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第18話「記憶の扉が開く時」 〜王たちの嘆き、そして希望の残響〜

王家の封印が眠る地下礼拝堂。

金の指輪と、シトロンの翼が再び輝きを帯びた時──

長い年月、誰の目にも触れられなかった「記憶の扉」が、静かに開きます。

そこに刻まれていたのは、歴代の王と猫神たちの物語、そして……まだ誰も知らない“空白の壁画”。

レミーが残した最後の謎に、玲央はどう向き合うのか──。


礼拝堂の奥、誰も入ったことのない重厚な扉の前。

そこには《王家の鍵》を模した紋章があり、レミーの手紙で見た図案と一致していた。

玲央は左手をゆっくりと上げ、薬指の金の指輪を扉の鍵穴のような部分にかざす。

金の縁が淡く脈を打ち、静かな光を放ち始める。


一瞬の静寂。そして──

シトロンの背中にうっすらと金の羽が浮かび、彼が一歩前に出た瞬間、扉の縁に刻まれた古文(ギリシャ語、アラビア語、ユダヤ文字、ケルト文様)が淡く輝き始めた。


「……これは……契約の王たち、そして猫神たちの記録だ……」


黒川の声が、かすかに震えている。

扉が開くと、まるで異次元のような空間が広がった。

古代の神殿を思わせる円形の回廊に、歴代の「王と猫神」の記憶が、フレスコ画やモザイク、浮彫りとして並んでいる。


ケルトの森で契約した若い王と銀猫。

アンダルシアの王宮で、白猫を戴く王妃。

ギリシャの石碑に、豹のような猫神と立つ少年王。

ユダヤの祭壇で祈る金の猫神と若き神官。

アラブの砂漠で、星空の下に契りを交わす若き預言者と黒猫。


玲央が歩み寄ると、薬指の指輪が微かに震え、壁画がまるで呼吸をするように脈打った。

そして──絵が動き出す。


最初に現れたのは、穏やかな契約の光景だった。

森では祭りの歌が響き、王が銀猫に冠を授けられる。

宮廷では白猫を抱いた王妃が人々と微笑みを交わし、砂漠の夜には黒猫と預言者が星を見上げ、静かな祈りを捧げている。


だが、その光景はやがて変わった。

集まる人々の瞳に、欲が滲む。

力を求め、名を争い、王と神さえも互いを疑い始める。


剣が抜かれ、大地が裂け、炎が走り、影が空を覆った。

猫神たちの目が悲しみで濁り、人々の声が怒号へと変わる。


その渦の中──

一組の王と猫神が、互いを抱き締めた。

崩れゆく世界の只中で、ただ一つ残った光。

それが最後に揺らめき……すべてが消えた。


静寂が戻る。

最後の壁画だけが、空白のまま残っていた。

中央には《FELINOIRフェリノアール》の文字が彫られている。


玲央がその壁に手をかざすと、掠れた文字が浮かび上がった。


Quello che era diviso, si unirà.

Il Re e il Dio, il cuore e la luna.

E ciò che fu perso, troverà la via.

——Perché l’amore non muore mai.

(引き裂かれたものは、再び結ばれる。

王と神、心と月。

失われたものも、道を見つけるだろう。

──なぜなら、愛は決して死なない)


「……これは、預言だ」


黒川の声が、敬意と驚きの入り混じった響きを帯びる。


玲央とシトロンが見つめ合う。

空白の壁に、ほのかに浮かび上がるシルエット──

それは、レミーが自ら描いた“最後の絵”のように見えた。


「……父は、ここで何を視たのだろう。

そして、何を……残したかったのか」


玲央の声が、ほとんど自分に向けた問いのように響く。

シトロンがそっと肩に触れた。


「きっと、お前の中に……答えがある。

お前がそれを見つけた時、俺もすべてを思い出す気がする」


月明かりが再び差し込み、空白の壁が一瞬だけ柔らかな光に包まれる──。



そして今日もまた、祖母の絵本

**『Il Piccolo Incanto di Nonna Eleonora(ノンナ・エレオノーラの小さな魔法)』**より、

物語に寄り添う言葉をひとつ―


「Le memorie vere non svaniscono mai.

Vivono nei cuori che sanno ascoltare.」

(本当の記憶は、決して消えないの。

それを聴く心の中に、生き続けるのよ)


――À suivreつづく


扉の向こうで見たものは、ただの過去ではなく、今へと続く記憶でした。

優しい願いも、時に争いや破壊へと変わってしまう──その流れの中で、それでも残るものは何か。

きっと、それは誰かを想う気持ちなのだと思います。

次回、この記憶の奥に隠された“核心”へ、もう一歩踏み込みます。

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