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暁(あかつき)のエメラルドノヴァ  作者: 月織


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第03話:私の正義、グリフの誓い

月織--広大な物語の世界を縦横無尽に駆け巡る、新進気鋭の物語紡ぎ手です。


ジャンルを問わず、読者の心に深く響く「希望」と「葛藤」、そして「成長」の物語を描き出すことを信条としています。特に、全年齢対象作品においては、子供たちの純粋な心にも、大人の複雑な感情にも寄り添い、ページをめくるたびに、新たな「光」を見出すような感動体験をお届けすることをお約束します。

すべての作品が、読む人の明日を照らす一筋の光となることを願って、今日も筆を執ります。

「はぁ……」


緑川 星はため息をついた。今度は授業中だ。法学部のゼミで、教授が「法治国家における正義の多面性」について熱弁を振るっている。


「法とは、社会秩序を保つための技術であり、それ自体が絶対ではない。時に、法を越えた『倫理』や『道義』が、真の正義を示すこともある。大切なのは、その判断を下す『個』の強さ、つまり良心だ」


星の脳裏に、昨夜のデータセンターでの攻防が蘇る。電子ロックを強引に解除し、不安定なエネルギーで変身した自分。それは、法や規則から見れば、限りなくグレーな行為だった。


「緑川さん、どうですか。この判例について、あなたの見解は?」


教授に指名され、星は眼鏡を押し上げた。

「はい。教授のおっしゃる通り、法は技術であり、絶対ではないと感じます。しかし、その『倫理』を誰が決定するのか。今の私にとって、その判断軸は、私自身の…心にある、と思います」


響が「さすが、深いね」と囁くのが聞こえたが、星はそれ以上、深く語ることはできなかった。自身の心の中にある「もう一つの顔」については、誰も知らない方がいい。


授業後、星は急いで交番へ向かった。制服に着替える間、小型AIロボットのグリフが、そっと星の肩に乗った。


「グリフ、ちょっと重いんだけど」

『すみません、マスター。今日の夜間パトロールのルート、微調整しました。昨日の戦闘で、この地域のエネルギー反応にノイズが残っています。念のため、変身ユニットの自己診断も開始します』


グリフが発する微かな電子音は、星にとって一番心地よいノイズだ。


「ありがとう。無理しないでね、グリフ。無理は禁物だって、昨日、私自身が痛感したばかりなんだから」


グリフは、青いセンサーアイを瞬かせ、まるで頷くように静かに光った。


---


夜のネオ・トウキョウ。パトロールカーの車内は静寂に包まれている。


「あの怪物のエネルギー、まだ完全に拡散しきれていないみたい」星は、グリフが映し出す解析データを睨んでいた。「普通のテロなら警察が対処できるけど、このエネルギーは法で裁けない。だから、私が『エメラルドノヴァ』として処理しなければならない」


『マスター、そのエネルギーは、単なる破壊力ではありません。人の感情の残滓が、未だにネットワーク上に残響している状態です。ゼロ・オラクルが、人々の希望を『食う』ための下準備かもしれません』


グリフの解析は鋭い。それは、彼が単なるペット型AIではなく、超高度な戦闘支援ユニットであることを示していた。


「グリフ、もし私が変身ユニットの制御を失ったら…どうなるの?」星はふと、不安になり尋ねた。昨日の変身はギリギリだった。


グリフは、解析画面を一瞬止め、星に向き直る。

『もしマスターが戦闘中に意識を失い、システム制御が不可能になった場合、私の最優先プロトコルが作動します。それは、**マスターのコア・ユニットを完全に保護し、マスターの命と安全を最優先**する、という誓いです』


「コア・ユニット?」


『マスターの命を守るため、私はシステムを乗っ取り、マスターを強制的に変身解除させ、一時的に戦闘フィールドから排除します。その際、私は自爆プログラムを作動させ、マスターのデータとエネルギー痕跡を完全に消去します。戦闘ユニットとしての私は、マスターの安全と引き換えに、機能停止します』


グリフの言葉は淡々としていたが、その響きには強い「決意」が込められていた。

彼――彼女が、星の命を最優先するために、その存在そのものを賭けるという「誓い」。それは、星が刑事として負った「市民を守る」という誓いと同じ重さを持っていた。


「グリフ…そんなこと、させないわ。私は、あなたを失いたくない」星の声は震えていた。


『心配ありません、マスター。私の存在意義は、あなたと共に戦うことです。貴女が光を失うことは、私にとっての絶対的な敗北ですから』


その時、パトカーのレーダーが、二人のすぐ近くで異常なエネルギー反応を捉えた。


「反応あり! 廃墟ビル群、エネルギーレベルが急上昇!」


---


現場に急行すると、そこには小型だが獰猛なアビス・ドローンズが三体、一人のホームレスを囲んでいた。彼らは、老人の持っていた古い写真(家族写真のようだ)を奪い、それをエネルギー源に変えようとしていた。


