
自分が死んだら、彼女はどうなる?
自身でも扱えない力を持て余し、取り返しのつかないことになるかもしれない。
死ぬわけにはいかない。自分のため。家族のため。友人や仲間のため。
そして、目の前の彼女のために――。
頭の中がぼんやりとしてきた。身体の表面を襲う寒さと、神経の燃えるような熱さで、頭がおかしくなりそうだ。
「想定の範囲外の戦果。勝利とは言え、貴方がそこまで追い込まれることは、予想出来なかった」
後ろから声がした。振り返ると、白衣を着た、背の低い少女が立っている。
声の主の後ろには、大勢の人間と多数の車両が並び、巨大なライトを携え、こちらの方を照らしていた。
「救急隊は二人を即座に搬送。処理班もすぐに現場の洗浄を開始。私は戦闘の痕跡の調査に入る」
呼びかけられた各々が、了解、と返答し、行動に移り始める。白衣の少女は、救急隊に運ばれる少年に近づき、少しだけ悲しそうな目をした後、別の救急隊に運ばれていた少女の方へと向かって行った。
少年は救急車に乗せられ、後部の扉が閉められる音を聞くと同時に目を閉じた。
彼の記憶はここで一度途切れる。