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塵の積愛  作者: noi
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第一話

「あー、めんどくさい」


 二度寝から目を覚ました鈴木太陽すずきたいようは昼過ぎの日差しをカーテン越しに浴びながらスマホの通知を見て呟く。


『ねえ、本当に私の事が好きなんだよね?私、最近わかんないよ。だって、この前のデートもドタキャンするし、記念日も忘れてたし……』


 本当に面倒くさい。何でこんな女と付き合ってしまったんだ。


『私は不安だよ。風雅はカッコよくてモテるじゃん。浮気を疑ってる訳じゃないんだけど、最近、あんまり返信もしてくれないから。』


 こいつは《《コレ》》が嫌なんだよな。なんて返信しようかな。んー、もう飽きてきたんだよな。ってな感じで悩んでいたら画面上のメッセージが切り替わった。


『このメッセージは取り消されました』


『このメッセージは取り消されました』


 は?なんだよ、取り消すくらいなら送ってくるなよ。しかも、結局、何が言いたかったのか分からなかったし。丁度良いや、切ろう。


『さっきのメッセージ見ちゃったよ。お前はそんな事を思ってたんだな。俺は悲しいよ。もう、付き合えないよ』


『え!待って!!違うの。聞いて!!』


コイツの連絡先をブロックして終わりだ。もし、コイツに何か言われそうになっても大丈夫なように周りには取り繕っている。いつでも、俺が正義だ。


 暖房を効かせていても寒い季節。布団の中にいる女の肌で暖を取りながら三度寝を始める。あー、暖かい。若干、かじかんでいた指の痛みも和らいでくる。意識がぼんやりとしてきて、ようやく気分よく寝れそうになってきた時に顔に女の腕が当たった。


 あー、痛い。何なんだよ、人の顔面を殴りやがって。鼻先がジンジンして痛いんだけど。もー、本当にうざいし、イラつくよ。この女、俺と付き合うための条件を忘れてそうだな。


 ゴソゴソと布ずれの音を鳴らしながら隣にいる女が身体を起こす。


「おはよー。太陽は起きるの早いね。って、もうお昼過ぎてるのね」


 人の顔面を殴ってきたくせに笑顔で話しかけてきやがって。なんだよ、寝ぼけてて偶然、当たっただけだからか?それとも、俺の反応見て楽しんでやがるのか?ちっ、面倒くさい。まあ、良い。俺をイライラさせるコイツとも今日で縁を切ろう。でも、勿体無さも感じるからなぁ。後、一回だけ。


「俺もさっき起きたばかりだけどな。Uberでも呼んで昼めし食べようよ」


「じゃあ、ハンバーガーが食べたいな」


 馬鹿かコイツは。何で息が臭くなる物を今、食べるんだよ。しかも、値段が高いし。美味いから俺もハンバーガーが好きだよ。でもさー、今じゃないだろ。やっぱ、コイツは空気が読めない女だな。うざいんだよなぁ。


「起きてすぐにハンバーガー食べるの?また、太るよ」


「うるさいなぁ。私が何を食べたって良いじゃない。一食でそんなに太らないし。それに、太陽と運動するからカロリーを蓄えておかないとね」


 俺の腕に胸を押し付けながら上目使いでそう言って来る。うん、エロいな。さすがは顔と身体だけは良い女だ。それに、理由が理由だ。昼食はハンバーガーでも許してやろう。


「お前を食べるのは昼飯を食べた後な」


 ハンバーガーは美味かった。しかも、他人の金で食ったから最高だ。食後の運動も終えて良い気分。最後にコイツと縁を切ったら今日は終わり。


「なあ、俺ら別れよう」


言った途端、女の目が揺れるのが見える。

「え?っえ?何で……?」


 別れ話を切り出すのが突然すぎたかな。でも、あんまり時間かけたくないんだよなぁ。うーん、「何で?」って聞かれても面倒くさいから別れたい以外に理由なんて無いんだよな。


