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プロローグ 『噂のふたり、空を翔ける』

ふたたび、物語が動き出します。


本作は、猫と青年が紡ぐ、ちょっと不思議でとても甘い恋の物語。


前日譚にあたる「シーズン0(出会い編)」はすでに完結済みですが、

この【シーズン1】からでも、もちろんお楽しみいただけます。


はじめましての方も、おかえりなさいの方も、

空を翔けるふたりの旅路を、どうぞゆっくりご覧ください


羽田空港、国際線ファーストクラスラウンジ。

まだ朝の光が白く差し始めたばかりの時間だというのに、そこには異様な熱気が満ちていた。


「……あれ、見て。信じられる?」

「なにあのオーラ……」

「あの金髪、アニメから出てきたの?いや、モデル?俳優?」

「彼の隣の人もやばい……何あの色気、え、彼氏なの!?」


SNSでは、早朝の空港で出くわした“伝説の美形カップル”の目撃情報がすでに拡散されつつあった。タグは #羽田の神々 #異次元超麗しの王子

白いシャツの前をラフに開け、腰まで伸びた金髪を無造作に結んだ男は、シャンパンを片手にソファに脚を投げ出していた。その横顔は、まるで彫刻。だが、彫刻にはない熱がそこにはあった。

彼の名は、シトロン。今や、羽田の空気すら彼を中心に回っているようだった。


「おい、玲央〜、こっち座れよ。隣、空けてるんだから」


シトロンがくいっと指で隣の席を叩くと、スーツに身を包んだ男が静かに歩み寄る。

その男・・・玲央は、深緑がかった黒髪をなめらかに撫でつけ、黒のハイネックに薄いグレージャケットを重ねたシンプルな装い。なのに、その端整な顔立ちと佇まいは、誰の視線も逃さなかった。


「……人前なんだから、少し落ち着いて」


玲央は小さく眉をひそめたが、シトロンはにやりと笑って答えた。


「人前でも構わないくらい、好きってことでしょ?」


「……っ、違っ……!」


耳まで赤くした玲央の様子を見て、ラウンジのソファに近かった女性客が、静かに顔を覆った。


「…………なにこの……尊っ……(小声)」


「前世で何を積めばあの間に座れるんですか……」


そのやりとりを、斜め向かいの席から眺めていたひとりの紳士・・・

銀髪を丁寧に撫でつけ、燕尾のような黒の長上着に身を包んだ“マルセル”は、紅茶をひと啜りして微笑んだ。


「全く、若いって素晴らしい。……いい旅になりそうですね、旦那様方」


玲央はマルセルのその一言に思わず咳き込みそうになったが、もう諦めたように小さく息を吐いた。


「マルセルまでそういうこと言うなんて……」


「私はただの執事でございます。ご主人様が幸せそうでなにより」


にこりと笑ったマルセルの瞳には、どこかすべてを見通したような深さがあった。


* * *


そして、機内。エールフランスのファーストクラス。

搭乗するなり、男女のキャビンアテンダントが、目を見合わせてニヤリと笑った。


「……来たわよ、あのふたり」


「やっと俺たちのターンだな」


今回、ファーストクラスを担当するリリーとけいは、社内でも“伝説のデュオ”と囁かれるトップクルー。容姿、語学力、接客センス……すべてが一流のふたりが、初めて“同じフライト”に配されたのは、偶然でもあり、選ばれし者としての誇りでもあった。


「この空の上で、シトロン様と玲央様をお迎えできるなんて……ああ、今日の制服、完璧でよかったわ」


リリーは胸元のスカーフをくるりと直しながら、すでに女優のような微笑みを浮かべていた。


「麗しの金髪王子と、黒曜の貴公子。私の呼吸、止まりません」


一方の彗も、少し乱れた前髪をさりげなく整える。


「……俺、今日だけは“サービスじゃなくて芸術”をする気で来たから」


「え、なにそれ、詩人?」


「違う、“月の騎士”への礼儀だよ」


「……あんた、玲央様ガチ推しでしょ」


「推しに失礼のないように生きてるだけだよ」


そんなやりとりを交わしながら、ふたりはすでにシトロンと玲央が歩く通路の先、持ち場へと向かっていた。


機体の静かな気圧の中で、空気が凛と澄んでいく。


そして、まるで舞台の幕が上がるように・・・金と深緑の光をまとったふたりが、機内へと姿を現した。

長身の金髪、まるで絵画から抜け出したような顔立ちの男が、猫のようなしなやかな歩き方で先を歩き、その隣に、漆黒に近い深緑の髪とヘーゼルの瞳をもつ男が静かに並ぶ。

二人の間に言葉はなくても、空気が柔らかく撓んで、まるで月とその傍らにいる祈り子のようだった。


「ああいう存在って、現実にいるんですね……」


思わずつぶやいた慧の声は、リリーにも聞こえていた。


「ね。…まるで“月の神子”みたい」


当の本人たちはというと・・・


「おい、フルフラットにして、隣で寝るか?」


「シートが分かれてるんだよ。大人しくしなよ、シトロン」


「……じゃあ、おまえの方に傾いで寝るのはアリだよな」


「……あーもう、なんでそうなるんだ……」


玲央はうなだれつつも、シトロンの金の瞳が自分を見つめていると、まるで逃げられないような気がしてくる。

(こんなふうに引っ張られてばかりじゃ、だめだ)

そう思いながらも、彼の心は、少しだけ満ちていた。

グラスに注がれたシャンパンが、窓の外の朝日にきらめく。

ふたりの旅路は、これからパリへ。de la Lune家の招待で、彼らは本家の城へと向かう。

玲央は静かに囁いた。


「パリか……母と歩いた街。祈りの香が、まだ残っているだろうか」


その隣で、シトロンが金の瞳に月光のような光を宿して、言った。


「確かめに行こう。契約も、記憶も、全部・・・おまえと、俺とで」


飛行機が雲の上へと舞い上がる。ふたりの“過去をめぐる旅”が、いま始まる。


To Be Continued…


ご覧いただきありがとうございます!


初回からちょっと浮世離れしたふたりですが(笑)、

今シーズンでは「契約」「記憶」「祈り」──そして“愛の形”をめぐる物語が、少しずつ明かされていきます。


BLとしても、謎解きロマンスとしても、さらに深まっていくふたりをどうぞお楽しみに。

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