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向日葵〜あなたを見つめる
あの日のことを、今でもはっきり覚えている。夏の匂いと、強すぎる光と、隣を歩いていた君の背中。何気ない一歩が、少しだけ特別に思えたのは、きっとこの頃からだった。
駅を降りて、二人は並んで歩き出した。潮の匂いが風に乗って鼻をくすぐり、遠くから波の音が微かに聞こえる。夏の光は強く、アスファルトの照り返しがじりじりと肌に残っていたけれど、海から吹く風がそれを少しだけ和らげていた。
彼女は迷いなく堤防へ向かい、その背中は軽やかで、どこか遠くを見ているようだった。僕は少し遅れて歩きながら、その背中から目を離せずにいた。声をかける理由も、立ち止まる理由も見つからない。ただ、この時間が終わってほしくないと思っていた。
堤防の先で彼女は立ち止まり、深く息を吸ってから振り返る。
「来てよかったね」
その一言が、胸の奥に静かに沈んでいった。
君の背中を見ていた時間は、短かったはずなのに、なぜか長く心に残っている。振り返らなかったその背中が、僕の中で初めて「失いたくない」と思った瞬間だったのかもしれない。




