第21話 透明人間
組合での仕事にも、少しずつ慣れてきた。
その合間を縫って、僕は明日と一緒に、自分の能力の練習を続けていた。
その日も、僕たちは港湾地区にある、組合のコンテナヤードにいた。
空高く積み上げられたコンテナの壁が、無機質な渓谷を作り出している。
潮の香りに、錆びた鉄とオイルの匂いが混じり合い、時折、遠くで汽笛が、まるで巨大な獣の鳴き声のように低く響いた。
「よし、やるか、悠句!」
「……うん」
コンテナの上に腰掛けた明日が、楽しそうに言う。
僕は言われた通り、目を閉じ、意識を集中する。
(消えろ)
僕が着ていたパーカーとカーゴパンツが、陽炎のように揺らめいて、すうっと消える。
後に残されたのは、コンテナヤードの中に、下着一枚で立ち尽くす、僕の情けない姿だった。
どうやら僕は、まず自分の「服装」からイメージを始めてしまう癖があるらしかった。
自分の顔が、カッと赤くなるのが分かった。
「……ぷっ、あははは!
またかよ悠句!
そっちの『消し方』はもう完璧だな!」
「わ、笑うなよ!」
僕は慌てて意識を戻し、服を実体化させる。
明日が、からかうように言う。
「もっかい、もっかい!」
「うっ、うるさい!」
僕は今度こそ、もっと強く、もっと心の底から念じる。
全身を消すには、僕の最も純粋で、強い願いを――。
(消えてしまいたい)
その瞬間、コンテナヤードの風景が歪んだ。
濁流のように、本土での辛い記憶が頭の中に流れ込んでくる。
姫宮たちの、粘つくような嘲笑。
間引き隊の、虫けらを見るような侮蔑の視線。
全身から血の気が引き、激しいめまいと吐き気に襲われる。
気づけば、僕はその場にうずくまり、荒い呼吸を繰り返していた。
能力は、発動していなかった。
「……おい、悠句、大丈夫か?」
明日が、猫のようにしなやかにコンテナからひらりと飛び降り、心配そうに僕の顔を覗き込む。
僕は、力なく首を振った。
「……駄目だ。
この力を使おうとすると、どうしても、あの時のことを……思い出して……苦しくなる」
「……」
「やっぱり、僕には……」
弱音を吐きそうになった僕の言葉を、明日が遮った。
彼は僕の前にしゃがみ込むと、真剣な眼差しで僕と視線を合わせた。
その、あまりに真っ直ぐな瞳に、僕は心臓がどきりとするのを感じた。
「なあ、悠句。
お前が今、一番したいことは何だ?」
「え……?」
「『消えてしまいたい』のか?
それとも、『ここにいたい』のか?
どっちだ?」
そうだ――そうだった。
僕はもう、消えたいわけじゃない。
僕は、彼の目を真っ直ぐに見つめ返した。
「……ここに、いたい」
「だよな。
だったら、そのために力を使うんだ。
過去に逃げるための『願い』じゃなくて、未来を掴むための『意志』として。
例えば……『あのコンテナの影に、誰にも気づかれずに移動する』ってさ」
明日の言葉に、僕ははっとした。
そうだ。
この力は、もう僕を苦める呪いじゃない。
僕が、この街で生きていくための、武器なんだ。
「……ありがとう。
やってみる」
僕は、もう一度、深く息を吸った。
今度は、恐怖ではなく、明確な意志を込めて。
(――あのコンテナまで、気づかれずに、行く)
その瞬間、僕の世界から、すうっと色が抜けていくような感覚がした。
さっきまでとは比べ物にならないほどスムーズに、僕の身体が、陽炎のように揺らめき、コンテナヤードの風景に溶けていった。
隣から、明日が「おおっ!」と息を呑むのが分かった。
僕は、その感覚を忘れないように、何度も、何度も練習を繰り返した。
立っているだけ。
ゆっくりと歩く。
その場でしゃがんでみる。
明日は、そんな僕の周りをうろちょろしながら、「お、いいじゃん!」「その調子!」「天才!」「今、腕だけ見えたぞ!」と、実況のように声をかけてくれる。
僕はそうやって、少しずつ、少しずつ、この新しい身体の動かし方に慣れていった。
「よし、理屈は分かったみたいだし、そろそろ実践編といくか!」
明日は、悪戯っぽく笑うと、コンテナヤードを舞台にした「鬼ごっこ」を提案した。
「俺から1分間、一度も視認されずに逃げ切れたら、悠句の勝ちってことでどうだ?」
「い、1分も!?」
「まあまあ、かくれんぼみたいなもんだから!
