第7話:独占欲の嵐と、初めての甘いおねだり
領民たちに「女神」と称えられたあの日から、城の中の空気は一変した。
廊下ですれ違う騎士たちは、私を見ると一様に足を止め、敬意を込めて深く頭を下げる。
「エルシア様、今日もお美しいですな」「おかげさまで、今年の冬は腹を空かせずに済みそうです」
そんな温かな言葉をかけられるたびに、私は胸がいっぱいになり、ぎこちなく、けれど精一杯の笑顔で応えていた。
……けれど、そんな私を見て、あからさまに不機嫌になる方が一人。
「……セフィ。今日の午後の予定をすべて白紙にしろ。私は執務室に籠る。エルシアも一緒だ」
カイルム様が、低い声でピシャリと言い放った。
騎士の一人が私に「今度、北の珍しい花を贈らせてください」と言った直後のことだった。
「閣下、それはあまりに横暴ではありませんか? まだ面会の予定が……」
「却下だ。……エルシア、おいで」
カイルム様は私の返事も待たず、大きな手で私の腰を引き寄せた。
そのまま、半分抱き抱えられるような形で、彼は私を自室兼執務室へと連れ去ってしまった。
◇◇◇
重厚な扉が閉まり、カギがかけられる。
部屋の中には、暖炉の薪がはぜる音と、私たちの吐息だけが響いていた。
「……カイルム様? 騎士の方々に、あんなに怖く当たっては……」
「……あいつらは、君を見すぎだ」
カイルム様は、私を大きなソファに座らせると、自分は床に片膝をついて私の手を取った。
見上げる彼の瞳には、射抜くような鋭さと、それ以上に深い「飢え」のような色が混ざり合っている。
「君の魔力が素晴らしいことは、皆が知ればいい。だが、その微笑みまで他人に分け与える必要はない。……私は、心が狭いのだ、エルシア。君が誰かに向ける視線の一つ一つを、すべて私が独占していたい」
「カイルム、様……」
あまりに直球で、あまりに重い愛の告白。
王都では「目障りだ」と視線を逸らされ続けた私にとって、彼の執着は、怖いくらいに甘い蜜のようだった。
「……怒ったか? こんな横暴な男は、やはり嫌いか」
不安げに目を伏せる彼を見て、私は自分の胸の奥がキュンと鳴るのを感じた。
いつもは堂々とした北領の主が、私の前でだけ、捨てられた仔犬のような顔をする。
そのギャップに、私は生まれて初めて、自分の中に「勇気」が湧いてくるのを感じた。
「……嫌いな、わけがありません。私……カイルム様に、そんな風に思っていただけて……すごく、嬉しいんです」
私は、震える指先でカイルム様の漆黒の髪に触れた。
不浄と言われた私の氷が、彼の熱を吸い取り、代わりに彼の情熱が私の心を満たしていく。
「カイルム様……あの、一つだけ……おねだりしても、いいでしょうか?」
「おねだり? ああ、何でも言ってくれ。宝石か? それとも、もっと新しいドレスか? 国を一つ欲しければ、今すぐ……」
「……違います。そうじゃなくて」
私は顔を真っ赤にしながら、彼のマントの裾をぎゅっと掴んだ。
「……少しだけでいいので、抱きしめて、いただけませんか?」
カイルム様が、目を見開いて固まった。
私は怖くなって、すぐに言葉を継ぎ足そうとする。
「あ、あの! もちろん、お忙しければ後で……いえ、独り言です! 忘れてくだ……んっ」
言葉は、強い衝撃と共に遮られた。
気づけば、私は彼の逞しい腕の中に閉じ込められていた。
骨が軋むほど、強く。けれど、壊れ物を扱うように、どこまでも愛おしく。
「……ああ、くそ。君は、私をどうしたいんだ……」
耳元で、カイルム様の掠れた声が聞こえる。
彼の熱い鼓動が、背中からダイレクトに伝わってくる。
「宝石などより、ずっと質が悪い……。そんな顔で、そんな可愛いことを言われたら、私はもう、一生君をこの部屋から出したくなくなる」
「……カイルム様、苦しい、です……ふふっ」
苦しいはずなのに、心は空高く飛び上がってしまいそうだった。
愛されることは、こんなにも身体を熱くするものなのだと、初めて知った。
「……エルシア。もう一度だけ、言わせてくれ。愛している。君を捨てた世界を、後悔させてやるほどに」
「はい……私も。私も、あなたを、愛しています」
外では雪が静かに降り積もっている。
けれど、この部屋の中だけは、どんな真夏の王都よりも、熱く、甘い幸福に満たされていた。
私は、彼の胸に顔を埋めながら、自分の中の「氷」が、感謝の涙となって溶けていくのを感じていた。
「宝石などより、ずっと質が悪い」
愛に飢えていたはずのエルシア様が、自分から「抱きしめて」と手を伸ばす……。
その一歩が、どれほど大きな勇気だったか。
そして、それを受けたカイルム閣下がどれほど悶絶したか。
皆様にも、その甘い「温度」が届きましたでしょうか。
お互いを唯一無二の存在として認め合った二人。
ですが、甘い時間の裏側では、
エルシアを失った王都の「ひび割れ」が、ついに修復不可能なレベルまで広がっています。
もし、この「溺愛」に胸が熱くなったなら、
ぜひ【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価で、
二人を祝福していただけませんか?
皆様の応援は、二人の愛の巣をより強固にし、
そして未来に待つ「最高のざまぁ」をより爽快なものにします。
次回、第8話「枯れた庭園と、狂い出した王太子」でお会いしましょう。




