第11話:王都の炎上と、聖女の真実
それは、地獄のような光景だった。
王都ルミエールの気温は、ついに四十度を超えた。
かつて人々を癒やした美しい噴水は干上がり、石畳は目玉焼きが焼けるほどの熱を帯びている。街路樹は枯れ果て、王宮を彩っていた「紅蓮の薔薇」は、自らの放つ熱に耐えかねて、黒い灰となって霧散した。
「……暑い。暑い、暑い、暑い!!」
王太子リュシアンは、もはや正気を失いつつあった。
彼の「太陽」の加護は、制御不能な「暴走」へと変わっている。彼が歩くだけで床に火がつき、彼が触れるものはすべて発火した。
「殿下! お鎮まりください! 騎士たちが消火に追われておりますが、追いつきません!」
「うるさい! エルシアはどうした!? あの女を連れてくると言ったバロウはどうしたのだ!」
そこへ、煤に汚れ、這う這うの体で戻ってきたバロウ子爵が転がり込んだ。
「で、殿下……! 申し訳ございません! 辺境伯が……カイルム・ド・ノースウォールが、エルシアを渡さないと……! 彼女も、王都へは戻らないと言い放ちました!」
「……なんだと?」
リュシアンの背後から、ボウッ、と巨大な火柱が上がった。
「あのアバズレめ……! 誰のおかげで今まで生きてこられたと思っている! 私が、この国が、これほどまでに苦しんでいるというのに、辺境の男と戯れているだと!?」
彼には、最後までわからなかった。
エルシアが今まで、どれほどの孤独と自己犠牲の中で、彼らの暴走する熱を吸い取ってきたのか。
彼女は「役立たず」などではなく、この国の破滅を繋ぎ止めていた、唯一の「命綱」だったのだ。
◇◇◇
一方、その頃。
北領の「氷晶の森」の奥深く。
「……暖かい」
エルシアは、カイルム様に手を引かれ、森の最深部にある「精霊の泉」の前に立っていた。
そこには、王都の焦熱とは無縁の、清らかな静寂が広がっている。
「エルシア。君の魔力が、この森の奥に眠る古い力を呼び覚まそうとしている」
カイルム様が私の背中を優しく押し、泉の縁へと導く。
水面に指を浸した瞬間。
私の身体の奥底から、かつてないほどの清涼な風が吹き抜けた。
(ああ、そうか……。私の氷は、何かを壊すためのものではなかったんだ)
王都にいた頃、私はいつも「熱を奪う自分」を恥じていた。
けれど、今は違う。
私の氷は、溢れすぎる熱を「優しさに変える」ための調和の力。
泉から、キラキラとした光の粒が舞い上がる。
それは、私の魔力に呼応して目覚めた、数千年の時を越える「白氷の精霊」たちだった。
「……すごい、エルシア。君こそが、伝説に語られる『調和の聖女』だったのだな」
カイルム様が、驚きと深い敬愛を込めて、私の隣に跪いた。
「君を追放した王都は、自分たちの手で救世主を投げ捨てた。……今、王都の魔力バランスは完全に崩壊し、自らの炎で焼け落ちようとしている」
「……カイルム様。私、あの人たちを助けたいとは思いません。でも……」
私は、自分の手のひらを見つめた。
そこには、カイルム様が何度も愛おしげに口づけてくれた、温かな体温が宿っている。
「……私のこの力で、この北の領地を、もっと素晴らしい場所にしたいです。カイルム様が誇れるような、世界で一番温かな冬の国に」
「……ああ。君となら、それも叶うだろう」
カイルム様は立ち上がり、私を力強く抱きしめた。
私の聖女としての覚醒。それは王都にとっては「終焉」を意味し、ノースウォールにとっては「永遠の繁栄」の始まりだった。
遠く南の空が、赤く染まっていく。
それは夕焼けではなく、傲慢な者たちが自ら招いた炎の色。
私はもう、その空を見ても震えることはない。
私の居場所は、この強くて優しい腕の中にあるのだから。
「調和の聖女」としての覚醒。
王都の炎上を背景に、愛する人と共に新しい未来を見据えるエルシア様……。
その凛とした横顔に、皆様も胸を熱くしてくださったでしょうか。
奪うだけの氷が、誰かを守り、育むための力へと変わる。
愛されることで、呪いは祝福へと昇華されるのです。
一方、自らの炎に焼かれる王太子の末路は、まさに「自業自得」の極み。
さて、いよいよ第1章もクライマックスへ。
炎上する王都から、命乞いのために這い寄る者たちを、
カイルム閣下がどう「一掃」するのか……。
もし、エルシア様の覚醒に「最高!」と思ってくださったなら、
ぜひ【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価で、
彼女に聖女としての「祝福」を贈ってあげてくださいな。
皆様の応援が、二人の築く「春」を、より輝かしいものにします。
次回、第12話「跪く敗北者たちと、揺るぎない愛の凱旋」で、またお会いしましょう。




