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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

友人以上恋人未満の曖昧な彼らの日常

俺を拐う従兄は忘れているふりをして手を離してくれない




マリッジブルーというのか。

明日、結婚式をあげる従兄、庄司が、会社をでてきたばかりの俺を引っぱりオープンカーに乗りこませ、上司が口を挟む間もなく、猛スピードで疾走。

結婚式前日という点では驚いたが、事前に連絡や約束なしの突発的なつれだしは、今にはじまったことではない。


実家が近くとあって、幼いころから兄弟のように仲がよかった。

まあ、ほんとうの兄弟でも成長するにつれ、自然と離れていくもので、今や俺が一会社員、庄司がIT企業社長とけっこうな身分ちがいに。

それでも、たまにこうして拉致ってくるから昔と変わらないような仲でいられているし「いくらセレブになって偉くなっても庄司は庄司だな」とつくづく思わされる。

闘牛のように庄司が突進してきて、そのまま俺の腕を引っぱっていくのは、必ず「いやなこと」があったときだ。

「いやなこと」は後々、知ることになるのだが、今回はなんなのやら。

結婚がいやというわけではないだろう。

なにせ相手は顔よしスタイルよし性格よし知名度よし好感度よしの女優なのだから。


「祝福されるべき結婚でも、前夜は思うところがあるのかな」と考えるのをやめて、マシンガントークをする庄司の横顔から景色に視線を移そうとしたら、潮の香りが鼻についた。

いつの間にか海岸沿いを走っていて「あれ?ここは・・・」と思いだす前に駐車場に停車。

「あー!都会の海は臭えー!」と高笑いをして歩いていくのを、追いかけるうちに、よくない思い出が甦る。

前にもこの海岸に拐われてきて「恋人がよくやる、きゃっきゃうふふ♡な砂浜いちゃこら追いかけっこしよーよ」と誘われたのだ。

意思表示全開に顔をしかめたら「もし、つきあってくれたら真野ちゃんのサイン、あげちゃう♡」と体をくねらせてウィンクをされ「やる」と即答。

真野ちゃんは俺の推しだった女優で、当時は金に糸目をつけず、関するグッズを買い漁っていたから。

恋人がいちゃいちゃするのにほど遠く、鬼のような形相で砂を蹴散らし「待てやこらあああ!」と全力疾走したが、相手は毎日ランニングし、ジム通いをする鬼フィジカルをしていたに、結局、ゴールと定めたとこまで捕まえられなかったという、苦い苦い記憶。


「また、虚仮にされるのはごめんだ!」と担降りしたこともあり、どんな誘惑をされても応じないつもりでいたのが「これ、なーんだ?」と庄司が掲げてみせた小さい巾着袋に目を見張る。

鞄にいれていたはずが「おま・・!いつの間に!」と血相を変えて奪い返そうとするも、かわされて「俺を捕まえてごらんなさーい♡」と内股で走っていきやがる。

なんだかんだ庄司に乗せられる自分に嫌気がさすも、中身を見られるとまずいから、追いかけずにはいられず。

といって、相かわらず鍛えているらしい相手に対し、俺は忙しい会社勤めで不摂生がたたり、貧相な体つきをしているし、ノミのような体力気力。

前のように徒労に終わるのだろうと思ったのが、茶化すようにゆっくりと女走りをするのに「あんにゃろう!」と奮起し、強く踏みこんで飛びかかった。

こちらを完全に舐めていたらしい庄司は目を丸くしてよけることができず、俺と衝突して砂浜に倒れる。


庄司の体がクッションになって、さほどダメージを受けなかった俺は、すかさず巾着袋をとりあげるも、布越しの感触は空っぽ。

中身がとびだしたのか!?と慌ててあたりを見回すも、くくく、と笑うのが聞こえて向きなおったところで、薬指にはめた指輪を見せつけられた。

安っぽいデザインで鈍い輝きを放つ指輪は、おもちゃだ。


忘れもしない、小学三年生のころ、両親が離婚したときのこと。

神社の縁の下に隠れて泣いていたら、庄司が見つけてくれて「俺は死ぬまで、お前のそばから離れないから」と薬指にはめてくれた。

男ながらに、アクセサリーがおまけの食玩にはまって収集していたコレクション、いちばんお気にいりのやつだったと思う。

さすがに日常で指にはめておけなかったから、祖母につくってもらった小さな巾着袋にいれて肌身はなさず持ち、今の今まで。


頬を熱くして歯噛みしたものの「いやーこれ見るまで約束、忘れていたよ」と庄司が苦笑し、左の頬を指でかくのを見て、息を飲む。

硬直する俺に気づかないで「どうする?今からでもいいから海外にいっしょにいくか?」と小首をかしげる。

「いや、指輪を見つけたからって、なんで結婚前夜に誘うんだよ」「冗談・・・ではなないのか?」「結婚が不本意で、指輪にかこつけて逃げようとしているんじゃないだろうな」「結婚しても、べつに二度と会えないわけないだろう」と疑問をぶつけたり、ツッコミたかったり、問いただしたりしたいところ、薄く口を開けたまま、金魚が餌を食べるように唇をぱくぱくするばかり。

「なあ・・・」と頬を撫でた手が汗ばんで震えているのに「本気なのか」と愕然としつつ、思い出してしまう。


前に砂浜できゃっきゃうふふ♡追いかけっこをしたあと知った、週刊紙に報じられた庄司のスキャンダル。

結婚を前提に交際しているつもりだったのが、妊娠を告げたら腹を蹴られて堕胎させられた挙げ句、札束で頬を叩きつけるようにして捨てられたと匿名の女性が告白したのだ。

週刊紙を読まずとも、まわりから内容を聞かされ、驚く間もなく庄司がテレビ電話で弁明。


「いやさあ彼女が浮気したから、冷たく突き放したのを根に持たれて、週刊紙に嘘の告発されちゃったんだよ!

実際、堕胎したらしいけど、妊娠しただろう時期、俺忙しくて、してなかったから、きっと浮気相手の子供だろうし!

つっても、こんなの女のいったもん勝ちのところあるし、これ以上、騒ぎたてないよう、払わなくていい慰謝料たっぷりくれてやったんだよ!」


実際、週刊紙の続報はなかったし、訴訟もされなかったし、はじめは庄司が叩かれていたのが、相手女性の素性やふだんの言動が知れるうちに「やべー女に謀られたな」と同情されるようになったし。

でも、テレビ電話をしていたとき、庄司は左の頬を指でかいていたのだ。

それは嘘をつくときの癖。


記憶が甦って心が冷え冷えとしていくのが表情から伝わったのだろう。

一瞬、寂しげに笑った庄司は「なーんてな!」と俺を突きとばして立ちあがったなら、外した指輪を海に投げたもので。


結婚式当日、俺は風邪をひき高熱をだして出席できず。

海に投げ捨てられた指輪をぼんやりと見ていて、急に打ち寄せた大波を頭からかぶってのこと。

「ごめん」とメッセージを送ると「いやいや、半分は俺のせいだし」と返事がきて、結婚式の模様を映したものが添付されたが、それを開かずに布団にもぐりこむ。

「もし、堕胎した母さんが父さんに捨てられなかったら、今ごろ俺はどうなっていたのかな・・」とつい思いを巡らすも、目をつむって脳を強制的にシャットダウンし、夢を見ない眠りに落ちたのだった。



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