041 『クラス対抗魔法戦争・解決編②』
ああ辛い 夏の宿題 まじ鬼畜
「……はぁ」
あたしは、学校の屋上から沈みかけている夕日を眺め大きく溜息を吐く。普段ならもう帰ってだらだらしている時間なのに、なぜ学校の屋上にいるのかというと。
「……はぁぁぁ」
さっきの溜息を遥かに上回る大きなため息を吐く。
一昨日、あたしが体調を悪くした事が原因で起こった保健室での事件だ。あの日以来、あたしは白夜に話しかけ辛くなっていた。
いや、話しかけ辛くなったなんてものじゃない。
目すら合わせられないのだ。
白夜の方は気まずそうにはしているけど、必死であたしとのこの空気をなんとかしようとしてくれている。そのこと自体は嬉しいけど、あたしはまだ、白夜を見るだけで顔が爆発しそうな程熱くなってしまう。昨日は恥ずかし過ぎて頬がずっと紅潮しっぱなしだった。
そのせいか、今日は燃え尽きたみたいに真っ白だったけど……。
ビュッ、とキレのいい風が吹きあたしの髪を揺らしていく。
空はそろそろ暗みがかり、赤々と燃え盛る太陽が消えかけていた。
……仕方ない。
少し乱れてしまった髪を直しつつ、屋上の扉に向かう。
……ここで時間つぶしてても、どうせ部屋で会うんだし。まだ何日かは気まずい空気になるかもしれないけど、あたしも早く普段通り接することが出来る様に頑張らないと。
覚悟を決め、きぃ、と軋んだ音を立てる扉を開く。
ブワッ! 同時に背中に強い風が襲う。その風のせいで、扉が威勢よく閉まってしまう。
あたしはちょっと、むっとして風に文句を言いたくなるけど、言っても仕方のない事なのでもう一度扉を開くためノブに手を掛ける。
「メル!」
背後で、声がする。
その声に反射的に反応して、一気に後ろを振り返る。
そこには――――白夜が立っていた。
◇ ◇
「メル!」
扉を開けて屋上から出ようとしているメルを、間一髪で食い止める。
かなりギリギリだったな。
もしここまで魔法出来ていなかったら、既にメルはここに居なかっただろう。
メルは相変わらず俺の眼を見ずに、視線を少し下げて俺と目を合わせようとしない。
さて、ここからどう状況を変えていくか。
大和、ラルから受けた言葉を思い出す。
大和はどんなアドバイスくれたっけ……。
えっと、あ、人気のいない場所で飛びかかれ、か。
……。
よし、頼りなのはラルだけだな。
確かラルは、お菓子を渡して、ついでに謝る。って奴だったな。……よし。
「メル、えっと。なんて言えばいいか、よく分かんないんだが」
「とりあえず、ごめん!」
くいっ、と綺麗に90度曲げてお辞儀をする。
「変な噂あるって分かってたのに、あの保健室に連れてったりして。あと、その、は、裸見ちゃったし」
最後の部分だけ、ちょっと口をごにょごにょして話す。
「だから、ごめん!」
もう一度、深く、深くお辞儀をする。
20秒経っても、30秒経っても。
自分から頭を上げることはしない。
相手がもういい、と言うまでずっと頭を下げ続ける。
くすっ、と随分と久しぶりに感じる笑い声が耳に入る。
思わず頭を上げ、メルの表情を伺う。
笑顔だった。
それは、いままで見てきた中で一番、綺麗な笑顔。
にっこりと微笑んだまま、メルは口を開く。
「ごめんね、笑っちゃって。……でも、白夜がそんなに必死になってるところ見るの、初めてだったからさ」
そんなに可笑しかったのか、目元に涙さえ滲ませて笑う。
「……必死になってる所を笑われたっていうのは、ちょっと複雑だな」
いいながらも、笑う。
久しぶりに見せてくれた、といっても3日ぶりくらいだが、メルの笑顔をみて、つい笑みが零れる。
「ごめんごめん。……えっと、それでね」
謝って、急に静かになったかと思うと、足を交差させて、もじもじとし始める。
ん? なんなんだ。
「こ、こちらこそ、ごめんなさい!」
さっきの俺と同じくらい深々と頭を下げ、言葉を続ける。
「白夜が必死になって、あたしとの空気を直そうとしてるのに、ずっとそれに応えてあげられなくて、ごめん」
……それは、とても真剣な声で、いつものふざけた感じのメルは一切感じられず、本当に本心から言ってるんだな、と感じさせられる声だった。
そして俺はその声を聴いて、笑う。
「なんで笑うの!」
勢いよく頭を持ち上げ、オレを睨む。
「いや、メルが真面目なのって、似合わないなって」
「なにそれ! 失礼だよ!」
「メルも俺に必死になってる所がおかしいって言ったろ。お互い様だよ」
「むー」
そうやって、ふざけたやり取りをする中で、俺はあることに気付く。
メルの、その二つの眼が。
俺の眼を見ている事を。
ふ、と小さく笑ってから、右手に持つ袋をメルに差し出す。
「? なにこれ?」
「シフォンケーキだ。本当は、これ渡すついでに謝ろうとしたんだけどな、順番が逆になった」
綺麗にラッピングされたその袋を、メルは嬉しそうに眺めてから、そっと、まるで貴重なものを扱うような動作で袋を受け取った。
「それじゃ、帰ろうか」
俺はメルを両手で抱きかかえ、薄く笑う。それはもちろん、先程まで純粋な笑いではない。
「へ?」
メルは、顔を青くして固まる。
悪意に満ちた、もしくは。
イタズラ心満載の無邪気な笑みだ。
「振り落とされないようになっ! 飛行!」
ブォン!
強烈な風音と共に、今日何度目かの飛行を行った。
今回も安定の低クオリティでお送りしました。