いいか、十秒後に始めるぞ!
じゅう、きゅう……」
僕は慌てて透明化し、近くのコンテナの影に身を潜めた。
息を殺し、気配を断つ。
心臓の音が、やけに大きく響いた。
「……ゼロ!
さーて、どこかなー?」
楽しげな声が、だんだんと近づいてくる。
僕は、コンテナの壁に身体をぴたりと寄せた。
大丈夫。
見えないはずだ。
明日は、僕が隠れているコンテナの前を、ゆっくりと通り過ぎていく。
行った。
やり過ごせた。
僕が、ほっと息をついた、その瞬間だった。
「――みーつけた」
すぐ耳元で、ほとんど密着するくらいの距離で、声がした。
振り返る前に、コンテナの壁に、どん、と手が置かれる。
いつの間にか回り込んでいた明日が、僕を壁際に追い詰める形で、ニヤリと笑っていた。
驚きのあまり、僕の透明化が解ける。
「な、なんで……!?」
「呼吸だよ、悠句。
息をする音が、丸聞こえだったぜ」
彼は、自分の猫耳をぴこぴこと動かしてみせる。
「俺の耳、なめんなよ?
まあ、淘汰委員会の手練れみたいな連中なら、猫耳がなくたって、今くらいの呼吸音ならすぐに見つけるだろうけどな」
「もう一丁!」
明日の掛け声と共に、再び鬼ごっこが始まる。
今度は、呼吸も、極限まで殺す。
僕は、物陰でただ、息を潜めていた。
明日が、僕のいるコンテナの斜め前あたりで、辺りを見回しながら立ち止まる。
今度こそ、気づかれていない。
彼が、ふっと笑うのが見えた。
次の瞬間、僕がいるあたりの空間に向かって、明日が何かを投げた。
――たくさんの、小さな石。
ぱらぱら、と僕の足元やコンテナに、石が当たる音がする。
そのうちのいくつかが、僕の身体に「こつん、こつん」と当たった。
「あっ……!」
思わず声を上げた瞬間、僕の身体が、現実世界に引き戻される。
明日は、悪戯が成功した子供のように笑っていた。
「な?
見えないなら、炙り出せばいい。
気配は消せても、心臓の音まではごまかせないだろ?
