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氷の追放令嬢、死神辺境伯の熱に溶かされて幸せになります ~捨てられた聖女の調和魔法で、極北の地を宝石の都へ~  作者: 花菱エマ


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第9話:不遜な使者と、辺境伯の冷徹な宣戦布告

ノースウォール城の謁見の間に、不釣り合いな「熱」が持ち込まれた。


 王都からやってきた使者、バロウ子爵。

 彼は毛皮の外套を羽織りながらも、寒さに顔を青ざめさせ、それでいて鼻持ちならない傲慢さを隠そうともせずに立っていた。


「……辺境伯。王太子殿下からの寛大なるお言葉を預かって参った。速やかにエルシア嬢を引き渡してもらおうか」


 その言葉が発せられた瞬間、謁見の間の空気が文字通り「凍りついた」。


 上座の椅子に座るカイルム様の周囲で、パキパキと空間がひび割れるような音が響く。

 カイルム様は、隣に座る私の肩を抱き寄せ、その大きな手で私を包み込むように守りながら、氷の刃のような視線を使者に向けた。


「引き渡す……? 聞き捨てならないな。彼女はこの領地の、そして私の、かけがえのない妻だ。モノのように扱う言葉を、二度と私の前で口にするな」


「ふん、妻だと? 殿下のお慈悲で預けてやっただけの女ではないか。……おい、エルシア。いつまでもそんな男の隣に座っているのではない。殿下が『特別に』許してくださるそうだ。感謝して王都へ戻り、庭園を冷やす仕事に励め。お前のような役立たずには、それが唯一の存在意義だろう?」


 使者の言葉に、私は思わず身を竦ませた。

 「役立たず」「不浄」「道具」。

 王都で浴びせられ続けた呪いの言葉が、再び私の心を縛ろうとする。


(……怖い。また、あの熱くて苦しい場所へ戻らなければならないの……?)


 私の指先が、目に見えて震え始める。

 けれどその時、肩に置かれたカイルム様の手から、火傷しそうなほどの強い熱が伝わってきた。


「……エルシア、顔を上げなさい」


 耳元で囁かれる、深く、揺るぎない声。

 カイルム様は私を力強く抱き寄せ、私の震える手を自分の唇に寄せた。


「……私の誇り高き女神を、誰が役立たずだと?」


 彼がそう口にした瞬間、バロウ子爵の足元から巨大な氷の棘が噴き出した。

 棘は子爵の喉元わずか数センチのところで止まり、鋭い先端がその贅肉のついた喉を威嚇している。


「ひ、ひいぃっ!?」


「バロウ子爵。君たちは、一つ大きな勘違いをしているようだ。エルシアは、王都の使い捨ての道具ではない。このノースウォール領を、そして私の凍てついた心を救ってくれた、世界で最も尊い女性だ」


 カイルム様は立ち上がり、使者を見下ろした。

 その背中から溢れ出す魔圧は、王都の甘い貴族たちが生涯で一度も経験したことのない、本物の「死神」の重圧だった。


「王太子に伝えろ。『一度捨てた宝物に、二度と触れようとするな』と。もし彼女の髪一本でも傷つけようとするなら、このノースウォールの氷壁が、王都を永遠に閉ざす吹雪となるだろう」


「な、何を……そんな女一人のために、王家に弓を引くというのか!?」


「弓などではない。……これは、私の愛する者を守るための、当然の権利だ」


 カイルム様はそう言い切ると、私の頬を優しく撫で、そのまま領民たちの前で私の唇にそっと触れた。

 

 公衆の面前での、誓いの口づけ。

 それは、私がもう王都のエルシアではなく、ノースウォールのエルシアなのだと、世界に宣言する儀式だった。


「……エルシア。君はどうしたい? あの傲慢な男たちの元へ戻りたいか?」


 私は、カイルム様の燃えるような瞳を見つめ返した。

 私の心の中にあった最後の氷が、彼の勇気によって、カタルシスの涙へと変わっていく。


「……いいえ。私は、カイルム様の隣にいたいです。ここで、皆さんのために、私の力を使いたい。……使者の方、お帰りください。私は、もう二度と、あんな冷たい場所へは戻りません」


 初めて、自分の意志で言い放った拒絶の言葉。

 使者は顔を真っ赤にして地団駄を踏んだが、カイルム様の冷徹な視線に圧され、尻餅をついたまま逃げるように謁見の間を去っていった。


「……よく言ったな、エルシア」


 使者の姿が見えなくなると、カイルム様は私を力いっぱい抱きしめた。

 

「怖かっただろう。だが、もう大丈夫だ。君を傷つける者は、私が一人残らず、この地の底に埋めてやる」


「カイルム、様……」


 王都からの呼び出し。それは恐怖の始まりではなく、私が「自分の居場所」を確信するための、最後の一歩だった。

 カイルム様の胸の中で、私は初めて、自分の力と未来を誇らしく思うことができたのだった。

「一度捨てた宝物に、二度と触れようとするな」

カイルム閣下の、氷よりも冷たく、炎よりも熱い宣戦布告。

皆様の胸に、清々しい風が吹き抜けましたでしょうか。


自分の意志で「戻らない」と告げたエルシア様の、

少しだけ成長した横顔……。

愛されることで人はここまで強くなれるのだと、

私、筆を執りながら目頭が熱くなってしまいましたわ。


さて、追い返された使者が王都へ戻ったとき、

プライドをズタズタにされた王太子がどう動くのか。

そして、閣下の独占欲がさらに「暴走」する次のお話も……。


もし、この「ざまぁ」の序章にワクワクしてくださったなら、

ぜひ【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価で、

エルシア様の勇気を讃えてあげてください。


皆様の応援は、二人の絆をさらに強くし、

物語を最高のフィナーレへと導く光となります。

次回、第10話「独占欲の檻と、甘すぎるご褒美」でお会いしましょう。

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