入学式
春うらら。桜の咲き誇る中東雲学院の正門では入学式を終えた少年少女達や、長い休みの後であったクラスメート達と話に花を咲かせている生徒達で沸き立っていた。
そんな中、人込みを離れて一人桜を見つめる少女がいた。まっすぐの黒髪と白い肌、切れ長の目。日本人形のような彼女は、今時珍しい和風少女ということも相まってか、どこか独特の雰囲気を持っていた。
「お姉ちゃん!」
誰かが彼女に呼びかけた。振り返ると誰かがが和風少女の方に歩いてくるのが見えた。
「茉莉香、堯。」
茉莉香と呼ばれた少女はすらりとした長い足、茶色のふわふわとした髪、ぱっちりとした瞳の美少女だった。
堯と呼ばれた青年は広い肩幅、高い背、きりりとした眉、涼しい目元が印象的な好青年だ。
「やっぱり齋姉さんはここだったか。」
「もう、お姉ちゃんたらすぐ消えちゃうんだから。」
茉莉香が頬を膨らませて姉の齋を睨む。いくつになっても変わらないふくれっ面に思わず小さく笑うと、
妹はムッと唇を尖らせた。
「もう、こっちは一生懸命探してたんだから。」
「まあまあ、無事見つかったことだし。齋姉さん、母さん達が一緒に寿司でも食いに行こうって言いだし
てさ。探してたんだ。」
「ああ、そうだったの。それは御苦労さま。」
ちらりと妹に目を戻すとまだ膨れている。ふらふら桜を見に来た自分をわざわざ探しに来てくれたのだ。機嫌を直しておこう。そこで齋はとっておきの台詞を言った。
「わざわざ探しに来てくれてありがとう。茉莉香、後で帰ったらお祝いのケーキをあげるから許してちょうだいな。」
「本当!?」
さっとふくれっ面が笑顔に変わる。
「ええ、本当よ。勿論堯もうちにいらっしゃい。貴方の好きなザッハトルテも作ってあるわ。」
羨ましそうな顔をした幼馴染にも声をかける。
「本当?俺の分も作ってくれたの?」
「勿論よ。貴方は弟みたいなものだし、貴方も妹も私は大切に思ってるわ。」
「お姉ちゃん、愛してる!」
茉莉香が抱きついてくる。すっかり機嫌を直したらしい。昔と変わらない食いしん坊だ。
「愛してるのは私よりケーキなんじゃない?」
「そんなことないよ。お姉ちゃんがいないとケーキが食べられないもん!」
(それはケーキがあるから私が大事って聞こえるわよ。)
苦笑いすると、あわてて堯が話題を変える。
「まあまあ、それより早く母さん達の所に行きましょう。きっと待ってますよ。」
「そうね。お姉ちゃん、行こう。」
ぐいぐいと茉莉香が手を引っ張る。
(せっかく美人なのにこういうところは昔から変わらないわね。-可愛いけど。)
三人が連れだって門をくぐった。
―去っていく三人の姿を離れたところから見つめる人影があった。
「―あれが攻略対象の稲垣堯か。隣にいた美少女は呉竹茉莉香だろうな。あと一人は―誰だ?」
妙な呟きは周囲の騒音に紛れ、誰にも聞こえなかった。