お前の心臓の音が聞こえる、だいたいあの辺だろうなって場所に、適当に投げただけだよ」
「そんなバレ方もあるんだ……」
「そ。
ま、いくら手練れでも、心臓の音まで聞ける奴は多くないけどね。
さて……ちょっと休憩するか。
作戦会議だ」
明日はそう言うと、地面にあぐらをかいて座った。
僕も、そのすぐ隣に座る。
「駄目だ……。
見えなくなるだけじゃ、すぐに見つかっちゃう……」
「まあな。
でも、それ、当たり前だぜ」
「え?」
「俺だって、そうだったから。
この身体になって、最初はただ足が速くなっただけだと思ってた。
でも、ある時、組合の仕事で事故があってさ。
クレーンが吊り上げてたコンテナが、計量ミスによる重量オーバーで、ワイヤーが耐えきれずに切れちまったんだ。
下にいた仲間たちの、真上に」
「うわ……」
「数人が、完全に下敷きになる。
抱きかかえて一気に助けるのも、絶対に間に合わない。
やべえ!と思って、咄嗟に、落ちてくるコンテナを、全速力で殴り飛ばしたんだ。
そん時、無意識だった。
ただ、『あっち行け!』って願いながら、走りながら、身体中の力を拳に込めたんだ」
彼は、少しだけ遠い目をした。
「……気づいたら、コンテナが、振られたサイコロみたいにくるくる回りながら、海の向こうまで吹っ飛んでってた。
それで、俺も、下にいた仲間たちも、みんな呆然としちゃってさ。
後で聞いたらそのコンテナ、荷物込みで17トンもあったらしいんだ」
「じゅ、17トンが……!?」
「そう。
後で氏左衛門さんに言われたよ。
『猫坊っちゃんは、ただ速いだけではない。
その移動速度そのものを、質量を乗せて叩き込む力も持っていますな』って。
……それで、俺が自分で名付けたのが『猫パンチ』だ」
明日は、少しだけ誇らしそうに、そして照れくさそうに続けた。
「もちろん、コンテナの中身はパーだから、組合には大損害だ。
俺、クビを覚悟したよ。
でも、ワンさんは事情を聞いた後、『弁償代は組合から出しとく。
てめえは気にすんな』って。
それから、俺の頭をわしゃわしゃ撫でて、『……よくやった』って、それだけ。
ワンさんがあんな風に、俺のこと褒めてくれたの、後にも先にもあれ一回きりなんだ。
……だからさ、ただ見えなくなるだけじゃなくて、練習と、応用が大事なんだよ」
僕は、はっとした。
ソラリスの言葉が、頭をよぎる。
(――観測されることを望まない生命は、他者からの観測それ自体を拒むことができる)
「……観測」
「そう。
観測ってのは、視覚だけじゃない。
お前、今、『見えなく』なりゃいいと思ってるだろ?」
「うん」
「そうじゃなくて、『観測されなく』なろうとしなきゃ。
音も、匂いも、気配も、熱も。
その全てを断ち切って、初めて『誰にも観測されない』存在になれるんじゃないかな」
「……」
「姿を消して、さらに気配ごと消す。
要は、相手が『そこにいるはずがない』と思い込んでいる、意識の死角に潜り込むんだ。
そうすれば、どう頑張っても観測できなくなるだろ?」
「意識の死角……」
「そうすりゃ、二重に見つかりにくくなる。
……よし。
理屈は分かったみたいだし、次はあいつを使ってみよう」
明日は、ヤードの出口付近を巡回している、組合の警備員の仲間を指差した。
僕と同じくらいの歳の、まだあどけなさが残る少年だった。
「あいつのすぐ後ろを、気づかれずに、しばらくつけてみろ。
ぴったりと後ろについて、尾行するんだ」
僕は頷いた。
明日は、猫のようにしなやかな動きで、近くのコンテナの上へとひらりと飛び乗る。
そこから、僕の様子をこっそり見守るつもりなのだろう。
僕は、深く、静かに息を吸った。
警備員の少年は、退屈そうにあくびをしながら、決められたルートをゆっくりと歩いている。
僕は、足音を殺し、呼吸を整え、彼の意識の死角を縫うように、コンテナの影から影へと移動を開始した。
――思い出す。
本土で、いじめから逃れるために、他人の顔色をうかがい、隠れるように生きてきた、あの息苦しい日々。
姫宮の視界に入らないように。
彼の機嫌を損ねないように。
廊下の隅を、壁の染みになったつもりで歩いていた、あの頃。
あの経験が、今、僕の武器になる。
これは、未来のための技術だ。
警備員の少年が、角を曲がる。
僕は、すぐには後を追わない。
心の中で三つ数える。
人は、前に進んでいる時は、真後ろへの警戒が疎かになる。
僕は、彼の歩くリズムに合わせて、音を殺しながら進んだ。
開けた場所に出ても、僕は冷静に距離を保ち、彼の後をつけた。
その時、頭上で飛行船の陽気な広告アナウンスが響き渡った。
『――ねえねえ、今日のランチ、もう決めた?
組合ストア直営〈ぶーちゃん亭〉の空間豚カツサンドはいかが?
