039 『クラス対抗魔法戦争・相談編⑧』
遅れてまことに申し訳ない。テストだったんだ。まじでテスト滅びろおおお!
ラルグの核爆弾並の発言の後、俺はエプロンを付けてキッチンに立っていた。
別に、好きな料理をやって心を落ち着かせるわけでは無い。
キッチンにずらりと並んだ食材を眺め、微笑を浮かべてから図書室での出来事を思いかえす。
「それじゃあ、お菓子を作って渡して、ついでに謝るというのはどうでしょう! メルさん、甘いもの好きですし。それに、自然に謝れると思いますよ!」
自信満々な様子で、こんな意見を出してくる。
俺はなるほど、と唸る。
先程のとんでも発言はさておき、これはいい案だと思う。
お菓子を渡すという口実の元実行できるため、よく考えても中々に使える方法だった。
俺は二つ返事で、
「それでいこう」
と言い、現在に至る。
「んー……ちょっと買いすぎちゃいましたかね?」
隣でピンク色のエプロンを身に着けた、小柄な少女が眉を寄せる。
「ちょっと多すぎるくらいでいいんじゃないか? 足りなくなるよりマシだろ」
「そうなんですが、なんせメルさんですし……」
「あー」
と、俺は妙に納得してしまう。
メルというのは、そんなんで足りるのか、と言いたくなるほど少食な人間なのだ。
いつも寮のご飯は、茶わん一杯分の米も食えないし、ソフトクリーム1本で完全にダウン。ただただ胃が弱いだけなのか、それとも胃が小さすぎるのか。それは俺には分からないが、ともかくメルは全然食べ物を食べない。いや、食べられない、の方が正しいかもしれない。
そんなメルに、今から作ろうとしているお菓子。シフォンケーキが全部食べきれるとは、到底思えない。思わないが……メルなら無理してでも全部食べそうで怖いんだよなぁ。
……まあ、適量が分からないし、余ったら皆で食べたらいいか。
そんなことを適当に頭で考え、テキパキとケーキ作りの準備をしながらラルグに言う。
「余ったら皆で食べたらいいだろ。ぱーっとお茶会でもやろうぜ」
「お茶会、ですか。いいですね! 皆でお茶会。それじゃ紅茶も準備しとかないとですね」
ラルグがにこっ、と可愛らしく微笑む。
その笑顔を見て少々照れくさくなりながらも、ケーキ作りを開始した。
◇ ◇
「完……成!」
時計についていたアラーム機能がピピピ、と音を鳴らしケーキの完成を伝える。
俺は慎重にオーブンを開け、ミトンを付けてからケーキを取り出す。
「形は、悪くありませんね」
出来上がったものを一瞥し、ラルグが真剣なまなざしで言う。
「あぁ」
俺もそれに真面目に返し、形を崩さないようにゆっくりと丁寧にケーキを切り取る。
2枚切り取った後に、ラルグに一枚。自分も一つ手に取った後、同時に噛り付く。
最初にスポンジ自体のふわふわな食感、そしてドライフルーツの甘味と酸味。最後に隠し味にいれた紅茶の風味が口の中に広がった。
一瞬の沈黙。
そして、
『美味しい!』
二人同時にガッツポーズを取り、ハイタッチをする。
時間は作り始めた時刻から3時間も過ぎており、キッチンには使われた食材が散乱している。これはケーキにアレンジをしようと試行錯誤をした結果だ。最終的には紅茶を使ったのだが、その発想に至るまでに結構な時間を消費したのだ。
だが、時間をかけたかいもあり、俺もラルグも満足のいく味に仕上がった。
満足そうに額の汗を拭うラルグを横目で伺い、きっちり向き直ってお礼を言う。
「ありがとな、ラルグ。お前が居なかったらこんないいアイディア出なかったよ。今度また、一緒に料理作ろうな!」
「へ? あ、いえいえそんな! 別に大したことはしてないですよ! だから頭なんて下げないで!」
突然俺が頭を下げたのに驚いたのか、ラルグが慌てて俺の頭を上げさせる。
ここで意固地になって下げ続けてもラルグは困るだろうから、素直に頭を上げる。
すると、ラルグがもじもじと足を交差させながら、両手で顔を隠していた。指の合間から覗く頬を赤みを帯びている。顔を隠した状態のまま、ラルグは何とか聞こえるか程の小さな声で言った。
「また、一緒に料理作りましょうね」
「……」
「も、もちろん嫌でしたら嫌って言ってくださいね!」
俺は、一度苦笑してからラルグに言った。
「あぁ、また一緒に料理作ろうな。ラル」
俺の言葉にラルは子犬みたいな無邪気な笑みを零し、また頬を赤らめた。
「はい! 白夜……君」
ちと短め? かな。でもまあ、話はまとまったかな。