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第2話 遺伝子レベル:0

お読みいただきありがとうございます。


審判の時。少年に下される運命とは――。

 大國先生が淡々と出席番号を読み上げていく。

 その無機質な声が、一人、また一人と生徒たちの運命を仕分けていった。


「出席番号1番、相沢サキ」


 陸上部のエースである彼女は、一切の淀みない足取りで教壇へと向かった。

 その背中には、選ばれた者だけが持つ揺るぎない自信が満ちている。

 彼女は受け取ったカードを一瞥すると、勝者の笑みを浮かべ、席に戻る途中で、見せつけるようにそれを高く掲げた。

『遺伝子レベル:56』

 姫宮の数字が異常なだけで、それは十分に高い数値だった。

 教室のあちこちから、「おおー」という感嘆と、隠しきれない羨望のため息が漏れる。


 この教室では、結果を堂々と見せつけることこそが強者の証なのだ。

 僕を含め、ほとんどの生徒は、これから渡される自分の運命が記されたカードを、誰にも見られぬよう鞄の奥にしまい込むしかないというのに。


 何人かの生徒が呼ばれ、そのたびに教室の空気は安堵と絶望の間で微かに揺れ動いた。

 そして、ついにその名前が、僕の耳に冷たい杭のように突き刺さった。


「――隠悠句」


 世界の音が、すうっと遠のいていく。

 クラスメイトたちの視線が、無数の針となって肌に突き刺さるのを感じながら、僕は覚束ない足取りで教壇へ向かった。

 床が沼のようにぬかるんで、一歩進むごとに足が沈んでいくような気さえした。


 大國先生の、獲物を品定めするようなねっとりとした視線が、僕を上から射抜く。


「隠。

 君の未来だ。

 大切にしたまえ」


 先生の分厚い指から、ひんやりとしたプラスチックのカードを受け取る。

 死人の肌に触れたかのような冷たさだった。

 僕は震える指で、誰からも見えないように、その表面に記された文字に視線を落とした。


 そこには、あった。

 僕の名前「隠 悠句」の横に、印刷されたとは思えないほど鮮烈な、血のような赤色で。


『遺伝子レベル:0』


 視界が真っ白に染まり、耳の奥でキーンという金属音が鳴り響く。

 息ができない。

 心臓が、氷の塊みたいに冷たくなっていくのを感じた。


 分かっていたことだ。

 この国で、女の子を好きになれない僕は、国家にとっては、ただの不要物なのだから。


(隠さなきゃ)


 その一心で、僕は逃げるようにカードを裏返し、誰にも見られないよう握りしめたまま席に戻る。

 震える手でそれをカバンの奥深くに押し込んで、チャックを閉めた。


 大丈夫。

 自分から見せなければ、きっと。


 ちらりと視線を横にやると、隣の村野さんがほっとした顔で自分のカードを仕舞っているのが見えた。

 どうやら彼女は、最低限のラインを超えることはできたようだ。


 そのことに安堵する気持ちと、自分だけが取り残された絶望とで、胸が張り裂けそうだった。


 全員にカードを配り終えた大國先生は、満足げに僕たちを見渡し、最後の言葉を告げる。


「諸君、先生(パパ)の言うことを、心して聞きなさい」

「遺伝子レベル0は、すなわち――この国家に不要な者。

 来月の淘汰祭では、『 淘汰対象』 となる」


 大國先生は、そこで言葉を切ると、慈愛に満ちた笑みを浮かべた。


「みんな大切な家族なんだ。

 この国家(いえ)に、()()な家族は一人もいない。

 いいね?」


 その言葉は、祝福のようであり、同時に死刑宣告のようでもあった。

 そして彼は、教室を静かに一瞥してから、何事もなかったかのように教室を出て行った。


 終業のチャイムが鳴り響く。


 その音は、僕にとって世界の終わりの合図だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


ついに、悠句に下された残酷な審判。


次回、悠句の絶望が、彼を新たな運命へと導きます。


少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ぜひページ下の【★★★★★】から評価や、ブックマークをしていただけると、執筆の大きな励みになります。


どうぞよろしくお願いいたします。

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