7/11
アネモネ~儚い恋
翌朝の回です。
少しだけ空気が変わります。
朝の光で目が覚めた。
障子越しの白い明かりが、部屋をぼんやり照らしている。
隣の布団では、彼女がまだ眠っていた。
昨夜と同じ距離のままなのに、なぜか少し遠く感じた。
「おはよ」
しばらくして彼女が起き上がる。
「あ、おはよう」
何でもない挨拶なのに、声が少しだけぎこちない。
彼女は軽く笑ったが、昨日より静かな表情だった。
帰りの電車では会話が少なかった。
一日一緒にいたのに、お互いのことを何も知らないままだと気づく。
駅に着く直前、彼女が小さく言った。
「ねぇ、来週、引っ越すんだ」
一瞬、音が遠くなった気がした。
「急に決まってさ。お父さんの仕事で」
言葉が見つからないまま、景色だけが流れていく。
「なんで昨日言わなかったの?」
「言ったら、昨日みたいに過ごせなかったと思うから」
優しさなのか、ずるさなのか分からなかった。
それでも責める気にはなれなかった。
ホームに降りたとき、彼女はいつもの声で言った。
「じゃあ、またね」
“また”が本当に来るのか分からないまま、僕は頷いた。
このあと、物語は少し動きます。




