4.悪役令嬢は暗殺者を救う
「さあ、始めましょう」
私はそう言い放った後、大きく呼吸をして、自分を落ち着かせる。
男たちが構えた瞬間、男の後ろへ回り、首に手刀をくらわす。それから、私に気づいて殴りかかってきた二人の男に、回し蹴りをする。
五人の男に手首や足を掴まれ顔に殴りかかられそうな時、体を反って、手をパーにして肘を振り切る。三人の男は、土魔法で作った、絶対に出られない穴に落とさせる。足を掴んでいる二人の男は、右足を男ごと振り、左足を持っている男にぶつからせて気絶させる。
私に少数は無理かと思ったのか、大勢でかかってくる。
「水よ、海より出でる波となれ、【津波】」
そう言うと津波が起き、多くの男が壁に打ち付けられる。
これで戦力の半分くらいは無力化した。しかし、こんなに人いたっけ?
一番最初に見た感じより人が多く感じ、どういうことかと首を傾げる。近くに落ちている剣を拾い自分の武器にした後、周りを注意深く観察する。すると、頭領の後ろの方に階段があるのを見つけた。
これは一体。
そこをジッと見ていたが、誰かが剣で切りかかってきた為、剣を片手で構える。そして、軽くいなす。
カキィーン
そう音をたてて相手の剣が地面に転がり、私が今咄嗟に作った異空間に落ちる。ずっと階段を見ていたことによって、階段から人が出てきていたのに気づく。
あそこを先に潰すか。
そう考えて階段の方に走ろうとするが、邪魔が多すぎる。少し苛ついてきたので、光魔法を使う。
「光よ、辺りを黄に染め、己の場とせよ、【光陣】」
室内が光に包まれ、視界が遮られる。その隙に私は階段の方へ行き、唱える。
「闇よ、全てを呑み込む孔となれ、【常闇孔】」
階段の下の部屋?に打つと、中から騒ぎ声が聞こえる。覗き込んでみると、多くの人がブラックホールに吸い込まれていく。
これ、確か触れたら二度と抜け出せないんだっけ?普通に危険な代物だわ。
もう出てくる心配はないと思いながら周囲を見渡せば、沢山の人が目を光でやられて倒れている。目って、結構弱点なのよね。目をやったら、大体勝てる!
フッと一息着くと、寒気が全身に走り、私は反射的に体を捻っていた。
前を見ると、私の体がさっきまで合った位置の真正面の位置に銃弾が埋まっている。私は、足に来た銃弾を避け、上に飛び上がる。
スタッと地面に降り、私は銃を容赦なく撃ってきた最後の一人、頭領を見ていた。
「こんなにやられるなんてねぇ〜。予想外だったよ。でも、その分貰わないと」
この男、強い。
直感的にそう思った。
土魔法を使い、頭領の下に大きいな穴を作る。だが、分かっていたかのように棟梁は上へ大きく飛び、穴の空いていない所に着地する。そして、私の両手と両足に銃弾を撃ち込んでくる。私は片手でシールドを張り、銃弾を跳ね返す。
この人、たぶん計算で動いているから、底の裏を付けば勝てるかもしれない。
私はそう思いつき、今咄嗟に考えた作戦を実行する。
「風よ、我が敵を射抜く槍となれ、【風槍】」
そう唱えると、槍の形をしたものが頭領に突っ込んでいく。頭領は予想してたかのようにそれを避ける。
避けることは分かっていた。だから、絶対避けられないようにしたのよ。
「風よ、塊となり、敵に衝撃を、【風塊砲】」
目の前に風の球が急に飛んできて、頭領は大きく目を見開く。その姿を見て私はやったとガッツポーズをする。
魔術の連射は、魔力をごっそり奪われる。だから、私みたいな小娘がそんなこと出来るはずないのが一般常識だ。しかし、私は毎日魔術の練習をしている。それに加え、元々魔力が多い。二つが合わさり、私は魔術の連射をすることが出来た。
頭領は避けようとするが、流石に無理で、勢いよく飛ばされる。体が壁にドン!と大きな音をたててぶつかったので、敵とはいえ心配になる。
頭領の下へ歩いていき、様子を目の前で伺うっていると、頭領は口を開く。
「先を読んだか……。俺の負けだ」
頭領はフッと笑い、意識をなくす。
普通に格好良いなぁ。
私は少し複雑な気持ちになる。
終わったかと思うと、体の力が抜ける。だが、床に座っている暗殺者の彼に近づく。
「おい!」
大きなガラの悪い声がして私は体を硬直し、振り向く。お昼に見たガラの悪そうな大柄の男が病気の弟の首にナイフを向けている。
まだ居たのか。というかそのまま逃げれば良かったのに。馬鹿だなぁ。というか弟大丈夫かな。死にそうな気配が今にもするんだが。
私は呆れ半分心配半分になる。
「……ド……」
彼はなにか呟いたが、上手く聞き取れない。彼の精神メンタルが心配だ。何回も弟を人質に取られるなんんて、苦しいだろうな。
「こいつの命が惜しければ、武器を捨て、俺が良いと言うまで待ってろ」
そう脅され、私は剣を捨てる。彼は驚きの目で私を見つめる。
男が弟の首にナイフを向けたまま私から視線をずらした瞬間、私は大柄の男の背後に一瞬で回り、拳を固めて背中を殴る。
私は長距離走は苦手なのだが、短距離走は得意なのだ。
男がよろけると、私は男から離された弟を両手でキャッチし、優しく床に寝かせる。そしてあたりを見渡し、もう誰も残っていないか確かめる。
流石にもう居ないみたい。良かった。
私はそう思いながらも、床にぺたりと座って生気が抜けた顔をしている彼に向かって歩く。彼は私が来たことに気づき、顔を上げる。
手を差し伸べると、彼はゆっくりと震わせながら手を動かし私の手に乗せる。
こうしていると、前世を思い出す。
駅のホームで顔を少し青くさせて地べたに座っていた同世代らしき男の子に、こうやって手を出したものだ。
私は頷き、手を上へ引っ張って、彼を立ち上がらせた。