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30.愛を求める令息は義弟となり

僕の名前はレオン・サブジーナス。アマリリス王国筆頭公爵家の養子に迎えられた幸運な子供の名前だ。

 ブラン侯爵家の三男だったころ、僕には二人の兄と二人の親が居た。全員美貌の持ち主で、優秀だった。自慢の家族だった。大好きだった。

 大好きだった人たちからは一度も愛を向けられたことはないけれど。



 両親は僕を自分たちの子供だと思ったことは一度もないのだろう。二人はいつも感情がなくて、何にも興味を持たなかった。そんな二人から愛を一度でも僕は向けてほしかった。その機会はもう無いのだけれど。

 サブジーナス公爵家から僕の養子の打診が来たとき、二人は迷いもせず承諾したらしい。承諾したことをあとから聞いた後、僕は混乱した。何故僕に断りもなく決めたのか。何故そんな簡単に仮にも自分の子供を他の家にやれるのかと。

 だけど、直ぐ腑に落ちた。そして気付いた。

 僕は期待していたんだって。親に少しだけだとしても愛されていると。そんなことは、今冷静に考えてみればありえないとすぐに分かるのに。そうじゃなきゃ、あんな寒気が走るような眼を向けない筈だ。

 両親は僕を、政治の道具とでしか見ていなかった。

 政治の道具として使われるのが嫌な訳では無い。上位貴族の子息としては覚悟しておかないといけないことだと思う。

 だけど、一度は愛してほしかった。愛を向けてほしかった。「愛してる」と嘘でもいいから言われたかった。その言葉を言ってくれたなら、きっと僕は歓喜して何でも言うことを聞いただろう。仮初だとしても、夢を見させてほしかった。

 だけど、現実は理想とは異なっていた。両親は、今日は天気がいいねくらいのノリで、言ってきた。

「五ヶ月後、サブジーナス公爵家に養子になるから宜しくね」



 現実は残酷だった。

 侯爵邸から出てサブジーナス公爵家からの馬車に乗り込むとき、二人は涙ぐみさえしなかった。いつもの感情の無い顔でただただ見てくるだけだった。恐怖を覚えた。仮にも血のつながった子供だ。なのに、彼らは何も思わない。今まで愛していたけれど、感情がなさすぎた。両親が悲しむことがないのは分かってる。だけど、何もなかった。怖いくらいに何も感じなかった。彼らは……人形のようだった。


 

 兄二人は僕のことが嫌いだった。毎日のように僕がすることに難癖をつけていじわるをする。だけど、何を考えているかわからない両親と比べると、どう考えても良かった。それに、二人が言うことは正論で、正論を意地悪に言うだけだった。だから、勉強にもなった。

 本当のところは分からないけれど、両親に僕と同様愛されず、そうしてできた心の隙間を意地悪をすることで埋めているのだろう。そう考えると、二人を嫌いにはなれなかった。好きだった。

 だけど、二人の兄も、僕のことが嫌いだった。

 養子に行くとき、二人は複雑な顔をしていた。嬉しような嬉しくないような、そんな顔だった。

 人間味のある顔を見て、やっぱり好きだな、と、そう思った。

 次の家族には愛されるだろうか。

 ふと、頭に期待が浮かぶ。そして、僕は直ぐにその期待を頭から消した。養子を好きになる人なんて居ない。噂では、使用人を虐げる傲慢で苛烈な令嬢だということもあって、そんな事起きる気は全くもってしない。逆に虐められる気しかしない。


 

 サブジーナス公爵の執務室に通され、義姉となる噂の令嬢と対面することになる。少し憂鬱な気持ちになっていると、ドアがこの家の執事により開き、きらきらと輝いている金髪に、宝石のようなピンク色の瞳を持った、少し気が強そうな令嬢が入ってきた。

「お待たせしました。どんな要件ですか?」

「ソフィアは、女の子だろう?そうすると、この家を継ぐ人がいなくなってしまうから、養子を取ることにしたんだ」

 その後、公爵から「今は、大丈夫そうだから……」という呟きが聞こえた。今は大丈夫ってどういうことだろう。

 疑問に思っていると、公爵が僕の背中をポンと叩く。僕は公爵の前に出て、挨拶する。

「レオンです。これからよろしくお願いします。お姉様!」

「…ええ、よろしくね。レオン!」

 満面の笑みで返してくれる、噂とは一見違った令嬢に僕は驚く。これは、演じているというわけでもなさそうだな。どうやら、噂は間違っていたみたいだ。噂では好感を持てなかったけど、この姿には好感を持てる。

「さあ、お父様なんか放っておいてお姉様と一緒に部屋に行きましょう?」

「はい!」

 公爵を放っておいてよいのかと思いながらも、返事をする。

「れ、レオン」

 緊張した声色と表情にどうしたのだろうと不思議に思っていると、手を差し出だしながら、手を繋ぎたいと言われる。

 この令嬢は、新しいお姉様は、意外な行動ばかりするな。だけど、嫌じゃないな。逆に好きかもしれない。

 思わず笑みが出てきた。そして、手を取り、お姉様の部屋に向かう。途中にお姉様から「義弟が可愛すぎるわ」と聞こえたような気がするけれど、どうなのだろう。


 ◇   ◇   ◇


 ソフィア様は、良い人だった。明るくて、優しくて、笑顔が綺麗で、一緒にいると楽しくて。専属執事であるギルと友人なことからも分かるように、使用人にも他の人達と変わらない態度で接する。思いつかないような政策を七歳にして発案でき、頭も良く、魔術も全て使える完璧で理想の義姉だ。

「大丈夫よ」

 僕のことを見て。

「ありがとう」

 魅力的に笑んで。

「いーえ。そろそろ来賓への挨拶の時間ですって」

 大人っぽいけど無邪気で。


 

 ……理想の義姉、じゃないとおかしい。それなのに、何故僕は怖いと思うのだろう。何で、信じられないのだろう、彼女を。

 優しく微笑みかけられても、愛しむような眼を向けられても。嬉しくて、胸が暖かくなるけど、信じられない。愛してくれるって分かっているのに、どこかに信じられない自分がいる。

 今まで愛されてこなかったのだから、養子先の家で愛されるわけ無い。

 そう、「僕」は言う。彼女なら愛してくれる!と思っても、その言葉に耳を傾けてしまう。冷たく感情の消え失せた瞳で見つめてくる両親が脳裏にこびりついている。また捨てられることが、愛が向けられないことが怖かった。だから、信じられなかった。次にまた同じことがあったらもう立ち直れないと思うから。愛を信じることに恐怖している。

愛してほしいと願っている僕が、愛されていることを信じられないなど、なんとも皮肉な話だ。信じられない自分に、嫌気が差してきた。

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