「お前といるとダルくなるんだよ。会話してても空気を読めないし、俺の都合も考えずに我儘ばっかり言ってくるし。もう、疲れたんだよ」


「あ……え、えと、私が悪かったって事……?でも、さ、だよぉ。私、まだ別れたくないよ。まだ、一緒に居たい。ダメだったところを直すからさ、お願い。別れないで」


 あー、うるさいな。俺が「別れる」って言ったら別れるしかないんだよ。


「あのさ、ダメな所を直すとかじゃなくて終わりなの。もう、遅いの。俺がお前の告白を受け入れる時に言った条件を覚えてる?」


「じょ、じ、条件なんて知らない!!何でなの?ねぇねぇねぇ……ぇ」


 やっぱり、忘れている。俺と付き合うならそれくらい覚えていろよ。腹立つなぁ。


「お前が俺を常に楽しませる。お前が俺を怒らせない。俺が決めた事には従う。これに違反したと《《俺が》》感じたら縁を切る。お前がこの条件に同意したから付き合ってあげてたんだよ。なのに、お前は我儘ばかり喚きやがって。もう、我慢ならねぇんだよ。だから、お前とは今日で終わりだ」


「嫌よ嫌よ。さっき、あんなに私の事を愛してるって言ってくれてたのは噓だったの?嫌いなのに何で私を抱いたのよ」


「そんなの顔と身体はエロくて良いからに決まってるだろ。抱く女の中身なんて、いちいち気にしねぇよ」


 女の顔が徐々に青白くなってくる。部屋の中で吐かれるのは勘弁だ。さっさと追い出してしまおう。 


「俺がお前と別れたいのは充分にわかっただろ。早くこの部屋から出て行ってくれ。それと、絶対にLineを送ってくるなよ……あ、今、俺からブロックすれば良いのか」


 女が部屋から出て行くのを見ながら、スイスイーっとスマホの操作をしてこの女のLineアカウントをブロックする。この操作にも慣れてきたもんだ。あの女が暴れたらやばいと思ってたけど、無難に終わって良かった。もう、マンションから出て行った頃だろうか? 今更、アイツが何かしようとしてもココは24時間管理人が居て、オートロックもついているマンションだから安心だ。まあ、何かしようとしたところでアイツが大学に通えなくなるだけだ。この時世だ、ネットで俺の悪事を拡散される可能性もあるが、大丈夫。アイツはアイツで後ろめたいことをしている自覚があるだろうし、その証拠を俺が握ってる。


 あの女と付き合っていたと言っても期間は二か月弱くらい。全部が全部、浅い女だったな。付き合いを辞められて済々する。


 ベッドに飛び込み、羽毛布団に潜り込んで一息つく。窓から外を眺めると既に日が沈み、冬の季節に感じる特有の澄んだ空気が流れている様子が見える。布団の中は冷え切って肌寒く感じる。でも、関係ない。すぐに次の女の身体で暖まってやる。


 次の女は誰にしようかな。適当にインスタで同じ大学の女を探してみる。最近、同じ学科の女共からは若干の警戒心を感じるから面倒くさい。まあ、馬鹿の男共は俺の持ってる金と女関係を目当てに群がってくるから立場が危うくなることも無いだろうからどうにかなるだろう。


 うーん、俺の股間に響く女が居ないな。面倒くさいな。適当に扱えて楽な女がどっかに転がってないかな。……っお、居た。少し身長の高そうなショートボブの女。可愛い系よりかは綺麗系で若干、お姉ちゃん感を感じるコイツにしよう。都合良く同じ大学だし、おっぱいも割と大きそうだし。アカウント名は「ちー」で名前は分からないな。まあ、馬鹿どもを使って外堀から埋めて行けば何とかなるから大丈夫か。


 おっ、この「ちー」って女は一年で。俺より一つ年下か。扱いやすそうでとても好感を持てる。


 最近は面倒くさい女共の相手で疲れてた久しぶりに気分が爽やかになってきたな。今日は冷蔵庫に入ってる適当な物を食べて寝よう。


 良い気分で用意した晩御飯をリビングまで持ってきたときに気が付く。あの女、昼に食べたハンバーガーのゴミを散らかしたまま帰ってやがった。最後が終わった後まで最悪な奴なんだな。適当にガサッと捨てておく。ゴミを掴んだ時にアイツのハンバーガーのソースが手に付いた。


 汚い。


 最悪だ。気分が悪い。もし、あの女の口や唾液なんかが付いていたらと思うと吐き気がする。数時間前の自分の選択を後悔する。何が「顔と身体は良いから」だ。中身は俺を否定する気持ちの悪い奴じゃないか。


 トイレに駆け込んで嘔吐する。ここ最近のストレスのせいで胃の調子が悪いのか消化されていないハンバーガーの残骸が流れて行く様子を確認してから手を強く強く強く洗う。


 再び布団の中に潜り込む。少し肌寒いが、吐いたせいで胃が熱い。ついさっきまで感じていた僅かな幸福感は失われている。


 クソっ、この怒りは絶対に「ちー」を使って晴らしてやる。

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