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暁(あかつき)のエメラルドノヴァ  作者: 月織


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第09話:過去からの幻影:シャドウ・スピーカーの罠

月織--広大な物語の世界を縦横無尽に駆け巡る、新進気鋭の物語紡ぎ手です。


ジャンルを問わず、読者の心に深く響く「希望」と「葛藤」、そして「成長」の物語を描き出すことを信条としています。特に、全年齢対象作品においては、子供たちの純粋な心にも、大人の複雑な感情にも寄り添い、ページをめくるたびに、新たな「光」を見出すような感動体験をお届けすることをお約束します。

すべての作品が、読む人の明日を照らす一筋の光となることを願って、今日も筆を執ります。

序章:静かなる侵入者


グラウンド・ブレイカーとの戦闘で消耗した体は、まだ完全に回復しきっていなかった。警察の報告書には「単独での犯人制圧」と書かれたが、星は知っている。グリフの極限でのサポートなしには、あの場を乗り越えられなかったことを。


「マスター、今日の市民の反応がいつもと違います。妙に冷たい視線を感じます」


交番での勤務中、グリフが静かに報告する。データ・ゴーストの情報戦の影響が、確実に日常に浸食し始めていた。


「何かあったの?」星は周囲を見回したが、誰も星を気にする様子はない。だが、その視線が、自分に気づいた瞬間に逸れるのが分かる。


「気のせいじゃないさ、星。みんな、お前の華やかな経歴に憧れと、同時に一種の壁を感じてるんだろうよ」黒岩が皮肉っぽく言った。


「…はい、気をつけます」


星は、刑事としての職務に集中しようと努めるが、心の奥底で、自分は「偽りの光」ではないかと疑念が膨らみ始めていた。


その夜。エメラルドノヴァの変身ユニットが、未だ完全にチャージできていない中、新たな脅威が襲来する。


「マスター、異常事態です! 感情エネルギーの異常な収束反応を感知! それも、マスターのコア・プロファイルに強い共鳴を示しています!」


グリフの警報は、いつになく切迫していた。


現場へ急行すると、そこには巨大な怪物は見当たらなかった。代わりに、都市の上空に、巨大な黒いシルエットが漂っていた。それは明確な形を持たず、まるで影と霧で構成された、巨大な口のような不気味な虚空だった。


「これが…シャドウ・スピーカー?」


「おやおや、輝く光だ。だが、その光は、真実から目を背けた、汚れた残光に過ぎない」


その声は、星の意識の中に直接響いてきた。それは、電子音でも、唸り声でもない。人の声だが、感情がなく、無数の声が重なり合ったような、冷たく、響き渡る音だった。


第一幕:ステージの幻影と、過去の罪悪感


シャドウ・スピーカーは、物理的な攻撃を仕掛けてこない。代わりに、星の変身したエメラルドノヴァの周囲に、緑と青の光の霧を漂わせ始めた。


「エメラルドノヴァよ。貴女は、あのステージを降りた。なぜだ? 貴女は、人々に最高の夢を見せられる唯一の存在だったはずだ」


霧が濃くなり、周囲の風景が歪み始める。次の瞬間、星の目の前に、あの慈善イベントで歌っていた頃の自分の姿が、ホログラムのように浮かび上がった。それは、満面の笑みを浮かべた、光り輝くアイドルだった。


「これは…幻覚?」


「幻覚ではない。貴女が最も大切にした『過去の自分』だ。貴女は、あのステージを捨て、警察官になった。それは、あの笑顔を裏切ったということだ。貴女の求める『正義』とは、過去の輝きを捨て去ることだったのか?」


幻影の「自分」が、星に語りかける。その言葉は、星がこれまで自分自身に言い聞かせてきた自己正当化の言葉そのものだった。


「違う…私は、法と秩序を守るために…」


「法? 秩序? 貴女のその美しすぎる光は、常に『ノイズ』を纏っている。アイドル時代の、あの輝きに執着するファンの『期待』。刑事としての、自分の無力さに対する『苛立ち』。全て、ゼロ・オラクルが最も嫌う、矛盾した感情の塊だ!」


