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氷の追放令嬢、死神辺境伯の熱に溶かされて幸せになります ~捨てられた聖女の調和魔法で、極北の地を宝石の都へ~  作者: 花菱エマ


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第6話:氷の女神と、領民たちの喝采

ノースウォール城の地下には、広大な「氷の貯蔵庫」がある。

 ここは領民たちが冬を越すための食糧が保管されている、まさに命の要とも言える場所だ。


 けれど、カイルム様に連れられてそこを訪れた私の鼻を突いたのは、微かな「えた匂い」だった。


「……やはり、ここもか」


 カイルム様が苦々しく呟く。

 棚に並んだ塩漬けの肉や、冬越しの野菜。その一部が、異様に湿り気を帯びて傷み始めていた。


「どうしたのですか、カイルム様? ここはこんなに寒いのに……」


「……この地の底には、時折『大地の熱』が噴き出す筋があるのだ。それが今年は例年になく強く、貯蔵庫の温度を上げてしまっている。私の魔力で凍らせることもできるが、私の氷は鋭すぎて、食材の細胞まで破壊してしまうのだ。……これでは、冬の間に領民に配る食糧が足りなくなる」


 カイルム様は、壁に手を当てて熱を抑えようとしていた。

 けれど、彼の強すぎる魔力は、壁をバリバリと凍りつかせ、食材にまで氷の棘を突き刺してしまう。


(カイルム様が、こんなに困っていらっしゃる……)


 いつも私を温め、守ってくれるこの人の力になりたい。

 その一心で、私はおずおずと、熱気が漏れ出している壁の隙間に手を伸ばした。


「エルシア、危ない! 焼けるような熱気だぞ」


「……大丈夫です。私、わかります。この熱を、どうやって静めればいいか」


 瞳を閉じると、大地の奥底で暴れる赤い熱の奔流が見えた。

 私は、自分の胸の奥にある「冷たさ」を、指先へと集めていく。


(……お願い。凍らせるのではなく、ただ、穏やかに眠らせて)


 王都では嫌われた、私の氷。

 けれど今、この瞬間、私の魔力はかつてないほど澄み渡っていた。


 指先から、真珠のような光を放つ「白氷はくひょう」が溢れ出す。

 それはカイルム様の氷とは違い、雪の結晶が集まったような、柔らかで繊細なヴェールだった。


 さらさら、と。

 心地よい音が響き、壁の隙間が美しい結晶で埋まっていく。

 溢れていた熱気は、瞬く間に私の氷に飲み込まれ、貯蔵庫内は「ひんやりとした、けれど刺さない涼しさ」へと変わっていった。


「……これは……」


 傍らで見ていたカイルム様が、呆然と声を漏らした。

 食材を傷つけることなく、周囲の熱だけを吸い取り、完璧な温度で保たれた空間。


「素晴らしい……。エルシア、君の氷は、なんて優しくて、高潔なんだ」


「……あ、あの、これで大丈夫、でしょうか?」


「大丈夫どころではない。これならば、来年の春まで……いや、それ以上新鮮なまま保存できる。……セフィ! 領民たちを呼びなさい! 我が領地の救世主を紹介する!」


 カイルム様の弾んだ声に、城の料理人や、荷運びの領民たちが次々と集まってきた。

 彼らは、不吉なはずの「氷」が、これほどまでに美しく、そして自分たちの命を救ってくれた光景に目を見開いた。


「……なんて綺麗なんだ。野菜が、まるで摘みたてみたいに……」


「このお嬢様が……閣下のお連れになった方が、やってくださったのか?」


 一人が膝をつき、祈るように手を合わせた。

 それに続くように、次々と領民たちが私に跪いていく。


「ありがとうございます! 女神様、氷の女神様だ!」


「女神様、万歳! ノースウォールの奇跡だ!」


 地響きのような喝采。

 生まれて初めて浴びる、純粋な感謝と、尊敬の眼差し。

 私はあまりの衝撃に、身体が震えてしまった。


(私……私、生きていていいんだ。この力を持っていて、よかったんだ……)


 視界が涙で潤む。

 そんな私を、カイルム様はたまらずといった様子で後ろから抱きしめた。

 

「……聞いたか、エルシア。これが君への、正当な評価だ」


 彼は私の耳元で、低く、独占欲に満ちた声で囁く。


「……だが困ったな。君の凄さを知らしめたい半面、こんなに美しい君を、誰にも見せたくないという思いが強くなってしまった」


「カイルム、様……」


「君は、私の宝だ。この領地の、そして私だけの、唯一無二の女神だ」


 大勢の領民たちの前で、カイルム様は私の頬に熱い口づけを落とした。

 周囲からは冷やかしの混じった、けれど温かな歓声が上がる。


 王都で「ゴミ」と捨てられた少女は。

 凍てつく北の地で、世界で一番誇らしい「女神」として、その産声を上げたのだった。

「不浄の氷」から「救世の女神」へ。

エルシアが初めて自分の価値を見出し、涙する姿……

皆様の目にも、その美しい氷の結晶が映りましたでしょうか。


カイルム閣下の独占欲も、いよいよ隠しきれなくなってまいりましたね。

「誰にも見せたくない」と言いつつ、自慢したくてたまらない……。

そんな不器用な溺愛に、これからもご期待ください。


もし、エルシアが認められた瞬間に「よかった!」と胸を熱くしてくださったなら、

ぜひ【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価で、

彼女に「おめでとう」の言葉を贈っていただけませんか?


皆様の応援は、エルシアが自分の声を、もっと大きく響かせるための勇気になります。

次回の第7話「独占欲の嵐と、初めての甘いおねだり」でお会いしましょう。

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