異次元から直送、サクッとジューシー!
今なら限定ぶーちゃんステッカー付きだよ!』
少年が、その声につられてふと空を見上げる。
そして、そのまま、何気なくこちらへ振り返ろうとした。
まずい――。
僕は慌てて、彼の視界から外れるための死角へと身を滑り込ませようとする。
しかし、焦りから足元の小さな石を蹴ってしまい、「こつん」と乾いた音が響いた。
しまった、と思った瞬間、僕は咄嗟に、今日学んだことを思い出していた。
(——彼に見つからない未来を!)
少年が音のした方へ視線を向ける、そのコンマ数秒前に、僕は身体を透明にした。
少年は、僕がいたはずの空間を怪訝そうに一瞥したが、そこには誰もいない。
彼は首を傾げ、気のせいと判断したのか、再び背を向けて歩き出した。
僕は、能力を解除し、荒くなりそうな呼吸を必死で整える。
危なかった。
でも、やり過ごせた。
心臓が早鐘のように鳴っている。
不思議と、恐怖よりも、このスリルを乗り越えたことへの奇妙な高揚感があった。
しばらく追跡を続けたところで、ふと、前方のコンテナの角から、別の警備員が姿を現した。まだこちらには気づいていない。
これ以上は危険だ。
僕は追跡を中断し、二人の警備員から見えない、コンテナが作り出す一番深い影の中へと音もなく滑り込んだ。
壁に背を預け、息を潜める。
やがて警備員たちが通り過ぎていくのを確認し、僕は緊張の糸をゆっくりと解いた。
すると、まるで最初からそこにいたかのように、コンテナの陰から明日が姿を現した。
いつの間に回り込んでいたのか、息一つ乱していない。
「やるじゃん、悠句。
気配の殺し方、死角への入り方、ちょっとずつ様になってきたな」
彼は、拳をこつんと突き出してきた。
僕も自分の拳を軽く合わせる。
「ありがと。……でも、最後、見つかりそうになって、能力を使っちゃった」
「いいんだよ、それで。
追い詰められた時に、咄嗟に力が使えるようになったって証拠だ。
今日の訓練は、上出来だぜ」
明日は、ニカッと笑った。
一通りの訓練を終えた後、僕たちはコンテナの上に並んで腰掛け、偽東京の空を眺めていた。
空はどこまでも青く晴れ渡っている。
遠くには、本土とは少し違う形をしたビル群、港の入り口にそびえる巨大な大鳥居、そして緑豊かな山々まで見渡せた。
ビルの壁面には巨大なホログラムの芸者が映し出されては消える。
時折、広告を映し出す巨大な飛行船が、ゆっくりと空を横切っていく。
本土で見ていた息苦しい空とは違う、この開放的な景色が、僕は何よりも好きだった。
「……なあ、悠句。
お前のその力さ、自分以外のものも、透明にできるのかな?」
「え……?
考えたこともなかった……」
「だよな。
俺も今、思いついた。
ちょっと、これ持ってみろよ」
明日が差し出したのは、さっき僕に当たったのと同じ、ただの小石だった。
僕は、それを受け取り、掌に載せる。
「そいつごと、消えてみろ」
僕は、自分自身と、そして掌の中の小石、その両方を「観測されたくない」と強く念じた。
すると、僕の身体が風景に溶けていくと同時に、掌の小石も、ふっとその姿を消した。
「……できた……」
「マジか!」
明日の目が、きらりと輝いた。
彼は、少しだけ考え込むような顔をして、それから、意を決したように言った。
「じゃあ……じゃあさ!
次は……俺でやってみてよ!
