27.悪役令嬢は立ち止まり敵へ振り向く
「終わりだ!化物め!」
指揮官は勝利を確信し、剣を振りかざした、その瞬間。私は、全身の力を込めて、小型ナイフを投げつけた。
「はっ!馬鹿め!」
指揮官はナイフを避け、高らかに笑った。しかし、別に良い。元々私が狙ったのは指揮官ではない。
ヒュッ...カキン!
ナイフは松明の柄をかすめ、松明の先端は、漏れ出た油の真上に落ちた。私が狙っていたのは、地面に置かれた松明の先端の布部分だ。
ボオォッ!!
油に引火し、一瞬にして炎が地下の広間を照らした。 炎の光は後衛の弓兵たちの視界を完全に奪った。彼らは反射的に目を閉じ、弓の照準が大きくずれた。指揮官は、ギルへの攻撃を中断し、私に憎しみのような目を向けた。
「貴様ぁ!」
指揮官は激昂し、剣を私に向けて突進した。
「えっ私!?」
私に向かってくるのかと驚いたが、直ぐに鞘から剣を抜き出し、剣を構えた。そして、首元に向かってきた剣を避け、剣に炎をまとわせて男を斬り付けた。
「ギャアアアア!!」
指揮官は、肌が焼かれたことにより激しい悲鳴を上げながら、その場に崩れ落ちた。私は、激痛で動きが止まった指揮官を風魔術で吹き飛ばし、ギルの元へと駆け寄った。
「大丈夫!?」
「ああ…」
苦虫を潰したような顔でギルは返事をした。
ギルは石壁に落ちていた短剣を再び掴むと、激しい炎と濃い影の中で、残る三人の私兵に向かって突進した。
何か思ったみたいだけど、大丈夫かしら。
ギルの反撃は、最早、戦闘ではなかった。
彼は、炎に目を眩ませ動揺している私兵たちを一撃で次々と叩き伏せていった。数秒後には、広間の床に、動かなくなった私兵たちが転がっていた。ギルは、ほんの少ししか怪我をしていない。
「ソフィア!レオン様!」
ギルは、ソフィアとレオンの元へ駆け寄った。私は直ぐに「急いで!この炎で、彼らの本隊がすぐに来る筈よ。地下通路を抜けて、砦の裏手から脱出しましょう!」と声を張った。
「レオン歩ける?」
「大丈夫。心配してくれてありがとう」
意志のある瞳で頷かれた。レオンは心が強いらしい。
三人で地下通路を駆け上がっていると、砦の奥から大勢の足音と怒鳴り声が響き渡った。
「ちくしょう!火事だ!逃がすな、奴らを追え!」
本隊が、ようやく地下に駆け込んできたのだ。私は走りながら腕を後ろに回し、唱えた。
「土よ、辺りを茶に染め、己の場とせよ、土陣」
私は通路に土を集結させ、通路をふさいだ。一瞬の時間ではあるが、その少しの時間によって私達は裏手に脱出することに成功した。
砦の裏手は、深い森が広がっていた。しかし、森の向こうには、夜明けの微かな光が差し込み始めていた。
背後からは、数十人の私兵たちが発する地響きのような足音と、激しい怒声が迫ってくる。
私は突然、立ち止まった。
「ソフィア?」
「お姉様?」
二人は不思議そうに私を見つめる。
「私は彼らを迎え撃つわ」
「「!?」」
二人は驚きのあまり顔を硬直させた。おかしいのは分かっている。このまま逃げたほうが、安全だ。しかし、それでは私は納得できない。レオンを誘拐した奴らから逃げろというのは嫌に決まっている。それに……
「今の私の実力で何人倒せるか調べてみたかったのよね」
腹黒い笑みが浮かんだのが自分でも分かった。別にみすみす負ける気はない。負けそうになったら撤退する。その事も考えての発言だ。
「……分かった。だけど、俺も戦う」
「えーまあ、うん。良いよ」
本当は一人でやりたかったが、これでも妥協してくれたのだろう。異議は唱えてはならない。
「ギル!?お姉様を止めないの!?」
私の実力を知らないレオンは、驚愕してギルを見つめる。
「ソフィア様ならこの程度、負けることはないです」
「お姉様が魔術をすべて使えるのは分かっているけど、初めての実践で何百人も相手するのは流石に無理だよ」
「大丈夫よ。実は私、実践したことがあるの」
「えぇ??」
私の付け足しにもっと彼は困惑するが、敵が私達の直ぐ側に来ているのでのびのびと話している余裕もない。レオンに隠れているよう促すと、レオンは渋々と引き下がった。
その後直ぐに私とギルは敵に囲まれる。私は敵が十分に集まったと判断すると、ギルに合図を出して同時に敵へと向かった。




