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3.悪役令嬢は話す

「どうしたんですか?」

「ひゃっ!」

 耳元から声がして振り向くと、ウィリアムが立っていた。



 ウィリアム・ゲラン。

 十歳からサブジーナス家に仕え始め、その人柄を知るものには多く好かれている。陰口や暴力をあまり好ましく思っていない。茶髪に、茶色と金色が混ざった瞳を持ち、逞しい体をしているが、顔立ちは整っている。聞いた話では、毎日筋トレをしているそう。


 

「えっと、あのね。うーん」

 これ教えても良いのだろうか。言われないかな。でもウィリアムは言わないと思うから……。

「今から言う事秘密にしてくれないかな?」

「?もちろんです。旦那様にも言いませんよ」

 その言葉に私は安心し、話し始める。

「この部屋の中に暗殺者集団がいるの。それで、一人の男の子が病気の弟を人質に取られて暗殺などをさせられているみたいなの。今日の夜、家から抜け出して助けたいのだけれど」

「暗殺者集団の殲滅と二人の子供の救出を旦那様に秘密で、ですね」

「ええ。偽善だとは分かっているのだけど」

 この子達以外にも同じような状況の人は沢山いるもの。助けて、私良い人なんてことは思えないわ。



「分かりました。そういうことならば、私達もお手伝いします」

 私達?

 どういうことだろうと首を傾げていると、瞬きをした瞬間目の前にウィリアムと執事の皆が私に向かってひざまずいていた。

「え!?」

 全然気づかなかったわ。すごいわね。というか、ひざますかれるなんて。反応に困るわ。

「皆さん、本当に良いんですか?」

「もちろんです。主の望みを果たすのが、執事の仕事ですから」

 皆の代表でウィリアムは言う。

 私、酷いことを沢山してきたのに。良い人ばかりだわ。私恵まれているわね。

「……皆さんありがとうございます。それでは、作戦をお伝えします」



 その日の夜、私は部屋の中で執事たちに「行ってくるわ」と言い窓から降りる。風魔術で衝撃を和らげたが、二階なので少し足が痛くなった。

 門の前には普段は衛兵がいるが、執事たちに協力してもらい今は居なくなっていて、代わりに執事が立っている。

「お気をつけください」

 門を出る時、そう声をかけられ私は嬉しくなる。

「ありがとう」

 そう返し、私は手を振りながら街へ行く。昼と違って人が少なく、裏の人たちが多くいるように思えた。

 裏ではなく表で生きることが出来るような街にしたいな。

 私は歩きながら、周りを見渡して、お目当ての角を探す。角は多いから、どこがどこか全く分からない。こうなるのなら、目印を付けておけばよかったと思う。

 このままではきりがないので、風魔術を使い、色んな声を拾う。魔術を応用できるようになったのはつい最近だから、ぎりぎり出来なかったかも知れなかった。毎日励んでいて、良かった。



「そろそろ寝なさい」「あと少しで終わるから、根詰めるぞ!」「寝れない……」「明日、久しぶりに、あのお花畑に行かない?」「母さん見てくれ!魔術を使えるようになったんだ」「ごめんね、貴方に辛い思いをさせちゃって」「あと少しで誕生日だ!」「もう僕13歳なんだから、夜ふかししても良いと思うけどなぁ」



「どう責任取ってくれるんだ!」



 見つけた。

 私は、その声が聞こえた方向へ走る。その声の場所を忘れないように気を張り詰める。声の場所に近づいてきて、周りを見渡しながら走るようにする。

 キキィー!と音を立てて、角の前で止まる。止まった先は、確かに、今日の昼見た角のようだった。今日の昼と同じ隙間から、部屋の中を見る。

 中には多くのガラの悪い男の人が何人も居て、やっぱり暗殺者の彼がいる。耳を澄ましていたが、やはり壁越しだと殆ど聞こえない。頭領らしき人が何かを言うと、彼はみるみる顔を青くさせる。

 頭領の隣に立っている昼に見た大柄な男が弟の首に手を回し、首を絞めようとする。彼は何かを叫び、男に近づこうとして、他の男達が彼を制止する。

 子供も働かせて、こういう悪は本当に嫌だわ。

 大柄な男によって弟の首が締まる直前、私は「爆発(エクスプロード)」と唱える。


 ドカーン!


 壁は一瞬で粉々になり、私は壁の残骸を乗り越え部屋の中に入る。小爆発を起こさせる魔術のはずなのに、普通に爆発したようになっている。隙間があったし、元々崩れやすい壁だったのかも知れない。

 そう考え、大柄な男の人に視線を向ける。驚きで、弟から手を離したようだった。

「こんばんわ。今日も月は綺麗ですね」

 私は男たちの視線を無視し、颯爽に歩いて、部屋の真ん中に陣取る。彼の方をちらりと見ると、もう少しで泣きそうだった瞳を大きくさせ、私を見つめていた。

「誰?」

 頭領がそう私に言う。私は嫌味を込めて、にこりと笑う。

「あらまあ。悲しいですわね、名前も覚えられていないなんて」

 私はわざとらしく目を伏せる。

 だけど、せめて暗殺しようとした人の顔と名前は覚えておいてくれないかしら。しかも、昨日よ?忘れっぽいのかしらね。

「サブジーナス公爵の一人娘、ソフィア・サブジーナスですわ」

 さっきとは違い、堂々と言い張る。

「さ、サブジーナス!?」

 そう言うと、家名が効いたのか、男たちは少し慌てる。位を持っていると、色々便利ね。名前を出しただけで、相手が怯んでくれる。

 男たちはそのまま騒いでいたが、頭領が静かにさせる。


 

「さあ、始めましょう」

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