32.誘拐されし義弟は己の無力さを呪う
その時、地下通路の奥から、重い足音が複数聞こえてきた。
「見つけたぞ!何者だ、貴様ら!」
六人の男が新たに現れた。お姉様は僕をすっと背中に隠す。ギルは、二本の短剣を両手に構え直した。彼の瞳に憧れを覚える。
「来い。ソフィアに危害を加えることは、俺が許さない」
男達は慎重に半円の陣形を組み、僕達を囲もうとしている。
「囲め!生かして捕らえろ!公爵令嬢とガキは、伯爵様への土産だ!」
指揮官らしき男が、野太い声で命令した。恐れるべき状況だけど……何故か怖くない。お姉様とギルが居るからかな。
「そんなことになるのはありえない」
ギルの声は、氷のように冷たかった。それと、眼が、ゴミを見るような眼だった。
男達は、六人中三人が前衛として剣を構え、残りの三人が弓の援護射撃の準備に入った。ギルは、地面に置かれた松明の火を短剣の刃で素早く薙ぎ払う。松明の火は消え、広間はオイルランプの不規則な揺らめきと濃い影に包まれ、視界が急激に悪化する。ギルは、とても低い姿勢で、最も右翼の私兵に最短距離で突進した。
そこから、一気に三人を倒す。だが、後三人の男と指揮官が残っている。個人戦であれば、ギルは勝てただろう。だけど、人数が1:7とヤバいから、流石にギルでも無理かもしれない。
援助したほうが良いか、いや邪魔かも知れないと迷っていると、お姉様が黒い外套の奥から、護身用の小型ナイフを抜き出した。お姉様は短剣を持った右手を自分の前にかざし、オイルランプの油が漏れている場所まで、音もなく移動した。
指揮官が剣を振りかざした時、彼女は小型ナイフを投げつけた。
指揮官をナイフが避ける。ああ…。
……いや、お姉様がそんなミスをするはずがない。そうか!お姉様が狙ったのは松明だ。
予想通り、ナイフは松明の柄をかすめ、松明の先端は、漏れ出た油の真上に落ちた。油に引火し、一瞬にして炎が地下の広間を照らした。 炎の光は後衛の弓兵たちの視界を完全に奪った。彼らは反射的に目を閉じ、弓の照準が大きくずれる。
「貴様ぁ!」
指揮官は激昂し、剣をお姉様に向けて突進した。
お姉様!
咄嗟に体が前に乗り出したが、僕に出来ることは何も無いと気づき、体の位置を戻す。歯を食いしばった。
「えっ私!?」
お姉様は首元に向かってきた剣を避け、炎を纏った剣で男を斬り付けた。指揮官は、肌が焼かれたことにより激しい悲鳴を上げながら、その場に崩れ落ちる。お姉様は、激痛で動きが止まった指揮官を風魔術で吹き飛ばし、ギルの元へと駆け寄った。
……やっぱり。
思わず視線を地面へ落とした。
「ソフィア!レオン様!」
ギルが僕達に駆け寄った。お姉様は直ぐに、「急いで!この炎で、彼らの本隊がすぐに来る筈よ。地下通路を抜けて、砦の裏手から脱出しましょう!」と声を張った。
「レオン歩ける?」
そう覗き込まれ、頷く。
「大丈夫。心配してくれてありがとう」
心配してくれたのは、普通に嬉しい。
三人で地下通路を駆け上がっていると、砦の奥から大勢の足音と怒鳴り声が響き渡った。お姉様は走りながら上半身だけ捻り、唱えた。
「土よ、辺りを茶に染め、己の場とせよ、土陣」
通路に土を集結し、通路をふさいだ。一瞬の時間ではあるけれど、その少しの時間によって僕達は裏手に脱出することに成功した。
深い森が広がっていた。しかし、森の向こうには、夜明けの微かな光が差し込み始めている。
ここ……どこだろう?始めて来た。時間そんなに経ってないし、サブジーナス家の領地内のどこかだと思うけど……こんな所、地図に載っていなかった気がする。
背後からは、数十人の男達が発する地響きのような足音と、激しい怒声が迫ってくる。彼らをどうしようかと考えていると、お姉様が突然、立ち止まった。
「ソフィア?」
「お姉様?」
お姉様は言った。
「私は彼らを迎え撃つわ」
「「!?」」
驚きのあまり顔を硬直させる。
お、お姉様は何を言って……。このまま逃げたほうが良いに決まってる。お姉様にもしものことがあれば、多くの人間が傷つくのに……。
「今の私の実力で何人倒せるか調べてみたかったのよね」
ゾットするような怖い笑みをお姉様は浮かべる。お姉様は勝算があるのだろうけど……やっぱり危険だ。
「……分かった。だけど、俺も戦う」
「えーまあ、うん。良いよ」
「ギル!?お姉様を止めないの!?」
ギルまでお姉様の発言に賛成するなんて!
何を考えているのかと声を上げる。
「ソフィア様ならこの程度、負けることはないです」
自信満々に言う彼に、異議を唱える。
「お姉様が魔術をすべて使えるのは分かっているけど、初めての戦いで何百人も相手するのは流石に無理だよ」
「大丈夫よ。実は私、実戦したことがあるの」
「えぇ??」
お姉様の付け足しに困惑する。え、実戦したことがある?何で?え?え……?
お姉様に隠れているよう促され、渋々と引き下がる。実戦したことがあるとかは意味分かんないけど、僕よりお姉様とギルの方が強いのは事実だ。
お姉様とギルは敵に囲まれる。お姉様はギルに合図を出し、同時に敵へと向かった。
「炎よ、辺りを紅蓮に染め、己の場とせよ、炎陣」
「雷よ、黒き染まり、地面を這い、敵を滅す宴となれ、黒放電之宴」
「水よ、辺りを青く染め、己の場とせよ、水陣」
「水よ、壁を作り、攻撃を防げ、水壁」
お姉様は高位魔術を行使する。
彼女は向かってくる男達の懐へとそのまま駆け出し、思い切り地面に向かって素足で踏み込んで次の瞬間には数メートル先にいた男達の懐へ入る。急接近したことに驚いた男達が目を剥いたのも束の間に、剣を横一閃に振るう。目の前の三、四人を纏めて斬り伏せ、そのまま足を止めずに目の前の男達へ飛び込む。今度はすれ違いざまに身体を捻らせて周囲の男達を纏めて八人切り裂く。剣を宙に放り投げる。相手が驚いて剣を見上げた瞬間に、それぞれの急所に肘と足を打ち、怯んだ隙に腕を掴んで身体ごと放り投げる。周囲の風通しが良くなったところで落ちてきた剣を受け止め、一気に更に数メートル突っ込む。三、四人を斬った後お姉様は素早く駆け出し、再び最前線の兵士たちの間に飛び込む。
「…ハハ……」
人間じゃないよ、こんなの。少なくとも、七歳の貴族令嬢が出来ることじゃない。僕も、同い年なのに。
フランクやギル達を見ていても思う。皆、才能があって、何でも出来る人だ。自衛なんて簡単だ。だけど、僕は彼らと比べて何もかも劣っている。知力も武力も全て。
今だって、守られてばかりだ。……悔しい。僕だって、何かしたいのに。皆になにかしたいのに、足を引っ張ってばかりで。
「くそっ」
木陰でうずくまる。
タイムスリップしたら戦国時代だったので、チート能力で歴史改変しようと思います!〜若返った最強武将達に溺愛されました〜
https://ncode.syosetu.com/n9414ki/
この作品もなろうで投稿中です。是非こちらも読んでみてくださいね