シャドウ・スピーカーは、星の最も深いトラウマを抉る。


「データ・ゴーストが拡散した偽情報で、貴女の信用は既に揺らいでいる。誰も貴女を信じない。信じるに値しない存在だと、貴女自身が一番分かっているはずだ!」


エメラルドノヴァのスーツの光が、激しく乱れ始めた。エネルギーの制御が効かない。彼女の核にある「希望」が、過去の「失敗」と「裏切り」の記憶によって侵食されていく。


「やめて…やめてよ…!」


星は、光の槍を両手で握りしめるが、その力は幻影を打ち払うには至らない。


第二幕:グリフの自己防衛と、刑事の倫理


「マスターの生命エネルギーが急激に低下しています! 精神防御が崩壊寸前です!」グリフが警告する。


シャドウ・スピーカーは、星の精神的な動揺がエネルギーとなり、それを吸い上げているのだ。彼の目的は、物理的な撃破ではなく、精神的な「絶望」による完全な機能停止だった。


「マスター、今は戦う時ではありません! 変身解除を!」


「できない! このままじゃ…この街の安心感も、私の刑事としての未来も、全部、消える!」


星は、幻影の自分に向かって叫ぶ。

「私は、夢を捨てたかもしれない。でも、誰かのために輝きたいという気持ちは、嘘じゃない!」


その瞬間、シャドウ・スピーカーが、星の最も守りたい「現在」の幻影を重ねてきた。それは、制服姿の星が、昨夜、あの詐欺被害者の男性に深々と頭を下げ、謝罪している光景だった。


「法を越えて動いたお前の行為は、結局、法治国家の秩序を乱しただけだ。お前は、救ったつもりだろうが、秩序を乱した罪人だ」


星の心臓が凍り付く。刑事としての倫理観が、ヒーローとしての行動と激しく衝突した。


その時、グリフが星のすぐそばで、これまでになく強い光を放ち始めた。


『マスター。貴女の正義は、誰かの評価や、過去の栄光で決まるものではありません。貴女が、その一歩を踏み出した、その瞬間こそが真実です。ノイズはノイズです。無視なさい!』


グリフの強い意志のエネルギーが、星の変身ユニットに流れ込む。それは、星の「希望」を守ろうとする、純粋なシステム的な「誓い」の発露だった。


第三幕:真実を照らす一撃


グリフのエネルギーに支えられ、星のスーツの光が、再び安定を取り戻す。幻影の輝きは、本物の光の前では薄れていく。


「そうよ、グリフ。ありがとう」


星は、幻影に向き直り、冷たく言い放った。


「私は、過去の私を否定しない。あの時の笑顔も、今のこの制服も、全て私の一部。そして、私はこの街の平和を、法と、力と、そして、私の意志で守り抜く。それが、私の正義よ!」


エメラルドノヴァは、光の槍を構え直し、シャドウ・スピーカーに向けて一歩踏み出した。


「その曖昧な正義も、偽善も、全てこの光で焼き払ってあげる!」


星は、グリフから流れ込んだエネルギーを全て槍に集中させ、そのエネルギーを「真実の光」へと昇華させる。それは、彼女の「刑事としての探求心」と「アイドルとしての輝き」が融合した、最も純粋な必殺光線となった。


「ノヴァ・ジャスティス・レイ!」


光線が幻影を貫き、シャドウ・スピーカーの本体へと到達する。光は彼の影の構造を根底から揺さぶり、存在の根拠を揺るがした。


「馬鹿な…感情のノイズが、これほどの力を持つだと…! この撤退は、ただの撤退ではない。システムへの警告だ!」


シャドウ・スピーカーは、凄まじいノイズを発生させながら、巨大な影を霧散させ、闇の中へと逃げ去った。


戦いが終わり、エメラルドノヴァの光が収束する。星は再び、制服姿の自分に戻った。疲労の色は濃いが、その表情は晴れやかだ。


「よくやったわ、グリフ」


『マスター、本日、マスターのコア・ユニットは極めて危険な状態でした。しかし、貴女の「意志の力」が、全てのノイズを凌駕しました。』


「そうだといいんだけど。…私、法を破る一歩手前まで行ったわね。黒岩先輩にバレたらどうしよう」


星はクスリと笑い、疲れた体を支えに立ち上がった。法と、倫理と、そして自らの力の行使。その境界線を歩き続けることこそが、彼女の戦いなのだ。


(第9話了)

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