第17話:氷の騎士の孤独。カイルムが『死神』と呼ばれた理由
ノースウォール城の最上階。
そこには、カイルム様以外は誰も立ち入ることを許されない「封印の書庫」があった。
夜、窓の外で吹雪が獣のように唸る中、私はカイルム様に連れられてその扉を開けた。
部屋の中に充満していたのは、肌を刺すような鋭い魔力。それは、私がいつも触れているカイルム様の「温かな熱」とは正反対の、荒れ狂う暴力的な波動だった。
「……すまない、エルシア。ここは、私の醜い部分が澱んでいる場所だ」
カイルム様が、自嘲気味に呟く。
部屋の奥には、一本の古い剣と、家系図が刻まれた石板が置かれていた。
「……私のノースウォール家は、代々、北の魔物の侵攻を食い止める『楔』として生きてきた。……だが、その強すぎる魔力は、代償として主の心を焼き、周囲の者を拒絶する呪いでもあったのだ」
カイルム様が、石板に触れる。
その瞬間、彼の周囲に黒い稲妻のような魔力が走り、部屋の空気が一気に凍りついた。
「私の父も、母も……私の魔力を恐れていた。幼い頃、私が母の手に触れようとしただけで、その肌は私の魔力で焼かれ、凍傷を負った。……以来、私は誰にも触れられず、誰の体温も知らずに育ったのだ」
「……そんな……」
私は、絶句した。
王都で「不浄」と疎まれた私。
けれど、カイルム様もまた、その「強すぎる力」ゆえに、誰よりも深い孤独の中にいたのだ。
戦場で千の敵を凍らせる「死神」の力は、彼にとって、愛する者さえ遠ざけてしまう絶望の鎖だった。
「だから、私は王都から君が来ると聞いた時……正直、救われる思いだったのだ。……君の冷たさなら、私のこの狂った熱を、受け止めてくれるのではないかと」
カイルム様は、私から視線を逸らした。
その大きな背中が、今はとても小さく、震えているように見えた。
「……君を道具として見ていたのかもしれない。……自分を救うための、装置として。……そんな私を、君は軽蔑するか?」
カイルム様の言葉が、静かな部屋に落ちる。
私は、一歩。
迷うことなく、彼の背中に歩み寄った。
そして、その広い背中を、精一杯の力を込めて抱きしめた。
「……かっ、カイルム様。私を……バカなエルシアだと思ってください」
私の頬を、彼のマントの冷たい感触が打つ。
けれど、私の内側からは、これまでにないほど澄み渡った「白氷」の魔力が溢れ出していた。
「……私がここに来たのが、あなたを救うためだったのなら。……私は、自分の運命を心から誇りに思います。……道具だって、装置だって構いません。……私があなたの孤独を半分持っていけるのなら、それ以上に幸せなことはありませんもの」
「……エル、シア……」
「……あなたは、死神なんかじゃありません。……私を救い、私に名前を、居場所を、温度を教えてくれた……世界で一番優しい、私の騎士様です」
私の魔力が、カイルム様の周囲で荒れ狂う黒い波動を、優しく包み込んでいく。
「調和の聖女」としての力が、彼の「呪い」を、静かなる「安らぎ」へと書き換えていく。
カイルム様がゆっくりと振り返り、私の肩を掴んだ。
彼の瞳には、これまでの二十数年間の孤独が、一滴の涙となって光っていた。
「……ああ……温かい。……君の冷たさは、どうしてこんなにも、私の心を温めるのだろうか」
カイルム様は、膝をつくようにして私を抱きしめた。
今度は、私が彼を包み込む番。
吹雪の音は、もう聞こえない。
この閉ざされた書庫の中で、二人の欠けた魂が、今ようやく一つに重なり合ったのだ。
「死神」と呼ばれた騎士の、初めての涙。
守られるだけだったヒロインが、ヒーローの「呪い」を溶かす……。
これこそが、魂の番の真骨頂ですわね。
エルシア様が、カイルム閣下の孤独を知ったことで、
二人の愛は「依存」から「相互扶助」へと進化しました。
愛される喜びを知った人は、誰かを愛し、救う強さを持つことができる。
私、筆を執りながら、二人の絆に心が洗われる思いです。
さて、過去の闇を乗り越えた二人。
次回からは、そんな二人のもとへ、王都から「賑やかな嵐」がやってきます。
高飛車お嬢様・ロザリアの登場で、北領の日常はどう変わるのか?
もし、今回の「救済」のシーンに涙してくださったなら、
ぜひ【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価で、
カイルム閣下の孤独を一緒に温めてあげてくださいな。
皆様の評価が、物語をより深く、より感動的なものにします。
次回、第18話「嵐を呼ぶ高飛車令嬢、ロザリア。北領に乗り込む!」でお会いしましょう。




