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氷の追放令嬢、死神辺境伯の熱に溶かされて幸せになります ~捨てられた聖女の調和魔法で、極北の地を宝石の都へ~  作者: 花菱エマ


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第4話:奇跡の朝食と、世界で一番甘い体温

まどろみの中で、私は柔らかな光を感じていた。


 王都の別邸では、朝は常に「冷たさ」とともに訪れた。

 隙間風の吹く物置小屋のような自室で、かじかむ指先を吐息で温めながら、重い身体を引きずるようにして起き出すのが日常だった。


 けれど、今は違う。

 肌を撫でるのは、上質なシルクの滑らかさと、暖炉の名残が残る、春のような空気。


「……夢、じゃなかった」


 目を開けると、そこには昨夜と同じ、豪華な天蓋が広がっていた。

 窓の外には、抜けるような冬の青空と、ダイヤモンドの粉を撒いたように輝く白銀の世界。王都の薔薇の赤とは違う、どこまでも潔白で、静謐な美しさ。


「おはようございます、エルシア様。よくお休みになれましたか?」


 控えめなノックと共に、セフィが入ってきた。

 彼女の手には、新しいドレスが掛けられている。それは、私の瞳の色と同じ、深い青のベロア生地に、繊細な銀の刺繍が施された、溜息が出るほど美しいものだった。


「あの、セフィさん……。こんなに素晴らしいお洋服、私には勿体ないです。昨日のままでも……」


「何をおっしゃいます。これは閣下が、エルシア様がお越しになると決まった瞬間に、王都の一流店へ特注させたものですわ。エルシア様の銀髪には、この『月光の青』が一番似合うと、閣下が自ら選ばれたのです」


 カイルム様が、私のために……。

 着替えを終え、大きな姿見の前に立った私は、そこに映る自分を見て息を呑んだ。

 王都では「幽霊のようだ」と笑われた青白い肌が、このドレスを纏うと、まるで雪の精霊のように神秘的な輝きを帯びて見える。


「……綺麗、だなんて。初めて、思いました」


「本当にお美しいですよ。さあ、閣下がお待ちです。朝食にいたしましょう」


 セフィに導かれ、ダイニングへと向かう。

 長いテーブルの端には、既にカイルム様が座っていた。彼は新聞を読んでいたが、私の足音に気づくと、すぐに顔を上げた。


「……っ」


 彼が息を止めたのがわかった。

 カイルム様の灰色の瞳が、じっと私を射抜く。その視線の熱さに、私は思わず俯いてしまった。


「……似合わない、でしょうか……?」


「……逆だ。あまりに美しすぎて、外に出したくなくなった」


 さらりと紡がれた独占欲に満ちた言葉に、心臓が跳ねる。

 カイルム様は立ち上がり、私の椅子を引いてくれた。


「座りなさい。今朝は、領内で採れた新鮮なベリーと、焼きたてのクロワッサンだ」


 テーブルには、色鮮やかな食卓が広がっていた。

 温かいオムレツからは湯気が立ち、冷たいミルクは結晶のように透き通っている。


「いただきます……」


 一口食べると、また涙が出そうになった。

 けれど、今朝は泣く代わりに、カイルム様に微笑みかけたいと思った。


「カイルム様……。昨夜は、ありがとうございました。あんなにぐっすり眠れたのは、生まれて初めてです」


「それは良かった。……実は、私もなのだ」


 カイルム様は、コーヒーカップを置き、少しだけ照れたように視線を逸らした。


「私の魔力は、常に荒れ狂っている。寝ている間も、無意識に周囲を凍らせてしまうほどに。……だが昨夜は、隣の部屋に君がいると思うだけで、不思議と心が凪いだ。君の『白氷』の魔力が、私の荒ぶる力を鎮めてくれたようだ」


 私の力が、彼の役に立った?

 「不浄」として疎まれた力が、彼を救ったのだという。

 その事実は、どんな贅沢な食事よりも、私の空っぽだった心を満たしてくれた。


「私の……こんな力でよろしければ、いくらでも使ってください。カイルム様が、穏やかに眠れるのなら……」


「……エルシア」


 カイルム様が、テーブル越しに私の手を握った。

 昨夜感じた、あの大きな熱。


「君は、自分を卑下しすぎる。……君の手は、こんなに繊細で、美しい。そして、私にとっては唯一の安らぎだ」


 彼はそう言うと、私の指先に、慈しむような口づけを落とした。

 指先から伝わる熱が、血管を通って、心臓を甘く溶かしていく。


「食べ終えたら、城の中を案内しよう。ここはもう、君の家なのだから」


「はい……カイルム様」


 窓の外では、私の大好きな雪が舞っている。

 あんなに孤独だった冬が、今はこんなにも温かい。


 私の「氷」は、この人の隣でなら、きっと「花」のように咲き誇れる。

 確かな予感と共に、私は初めて、自分の運命に感謝した。

「あまりに美しすぎて、外に出したくなくなった」

カイルム閣下の重すぎる愛と、エルシアの「自己肯定感」が芽吹く朝。

皆様、温かなコーヒーを片手に、二人の甘いひとときを堪能していただけたでしょうか。


さて、平穏な朝を過ごす二人ですが、王都では……

エルシアを捨てた者たちが、少しずつ「違和感」に気づき始めているようです。

太陽を失った庭がどうなるのか、それはまた次のお話で。


もし、エルシアが少しずつ笑顔を取り戻していく姿を応援したい!

と思ってくださったなら、ぜひ【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】での応援をお願いいたしますわ。


皆様の評価が、エルシアの着るドレスをより華やかに、

そしてカイルム閣下の溺愛をより深くする魔法になります。

次回の第5話「王都の綻びと、北領の女神」で、またお会いしましょう。

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