第15話:氷華の舞踏会と、跪く元婚約者
ノースウォール城の大舞踏会。
そこは、私の魔力とカイルム様の想いが結晶となった、奇跡のような空間だった。
氷の温室の技術を応用し、会場全体が透明な氷の彫刻で彩られている。天井からは私の魔力で作った「消えない雪の粉」が星屑のように降り注ぎ、カイルム様が灯した魔石の光を受けて、七色に煌めいていた。
「……震えているな、エルシア」
隣に立つカイルム様が、私の腰を抱く手に力を込めた。
彼の纏う黒い礼服は、私の「氷河の青」のドレスと見事な対照をなし、並んで歩く私たちは、夜の闇と冬の光が溶け合ったような一対の影となっていた。
「……はい。でも、怖いからではありません。こんなに素晴らしい景色を、カイルム様と一緒に見られるのが……嬉しくて」
私が顔を上げると、カイルム様は溢れんばかりの慈愛を瞳に宿し、大勢の貴族たちの前で私の額にそっと唇を寄せた。
「君こそが、この夜会で最高の宝石だ。……さあ、行こうか。招かれざる客が、あそこで無様に待っている」
カイルム様の視線の先――。
そこには、ノースウォールの清涼な空気の中で、一人だけ異様なまでに汗を流し、血走った目でこちらを睨みつける男がいた。
王太子、リュシアン様。
かつての輝かしい黄金の髪は熱で焼け、その傲慢な顔は酷い火照りと焦りで歪んでいる。彼の隣にいるベアトリスも、着飾ってはいるものの、そのドレスは焦げ跡が目立ち、周囲の貴族たちから「不浄の熱」を嫌われて遠巻きにされていた。
「……エル、シア……。お前、その姿は……」
私たちが歩み寄ると、リュシアン様は絶句した。
「ゴミ」と呼び、「ボロ布がお似合いだ」と嘲笑って追い出したはずの私が。
今、王都のどんな姫君よりも高貴なドレスを纏い、北の英雄であるカイルム様の腕の中で、幸せそうに微笑んでいる。
「……お久しぶりでございます。リュシアン殿下」
私は静かに、けれど毅然として、辺境伯夫人としての完璧な礼を執った。
「……お前、今すぐ王都へ戻れ! この通りだ、私の『太陽』が暴走して止まらないのだ! お前の冷気があれば、私はまた救われる! 特別にお前を側妃として迎えてやってもいい、だから……!」
リュシアン様が、私の手を取ろうと無様に這い寄ってくる。
けれど、彼の手が届くよりも早く、私の周囲に鋭い氷の壁が立ち上がった。
「――汚い手で、私の妻に触れるな」
カイルム様の声は、地獄の底から響くような冷徹さを帯びていた。
彼が軽く指を動かすだけで、リュシアン様の足元の床が凍りつき、彼をその場に跪かせる。
「ひ、ひいぃっ……! 冷たい、痛い! 離せ、私は王太子だぞ!」
「王太子だろうが何だろうが関係ない。エルシアは、お前たちの火照りを鎮めるための『冷却材』ではない。……彼女の氷は、私との愛を育み、この領地を豊かにするためにあるのだ」
カイルム様は、私を後ろから抱き寄せ、見せつけるように私の首筋に鼻を寄せた。
「見ての通り、彼女は私の熱を吸い取ることで、最高に美しく咲き誇っている。……お前たちの出る幕など、もうどこにもない」
「エルシアお姉様、お願いよ! 助けて!」
ベアトリスが泣きついてきたけれど、私は彼女の瞳を見つめ返し、静かに首を振った。
「……ベアトリス。あなたは私に言ったわね。『遠くへ消えてくれるのが一番の親孝行だ』と。……私は、あなたの願い通りにしました。今、私はここで、自分の人生を生きています。……もう、あなたの熱を吸ってあげることはできません」
それは、復讐の言葉ではなく、完全なる「決別」だった。
「……行こう、エルシア。汚れたものを見すぎると、目が汚れる」
カイルム様は、絶望の声を上げる二人を一顧だにせず、私を連れてダンスホールの中心へと歩き出した。
音楽が始まり、私たちは重なるようにして踊り出す。
カイルム様の腕の温かさ、私を見つめる熱い視線。
背後では、衛兵たちに引きずられていくリュシアン様たちの叫びが聞こえたけれど、私にはもう、遠い国の出来事のようにしか感じられなかった。
「……愛している、エルシア。君を捨てた世界が、どれほど愚かだったか……一生、後悔の火に焼かれるがいい」
「……はい。私も、愛しています。カイルム様」
冷たい氷の城の中で、誰よりも熱く、甘く、私たちは唇を重ねた。
捨てられたはずの「不浄の氷」が、真実の愛を得て、世界で一番幸せな「聖女」となった瞬間だった。
「君を捨てた世界が、どれほど愚かだったか」
カイルム閣下の言葉と共に、跪く王太子……。
これ以上ないほどスカッとする、最高の「ざまぁ」をお届けいたしました。
かつて自分を傷つけた人々の前で、
最高の美しさと幸せを見せつけること。
それこそが、品格ある「復讐」であり、真の勝利ですわね。
さて、これで第1章の大きな山場は越えましたが、
二人の幸せな日々は、ここからさらに加速してまいります。
次回、第16話からは、いよいよ正式な「結婚式」と、
北領をさらに豊かにするエルシア様の「氷の魔法」の数々、
そしてカイルム閣下の「際限のない甘やかし」をたっぷりとお届けしますわ。
もし、今回のダンスシーンに「最高に素敵!」と思ってくださったなら、
ぜひ【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価で、
二人の門出に「氷の花びら」を降らせてあげてくださいな。
皆様の応援が、二人の愛を永遠のものにします。
次回、第16話「永遠の誓いと、閣下の甘すぎる独占欲」でお会いしましょう。