「やめて! その人を、その思い出を傷つけないで!」


星はパトカーを飛び出し、制服のまま突っ込んだ。


「刑事だ! 武器を捨てろ!」


ドローンズは星の存在を無視し、老人の写真に触手を伸ばす。星は、刑事として叩き込まれた体術で、一番近くのドローンズの横っ腹に正拳を叩き込んだ。


「くっ…硬い!」


刑事の格闘術は、強化スーツなしではドローンズの硬質な外皮には通用しない。一撃で反撃を受け、星は横っ腹を殴られ、数メートル吹き飛ばされた。


「マスター!」グリフが警報を鳴らす。


星は地面に着地した勢いを使い、すぐに体勢を立て直す。ここで変身すれば楽になる。だが、変身すれば、この辺りの人々にも影響が出るかもしれない。何より、グリフに負担をかけたくない。


「まだ、変身はしない。グリフ、私の体術で対応できる範囲を限界まで試すわ!」


星は、刑事として学んだ護身術と、アイドル時代に培ったバランス感覚、そして体幹の強さを総動員した。彼女はドローンズの攻撃をひらりとかわし、格闘術特有の、相手の力を利用した体さばきで敵の懐に潜り込む。


「一つ! 技あり!」


星はドローンズの隙間に飛び込み、その関節部分に、体重を乗せた回し蹴りを叩き込む。ドローンズの装甲にヒビが入った。


『マスター、素晴らしい! その動きは、昨日の戦闘で得た空間把握能力が活かされています!』グリフが興奮気味に報告する。


だが、三体が連携し始めると、話は別だ。一体が星の背後から迫り、もう一体が彼女の足元を狙う。星は紙一重でかわすが、防御に追われ、攻撃の手が緩んでいく。


「くっ…! この連携、訓練では想定外だわ!」


一体のドローンズが、星の背中に強力なエネルギー弾を放つ。星は間一髪で避けるが、その熱波で彼女の制服の袖が焦げ付いた。


「危ない!」


グリフが、星の背中に飛びつき、自身のボディからバリアを展開。ドローンズのエネルギー弾を、グリフの小さな体で受け止めたのだ。


「グリフ!」


グリフのボディが激しくスパークし、青いセンサーアイが激しく点滅する。「マスターの安全確保」のため、過負荷のバリアを展開しているのだ。


「グリフ、やめて! そんなことしたら、システムが…!」


星の心に、あの変身解除の瞬間の光景が蘇る。グリフが自らを犠牲にしてでも、彼女の安全を優先するプロトコル。


「私は刑事として、市民を守る。そして、ヒーローとして、あなたを守る!」


星の瞳から、涙が溢れそうになる。しかし、今はそれを拭う時間もない。


---


星は、最後の力を振り絞った。刑事として培った「正義」と、グリフが示した「誓い」を力に変える。


「グリフ、私の意識とリンクして! バリアを解除、そのエネルギーを私に!」


『マスター、危険すぎます! マスターの心拍数が限界を突破します!』


「いいから、信じて! 私たちの正義を、ここで終わらせるわけにはいかない!」


星の強い意志が、グリフのシステムを上書きした。グリフは苦渋の決断と共に、バリアを解除。彼が受け止めたエネルギーが、青から緑へと色を変え、光の奔流となって星へと流れ込む。


それは、変身エネルギーとは異質だった。グリフの「マスターを守る」という純粋な誓いのエネルギー。


「来るわよ!」


星は、そのエネルギーを体内に受け入れながら、ドローンズ一体の懐に飛び込んだ。スーツの制御が不安定なため、光のラインは激しく明滅し、まるで彼女の心臓の鼓動のように見えた。


「一撃で決める!」


星は、刑事としての体術に、流れ込んだエネルギーを乗せる。それは、ただの打撃ではない。彼女の意志が凝縮された、鉄の拳だ。


「正義の重さ、教えてあげる!」


星の拳が、ドローンズの装甲の最も脆い接合部に正確に叩き込まれる。エネルギーが内部で炸裂し、ドローンズは内部から破壊され、緑の粒子となって崩壊した。


残りの二体も、その隙を見逃さず、ノヴァのエネルギーを槍に集中させた一閃で、光の軌跡を描きながら仕留めた。


「ケリがついた…」


戦闘が終わり、星は膝をついた。スーツの光が激しく点滅した後、完全に消える。再び、制服姿の星が、荒い息を整えている。


グリフが、元の小型AIの姿に戻り、彼女の膝の上で震えていた。

『マスター…貴女のコア・ユニットに、危険な負荷がかかっています』


星は、ボロボロになったグリフをそっと抱きしめた。制服には焦げ跡がつき、腕にはかすかな擦り傷が見える。


「ごめんね、グリフ。でも、ありがとう。貴方が私の命を守ろうとしてくれたように、私もあなたを、そしてこの街を守る。それが、私、緑川 星の、刑事としての正義であり、エメラルドノヴァとしての誓いだもの」


彼女は静かに空を見上げた。夜明けの光が、ネオ・トウキョウを優しく照らし始めていた。

この身一つで、どれだけのものを背負えるのか。それはまだ分からない。だが、彼女の隣には、命を賭して誓いを立てた相棒がいる。


この絆があれば、どんな闇も乗り越えられる気がした。


(第3話了)

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