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氷の追放令嬢、死神辺境伯の熱に溶かされて幸せになります ~捨てられた聖女の調和魔法で、極北の地を宝石の都へ~  作者: 花菱エマ


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第8話:枯れた庭園と、狂い出した王太子

王都ルミエールの象徴であった「紅蓮の薔薇」は、今や見る影もなかった。


 かつては情熱的な赤を誇っていた花弁は、内側から焼き切れたように黒く変色し、庭園全体に立ち込めるのは、花の香りではなく、植物が腐り焼ける不快な臭気だった。


「……あ、暑いですわ……リュシアン様。もう、耐えられません……」


 ベアトリスが、汗に塗れた顔を扇で仰ぎながら、力なく呟いた。

 彼女が自慢していた「陽炎」の加護は、この異常な熱気の前では何の意味もなさなかった。それどころか、彼女が魔力を使おうとするたびに、周囲の温度はさらに跳ね上がり、近くの侍女たちが熱中症で倒れる始末だった。


「黙れ! 私だって不快なのだ!」


 王太子リュシアンは、苛立ちを隠そうともせずに怒鳴り散らした。

 彼の「太陽」の加護は、今や制御不能な暴力となって彼自身の身を焼いていた。肌は赤く腫れ、どれだけ冷たい水を浴びても、心臓の奥から突き上げる熱は一向に引かない。


「……おかしい。なぜだ。エルシアを追い出した時は、あんなに晴れやかだったはずなのに……!」


 そこへ、青ざめた顔の宮廷魔導師が駆け込んできた。


「で、殿下! 大変です! 王都の地下を流れる魔力、その『冷却ライン』が完全に沈黙いたしました!」


「冷却ラインだと? そんなもの、私は知らん!」


「……エルシア様です! エルシア様が、日々、無意識のうちにその冷気を大地に注ぎ込み、王家の過剰な熱を鎮めておられたのです! 彼女がいなくなったことで、蓄積された熱が一気に噴出し、このままでは王都そのものが干上がり、炎上いたします!」


 魔導師の言葉に、リュシアンは凍りついたように(皮肉なことに、その心だけは)固まった。


「……なんだと? あのゴミのような女が、この国を守っていたというのか?」


「ゴミなどと! 彼女は、熱を奪うだけの不吉な娘ではありませんでした。荒ぶる太陽を宥め、調和をもたらす『氷の聖女』だったのです!」


 事実を突きつけられ、リュシアンの顔が屈辱で歪む。

 自分が「不浄」と呼んで追い出した女。

 「私の情熱を冷ます」と嘲笑った、あの冷たい指先。

 それこそが、自分たちが生き延びるために不可欠な、唯一の救いだったのだ。


「……リュシアン様、どうしましょう。このままでは、私たちが……」


 ベアトリスが縋り付くが、リュシアンはその手を乱暴に振り払った。


「決まっている! 呼び戻すのだ! あの女を、今すぐに!」


「えっ……? でも、あんなに酷いことを言って追い出したのに……」


「ふん、所詮は女だ。少し優しくしてやり、『お前の力が必要だ』と命じれば、泣いて喜んで戻ってくるに決まっている。あのエルシアが、私に逆らえるはずがない」


 リュシアンの瞳に、傲慢な光が戻る。

 彼はまだ、気づいていなかった。

 エルシアを「ゴミ溜め」と称して送り込んだノースウォール領が、今や世界で最も尊い「女神」を戴く聖域へと変わっていることに。

 そして、その女神を溺愛する「氷の死神」が、どれほど冷酷に侵入者を排除するかということに。


「おい、使者を出せ! ノースウォールへ向かい、エルシアに告げろ。『特別に許してやるから、今すぐ王都へ戻り、義務を果たせ』とな!」


 狂い出した王太子の命令が、熱風の中に響き渡る。

 その声を聞きながら、宮廷魔導師は密かに悟っていた。

 

 ――もう、遅い。

 一度手放した「救い」は、二度と彼らの元へは戻らない。

 王都ルミエールの栄光は、エルシアが去ったあの日、すでに灰になっていたのだと。


 一方、そんな混乱など微塵も感じさせない、北の地では。


「……エルシア、このイチゴは甘いぞ。あーん、しなさい」

「……かっ、閣下、お顔が近いです……っ」


 カイルム閣下が、真っ赤なイチゴをエルシアの唇に寄せ、とろけるような笑みを浮かべていた。

 王都を焼き尽くす太陽とは対照的な、穏やかで温かな愛の光が、今日も二人を包み込んでいた。

「特別に許してやる」……。

どこまでも自分勝手な王太子の言葉に、

思わず扇を握りしめてしまいたくなるような、そんな第8話でしたわね。


失って初めて気づく大切さ。

けれど、もうエルシア様は、自分を傷つけるだけの場所には戻りません。

北の地で、カイルム閣下の深い愛に守られ、

彼女の心はすでに、かつての自分とは違う「輝き」を放ち始めているのですから。


さて、次はいよいよ王都からの「使者」が北領に到着します。

カイルム閣下が、その使者をどう「おもてなし」するのか……。

皆様、スカッとする準備はよろしいかしら?


もし、王太子の自滅を「もっとやれ!」と思ってくださったなら、

ぜひ【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価で、

エルシア様と閣下への応援を届けてくださいませ。


皆様の評価が、カイルム閣下の独占欲をさらに爆発させ、

使者を追い返すための、冷たい「氷の壁」になります。

次回、第9話「不遜な使者と、辺境伯の冷徹な宣戦布告」で、またお会いしましょう。

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