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エピローグ『月の記憶を越えて』 〜明日、君とまた歩き出すために〜

玲央とシトロン。

ふたりはブリュム城での月の記憶”に触れ、

すべての扉を開いて再びパリへと帰ってきました。

失われていた記憶、家族の愛、そして“ふたりのこれから”。

静かな夜、屋根裏部屋に遺された手紙と歌――

すべてを受け入れたその先に、新たな明日がはじまります。


翌日、ふたりはセーヌ川を渡り、サン=ルイ島の本邸へと戻る。


夕暮れの部屋には、静謐であたたかな空気が流れていた。

窓辺のソファに並んで腰掛けた玲央が、そっと呟く。


「……ここに戻ってきて、初めて気づいた気がする」


「何が?」


「……“これから”を、自分の意志で選べるってこと。もう、誰かの代わりじゃない。僕自身の祈りとして」


シトロンはそっと玲央の隣に座り、優しくその髪に触れた。

そして、そっと微笑み、


「……お前が、選んでくれた。俺のことを、そして未来を」


重ねた手のぬくもりは、過去から未来への地図のように玲央の胸を照らしていく。


「明日、マレ地区へ行ってみよう。きっと、父が遺した想いがそこにある気がする」


「ああ、一緒に行こう。これからも、どこまでも──お前と一緒に」


夜の窓の向こうには、静かに浮かぶ月。

その光が、ふたりの手を、そっと照らしていた。


ふと、玲央は窓の向こうに夜のパリの屋根を見つめながら、ゆっくりと口を開いた。


「シトロン……実は、僕、ずっと思い出せなかったんだ。

小さい頃、父と母と三人で――屋根裏のあの小さな部屋で、一緒に昼寝したり、笑ったりした時間を」


少し恥ずかしそうに微笑む。


「今なら、あの場所で感じた安心も、両親のぬくもりも、すべてちゃんと思い出せる。

……今度は、君と一緒に行きたいんだ。

あの思い出と、ちゃんと向き合う勇気が、ようやく持てた気がするから」


シトロンを優しく見つめて、そっと手を差し出す。


「……一緒に来てくれる? 僕の家族の“原点”に、今の僕の一番大切な人と行ってみたい」


シトロンは、玲央の手をゆっくりと受け止め、穏やかに微笑んだ。


「……そんな大切な場所に、俺以外の誰がふさわしい?」


静かな声で、けれどどこか誇らしげに続ける。


「君の過去も、記憶も、そのすべてを――これからは、俺が隣で見届けていくよ」


そっと玲央の指先に口づけてから、

少しだけいたずらっぽい眼差しでささやく。


「どんな思い出が待っていようと、君の手は、離さない。

……だから、心配はいらないよ。君の未来も、俺に預けてほしい」


玲央がシトロンの手を引き、家の奥の、きしむ階段を上っていく。

扉の先には、かすかに埃の香りが漂う、懐かしい静けさがあった。

天窓から落ちる光の下、小さなテーブルの上に一枚の写真があった。

若き日の玲那とレミー、そして幼い玲央が、幸せそうに並ぶ三人の姿。

その隣には、手書きの楽譜と、薄い紙に綴られたメッセージが置かれている。


『Reoへ


おかえり。思い出したのね。

あの歌は、あなたが生まれた日。

ふたりで言葉を紡いで、夜空に祈った詩です。

結びの歌詞には、あなたの未来への鍵をこめました。

そして──パパが歌っているMDを、そっと置いておきます。

私たちは、いつもあなたとともにいます。


愛をこめて


Reina et Remy』


「……MD?」


玲央がくすりと笑い、ケースから懐かしいディスクプレーヤーを取り出す。

再生ボタンを押すと、ノイズ混じりの小さな機械音が鳴り──やがて、あの優しい声が響き始めた。

柔らかく、深く、どこまでも懐かしい父の歌声。

玲央はシトロンに片方のイヤホンを差し出し、自分ももう片方を耳に当てる。

ふたり、黙って寄り添いながら、その音に耳を澄ませる。

屋根裏の天窓からは、澄んだ夜空が広がっていた。

きらめく星々のあいだに、まるで見守るように、月が静かに輝いている。

──ずっと、ここにいたんだ。

玲央はそっと目を閉じ、

ただ静かに、愛と祈りに包まれながら、音の余韻に身をゆだねていた。



──猫が人の姿になるなんて、本当は、信じられるはずがなかった。

胸の印が光り出したあの日も、何かの夢だと思いたかった。


それでも、あの子猫のシトロンに出会い、心を開いていくうちに、

形や理屈を超えて、彼は“家族”であり、“かけがえのない存在”になっていった。


不思議なことや、説明のつかない出来事もあった。

でも、それ以上に惹かれて、信じてみたいと思った。


きっと、あの美しい瞳と心に出会った瞬間から、

僕の中で“奇跡”を疑う余地なんて、もうなくなっていたのだと思う。


過去が真実へと還り、ふたりの祈りが未来へと紡がれていく。

夢の続きは、これからだ。

たとえそれが、まだ知らない記憶の迷宮だとしても──

きっと、ふたりなら辿り着ける。


月の記憶が導く未来へ――




Season 2, coming soon.

次章『猫と暮らせば、恋がくる。』シーズン2

《記憶のアトリエと、再会の願い》

──近日公開──


ここまで物語を見守ってくださり、ありがとうございます。

エピローグでは、玲央が“家族の原点”と再び向き合い、

シトロンと共に新たな一歩を踏み出す姿を描きました。


けれど、ふたりの物語はまだ終わりません――

近日スタート予定のシーズン2では、さらなる謎と出会いが待っています。

どうぞこれからも、“猫恋”の世界をよろしくお願いいたします。


F. de la luneより

物語の月明かりが、あなたの心にも優しく届きますように。

感謝とともに――

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