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白の魔法使い  作者:
第2章 1学期
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023 『クラス対抗魔法戦争・寮の夜編②』

やってしまった、後悔はしている。

反省もしている。



「ぜぁッ! はぁ、くぁッ!」

 背中にメルを背負ったまま、目の前の壁に手を着く。荒い呼吸を収めるように肩を上下に動かし、一度大きく息を吐く。


 ……流石に限界だったか。普通なら走って10分はかかるところを2分で飛ばして来たんだもんな。そりゃ魔力も尽きるわ。


 後ろからツンツンと背中を小突かれる。身体全体を動かす気力は無く、首だけを傾ける。


「大丈夫? だいぶ飛ばしてたみたいだけど……」

 心配そうな雰囲気が、声音からも伝わってくる。これ以上休んでいると、また心配をかけてしまうだけなので、無理やり笑顔を作り出す。

「大丈夫だって。すぐに部屋いって手当してやるから、お前は自分の心配しとけ」


「う……うん」

 どこか納得いかなそうに口ごもるが、そんなものは関係無しで赤い絨毯の廊下を歩く。一歩歩くごとに、ぼすっと音を立てながら足が絨毯に吸い込まれる。今までは特に気にしたこと無かったけど、これは相当高い物なのかもしれない。歩いていても、全く体に振動が来ないのは下の絨毯のおかげだろう。

 ちょっと楽しくなってスピードを上げて歩きはじめる。


 ぼすっ、ぼすっ。と軽快なリズムを刻みながら、目的地に向かった。




 実は調子に乗りすぎて、自室を過ぎて行ってしまったのだが、それは余談である。






 ◇ ◇



「いたっ!」


「す、すまん! 痛かったか? もうちょっと包帯の巻き方変えた方が良いか……」

 メルの足を覆っていた包帯を一度巻き取る。

 腫れはだいぶ収まってきているが、代わりにかなり痛むらしい。さっきからずっとメルは涙目だ。その姿を可愛い、と思ってしまった自分を慌てて頭から追い出して包帯を巻くことに集中する。

 本当なら保健室に行きたいところだが、メルはそこまで大事にしたくないらしく、包帯を巻くだけでいいと言ってきたのだ。


「よし、これでどうだ」

 自分の中では完璧に出来たと実感し、無駄な達成感を覚える。


「ちょっとぶかぶかな気がするけど、うん。ちょうどいい感じかも」

 上機嫌そうに両足を空で振り回し、大丈夫な事をアピールしてくる。とりあえずよかった、とため息を吐く。

 すると、なぜかいきなりメルの表情が小さく曇った。

 何かを考えるような、悩んでいるような、そんな感じ。

 どうかしたか? と聞くのをなぜか躊躇ってしまうような、微妙な雰囲気が漂っていた。


「ね、白夜」

 数秒の無言が続いた後、ふとメルが口を開ける。


「今日……楽しかった?」

 あまりにも簡単で、率直な質問。メルはある答えを願っているかのようにこちらを見つめる。親の反応を伺う子供のように、瞳に不安の色を浮かべてじっとこっちを見つめる。


 正面からまじまじと見つめられて、ちょっと照れる。

 俺は慌ててそっぽを向き、メルを視界から外す。メルはむっと顔をしかめ、俺の顔を追うように身体全体を近づけてきた。

 微妙に肌が触れ合い、妙に意識してしまい柄にもなく顔全体を赤面させる。


「ねえ、聞いてるの? 今日の買い物、楽しかった?」

 いつにも増して執念深く、何度も聴いてくる。


「……なんでそんなの聞くのかはわかんないけど、楽しかったよ」


「どれくらい!? 料理するより楽しかった!?」

 息がかかるくらい近くに顔を寄せられる。

 まずい、もう限界っぽい。

 そろそろ、理性が……。



「あー、楽しかった! 楽しかったから早く離れてくれ! ……恥ずかしい」

 出来るだけ早くどいてもらうために、適当に返事をする。

 俺の言葉を聞いた瞬間にメルは光り輝く宝石のように眼を輝かせ、俺に抱き着いてきた。

 女の子特有の感覚が直に伝わってくる。


 もはや恥ずかしい、を通り越して言葉も出てこない。抜け出そうと軽く抵抗するが、半端ない力で抑えられいるから動かすこともままならない。


 それでも関係無しで、メルは嬉しそうに俺を抱きしめる。なぜか無駄に上機嫌だ……。


「ど、どうしたんだよ」

 なんとか声を絞り出し、尋ねる。


「いーや、なんでもなーい」

 そこでようやく身体を解放される。

 バクバクと高鳴る心臓をゆっくりと宥める。


 メルはいまだにハイテンションのまま、遂には鼻歌まで歌い始める。



 お前は酔っぱらいかよ……。


 頬も微かに上気して、制服もかなり乱れている。

 ふいに、俺の制服からレシートが落ちる。


 ブドウワインソフトクリーム 298円


「げっ!」


ブドウの方だけに目が行って、下の文字を見ていなかった。


横目でメルを眺める。


「へへへ、ふふ。こっちのほうが楽しいんだってぇ」

傍に落ちていた時計に話しかける姿が見える。

……これはまずい。


本格的にまずい。


今頃になって酔ってる理由はわからないが、かなりベロンベロンだ。


「あ、あのー。メル……さん?」


「うにゃ?」

もはや人間語じゃない。


「あんまり動きすぎると、足が――」


「にぅぅぅぁぁ!」

いきなり奇声を発して、メルはまた俺に抱き着いてきた。

……どうやら、本格的に頭がいってしまったらしい。


やっぱ終わらせ方が難しいです。


感想ばんばんお待ちしております。

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