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氷の追放令嬢、死神辺境伯の熱に溶かされて幸せになります ~捨てられた聖女の調和魔法で、極北の地を宝石の都へ~  作者: 花菱エマ


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第40話:吹雪の塔の遺言。氷の精霊王との対話

「……冷たい。なのに、どうしてこんなに懐かしいの」


 吹雪の塔。

 その最上階へと続く螺旋階段を一段昇るごとに、肌を刺す冷気は、柔らかい真綿のような質感へと変わっていきました。

 

 外の荒れ狂う嵐が嘘のように、塔の内部は透き通った静寂に満ちています。

 壁一面を覆うのは、ノースウォールの歴史を刻んだ氷のレリーフ。そして、その中央。蒼い炎が揺らめく台座の上に、一振りの「氷晶の杖」と、古ぼけた一通の手紙が置かれていました。


「エルシア。……私の腕から、離れるなと言っただろう」


 カイルム様が、背後から私を包み込むように抱きしめました。

 彼の熱い掌が私の肩を強く握り、指先が服を掴んで離しません。

 彼から溢れ出す漆黒の魔力が、私の白氷の魔力と混ざり合い、私たちの周囲にだけ、誰も立ち入ることのできない「二人だけの聖域」が作り出されています。


「カイルム様、見てください。……あそこに、母様の香りがしますわ」


 私が指差すと、台座の上の蒼い炎がふわりと揺れ、光の粒となって空中に一人の女性の姿を形作りました。

 白銀の髪、そして今の私と同じ、調和の光を宿した瞳。

 それは、記憶の中にあるよりもずっと若く、美しい、母イザベラ様の姿でした。


『――愛しきエルシア。……ここまで辿り着いたということは、あなたは、私が見つけた「熱」……辺境伯の隣に立っているのね』


 光の残像が、私に向かって優しく手を伸ばしました。

 その指先が私の頬に触れた瞬間、王都で受けた数々の罵倒、屋根裏部屋での孤独、そして「私なんて不浄だ」と呪い続けてきた心の氷が、一気に溶け出して溢れました。


「母様……っ! 私、私は……」


『謝らないで、エルシア。……あなたが不浄と呼ばれたのは、王都の太陽がその輝きに耐えきれなかっただけ。……ノースウォールの王家は、代々、精霊王の門を守る「調和の番人」でした。私は、歪み始めた世界の天秤を繋ぎ止めるため、あなたの力を一時的に「封印」し、その安全な器として辺境伯……カイルムを選んだのです』


 母様の声は、オルゴールのような優しい旋律となって響きました。


『王都の太陽騎士団に追われ、ゴミのように捨てられる……。そんな辛い運命を辿らせてしまったけれど。……それは、あなたが「誰よりも愛してくれる者」に出会うための、唯一の道だった。……カイルム、私の娘を、守り抜いてくれましたか?』


「……聞くまでもないことだ」


 カイルム様が、低い、地響きのような声で答えました。

 彼は私の腰をさらに強く引き寄せ、母様の残像を射抜くような鋭い視線で睨みつけます。


「エルシアは、私の魂の半分だ。……貴女がどのような意図で彼女を私の元へ送ったにせよ、私は彼女を二度と離さない。……例え、それが世界の平穏を天秤にかけた『運命』だとしてもだ」


 カイルム様の独占欲に満ちた宣言に、母様の残像は満足そうに微笑みました。

 けれど、その微笑みは次の瞬間、厳粛な色を帯びたのです。


『――よろしい。ならば、準備はいいかしら。……門の向こう側、氷の精霊王が目覚めようとしているわ』


 轟音。

 塔全体が大きく震え、天井からダイヤモンドのような氷の粉が降り注ぎました。

 台座の奥の空間が大きく割れ、そこから「虚空」のような巨大な蒼い瞳が、私たちを覗き込んだのです。


《――来たか。イザベラの娘、そして死神の末裔よ》


 それは、声ではありませんでした。

 直接、脳髄を、魂を凍てつかせるような神の意思。

 カイルム様が瞬時に私の前に躍り出て、漆黒の魔力を剣の形に凝縮しました。


「……何の用だ、精霊王。私の妻の前に、その薄汚い視線を晒すな」


《……不遜な男よ。だが、汝の宿す熱こそが、門を閉ざすための鍵。……そして、エルシア。汝の氷こそが、門の『芯』となるものだ。……世界の天秤は壊れている。……調和を取り戻すためには、汝がこの門の奥へ入り、永久の眠りにつく必要がある》


「…………え?」


 精霊王の突きつけた条件に、私の思考が一瞬、凍りつきました。

 世界の調和のために。

 私が、門の奥で一人、永遠に眠り続ける……?


「――ふざけるな、このゴミ屑が」


 カイルム様の、かつてないほどの激しい怒りが爆発しました。

 彼の周囲から溢れ出した漆黒の魔炎が、塔の氷さえも蒸発させるほどの高熱を放ち、精霊王の「意思」を押し返します。


「エルシアが……私の隣から消えるだと? ……この世界を救うために、彼女を一人にするというのか?」


《……それが、聖女としての運命。……世界の理だ》


「そんな理、私が今ここで叩き壊してやる!!」


 カイルム様は私を背中に庇い、精霊王の巨大な瞳に向かって、剥き出しの殺意を込めて剣を掲げました。


「エルシア! 私の手を離すな! ……例えこの世界がどうなろうと、お前を連れて行くなど、精霊王だろうが神だろうが、この私が許さない!!」


 カイルム閣下の、魂を削るような叫び。

 私は、彼の広い背中にしがみつき、強く、強くその手を握り返しました。

 

 母様が遺した運命。精霊王が求める使命。

 けれど、私の心はもう、決まっていました。

 

 私は、カイルム様の愛した私として。

 世界を救いながら、この人の隣で幸せになる道。

 不可能だと言われたその「三つ目の選択肢」を、今、自分自身の力で掴み取ろうとしていたのです。

「――ふざけるな、このゴミ屑が」

カイルム閣下、ついに神なる精霊王を「ゴミ屑」呼ばわりしてしまいましたわ!

愛するエルシア様が永遠に眠る……そんな運命、閣下の独占欲が許すはずがありません。

「世界よりもお前が大事だ」と言わんばかりのあの激しい咆哮に、

皆様の心も、激しく打ち震えたのではないでしょうか。


母様の真実。そして突きつけられた残酷な使命。

「聖女」として世界を救うのか、それとも「愛する人の妻」として生きるのか。

エルシア様が選ぶ「三つ目の選択肢」とは……?


もし、カイルム閣下の絶対的な全肯定と、エルシア様を守る騎士ぶりに「最高!」と思ってくださったなら、

ぜひ【ブックマーク】の継続と、下の【☆☆☆☆☆】をポチッと押して、

精霊王に立ち向かう二人に、最強の「愛の加護」を贈ってあげてくださいな。


皆様の評価が、エルシア様の氷を「運命を切り拓く力」へと変えてくれますわ。

次回、第41話「運命の逆転。三つ目の選択肢と死神の暴走」でお会いしましょう。

(※閣下の愛が、世界の理を書き換えますわよ!)

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