生き物もいけるのかな?」
明日は、子供みたいに目を輝かせている。
僕は、彼の肩にそっと手を置いた。
さっきよりも、ずっと強く、深く、念じる。
(僕も、明日も、誰にも見つけられない)
明日の身体が、僕と同じように、陽炎のように揺らめき始める。
しかし、彼の輪郭が半分ほど消えかけたところで、僕の頭の中を、無数の世界の法則が衝突するような、情報量の洪水に溺れる感覚が走った。
消えかかっていた二人の姿が、同時に現れる。
僕は、激しい頭痛と疲労感に、その場に崩れ落ちそうになった。
「……ごめん、明日。
頭が……割れそう……」
「おい、大丈夫か!」
明日は、倒れそうになった僕の身体を、咄嗟に抱きとめた。
彼の顔には、さっきまでの興奮ではなく、本気の心配の色が浮かんでいる。
「無茶させちまったな、ごめん。
自分以外のものを消すのは、相当消耗するんだな」
「……うん。
でも、すごかった……。
明日が、消えかけた……」
「いーや、すげえのは悠句だよ!
マジですげえ!」
「そうかな……」
「そうだって!
なあ、分かったか!?
俺たちが、今、何を手に入れたか!」
明日は、僕の肩を揺すって、興奮した様子で言った。
「お前がもし、俺を完全に透明にできたら?」
「明日が、いつものスピードで走っても……」
「見えない!」
「見えない、そして、速い……」
「そう!
誰にも見えない弾丸になれる!
そうなったら、誰も俺たちを止められない!
最強のコンビ誕生だ!」
その言葉に、僕も胸が熱くなった。
明日とコンビを組めるんだ。
もっと。
もっと、この力を使いこなせるようになりたい。
明日の隣に、ずっと立っていたい。
「……もう一回だけ、頑張ろう、か、な」
僕は、残った精神力を振り絞り、再び彼の肩に手を置いた。
しかし、それが限界だった。
脳が悲鳴を上げ、僕の視界がブラックアウトする。
「……やっぱり、もう、無理だぁ……」
糸が切れたように、僕の身体が、前へと崩れ落ちる。
意識が遠のく直前、明日が、僕の身体を力強く、そして優しく抱きとめてくれたのだけは、分かった。
――次に僕が目を覚ました時、そこにいたのは、見慣れた天井だった。
明日の部屋の、ベッドの上。
窓の外は、もうすっかり夜の闇に包まれていた。
自分が着ている服も、練習で汚れたものではなく、清潔なものに変わっている。
「……ん、起きたか、悠句」
ベッドの脇の床に座り込み、ヘッドホンのメンテナンスをしていた明日が、顔を上げた。
その顔には、心配の色が浮かんでいる。
「ごめん……僕、あれから……」
「気にするなって。
気絶したお前を、俺がここまで運んできただけだよ。
汗でびっしょりだったから、身体を拭いて、俺の上着をかけといた。
風邪ひくなよ。
……まあ、それだけ無茶するくらい、頑張ったってことだろ」
明日は、ベッドの脇に置いてあった、よく冷えた瓶コーラを一本、僕に手渡した。
彼の手にも、同じ瓶コーラが握られている。
それが、彼のとっておきの飲み物であることを、僕は知っていた。
「よく頑張ったな、悠句。
ご褒美だ」
僕は、ゆっくりと身体を起こす。
僕たちは、ベッドに並んで腰掛けると、その冷たい炭酸で、乾いた喉を潤した。
明日は、自分の瓶を、僕の方にこつんとぶつけてきた。
「名コンビ結成に、乾杯」
悪戯っぽく笑う彼の顔を見て、僕も、自然と笑みがこぼれた。
僕たちは、並んでコーラを飲んだ。
「……ねえ、明日」
「ん?」
「この力があれば、僕も、みんなの役に立てるかな」
「みんなの?」
「うん。
明日とか、ワンさんとか、組合の、色んな人の」
僕の問いに、明日は、一瞬きょとんとした顔をして、それから、当たり前だろ、とでも言うように笑った。
「立てるさ!
当たり前だろ」
「そうかな……」
「そうだよ。
お前はもう、ただの新入りじゃない。
俺たちの『ステルス担当』になるんだからな」
その言葉が、僕の疲れた身体に、じんわりと染み込んでいく。
明日は、僕の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「……うん。
頑張る」
僕の小さな返事に、明日は、満足そうに笑った。




