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ギブシ〜出会い
この話は、ひとつの夏と、振り返ったその瞬間について書いたものです。
夏休みがもうすぐ始まる頃、僕は海の見える田舎町で暮らす十四歳だった。
運動も勉強も苦手で、これといった特技もない。クラスの中で目立つこともなく、いつも端のほうにいるような存在だ。
そんなクラスに、小林美波がいる。
明るくて、運動は少し苦手だけど、いつも元気で、誰にでも分け隔てなく接する。自然と人が集まってくるタイプで、みんなから尊敬されている人気者だった。
僕は彼女を、ただ尊敬するクラスメイトの一人として見ていた。
話しかけることはあっても、特別な感情を抱くほど近い存在じゃない。
好き、という気持ちは、まだどこか遠くにあって、自分でもよく分からないままだった。
それでも、彼女の笑顔を見ると、少しだけ胸の奥がざわつくことがあった。
理由を考えるほどのことでもない、そんな小さな違和感。
そのときの僕は、それを深く考えようとはしなかった。
この夏が、少しだけ特別なものになるなんて、思いもしなかったから。
まだ、この時の僕たちは知らなかった。
この日のことを、何年経っても忘れられなくなるなんて。




