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白の魔法使い  作者:
第2章 1学期
12/51

009 『絶望の氷』

夜桜先生。レビューありがとうございましたm(__)m


今回は恋愛っぽい描写に挑戦。

「おーい。メル帰ったぞぉー」


 俺はかさかさと音を立てる小さな袋を片手に一気に廊下を走り抜けると自室の扉を開け、同時に少し声を荒げて叫んだ。


「おーい。帰ったぞー」


 返事が無い……寝てるのか、もしかしたら無理やり休ませたことをまだ拗ねているのかもしれない。少し躊躇ってから、ここに居てもしょうがないとという結論になり、部屋に足を踏み入れた。

 室内は異常に暗く、雰囲気まで淀んで感じた。いつもは風になびいて涼しげな印象があるカーテンは完全に締め切られ、電気もつけていない、その中にぽつんとメルがベッドの上に座っていた。


 何やってんだ、と聞こうとして俺は途中で言葉を止めた。


 震えていたのだ。両腕で膝を抱え、不安そうに泣く子供の様に。


「おい! メル、しっかりしろ!」


 耳元で叫んでも、反応がない、ずっと虚ろな瞳のまま呪文のように何度も何度も同じ言葉を呟いている、《怖い》と。

 暗闇に照らされた顔は、いつもの元気な表情は無く、少し風が吹いただけでどこかへ消えてしまうような、そんな儚さがあった。

 肌は氷のように冷たく、もう死んでるんじゃないか、という考えさえ沸いてくる。


 気付いた時には、その体を温める様に、俺はメルの体を抱きしめた。


 自分でもなんでこんなことをしたのかは分からない、普通なら先生を呼んできたほうが良かったかもしれない。

 でも、その呼びに行く少しの時間で、《あの人の様に》消えてしまいそうで、不安になって、気がついたらメルのことを抱きしめていた。


 メルの頭を無理やり自分の胸にうずめこませ、冷え切ったその身体に両腕を回し、出来るだけ肌を自分の体に密着させた。


 絶望という氷を、少しずつ溶かしていくように。









 メルside


 怖い。


 怖い怖い。


 怖い怖い怖い。


 あの子のことは何も知らない。


 でも、知ってる。


 頭では覚えていなくても。


 心は覚えている。


 なんで怖いかは分からない。


 でも、


 怖い。


 無邪気に笑うあの子が。


 狂った笑みをみせるあの子が。


 怖い。


 あたしは、あの場所を知っている。


 青々と茂る草原。


 そして、


 あの炎の色も。


 怖い。


 もう、これ以上思い出したくない。



 その時、深い闇の中を、一筋の光が差し込んだ気がした。


 急に体がぽかぽかとあったかくなっていくのを感じた。


 いや、


 体だけじゃない


 心からあっためてくれている。


 とても、心地がいい。


 このままで、いて欲しい。


 ずっと、守ってほしい。









 そのまま、どれだけ抱きしめていたかは分からない。

 先程とは変わって規則正しい寝音を聞かせているのが聞こえ、俺はほっとしてメルの顔を見た。

 泣きつかれた幼子の様にぐっすりと眠っている。ずっとこのまま向き合うのは流石に恥ずかしいので、起こさないようにベッドに寝かせようと思ったが、メルの両腕ががっしりと俺の背中に回っているのに気づき、苦笑する。


「これ……どうしよう」


 一人で呟いてから、玄関を開けっぱなしだったことを思い出し、どうやっていくかを悩んでいるところを不意に聞こえたガタン、という音に遮られクルリと後ろを振り向いた。


 音の発生源の方向を振り向くと、柄にもなく顔を真っ赤にしている大和がこっちをがん見していた。


「どうした大和。何か用か?」


「…………お邪魔しました」


 音速――――といっても過言ではないようなスピードで消え去った大和を「なんだったんだ?」の一言で軽く流しながら、小さく肩を落とす。

 ……待て。

 今の俺たちの格好をもう一度考えろ。

 ベッドの上、部屋のカーテンを閉め切っている、そして、抱きしめあっている……。


 あ、普通にだめだ!


「大和! ちょっと待て! これには事情が!」

 気が動転してつい大声を出してしまった俺は慌てて口をつぐんだ。

(ここで大声を出すのはヤバい!)

 この状況を大和に見られた時点でもうかなりヤバいが、今メルが起きてしまったら大惨事になる。それだけは死守しなければいけない。


 が、そんな俺の願いもむなしくメルは「ふぁ~ぁ」と小さくあくびをすると、だらしがない顔で俺を見つめ、そして固まった。

パチパチと2回ほど瞬きをしたかと思うと、耳まで顔を真っ赤に染め、プシューっ! という音を立てながらまたコテンと倒れこんだ。


「まて、メルもう寝るな。まってくれ、言い訳をさせてくれぇぇぇぇぇ!」

 静かな部屋に俺の絶叫が木霊した。





アドバイス、お待ちしております。

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