父たる公爵は許さない2
その日、自宅へ戻ると、執務が少し溜まっているに関わらず、やる気が全く起きなかった。今執務をしても、どうせ良い仕事が出来ないだろうとその日はもう休んだ。リーシェ達との食事に出なかった為、夜にギルが夕飯を持ってきてくれたが、何をしたのか分かっていそうだ。
以前プロの暗殺者として働いていたことを活かし、直ぐ様アテール伯爵が死んだことを知ったのだろう。いつもそうなのだから、きっとそうだ。
そういえば、以前ルドルフに言われたことがある。
『旦那様』
『ん?何だ?』
執務中に突然声をかけられ、少し驚いた。普段、よほど大事なことでない限り執務中に発言をしないルドルフが声をかけてきたからだ。
『ギルのことですが……暗殺者をしていたようです。お嬢様の側に置くのは危険ではないでしょうか?裏切る可能性もございます』
『そうだな。私もそれについては考えた。だが、経歴も経歴だ。暗殺者だったことは、プラスに考えようじゃないか。それに、あの子はソフィアをきっと守ってくれる』
『……そうですね。失礼いたしました』
屋敷に来たばかりのギルは人と関わることを避けていたように見えるが、今は会えば挨拶するくらいの関係を屋敷の人間と結んでいるように思える。ソフィアを、期待以上に守ってくれてもいる。寝る間も惜しんで鍛錬もしている。
もう、誇ることの出来る愛娘の専属執事だ。勘が良く、気配りも出来る。
私がしたことも感じ取っていたようだが、あえて触れないでいつも通り接してくれた。こういった人材がソフィアの近くに居てくれて良かった。
……最近、ソフィアやレオン達の幸せで賑やかな風景を見ていると、何とも言えない感じがする。
私は、私情で、一人の男を自らの手で殺してしまった。ソフィア達は純粋で、輝く光のようだ。ソフィアやレオンは大切な家族で、愛している。しかし、穢れている私が彼らと接して良いのだろうかと思う。家族と話すことでもいつもは楽しいのに、最近は逆に疲れ、楽しさを感じない。
自らの手で、境界線を引いてしまっていた。今までも、人を殺すことは沢山あったというのに。
ソフィアやレオン、遊びに来たフランク宰相子息が図書室で本を読んでいる。ロマンス小説や心理学、帝王学、王国の歴史など様々だ。本に読みふけっているものの、本の感想を言い合ったり会話を楽しんだりしている。側にはローラとギルが控えて、彼女達を見守っている。
どれを取っても、幸せそうで、私は入れそうにない。
ソフィアの専属メイドであるローラにでも差し入れを持っていってもらおうと考えていると、甘く優雅で、どこか懐かしさを感じさせる匂いが鼻を撫でる。振り返ると、笑みを浮かべた愛しい彼女が立っていた。
「リーシェ……。_どうしたんだい?今日は体調が良いのかい?」
天気も良いし、庭園を散歩でもするかと話すが、リーシェは何も言わず私を見つめる。
「リーシェ?」
不安になって、眉を少し垂らす。何を言うか迷っていると、ふわりと抱きしめられる。
「え、り、リーシェ!?」
身体の体温が急上昇した。突然の抱擁に驚き、慌てる。すると、耳元で気持ちの良い声が奏でられた。
「一人で抱え込まないで。……妻なのよ?私のことを少しは頼ってちょうだい」
「……」
彼女の背に手を回す。
「あいつを殺した。手を汚している私が、この子達と接しても良いのかな。リーシェ……」
言ってしまった。既に知っていたとは思うが、自分の口で伝えると、より一層重く感じる。彼女に否定されたらどうしようと、そんな思いが頭を支配する。否定されたらどうしよう。怯えた目で見られたら、きっと私は立ち直れない。
「貴方が手を下さなくても、きっと私が下していた。あいつらだけは絶対に許してはいけない。許さないの」
穏やかな声色が冷たく、低く変化する。でも、優しさもにじみ出ている。彼女が言う通り、私が手をくださなかったとしても彼女が下していただろう。優しい彼女がそう思うくらい、あいつの罪は重い。
「そんな君でも受け入れるよ。どんな君も、愛してる」
「…貴方がしたことは間違っていないわ」
「そうかもしれないけど、手を汚したことは事実なんだ」
彼女が何を言っても、ネガティブな思考に陥る。
突然、首に強い衝撃が走った。
「〜〜!いった……っ〜!」
手を彼女から離し、衝撃を受けた首に添える。じわじわと痛みが広がる。
病弱でも、だからこそ、リーシェは護身術を極めるところまで極めていた。そういえばそうだった。
「まさか妻に攻撃されるなんて、思いもしなかったな……」
首を押さえながら言うと、「ご、ごめんなさい」という返事が返ってくる。そして、彼女は私の目を見て言った。
「あの子達は、手を汚したくらいで離れたりしないわよ。そんなこと気にしないわ。それに、貴方の行動の理由は、家族が大切だからでしょう?」
目を見開いた。
彼女の言うとおりだ。私があいつを許さなかったのは、皆が大切だからだ。
「私が……あの子達の側に居ても良いのかな?」
「勿論よ。もしも全世界が否定しても、私だけは肯定するわ」
世界よりも、リーシェのことが大切だ。だからこそ、その言葉は私に伝わる。
彼女は、優しく穏やかで美しいが、強い。何もかも兼ね備えた彼女だからこそ、私は好きなんだ。彼女だから、愛してるんだ。
「リーシェ、ありがとう。……もう迷わない。私はあの子達を守るよ」
「ええ」
嬉しそうに、満足そうに微笑む。可愛い。
私は彼女の頭に手を添え、近づく。彼女の前髪をかき上げて、おでこをコツンと合わせる。
「リーシェのことも守るよ」
命をかけてね。
リーシェの顔が徐々に火照っていく。悪戯が成功した子供のように微笑むと、可愛く睨まれた。
「あ、お父様!お母様!」
「仕事、終わったのですか?一緒に読書しましょう!」
ソフィアが私達に気づき、誘拐のことを全く引きずっていないレオンが誘ってくる。
「それよりも、庭園に行かないかい?庭師が良い仕事をしてくれたようだよ」
そう言うと、二人は是非そうしようと賛同してくれる。
「フランクとギルに、ローラはどうする?」
「お前らが行くなら俺も行くよ」
「ソフィア様に従うのみです」
「私も」
ソフィアはギルとローラの言葉に苦笑いをしていたが、嬉しそうだった。レオンはソフィアにくっつきながら、フランクにメンタルの強さを指摘されていた。
フランク宰相子息は、極めて優秀だということは有名だったが、誰かと仲良くしているという噂は今まで聞いていなかった。しかし、現在は仲の良い幼馴染四人組だ。
宰相子息が年相応に笑っているのを見たことが無かった。宰相から彼の話を聞くことがないあたり、家族仲は良好だとは言えなさそうだが、それも関係してそうだ。
天才令息に年相応の表情を出させるなんて、私の家族達は相変わらず凄いな。
誇らしい。
「お父様、お母様、行きましょう!」
私達の腕を取って、ソフィアは庭園に向かって引っ張る。それが、凄く嬉しい。
今、最高に幸せだ。
思わず笑みが溢れる。
「ああ!」
この幸せが続くと良い。いや、続かせてみせよう。使える権力全てを行使して。
タイムスリップしたら戦国時代だったので、チート能力で歴史改変しようと思います!〜若返った最強武将達に溺愛されました〜
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